百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第177話 テスト

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バルドは自分のことを語りに語った。それも小一時間くらい。
こんがり焼けたトロールの肉塊を美味そうに頬張りながら、都度、話していく。
アルンはバルドの話に飽きたのか、尾を身体に丸め眼を閉じていた。

「なるほどな、そういうことがあったのか」

バルドはふんっと鼻息を一つ鳴らす。

バルドの過去ーー今から1年ほど前、バルドは自身の元を離れた2人の勇者と共に魔王の城に行ったそうだ。今より一つ下、勇者ランク8の時だったという。
しかし、其処にいたのはフィールドに生息する魔物とは桁違いのレベルの魔物の数々。それでもバルドは宝剣グラディウスを持ってして、仲間2人の勇者と共に城の中を進んで行った。
それを可能にしたのは、紛れもなくバルドが持つ宝剣グラディウスの力だと自慢げに彼は言っていた。
まだ早いとバルドの元を離れた2人の勇者は言ったそうだが、それでも魔王の城へ挑んだのは彼の信念から来るものだった。

“魔王を倒す”

その信念一つ持って、バルドは魔王の城へと乗り込んだ。

周囲の魔物の攻撃力を著しく低下させ、宝剣グラディウスの攻撃力をも上げる力。
魔王の城に生息する高レベルの魔物は攻撃力も異常なほどに高く、レベル100代なんてざら、死の谷に生息する魔物が可愛く見えるそうだ。

そんな魔王の城。
バルド一行は手探り状態でルート攻略をして行ったそうだが、ある間に出てしまったことで、魔王の城からの脱出を余儀なくされた。

そのある間とは……魔竜が居座る豪壮な場所。
魔竜は直ぐにバルド一行の存在に気付き、攻撃をしかけて来たそうだ。
バルドは宝剣グラディウスの力を解放し、魔竜の攻撃を防いでいたが、灼熱の業火はそれをも上回ってしまった。
全身の皮膚は焼かれ焦がれ、体力をあっという間に削られてしまい、ついには仲間の2人の勇者は逃げ出す始末。

だが、長年の夢であった魔王を倒すことをバルドは諦めきれなかった。
ひとまずバルドはその場を一時離脱し、仲間2人の勇者の所へ急いだ。
だがしかし、その時に仲間の勇者からかけられた言葉に愕然としたバルドは、1人先を行くことを決断した。
バルドが仲間の勇者2人と離れたのはその時だったそうだ。

その後も、バルドは魔竜の間以外の通路を進みに進んで行ったが、さすがに1人では厳し過ぎる状況、あえなく魔王の城を攻略することを断念した。


「ーーまったく! 今頃何処で何をしてるんだかあの2人は! 魔王群に付くなんてイカれたこと抜かしやがって!」

バルドは自身の拳二つを強く突き合わせる。
バルトの元仲間の勇者二人が言った言葉ーーそれは魔王群に付くという言葉だったそうだ。

「落ち着けって。ーーしかしまあ、魔王群に付くなんて確かにイカれてやがる」

「だろ!? お前なかなか気が合いそうだな!」

そう言うとバルドは家の中から持って来た葡萄酒をぐびっと飲んで、もう一瓶ある葡萄酒を俺に渡そうとするが、やんわりと遠慮した。
バルドはそうかと少し寂しそうに言ったが、持っている葡萄酒の瓶を直接また飲んだ。

魔王の城に行った宝剣を持つ勇者……もっとこう、厳つくて巨人のような者を勝手に想像していたが、そうでもなかった。
会ってみれば見た目こそずっと外暮らししているような野生的な感じだが、清潔感はあるし、カサルの地の住人らが勝手な勘違いで毛嫌いしなければ気前の良い勇者という感じだ。

バルドはまだ残っているこんがり焼けたトロールの肉をアルンに近づけるが、そっぽを向かれる態度に落胆の表情を浮かべて再び葡萄酒の瓶に口を付けて飲む。

「……ところでよぉ、お前の持つ剣よく見りゃ……」

「気づいたか」

自身が持っている剣が剣なら、気付くものがあるのだろうか。
俺は長く宝剣を持って来ていたが、クランの宝剣には気付かなかった。
ただし、バルドが森から追って来たトロールを相手にした時から俺は彼の持つ長剣が確かに宝剣だと認識していた。確かに、そう言ったのは事前に情報屋のアンナから聞かされていたからというのもある。
宝剣から感じる独特な感覚。クリアな感覚、そんな感じだった。

「……何のつもりだ?」

俺はバルドの行動の意味を問う。バルドは自身の腰元の鞘に収まる宝剣グラディウスを抜き取り俺に向けている。

「大したもんぶら下げやがってよ。嫉妬しちまうじゃねえか畜生」

どういう意味で言ったのだろうか。

バルドはナイフにこんがり焼けたトロールの肉塊を突き刺して口に運んでは、素早く噛み呑み込んだ。

「お前も似たようなモノ持ってるだろ」

「似てる……そりゃ似てるがよ、この世に数本しかない剣。でも俺のは宝剣、お前のは神剣。宝剣は持つ主人の為に神剣へ誘う。なんだよ、知らなかったのかよ?」

神剣になった状態まで見抜くとは……
しかもなんだ? 宝剣が俺の為に神剣に誘った?
クランから聞いた話では、宝剣と宝剣を交わらせることで一時的に力を失い、魔物を討伐する過程を経て神剣になるということだった。それで、俺の持つ宝剣アスティオンは神剣アスティオンとなった。

「その様子じゃ知らないでいたようだな。この世に存在する宝剣は意思を持つ。宝剣は主人の為に神剣になるかどうかその意思で、魔物特攻特性を一時的に消失させるんだよ。俺は昔、クランっていう宝剣を持つ勇者とグラディウスを触れさせた。結果はこの様、俺のグラディウスは神剣になることを拒んだんだよ。悲しいがな、それがこいつの出した結論だったんだ」

クランはバルドの宝剣とも交わらせていたのか。

バルドは微笑はしているが、何処か悲しそうな表情で自らが持つ宝剣グラディウスの刀身に触れる。

「分かってたんだよ。グラディウスが神剣になることを拒んだ時点で……後付けじゃねえぞ? でも俺は奴ーー魔王を討伐してみたかった。人類の敵、その闇の王をな。ーーだがな、俺はまだ諦めたわけじゃねえ……だからこそ俺はっ!」

バルドはまた、宝剣グラディウスを俺に向けた。

「……それで、俺にどうしろと?」

動揺することなくバルドに問う。

「テストしてやる。お前が神剣を持つにふさわしい勇者かをな」

「……へぇ、それは良い機会だ」

話の流れで、俺はバルドにテストなるものをされることになった。





テスト、そう評されるバトルは広大なフィールドで行われることになる。
観客はラピスとアルンのみ。

「いつでもかかって来な」

そう言って、バルドは挑発するようにクイクイと4本指を2度曲げる。

「いいのか?」

と言うのは、いくら宝剣を持つ勇者で魔王の城に行ったことがあるとしても勇者ランク一つ差というのは以外にも大きい。

バルドは俺の言葉が気に食わなかったのか、ムスッとした表情をして宝剣グラディウスを俺に向ける。

「テメエ、調子こいてんじゃねえよ。お前の持つ剣が神剣だからって宝剣より上とは限らねえんだよ」

それは最もだ。宝剣や神剣は、そもそも闇の勢力に対抗する為に最大の力を発する。対人間同士の戦いには、その者のステータスや剣技、精神力がものをいう。

「……そうか。ならこれ以上の言葉は要らないな」

俺は神剣アスティオンを鞘から抜き取った。

「それが神剣……来い!」

叫びを上げるバルド。

俺は速技を解放しバルドの至近距離にまで踏み込む。
神剣と宝剣が交差し、激しい金属音が鳴り響く。

「やるじゃねえかよ!」

「そりゃどうも」

そう返したら、バルドは眼光鋭く俺を睨んだ。

「……気に食わねえな、その余裕ずらがよ。それともお前、相手の力量を見誤るタイプか?」

「そんなことねえよ」

深く、俺の戦闘に関する価値観を答える義理もない。

バルドは大きくアスティオンを弾き、自身の持つグラディウスを地面に突き刺した。それと同時に鋭く盛り上がった地面が波を打つように高速で解き放たれる。

俺はアスティオンでそれを防いだ……が、波の如く連撃がまた来る。
それに対し俺は迅斬波を放つーー鋭く波を打つ地面が裂け、辺りに土埃が舞う。



「ーー本物かよ」

そう言った後、バルドは自らが持つグラディウスを鞘に戻した。

「終わりか?」

バルドは言葉を返さないが、頷くことによって答える。
俺はそれを確認しアスティオンを鞘へと仕舞う。

バルドは俺の元へと歩いて来て、通り過ぎて行く。
どうやら、バルドの言うテストは終わったらしい。なんだ、あっけなかったな。

ただ、俺にはまだ魔王の城について聞きたいことが2、3ある。そうそう魔王の城に行ったことがある勇者に会うなど滅多にない。

もう少し話を聞いてみるとしよう。

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