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第172話 5番目の剣を持つ者
しおりを挟む遺跡の中を進んで行くとあった場所。其処は天井が突き抜けており芝生もある。ただ、依然として誰かの気配がしている為、気が気でない。
辺りを見回してみても誰もいない。
「俺たちに用があるのか?」
そう問うてみた。
……返事は返って来ない。
だが、依然として誰かの気配を感じる、きみが悪いな。
鞘から抜いたアスティオンの刀身が太陽の光によって白く反射する。それが、遺跡の壁に当たって人影が見えた。
「へえ……珍しい剣持ってるじゃん」
影でその者の姿は見えないが、誰かがいたことは確かだった。
その者は階段手前まで来て姿を現した。
「あなたは何もの?」
俺が聞こうとしたら先にセシルが聞いた。
「それを答えてやってもいいけど、まず、そういうのって自分らから名乗るべきじゃね? 一応、俺この遺跡に住んで長いからさ」
遺跡に住んでる? まあ住めないこともないか、魔防壁もあるのだから。
「俺たちは魔王の城目指して旅をしてる。俺はシン」
続いてセシルも名乗る。
男は俺の言葉を聞くなり、眉間にシワを寄せた。
3メートルほどある段差から飛び降りて、腕を組んでは俺たちの方をじろじろと見て来ては、はぁと何とも言い難い溜息を吐いた。
「魔王の城ねえ。……あんた、強いの?」
「さあな、それを決めるのは俺じゃない。試してみるか?」
そう返すと、男はきょとんとした表情をする。
「いいよいいよ、今はそんな気分じゃないし……見た感じ、あんた相当強そう。俺よりか随分……あんた、勇者だろ?」
「ああ。お前もか?」
男は笑顔を作りながら頷いた。
「最近はこの遺跡に来る魔物も多くて多くて……他の勇者の手も借りたいくらい。あんた、どう?」
魔物が来る? どういうことだ?
「遠慮しとく」
取り敢えず今は深掘りせずにそう返しておく。
俺がそう言うと、男はガクッと肩を落とす。
「魔王の城なんて、なーんでそんなおっかないところ目指すのかねえ? あんた、死にたがり?」
「うるせえな、お前には関係ない。行くぞ、セシル」
「ちょいちょい! もう少し喋ってけよ! 滅多に来ない客だ」
変な奴に捕まってしまった。髪はボサボサとしており、勇者の格好はしているのだが、随分一人が長いようだ。そう感じるのは俺も過去、長く一人で過ごして来た日々があったからか、似たところを若干ながら感じる。
男は自身の腰ベルトにある鞘から剣を取り出した。武器屋で売っているような長剣ではない。
髑髏が刀身の下に輪のようにあって、変と言わざるを得ない長剣。禍々しくも、何処か悲しさを感じる長剣。
「知ってる? アルマの剣って言うんだ」
アルマの剣……
俺は1つの長剣を思い出していた。
「……お前、魔剣使いか」
男はご名答と言わんばかりにアルマの剣で空に向かって斬った。それは、突き抜ける天井に向かうようにいく。衝撃というか音というか、それが空の方へ去っていった。
「魔物殺しにはちょうどよくて。あ、言い遅れたけど俺はラダム」
ラダム……知らない名だ。
アルマの剣、魔剣を持つ勇者。
俺も過去、バタリアでルイとルリカからラフマの剣を譲り受けたことがあって直ぐにアルマの剣が魔剣だと認識した。この独特なオーラ、どうやら他の魔剣も似たようなものらしい。
魔剣に飲み込まれてしまった感は見えないが、魔物撲滅本部の勇者であるクランが危険視するほどだ。
ラダムが笑みを浮かべながら空へ突き抜けている天井にアルマの剣を向けるのだが、ものがものだけに怪しい奴に見えて来た。
いや、そもそも魔剣を持っていてこんな古い遺跡に住んでいる。怪しいというより、得体が知れない。
「そうか、ラダム。悪いが俺たちは先を行く。話相手なら他を当たってくれ」
セシルの背中を押した。
とすれば、背後からゾワっとした感覚があった。
「魔王の城なんて……どいつもこいつも……死ぬのになんで行く!?」
ラダムは唐突に声を上げた。辛そうに息を吐き、先程までの温厚な目付きと違ってしまった。
「……それは行ってみないと分からないことだな。少なくとも、俺はそう思うが?」
とは言ったものの、以前の俺ーーまだ勇者ランクがようやく5になったばかりの頃は、魔王の城は勇者の墓場だと思っていた。
しかし今は違う。勇者ランク10となって、空の支配者と比喩される暴風竜ボルティスドラゴンまでも瀕死状態まで追いやった。
挙句、ボルティスドラゴンと『血の契約』を結び、今は従属関係となっている。
ラダムは下に俯き何やらぶつぶつ言っている。
「シン行こう!」
セシルがそう言う。
そうして、遺跡の外で待たせているメアたちの元に戻るように走って行った。
◇
「遅い!」
ややあってメアたちの元に戻ると、メアにそう言われた。
事情を話すとメアがさっさと行こうと言い、先を行くことにした。
「あいつ……」
そんな時、またしても魔剣特有のオーラを感じて振り返ると、ラダムがアルマの剣を持って遺跡の外へ出て来ていた。
「あれが、魔剣」
ラピスは魔剣を見るのは初めてだそうで、そう言いながら唸るアルンの頭に触れる。
ラダムが俺たちの方へ歩いて来る。
「下がってろ」
やり合う気分じゃないと言いながら、どういうつもりだ?
魔剣を握って威圧感丸出しで……まあ鼻から魔剣を持っている奴なんざ信用するに値しない。
「へえ、それがあんたの仲間? 良い面してる奴ばかりじゃん。2匹、変なのがいるけど。なる、『血の契約』ってやつね」
当たり前のように『血の契約』のことを知っていた。魔剣を使いこなすような勇者には周知の事実なのだろうか。
「用はなんだ?」
ただ一言、そう聞く。
するとラダムはその場に直接胡座をかいて座り込んだ。
「俺もな昔、あんたのように仲間がいたんだよ。でもみーんな死んじまった。ーーどうして? って誰か聞いてくれる!?」
興味がない話だったから黙っていたら、ラダムが俺たちに発言するように言って来た。
「どうして?」
セシルがラダムの言葉を受け取ったように聞く。
「魔王の城に入る前に皆殺された。あの場所の魔物のレベルは異常過ぎる。第5の魔剣を持つ俺でも苦戦した。見誤ったのは一目瞭然……こんな話を聞いてもあんたたちは行く?」
「ああ」
そう二つ返事をした。
ラダムはその言葉を聞くなり、深い溜息を吐いた。
「そう、なら俺にはもう関係ない」
言った後、ラダムは目を瞑る。
「じゃあ、またいつの日かな」
最も、またこの遺跡に来るかどうかは保証できないのだが。
先へ行こうとしたーーその時、俺たちの真横に縦に鋭い斬撃の柱が走った。
「何のつもりよいきなり! 危ないじゃない!」
「クゥン」
アルンは怯えた子犬のように小さくなってしまい、ラピスの後ろに隠れてしまう。
おいおいアルンよ、あの長い修行期間はなんだったんだ?
「このチームのリーダーはあんたでしょ? それなら俺くらいの勇者、倒していけるよね?」
挑発……面倒くさいな。
行くぞ、そうメアたちに言いたいところだが、ラダムも腕の立つ勇者のように見える。やり合う気分じゃないと言いながら、結局やり合うのか。
「手加減はしないぞ」
俺がそう言葉を返した途端、斬って来やがった。
「結構!!」
止む無し、か。
それならばこの際だ、第5の魔剣の力、じっくりと見せてもらおうか。
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