百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第186話 5人と一匹

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テールが仲間になったその日、俺たちは各々の旅の目的を再認識した。

メアは俺の旅に同行することが目的みたいなことを言っており、それ以上のことは特に言わなかった。1番長く旅を共にしているが、メアが一人で旅をしていた時の話はあまり聞かない。ただ言えるのは、誰かと旅をしたかったとは前々から言っていた。
そう言ったのは姉であるメルを亡くした過去があったからなのかもしれない。

セシルは今は俺の旅に同行していることになっているが、彼女の最終的な目的は離れ離れになってしまった獣人の仲間の元に帰ること。寂しい気はするが、それがセシルが望む旅の目的。
もちろん、俺の旅には同行してくれるとは言うが、その道中、もしくは魔王の城のことを経て仲間に再会出来たその時は帰るとはっきりと言っていた。
さらにもう一つ、バタリアの無法地帯に捕まっている獣人族の件もある。ただそれは、魔王の城に眠る秘宝を盗み出した報酬で一気に獣人族を解放しようとは思っているが……これも課題の一つだ。

ラピスについてはメアと同じような感じで、旅をする、それ自体が目的だと言っていた。彼女にとっては世界とはまだまだ奥が深く、様々な場所に行ったり人々と会ったりしたいそうだ。
その中で、アルンと同じ精霊獣がこの世界の何処かにいるかもしれないと、最後に付け加えるようにそう言っていた。
精霊獣、確かにアルンだけとは思えないが……本当のところは定かではない。

そして俺の仲間になったばかりのテールだが、彼の目的は自分の生まれ育った村に帰ること。俺の旅に付いて来ると言ったのは、自分の行動の正当化をしたいという彼なりの大義名分があった。
カリダ村を飛び出す際、地上にいる魔物を殲滅してやると同じく住む人々に言って旅に出たのだという。
ただ、本心はカリダ村へ帰りたいらしく、だが啖呵切って飛び出した手前、いくら帰りたいと思っても帰るに帰れない現状があったそうだ。俺の仲間になる前はゼラとイアンが仲間で、ゼラに生まれ育った村に帰りたいと言っては拒否され続けていたことに、仕方がないと諦め半分、自分の行動に対する責任転換をしていたと反省の言葉を言っていた。
そもそも弓という武器は接近戦には弱く、敵に接近戦に持ち込まれると危険だということは武器の特徴から見ても分かる。特に魔物という奴らは接近する奴らが多く、弓を扱う勇者にとっては接近されてしまえば苦戦強いられる状況になってしまうだろう。
今までは接近戦に長けたゼラという勇者の存在や、同じく弓を扱うがイアンという勇者の存在もあった。
そんな悩める時、1人では到底カリダ村に帰れないと踏んでいた中、偶然にも出会ったのが俺たちというわけだ。
まあ理由は何であれ、弓の勇者が仲間になるのは心強い。
それにテールがカリダ村に帰りたい本当の理由を聞けば府に落ちるものがあったのも確か。
なんでも、カリダ村に滞在していたシーラ王国の第5部隊が撤退するという話が出てきたそうだ。
それはカリダ村に滞在することを等価交換の条件とするセルモクラ鉱石の採取がもう出来ないかもしれないという記事を見たかららしい。
俺たちが旅を進めているうちに、そうした情報が流れていたのかとテールの話を聞いた時に知った。
第五部隊の撤退、そうなれば魔物からカリダ村を守る壁がなくなることを意味し、住人らに危険が及ぶのは目に見えて想像出来る。
カリダ村にはテールの妹であるルナや弟のウランもいる。それだけじゃない、カリダ村には大勢の住人たち。
心配になって帰りたくなる心情が出て来るのは必然だろう。

最後に俺の旅の目的。
俺は魔王の城に眠る秘宝を盗み出し、それをシーラ王国のアリス王女へと届けることが最終目的となるが、これは半分は頼まれごと。俺本来の目的はまた別にあって、そうなる日を目指して旅をしているのが本音だ。
これは他の皆には言っていないことで、時期を見て話そうと思っている。


そうして、各々の旅の目的を話し合って共有スペースで休憩していると、血相を変えた若者が一人、勢いよく扉を開いた。

「おいおい坊主、どうした? そんなに慌てて。よし、当ててやろう……分かった! 俺の弟子になって勇者になりたいんだろう!」

がたいの良い男が若者にそう言うが、息を切らした様子で見渡すように見る。

「魔竜が、魔竜が出たんだ! んぐ……本当だ、嘘なんかじゃない」

魔竜。
その言葉が若者の口から出た瞬間、共有スペースにいる者たちは静まり帰る。その若者は自分が発言したことが嘘ではない本当だと真剣な表情。
荒げるように声を大にし、息を飲み込み、若者が発言した内容……心当たりがあるんだが。

「ま、魔竜? んな馬鹿な。いいか坊主、魔竜ってのはだな、魔王の城にいるんだぞ? 構って欲しいからって嘘も大概にしろよ。はっはっはっはっ!」

「なんだ嘘なのかよ! ビビらせやがって! お前、どういうつもりでそんな発言したんだ?」

別の男もがたいの良い男に釣られるように笑い出す。
そしてまた別の者たちも……

「嘘じゃない!! お前ら勇者なんだろ!? だったら魔竜くらいさっさと倒してくれよ!」

若者が張り上げるような声でそう叫んだ。
その声が伝わったのか、共有スペースに居座る者たちがざわつき始める。

……まさか、いや、あり得る。

魔竜。
そう聞けばまだ魔王の城にいる存在と思っている者たちにとっては若者が発言したことはにわかに信じられないだろう。
だが、俺たちは違う。魔竜と聞けば蒼き竜の存在が頭を過ぎる。ラピスは居なかったが、イクリプスドラゴンの存在もある。

どっちだ? と自問しているとメアと眼が合った。
メアは小さな声でどうする? と俺に聞いて来る。

「魔竜かい。俺が撃ち落としてやりたいところだが、さすがに相手が相手」

テールにはボルティスドラゴンのことはまだ話していない。
カサルの地を出発してから話そうと思っていたが、そうもいかない状況。
だが、ここで話すのはリスキーなものがあるな。

「俺が行こう」

皆で行ってしまえば、悪目だちし過ぎる。魔竜に何もされない者たちが現に目の前に現れたら、敵対的な目で見られることは間違いない。

「シン、私も行くわ」

立ち上がり、メアはそう言う。
同じく、セシルもラピスも立ち上がる。

「おいおい、たったそれだけの人数で魔竜を迎え撃とうって? はっはっはっはっ! こりゃ、随分と自信ある勇者たちだこと!」

がたいの良い男がそう言って笑い、他の連中も笑う。

ただ、テールはそういう大笑いする連中を見て、そして俺へと視線を向ける。
ガタっと椅子から立ち上がったテール、大笑いしていた連中がピタリと笑いを止める。

「案内してくれるか?」

若者は俺の言葉を聞くなり頷き、先導するように扉を開いた。





唐突に予想外のことが起きるのは慣れている。それがたとえ魔竜が現れたとしても。

ただ、今回ばかりはそいつが敵ではない可能性がある。
ボルティスドラゴンなら俺と『血の契約』をしている魔竜。

可能性はゼロではなかった。『血の契約』をしている俺の近くに現れるのは、この前、ボルティスドラゴンを呼んだ時で証明出来ている。
だが、今回は俺は呼んではいない。となれば、勝手にやって来てしまったということだろうか。

そんなことを考えつつ、若者が魔竜を見かけたというカサルの地の東に来た。直ぐにフィールドに行けるギリギリのところ。

「居ない? 違う! さっきは本当に居たんだ! ずっと空を回るように飛んでいて……」

若者は東の空を指差しながら俺たちに言うのだが、徐々に言葉が小さくなっていく。

「そうか。情報提供ありがとうな、後は俺たちが何とかする。お前はもう帰れ、家族が心配しているぞ」

「……本当に居たんだ」

「分かったから、あなたの言葉は私たちに届いてる。さあ」

メアが若者の背中を押すように歩かせて行った。

「……何か知っているのかい?」

「テール、これから俺が言うことを驚かないで聞いてくれ」

そう言うと、テールはやや眉間にしわを寄せる。

その後、メアが戻って来るまで待ってから、俺が魔竜ボルティスドラゴンを従属させた経緯をテールに話した。

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