百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第167話 深淵の中にみたりけり

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明くる日の明朝、ボルティスドラゴンは忽然と姿を消していた。
まあそうだろう。
魔竜が人間と従属関係になるなんて聞いたこともない。だが昨日、ボルティスドラゴンが此処に降り立ち、俺と戦闘を繰り広げていたのは紛れもない事実。
大地は荒れに荒れており、ボルティスドラゴンが起こした強風によって飛んで来たのか巨木が横になっているのが数十本ほど確認出来る。
暴風竜の咆哮の竜巻によって深くえぐり取られた地面はそのままだった。

俺はそんな光景になってしまった地面からやや離れた場所でいつも通り鍛錬をし始める。
アスティオンを使わずにヴィンスと一対一で肉弾戦。
ヴィンスも既に手加減なしではいられなくなっていた。つまりは俺がそれほど成長を遂げていたということ。単純な話だ。

だが、それでも過去の大戦を経験した元部隊長の力はとてつもない。
ここ4ヶ月と1週間の間、改めてヴィンスの強さを思い知った。
虎狼のヴィンス、武器も持たず拳一つで戦闘する様はもはや超人。本人からは一度もステータスのことを聞いていないが相当高いものと思われる。
ただ一つだけ聞いたのは守技がセシリアと同等くらいだと言っていた。

守り神のセシリア。
彼女の持つ異名は多くの人々を魔物の軍勢から守ったことからついたそうだ。加えて敵を翻弄する天性の速さを持ち、容姿端麗、とある二国の王子から求婚の話も風の噂で耳にしている。

そして俺が驚いたのは、そのセシリアとヴィンスが面識があるというではないか。
どちらも限界突破している守技を持つ者同士。ヴィンスはどのような面識かは詳しく話さなかったが、特に深い仲ではないとだけ言っていた。

他には俺がまだ勇者ランク3だった頃の話。
湖のほとりで休んでいた時、俺が大怪鳥レオバードに連れさられそうになった際に近くにヴィンスがいたというではないか。
そんなことなら何故助けてくれなかった? と問うと、面白かったから見ていた、だそうだ。
まったく、良い性格してやがる爺さんだ。

そうして鍛錬をし始めた5か月目も中盤、ヴィンスも長剣を使うようになった。
どうやら、拳だけが武器ではなかったらしく、特に際立った装飾もない至ってシンプルな長剣。サーベルだ。
しかも、ヴィンスとの剣の鍛錬の途中、いつの間にか観戦していた者の存在に俺は驚いた。

ガルド=センヴェント。
過去の大戦にて一陣で活躍した人物であり、俺の師匠的な存在が其処にいた。
ヴィンスが密かに呼んでいたと言う。

それからというもの、俺は超人爺さん二人に鍛え上げられていった。本気ではないがヴィンスとセンヴェントが交互に繰り出す剣技を避けては反撃。それがぶっ通しで5時間くらい続いたかと思えば、今度は飯も取らず5日過ごせなんてヴィンスは無茶を言って来た。

俺がどういうつもりだ? なんて聞こうものなら、『しのごの言わずやれ』ただそう言っただけ。
俺はわけも分からず断食に入るわけだが、どうにもやはり腹が減る。
というのも、センヴェントが来たこの日、俺は朝食すら取っていなかった。ヴィンスの指示だ。

ジュリア宅へ戻った後、俺は一人ソファーに座り、隣の部屋で皆がわいわいと夕食を取りながら話をしているのを聞いていた。
が、程なくしてグレイロットの砦を出て、空腹を紛らわすかのように一人鍛錬を続けた。

鍛錬の最中、適当な魔物を討伐して食う選択肢もあった。が、さすがにそれはないなと判断し断念。
近くにあるレッドリングフォレストに行って樹になっている実でも取って食う選択肢もあった。
だが、俺はそれらをせず、皆がまだわいわいしながら夕食を取る中寝室へ行く。

ヴィンスが何故、食を取るななんて言ったのか。
こうした空腹感は一人で旅をしている時も幾度なくやって来た。
そのたびに俺は普通に飯を食える環境がいかに有難いことか思い知らされたし、“食”というものがいかに重要なことか身に感じていた。

ただそんな時、一切の食を断つことで研ぎ澄まされた感覚というものがやって来ていたのは俺の中では重要な発見だった。





食を絶って5日目の夜、グレイロットを出て一人夜のフィールドにいた。
轟々と鳴り響くのは、何処ぞの魔物の声だろう。彼方から聞こえて来る声は叫んでいるようにも聞こえる。

「止んだか……」

魔物が叫び声をあげるなんてことは珍しくもなんともない。
ただし平穏ではないことは確かだし、通常、魔物が叫び声をあげるのは仲間を呼ぶ為だったり、遠くにいる仲間との会話、もしくは敵への威嚇の為。
敵とはつまり、俺たち人間ーー勇者のこと。国の兵士たちも当てはまる。それ以外は敵というより魔物にとっては餌という認識だろう。

神剣アスティオンを鞘から抜く。

宝剣だった時は黒かったが、今は月の光に反射し銀白色の刀身が絵になるように輝く。
まさしく神剣の名にふさわしい。

さて、一つ盛大に斬撃を放ってみるか。
誰もいない大平原、見る限り魔物の姿も視認出来ない。
勇者ランクが上がるにつれて、夜でもさほど問題なく視界が生きているのは意外にも強い。
暗闇でも敵が認識出来るとは、俺は猫にでもなったのか?
どうだろう、その辺りは分からない。勇者ランクが上がったからなのか、それとも裏ステータスが目覚めたからなのか、もしくは神経が悲鳴を上げるまで高いプラス値を解放し続けていたからか。
いずれにしても、闇の中でも視界があるのは強い。

撃技を+8解放していく。撃技のエネルギーが増幅、アスティオンの銀白色の刀身がさらなる輝きをつける。

「なんだ? ーーっ!?」

数秒前まで見えていた視界が更に暗くなっていく。
輝く銀白色の刀身までもが徐々に見えなくなる。



一体、何が起こった?



深淵。

唐突にやって来たのは全方位を闇が染めた。

自分の心の臓の鼓動を感じる。死んではいない。

撃技を解放しているエネルギーもある。地に足をつけている感触もアスティオンを握っている感触も存在している。

心がしんとなる。
不思議な感覚だ。怖いとかそんなのじゃない。

なんだろう……言い表すならそう、まるで俺が神剣アスティオンそのもののように……



深淵が一気に割れて視界が元に戻った。

「……」

俺は眼前の視界と持っているアスティオンを交互に見る。


そうか、俺がやったのか……納得した。

眼前に広がるは、地割れでもあったのかというほどの裂け目。前々からあったわけではない。たった数秒前に出来た。記憶が送れてやって来た。そうだ、これはアスティオンの斬撃により出来たものだ。

地面がえぐられているというわけではなく、綺麗に真っすぐに立てに割れている。いや、割れているのではない、斬れている。
この神剣アスティオンによって。

「夢幻斬……」

そう命名しよう。

ん? 足元が……


それからの俺の記憶は少々飛ぶ。
次に目を覚ました時、俺はベッドの上に居て、誰かの額が付いていて……俺はゆっくりと目を瞑った。
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