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第166話 空の支配者、再び
しおりを挟むそれからさらに2ヶ月が経過し、ヴィンスによる鍛錬の日々は最終6ヶ月目に突入していた。
裏ステータスの強化も進み、それぞれの技能の解放時間もおよそ2倍以上伸びることに成功した。
これが意味することはつまり、技能の解放による自身への身体的ダメージが軽減されたということ。
技能の反動によるダメージを裏ステータスの強化によって半減させることが出来たというわけだ。
そんな折、俺の元に向かって一体の魔物が滑空するようにやって来た。
何処かで見たことがある魔物だと思ったら、七星村を襲って来たライトイブリースだった。
この時の俺の勇者ランクは10になったばかり、観察眼で確認したライトイブリースのレベルは84、俺の相手ではなかった。
神剣を使うまでもない、拳一発で昇天させてやろうと撃技+6のエネルギーを解放していく。
だが、俺に攻撃するかと思いきや、地面に着地した後、攻撃態勢もなく慣れた様子で歩いて来た。
俺はこの時、一つの思い当たりがあった。
七星村より北西に位置するオルビド遺跡で、瀕死状態だったライトイブリースに俺の血を少しばかり与えたことを思い出した。
ということはつまり、『血の従属』が成功したということ。でなければ、まるで猫のように俺の脚に擦り寄って来るはずがない。
直ぐ近くにいたヴィンスも『血の従属』だと見抜いていた。
が、まさか俺が魔物を従属させていようとは思っても見なかったようで、関心した様子を見せた。
というのも、ヴィンスは魔物との共存の世界を目指しているそうで、個人的に活動しているらしい。
パルセンロック洞窟内に住んでいたレベルのことを話すと、同じような考え方を持つ者がいて嬉しいと言っていた。
ただ、俺にはその気持ちは理解出来ず、安易に自身の血を瀕死状態だったライトイブリースに与えたことに頭を悩ませた。
一日の鍛錬中、片時も離れようとせず、鍛錬を終えた夜、ジュリア宅まで入ろうとするライトイブリース。
ようやく俺の言うことを理解して従ってくれるようになるまでは、翌日までかかった。
だが、人2人くらい乗せることが出来そうな身体、飛行能力もあるライトイブリースが仲間になったことは大きい。レベル84というのも高い方だ。
メアたちも初めのうちは驚いていたが、直ぐに慣れて精霊獣と魔物が戯れているなんて光景を見るとは思いもしなかった。
◇
それから2週間ほど経った頃、緊急事態が発生した。
上空の大気が鳴り響く中、突如として現れたのは空の支配者。
ボルティスドラゴン
LV.131
ATK.259
DEF.212
これがその時のボルティスドラゴンのステータス。
魔竜のステータスというのはそこらにいる魔物の比ではない。
1度目に見たボルティスドラゴンに間違いない。
というのは、魔竜というのはそもそも個体数が最も少ない魔物であり、同じ魔竜はこの世に存在していないからだ。
一度目、観察眼で確認した時よりも大幅なステータスの上昇を果たしている。
そこらにいる何も考えていない魔物であれば自身の強化など考えもしないのだが、知能指数が高い傾向の魔物は意識的に行動するのが厄介なところだ。
あえてそれが良いと無理矢理言うとすれば、同じ側の魔物を倒してくれるということくらいか。
ただ、結局こうして恐ろしく強くなってしまっているのは致し方ない事実。
ヴィンスも戦う姿勢を見せる中、俺は一つの決断をした。
『俺がこいつを一人で倒す』
そう言ったらヴィンスは大馬鹿者だと当然のように言ったのだが、まるで今の俺の状態を確かめるように現れたボルティスドラゴンは、少なからず討伐対象としてあった。
吠える咆哮、大地が振動し、大気までもが震える。
先制攻撃、咆哮と同時に竜巻をまるで炎を吐くように放出する。
大地がめくり上がり、同じくしてボルティスドラゴンの周囲に強い風が起こり始める。
ボルティスドラゴンの正面には立ってはいけない、勇者の間では当たり前の話。
ボルティスドラゴンは攻撃の手をやめず、続けて大地を地ならしした。
瞬間、地面を割るようにして生まれた無数の竜巻は突如押し寄せた自然災害の如く規模。
強い風によってさらなる成長をする竜巻は天へと登っていく。
さすが、暴風竜の名は伊達ではない。
魔竜一体でこうも景色を変えるとは末恐ろしいとしか言いようがない。
だが、俺は伊然として平然としていた。
荒れる風によって髪は大きく揺さぶられるものの、俺は大地を踏みしめてボルティスドラゴンに神剣アスティオンを高々と向けている。
さて、俺はこの暴風竜相手にどこまで一人でやれるのか。
ゾクゾクと全身に湧き起こった武者震いを合図に、撃技+7の攻斬波は直線上にあった竜巻を突き抜けボルティスドラゴンに向かっていく。
攻斬波は途切れることなくボルティスドラゴンの胸あたりにヒット。
斬ったエフェクトは確認出来たが、反撃の暴風波は大地をえぐりにえぐり大爆発のような衝撃波を発生させた。
俺が居た場所は暴風波によってぐちゃぐちゃになっており、ボルティスドラゴンの危険度がいかに高いのかが分かる。
ボルティスドラゴンが空を見上げる。
この時、俺が何処にいたのかというとボルティスドラゴンより遥か上空。
過去、ヘリオスの村を立ち去る前にクレアから教えてもらった魔法結束による技術ーー光の円盤は空中に出現し、発動者の手の向きに合わせるように移動させることが出来る。
俺は一人で居た時に練習をしてあっさりとマスターしていた。
ボルティスドラゴンは遥か上空にいる俺に向かって再度の暴風波を発生させる。空にあった雲はボルティスドラゴンによって発生した強風により、形を変え早く動いていく。
俺はアスティオンの切っ先を真下に向け、撃技+6及び速技+10の解放、それらに加えて雷霆斬を放った。
雷霆斬ーーこれは雷のように大地に落ちる様から名付けた斬撃。俺の斬撃の中ではトップクラスの攻撃力を誇る剣技。加えて撃技+6と速技+10の付加、重力も合わさり威力ともに申し分ない。文字通り、雷の如く落ちる斬撃。
ボルティスドラゴンが声をあげることなく大地に打ち落ちるーー雷霆斬はボルティスドラゴンの頭部に直撃した。
辺りに発生していた無数の竜巻は消え去っていき、平穏が戻っていく。
俺は光の円盤を解除し地面に着地するのだが、まだ死んでいなかったボルティスドラゴンの生命力に驚きを隠せないでいた。
ボルティスドラゴンは落ちた巨大な身体を持ち上げようとするが、高プラス値の技を二つも解放して雷霆斬を頭上に食らった威力は瀕死状態にするには十分だった。本来であれば脳天を貫いている威力。ボルティスドラゴンが纏う風が威力を弱めたのだろう。
俺はボルティスドラゴンにとどめをさそうとした。
その時だった、何もせずに見ていたヴィンスが口を開ける。
『そやつを仲間にしてはどうじゃ?』
俺の心中での回答は早かった。
確かに、これほど強い魔竜を仲間にしない手はない。
俺はすぐさまアスティオンで自ら血を作り、ボルティスドラゴンの頭付近まで近寄って行く。
俺がもし貧弱な勇者だったら一口で食われるほどの巨大な口。
威嚇しているようだが、力がない。
俺は開いた口へ自身の血を投げ入れ、様子見にボルティスドラゴンと距離をとった。
魔物が自身の体力を回復させるには時間しかない。勇者のようにポーションやエリクサーで回復出来れば手っ取り早いのだがそうもいかない。
とりあえずは様子見だとこの日は終わった。
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