百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第176話 噂の真実

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青年の名はセズ、カサルの地にある農場で日々働いている。
そんなセズから宝剣を持つ勇者について詳しく話を聞いた。

「其処にいるんだな?」

「たぶんね。でも、僕は言ったよ?」

「ああ、了承済みだ」

と言うのは、セズによると、その宝剣を持つ勇者の過去によるものだ。

バルド、その者が宝剣を持つ勇者らしい。


ややあって、俺たちはカサルの地より北西を目指して歩いていた。そう遠くない場所だ。

「大丈夫かな、その人」

ラピスが不安そうに言った。

「噂だ噂。そんなもの、会って話せば分かる」

「……そうだといいけれど」

ラピスはまだセズから聞いた話を気にしているようだ。

セズによると、バルドは過去に2人の勇者と仲間だったそうだ。だが、唐突な価値観の変化によって、バルドを除いて他2人の勇者はチームから脱退したという。
その価値観というのが、どちらに付くかというもの。
どちらとは、人類側か魔物側か、二つに一つの究極の選択。
それでバルドは人類側、他二人は魔物側を選んだらしい。

とどのつまり、魔物側ーー魔王群に付いた勇者が話の時点で2人いるということだ。残念だが、そういう勇者の話は俺も噂に聞いていた。

バルドが2人の勇者から離れたのが今から3年と少し前。
ただ、その間に脱退した2人の勇者とバルドの接触を見た住人がいたそうだ。
その為、カサルの地の住人らの間ではバルドが魔王群と繋がっているのではないか? と噂する声が広まって定着してしまっているらしい。

その話をセズから聞いて俺はだからかと納得した。
カサルの地を歩き回って住人らに宝剣を持つ勇者の所在を聞くたびに白い目で見られた。しまいにはカサルの地を出て行けなんて罵声も実はあったのだ。
その時ばかりは、外から来た勇者に何か酷い目にでもあったのかと思っていたが、セズがバルドについて話したことで納得した俺がいた。

そして今、俺たちは歩みを進めているのはカサルの地を出てのフィールドにて。
どうやら、バルドはカサルの地に来ることを住人らに拒絶されてしまっているらしい。その為、バルドは近隣に居住地を建てたらしく、其処を拠点として暮らしているのだという。

何故、其処から旅立たないのか?
そういう疑問も、もちろん俺はセズにぶつけた。とすれば、カサルの地にやって来る魔物を食い止め討伐しているというではないか。実に勇者らしく、カサルの地の住人らに嫌悪されるには惜しいくらいだ。
たった過去の出来事、いくら元仲間が魔王群に付いてしまったとはいえ、信頼を取り戻す為と魔物を討伐する姿を住人らも知っているとセズは言う。

だが、出来事の内容が内容だけに、カサルの地の住人らとバルドとの間に出来てしまった大きな溝は深いそうだ。

「あそこか」

まだ、遠くだが一軒の家が見えた。
フィールドにポツンとある一軒の家。普通ならあり得ない光景だ。ただ、それはまさに宝剣を持つ勇者だからこその大胆な行動だったのだろう。





「誰かいるか?」

近くで見れば、木造建築の古びれた家でドアに鍵はしていなかった。だからといって、勝手に開けて呼ぶのはどうかとは思うのだが……気にしない。

「誰もいないね」

ラピスは窓の方からそうっと家の中を覗く。
カーテンが開けられた窓から見える部屋はがらりとしている。生活に必要な物だけを置いている、そんな感じだ。

「クゥン、クゥン」

アルンが両耳を立てて、見える森の方を向く。

「あいつは……」

とすれば、森の方から俺たちの方へ向かって走って来る男。
その後からは男を追うように森の木をなぎ倒し不格好な走りをする魔物。


トロール
LV.87
ATK.147
DEF.79


尖った耳に老緑の身体、一つ目が走る男の姿を捉えているようだ。巨大な武器ーー木を折っただけだが、それを持つ魔物が魔物だけに武器らしく見えてしまう。
折ったところがちょうどギザギザとしており、トロールはそれを前を走る男に勢いよく投げた。

男は飛んで来た木を軽く躱す。

トロールが野太く、低い怒声のように叫ぶ。
男は動かず、トロールは不格好ながら速度を上げる。

その時、男を中心にリング状の光が解き放たれた。
だが、それはトロールに何かするわけでもなく、巨大な鉄槌のような拳が男に振り下ろされる。


「へぇ、やるなあいつ」

トロールの鉄槌のような拳は男が頭上に上げた長剣によって止められた。
あのトロールの怪力を片手で止めるなんて、只者じゃないな。

トロールは攻撃力に長けた魔物。動きは非常にのろまだが、その攻撃力を持って反撃を食らった勇者も多くいる。さらには、人里に降りて来たトロールの集団が暴れに暴れ、大惨事となった過去の出来事も残っている。

あのトロールのレベルもそこそこ高いが、中には100近いレベルを持つトロールも存在していると話に聞く。
それでも、片手だけでトロールの攻撃を受け止めるとは……あいつ。

瞬間、トロールの巨躯が宙を舞った。男は跳躍しさらにトロールは宙に上がる。斬撃のエフェクトは見えない、鈍い音が鳴った。

先にトロールの巨躯が地面に落ち、その上に男が長剣を振り下ろす。一瞬トロールが片手を上げ男の方へ腕を伸ばしたがーー落ちた。
ピクリとも動かないトロール、どうやら仕止めたようだ。

「今日の飯はこいつか~、ん? なんだお前ら」

男は近づいて来た俺たちに気付きそう言った。アルンには姿を消してもらっている。

「俺はシン。お前か? 宝剣を持つ勇者ってのは?」

男は長剣を鞘にしまった。
明らかにただの長剣じゃない。

男は、はぁと息を吐いては素早くトロールの肉を切り取った。

「うっ」

と、ラピスが引いたような声を出した。確かにグロテクスな光景ではあった。ただ、トロールの肉は意外にも美味いらしく、昔、旅の途中で会った勇者が退治後に食った話も聞いたことがある。豚肉のような味らしく、勇者の間では意外にも人気のある食材。
俺は断固として遠慮するが。

男はぶら下げていた布製の袋を取り出してトロールの肉塊を包む。

「見たところお前らもいつもの奴らのように見えちまうが……とりあえず来いよ」

そう言われるように、俺たちは男の後について行った。





木造建築の古びれた家はやはり男の住居だった。
男は古びれた家に入り、持っていたトロールの肉塊が包まれた布製の袋をテーブルに乱暴に置いた。

「俺もな、昔は旅をして生活して来たもんだ」

男がいきなり話し出した。

「仲間もいた、あ~楽しかったな~あの頃は!」

男は布製の袋を開けては、巨大な鍋に肉塊を放り込んだ。そして樽から水を入れて鍋の下に組まれている薪に火を付ける。
男はどかっと椅子に座っては俺たちの方を順に見ていく。

「旅の最中、何処かで俺の話を聞いた。それで遥々このカサルの地までやって来ましたって?」

「まあ、そんなところだ」

本音を言えば元々、カサルの地を目指していた旅の途中、ブルッフラで情報屋アンナから得た情報ーー宝剣を持つ勇者がカサルにいるという情報ーーを知っただけだが。

「……そうかーーお前らも後で食うか? 中々美味いんだぞこいつ」

男はそう返し、まだ沸騰していない鍋の中を見てそう言った。

「いや、遠慮しておこう。そいつは、お前が取った食料だろ」

「そりゃ悪いね、客人に遠慮を取らせるとはいけねえな俺は」

そう言って樽の中に縦に入れられている薪を数本、鍋の下へ放り込む。
そしてテーブルの上に放置されていたトロールの肉塊をさらに包丁で切った後、それを持って外に出た。
外には石のかまどがあって、薪に火を付けた男はトロールの肉塊を網の上に置いていく。
ワイルドな調理風景だ。

「さてと……待ってる間だ、話でもしようか」

どうやら、俺たちと話の時間を持ってくれるらしい。
宝剣を持つ勇者、そして魔王の城に行ったことがある勇者。情報屋アンナが仲間にすることと説得することを否定した勇者。
カサルの地の住居地でも男を探していることを聞いたら嫌悪された。

どういう男かはセズから少し聞いているが……実際のところはどうなのだろう。

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