百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第174話 カサルの地

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俺たちは遥か上空から地上を眺めていた。
ボルティスドラゴンの背に乗り、目指すはカサルの地。
魔物の中でもトップクラスの飛行能力を持つボルティスドラゴンによって、ものの5分程度でカサルの地間近。
異常な飛行能力だ。古書によるとボルティスドラゴンは魔竜の中でも群を抜いての飛行能力。

「助かる、もうこの辺でいい」

そう言うと、ボルティスドラゴンは俺の言葉を理解したように地上に降りた。
カサルの地よりまだ離れているが、勇者たちが多くいる場所では騒ぎになること請け合いだ。

「ボルちゃん、ありがとね」

「……メア、その言い方どうにかならないか?」

そうメアに問いたらメアは首を傾げ、セシルとラピスの方を向く。

「だから、せめてボルティスとか……つまりだな、ちゃんはやめろ」

俺が言いたかったのはそこだ。

メアは考えるようにボルティスドラゴンを見る。

「そう言われても……ボルちゃんはボルちゃんよね」

メアに賛同するようにラピスとセシルが頷く。

結局、ボルちゃんになりそうだな。

「……もういい。済まないな、変な名前付いて」

と言うのだが、ボルティスドラゴンは特に気にしていないようで口を一度開けただけだった。

「また頼むよ。お前もな」

ボルティスドラゴンと、こちらも背に乗せて走ってくれたライトイブリースに言う。
一体は高く飛び上がり、一体はカサルの地とは真反対の方角へと去っていく。

ボルティスドラゴンは早々討伐されることはないだろうが、もう一体、ライトイブリースに限っては誰かに討伐される可能性も否めない。
そう考えると、ヴィンスやレベルのように近くに置いておくのが適切のように感じるが……それでは目立ち過ぎる。

少数で行動していた時には出ない問題も浮上する。
しばらくはボルティスドラゴンを呼んだような形で共存していこうと思う。

そうして二体の魔物を見送った後、俺たちはカサルの地に向かって歩き始めた。
俺がまだ勇者になりたての頃に来た懐かしい場所ーーカサルの地は5つの集村がある場所で多くの人々が日々の生活をしている。

「シン、アンナさんが言ってた勇者っているのかしら?」

「どうだろうな。まあ真偽は行ってみれば分かるさ」

宝剣を持つ勇者の存在。
情報屋アンナはカサルの地に宝剣を持つ勇者がいると言っていたが……しかも、魔王の城に行ったことがあるとも言っていた。

そんな時、誰かの腹の音が鳴った。
犯人は直ぐに分かった。ラピスが顔を赤らめ、分かりやすく顔を覆う。

「そういや、出発してから何も口にしていなかったな。安心しろ、カサルの地に着けばたらふく飯が食える」

「……うん」

そうして5つの村が集まった地、カサルの地を目指して歩みを進める。





「此処がカサルの地……」

「そうだ。メアは来たことなかったか」

カサルの地に着けば人々は街ほどにおり、付近には剣の稽古をしている者たちがちらほら見える。
カサルの地は剣術に盛んな場所で、それを学びに来る勇者も多い。俺が過去、カサルの地にたどり着いたのは偶然で、その際に様々な剣術を学んだ。

「ええ、初めてよ。いつかは行ってみたいと思っていたけど、いざ着くと広そうな場所ね」

メアは眺めるように辺りを見渡す。

「ああ、広いぞ此処は。何たって村が5つも入ってるからな」

「5つ!? どういう場所よカサルの地って……」

「メア以外で知らないのは?」

セシルは首を横に振った。

「一度だけ来たことがある」

ラピスは人差し指を立ててそう言った。

「そうか。なら説明する」

改めて、俺がカサルの地について知っていることを皆に話した。

カサルの地。

過去、此処ら周辺に5つの村があったそうで、それぞれの村には国の部隊や自分らの村を守る勇者がいたそうだ。
そんな中、当時起きた出来事は5つの村が集まるきっかけとなった。

魔人の襲来、それにより兵士たち勇者たち、数多くの命が失われた。魔人は魔物を引き連れ、5つの村に壊滅的な被害をもたらした。
後々、5つの村のトップが話し合いをし、1つの地として生活を成すことを決め、今のカサルの地が誕生した。
その際、ソフィア王国に黒柱の建築を申し出たそうだが、魔人、魔物による壊滅的な被害を知っていたにも関わらずソフィア王国は拒否をした。5つの村の人々に街への移住を言い渡し、特別な措置は取らない方針を示した。
ただ、研究途中に建造された黒柱の提供は可能となり、それが今もこうしてある機能を果たしていない置き物と化しているわけだ。
現在はカサルの地の目印的なものとなっているだけだ。

「ーーそうだったのね。この場所に魔人が来たなんて……」

メアは自身の身体を抱き寄せる。

「バタリアにも来たな。だがまあ、今のメアなら心配する必要もないだろ」

ヴィンスとの半年間にも及ぶ鍛錬で、メアの勇者ランクは9。魔人の強さは定かではないが、バタリアでは勇者ランク8だったクランに尾を巻いて去って行った。

「……そうだと良いけどね」

嫌に弱気だな。
だが、そうなるのも分からなくもない。過去、魔人に姉を殺されたトラウマはメアの心に深く残ってしまっているのだろう。

「クゥン」

アルンがメアにそっと寄り添う。

「大丈夫だよ、メアさん。メアさん凄く強いし、それにシンさんだっている」

ラピスが励ますようにそう言うと、メアが俺の方を見る。

「シン……」

ただそう俺の名を言いーー。

「守ってよね」

聞こえるか聞こえないか、そのくらいの音量で言った。

「そんなの言葉にするな、当たり前だろ」

守って、なんて言い方、他人行儀に聞こえてしまう。

メアは微笑し、いつもの感じのメアに戻った感じがする。

魔人の強さは俺もよく知っている。何せ過去、魔人と対峙したこともあって、野獣が野兎を痛ぶるかのようにやられたこともあった。結果的に離脱するような形で退散して助かったのだが……悔しい、その思いは強く残り、俺の勇者としての威厳が崩れつつあった。

だが、今は違う。あの時のようにはいかない。バタリアの街ではまだ勝てないと思っていた魔人も今では相手に出来る。そう断言出来るのも、以前に対峙した経験から言えること。

魔物は世間では問題視されているが、魔人の存在はそれ以上に危惧されている。その為、魔物撲滅本部の一部の勇者は魔人討伐活動に勤しんでいると聞いていた。
魔物撲滅本部のクランが魔人を追って来ていたことは事実だったと再認識する形となった。

「おなかすいたー」

セシルが自身の腹を押さえながら言う。直ぐ隣にいるラピスがセシルの言葉を強調するようにこくこくと頷いている。

「そうだな、まずは腹ごしらえといこう」

そうして、先ずは食事が出来そうな場所はないかと探し歩き始めた。
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