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第185話 弓の勇者、仲間になる
しおりを挟む「随分早いお帰りだな」
メアとセシルが行ってから、20分も経っていないだろう。
ただ、その手にはしっかりと物を持っていた。
「え、えぇ。一応、武器屋には寄ったけどね」
一応?
「貰ったの」
セシルはそう言って、持つ剣を俺に見せる。
紅赤模様の柄が彩る、刀身が綺麗な長剣。
持った感じ、魔剣ではない。
「貰ったって、一体誰に……」
カサルの地は勇者らが滞在する場所としたり、旅の通過点として立ち寄る場所であったりと、自分の持つ武器を新調することもある。
その為、カサルの地の武器屋では各々の勇者ランクに適した武器を取り揃えており、中には武器を買う為だけに遥々やって来る勇者もいるそうだ。
勇者を除く、カサルの地に住む者たちにとっては不要な武器屋ではあるが、勇者たちにとっては重宝する。
「女の人よ。綺麗な人だったわね」
「うん! その剣を使うのはセシルの方がいいって!」
「どういうことだ?」
セシルの説明より、側にいたメアに聞いた方が早い。
「なんでもその人、さっきのこと見てたって。本当は止めたかったらしいんだけど、ゼラって奴、かなり苦手な人だって言ってたわ」
なるほどな。あの騒ぎだ、誰が見ていても何らおかしくはない。
カサルの地という人々が訪れる場所で騒ぎ広がってしまえば、風評被害を生み出しかねない。
理由あっての騒ぎだったが、側から見ればただの暴力事件だ。
「それでその人、私たちがカサルの地でバルトを探している時にもその剣を渡したかったんだって。私たち、そんなに声大きかったかな?」
メアがセシルにそう問う。
「……それで、その時何を話してたんだよ?」
「え、え~と……魔王の城に行くこととか、かな」
そうだろうと思って聞いた。
魔王の城に行く、そう話せば白い目で見られるか変人扱いされるのがオチだ。
変人や白い目で見られるだけならまだいい。
中にはそんな勇者は置いておけないと、犯罪者でも扱うような制裁をする住人たちもいる。
魔王の城に行くとは、己の命を捨てに行くと同義と認識している多くの人々にとっては、そんな者たちは脅威でしかないからだ。
狂人が自分たちの住む場所にいることは、彼等住人たちにしてみれば邪魔者でしかない。
狂人は何をしでかすか分からない、多くの人々の認識はその程度だ。
メアもセシルも無事で良かったよ。
今までの街や村でも、魔王に行くと発言したことは多くあったが、それは俺がメアたちの直ぐ側にいたからこそ。
メアを含め、俺たちが魔王の城を目指していることの発言をこうした場所で控えるように皆に言った。
勇者同士なら多少なりとも発言の意図を汲めるだろうが、街や村、こうした地に住む住人たちにとってはあまり魔王の城関連の発言をするべきではない。
その理由はさっき言ったように、多くの人々は魔王の城については否定的な感覚や感情を持っているからだ。
「セシル、稽古は明日以降だ」
そうなると、カサルの地を出発するのは数日先。
それまではせっかく勇者たちが集う地にいることだし、有力な情報を得たり戦力を増やすことだって出来る。
テールのことは……後は彼次第だろう。
その後は今後のことについて話しあい、宿泊所へ。
◇
共有スペースで夕食を済ませた後、俺は1人カサルの地を歩いていた。
「……居ないか」
そう呟いたのは、とある勇者たちを探していたからだ。
俺が初めてカサルの地にやって来た時、俺に技能を教えてくれた3人の勇者のこと。
俺がまだ勇者ランク2の頃……正確な年数は覚えてはいない、かなり前だった。
さすがにもう居ないか。
3人共、面倒見がよく……いや、1人は違うな。兎に角、世話になったことには変わりない。
ざっと見渡しながら探して歩いていたが、それらしき人物は見えない。
風貌も変わっているだろう。
ただ、俺はどちらかというとさほど変わっていないだろうから見つけやすいとは思うのだが……やはり居ないか。
そんな時だった。
行く道から歩いて来るのは、長弓を持つ白髪の男。
「テール」
「お前……」
テールは会いたくなかったというような感じで、俺から視線を横に逸らす。だが、直ぐに俺に視線を戻して歩み寄って来る。
「礼なんて言わねえぞ」
「構わないさ。待てよ、あいつらとはどうなったんだ?」
行こうとするから止めてそう聞く。
「勝手にしろって、どっか行っちまった」
テールは俺に背を向けたままそう答えた。
「……そうか」
そう言った瞬間、テールは振り向き強い足取りで向かって来て俺の胸ぐらを掴む。
「そうかって! 元はと言えばお前が原因だろう!? ゼラもイアンも行っちまった! こんなとこ居たって、もう……」
「ーー二日後の朝、北のフィールドで待っている。もちろん、それまで俺たちはカサルの地に居るし、来たくなったらいつでも来い」
俺から言えることは今はそれだけ。テールの仲間は何処かへ去り、残った彼の心中は混乱しているのかもしれない。
そこへ俺が仲間になれというのは簡単だが、最終的に決めるのはテール。
もちろん、俺はテールが仲間に加わってくれてその後の旅を続けようと思っているが、いきなり仲間が去った彼の心情を思えばあーだこーだと言うのは無粋。
ゼラとイアンとは今まで長く旅を共にして来たと言っていたことからも、思考が混乱している可能性も否めない。テールの表情を見た感じも、どうもそんな気がしてならない。
そっとしておく、それが現状いいと俺は判断した。
ただ、彼の一つの選択肢だけを伝えてーー。
そうして俺はテールを後にして、もう一度、昔世話になった勇者らを探し始めた。
◇
俺が探していた3人の勇者たちは結局見つからなかった。
だが、3人の勇者たちを知るカサルの住人に話を聞くことが出来た。内容としては、今から2年ほど前にカサルの地を出たらしい。
それまではカサルの地を拠点として魔物討伐の日々を送っていたのだという。
特に際だった行動はせず、俺のようにふらりとカサルの地に来た未熟な勇者の指導を彼等はしていたということ。
俺だけではなかったようだ。
昔、技能を教えてくれた礼だと挨拶くらいしたかったが居ないのなら仕方がない。
と、宿泊所が見えて来ると、見た顔がそこにはあった。
「話をしたい」
そう一言、テールはただ言った。どうやら、二日も待つ必要はなかったらしい。
「来てくれ」
俺はそう言って、テールを連れて泊まっている部屋へと足を向かわせた。
宿泊する部屋では、メアたちが寛いでいた。
「あんた……」
メアはテールを確認するなり、寛いでいた体勢を整える。
「話がしたいそうだ」
テールが恐る恐る部屋に入る中、え? と疑問の声を俺に投げかける。テールが指を刺すには姿を見せているアルンの存在。
「まあなんだ……話すと長くなるんだが」
「精霊獣よ」
ラピスが分かりやすくそう言う。
「ーーそうかい。それも気になるが、今は俺がここに来たことを話そう」
精霊獣には興味ないのだろうか、テールは皆が話を聞きやすいように部屋の中へと入っていく。
テールは口を開け話そうとするが、やはりといったようにアルンの存在が気になるようだったが、俺たちのところに来た理由を淡々と話し始めた。
その内容の結論を先に言うと、テールは俺たちの仲間になる為に来たとのことだった。
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