165 / 251
第165話 技能の限界値突破
しおりを挟む俺たちがヴィンスと出会ってからのそれからは日々が鍛錬だった。
俺は技を解放しつつ、ヴィンスと対の稽古。
技の解放時間を延ばす為だと今までにない時間、技を解放していた。
プラス値の高い技の解放は著しく体力を減らしていくのは既に分かりきったこと。
体力が減り過ぎた時を見計らいハイポーションを飲んでは再びプラス値の高い技の解放。
ヴィンス直々に俺の相手をし、表面的な数値では見えない身体的能力強化に日夜励む。
裏ステータスの存在。
それは数値化された既存のステータスとは異なるものを指す。
数値が割り振られているものでもなく、見えない潜在的身体能力だとヴィンスは発言する。
ほとんどの勇者たちは表面的に見える身体的ステータスに注視するが、その実、注視するべきは裏のステータスだとヴィンスは都度言う。
それからの俺はこの裏のステータスを意識して日々の鍛錬をしていった。
表だって見えない裏ステータスは、いわば限定された者に与えられる境地。
境地というほど大袈裟なものではないが誰でも到達出来る場ではないということ。
勇者ランク8、それが裏ステータスを強化していける必要なランクとなっている。
俺は既に必要ランクに達していた為、さっそく裏ステータスの強化に努め始めたわけだ。もちろん、ヴィンス指導の元で。
メアはヴィンスによる鍛錬が始まった当初、勇者ランク8になるには後100体もの魔物を討伐する必要があったので、ラピスとアルンと共に別行動をしていた。
俺ももちろん勇者ランクを上げていく必要があったので、裏ステータスの強化に励みつつ、フィールドで魔物をひたすらに討伐していく。
此処らは近くにあるレッドリングフォレストからの影響からなのか、魔物は毎日のように出没する。
そうした過程で俺は晴れて勇者ランク9となり、それぞれの技のプラス値の変化も起こっていた。この時の俺のそれぞれの技の最大プラス値は、撃技が+7、速技が+10、守技が+6という状態。
今回ヴィンス直々による鍛錬の日々を送る中で上位種の魔物の討伐課題もあった為、技のプラス値は大きく上昇。
速技が+10というのは、勇者ランク9では相当珍しいというかかなり特異らしい。
というのは勇者ランク9で速技+10に到達するとなると、撃技と守技を捨てるくらいの覚悟が必要だということ。
勇者の中にはどれか一つの技を重点的に強化すると決めて、他の2つの技を捨てる者もいる。特化型勇者の多くが、この戦略をとっている。
つまりは、3つの技のうち一つを際立って強化するとなると、残りの2つを捨てなければいけなくなるというのが至極当たり前の話。
だが、俺は速技のプラス値ほどではないが、残りの撃技と守技のプラス値も極端に低いわけではなかった。ヴィンスが特異だと発言したのはそうした理由からだ。
過去の俺の魔物討伐傾向は、第一に素早さのある相手を狙っていたことを考えると、速技が抜きん出るのは行動の通りなのだが、残り2つの技が決して低くなかったのは勇者を始め出した時から、それぞれの技のプラス値がオール3だった為だ。
もちろん、そのこともヴィンスには話した。
ヴィンスも長年いろんな勇者たちを見てきたそうだが、ランクもついていない勇者で3つの技のプラス値がそれぞれ+3もあった勇者など聞いたこともなかったと言う。
この話は昔センヴェントの元で修行していた時にも話している。が、センヴェントでさえも眉間にシワを寄せて深妙な面持ちで考えているほどだった。
結局、センヴェントもヴィンスも答えは見つからず、俺のそれぞれの技のプラス値が高かったのは生まれつきの天性だという結論になった。
俺も深くは考えたことはなかったが、魔物を一体も討伐していない、勇者になりたての者が持つプラス値ではないというのは理解しているつもりだ。
まあ、俺はそのおかげで勇者になりたてでも1人旅を続けることが出来ていたのだが。
ただ、いくら勇者ランクに身合わないプラス値を持っていたとしても、技の解放に耐えられるステータスでは当時なかった。
その為に魔物特攻特性を持つ宝剣だった頃のアスティオンの助けを受けていた。
そしてもう一つ、技の話になっていた時、ヴィンスは重要なことを言い放った。
それが技能の最大限界値というもの。
これはどういうものかと言うと、個々人の技のプラス値には限界があるというもの。
つまり、限界まで上げたプラス値はそれ以上いくら魔物を討伐しても上がらないということ。
そうなれば、残りまだ限界値まで達していない技のプラス値の強化に励んでいくことになる。もちろん先程言った通り、技能には限界値があるわけだが。
その後の俺は、日々、魔物を討伐していく中で、速技が+11で最大限界値に達した。
その際、普通であればまだ最大限界値まで達していない技の強化に努めるわけなのだが……ヴィンスは限界値を突破する方法を話した。
それは一体どういう方法か。
先程、個々人の技能には限界があると言ったが、限界値の突破とは言わば技能を持つ本人の意識に直結するのだという。
これは、例えば+9まで上がる撃技だったとして、現在が+7であれば、その差の+2を既に最大限界値に到達している技に与えるというもの。例で言えば+11まで達するということ。
これをすると、最大限界値に到達している技能をさらに+2上昇させることが可能となる。ただし、この+2というのも例えで出しただけで、もちろん後どのくらい技能が上がるのかは与える前は当然分からない。
俺はこの話をヴィンスに聞いて、早速、最大限界値に到達した速技をさらなる高みへ上昇させることにした。その際、速技に移動した技能は撃技。この時が撃技+8で、まだ最大限界値ではなかったことと、尚且つ、使い手の攻撃力の80%をさらに俺の攻撃力に付加する魔物特攻特性を持つ神剣アスティオンの存在があったのが理由。
そうして、撃技から最大限界値に達していた速技に見えないプラス値を振り分けることで、自身による問いかけの結果は速技の最大限界値を突破していくこととなった。
最大限界値に達していた速技の状態でもレベル90代の魔物がのろまに見えるほどだったというのに、限界値突破した速技はーー敵を一方的に討伐する。
速さとはつまり、攻撃力にも転じることが出来、俺の中では最も注視する技能。
その後は、限界値突破した速技を上昇させつつ、まだ最大限界値に到達していない守技の強化にも勤しむ日々だった。
◇
ヴィンスとの鍛錬が3ヶ月目に突入した頃、俺は裏ステータスを既に取得しつつあった。
この裏ステータスというのは表面的に数字として表れることはなく、見えない身体的能力の先にある直接技能に関係するもの。
技能とは全て、プラス値が高くなる解放につれて比例するように身体的負荷も上がっていく。以前、まだ裏ステータスの存在を知らなかった状態で高いプラス値の技能の連続解放は1番長く持って5分が限界。それ以上すると体力が底をつき、まともに敵と戦える状態ではなくなってしまっていた。
ヴィンスによる鍛錬が始まった頃、高いプラス値の技能を日々解放していたのは、技能解放時間を延ばす為でもあったが、その実、裏ステータスの目覚めを促進させていたということだった。
結果、俺は裏ステータスが目覚めて、技能の連続解放時間の延長に成功したというわけだ。
もちろん、生半可な道のりではなかった。
時には速技+10を連続15分解放したせいで、止めても速技エネルギーの負荷は俺の身体を容赦なく痛めて来た。
異常な筋肉の痛みに加えて今までに感じたことのない苦痛。この苦痛を表現するならば、神経が削がれているような感覚だった。拷問にも等しかった。
もちろん速技だけでなく撃技と守技の連続解放もした。実際、速技ほどではなかったが、どちらも体力の限界を超えた身体にダメージと神経への苦痛を問答無用で俺に与えた。
その結果、俺はどうなったか。
結論を言ってしまうと、危うく廃人になりかけてしまった。技能を解放したくても身体が言うことを聞かず、しまいには意識が突発的に飛ぶなんてこともあった。
いくらハイポーションやエリクサーなどのアイテムが体力を回復しても、目に見えない精神的なダメージは回復出来ない。
この時ばかりはヴィンスも俺に休養を取るように促し、後々のことを考えて三日ほど休んでいた。
その間、メアたちは順長にレベルアップを続けて、ジュリア宅の寝室で過ごしていた俺に現状を度々報告しに来るのが日課になっていた。朦朧とする意識の中でも、メアたちの報告くらいは何とか聞ける状態だった。
メアは勇者ランク8となっており、進化した自身の持つ氷魔法のことを誇らしげに語っていた。なんでも今まで自分でも知らなかった技法、氷の魔法を剣に一定時間付加させることで斬撃の攻撃力を増すことも出来るとヴィンスに教わったらしい。
まるで魔物特攻特性みたいだなと俺が言うとどうもそれは違うようで、氷魔法によって単に鋭さを際立たせて攻撃力を増させるのだという。
なるほどと、俺が感心しているとセシルも自身の成長を寄りかかって話して来た。
なんとたった1人でレベル92のドラゴニュートを討伐したというではないか。ドラゴニュートは平均レベル80から90とあって、勇者でも手こずるほどで中には戦闘すら拒否するほどの手強い魔物。
ドラゴニュートは亜人であり、知能指数も高い。
攻撃手段は火を吹いたり、何処から拾って来たのか槍での戦闘を得意とする。非常に攻撃的な魔物で、上空でドラゴニュートが飛行しているところを目撃したら物影に隠れるようにとギルドで注意喚起が貼り出されていたことを思い出した。
まさか、そんなドラゴニュートをたった1人で討伐するなんて……
セシルも成長をしているな。
アルンも見ない間にさらに逞しく立派になっていて、ラピスも戦う者の表情が出来上がっていた。
俺は休養する前まで日々鍛錬をしていたわけだが、メアたちと行動することは初日以外ほとんどなかった。
ジュリア宅に帰って来ても、現状の報告といったことは特にせず……
なので、俺が休養していることを知って来た皆を久しぶりに見た時は、成長具合に深く感心した。
俺も寝込んでばかりではいけない。
早々に体力、精神ともに回復して勇者の高みへと登っていくとしよう。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

パイロキネシスの英雄譚ー電撃スキルの巫女姫の騎士ー
緋色優希
ファンタジー
禮電焔(らいでんほむら)は異常なまでの静電気体質。そして、それは人体発火現象の原因であるとも言われてきた。そして、ついに彼にも『その時』は訪れたのだった。そして燃え尽き、死んだと思ったその時、彼は異世界の戦場の只中にあり、そしてそこには一人の少女がいた。彼はそこで何故か電撃発火の能力、強力なパイロキネシスを使えていた。少女はブラストニア帝国第三皇女エリーセル。その能力で敵を倒し、迎え入れられたのは大帝国の宮殿だった。そして彼は『依り代の巫女』と呼ばれる、その第三皇女エリーセルの騎士となった。やがて現れた巨大な魔物と戦い、そして『神の塔』と呼ばれる遺跡の探索に関わるようになっていく。そして始まる異世界サイキック冒険譚。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

二度目の転生は傍若無人に~元勇者ですが二度目『も』クズ貴族に囲まれていてイラッとしたのでチート無双します~
K1-M
ファンタジー
元日本人の俺は転生勇者として異世界で魔王との戦闘の果てに仲間の裏切りにより命を落とす。
次に目を覚ますと再び赤ちゃんになり二度目の転生をしていた。
生まれた先は下級貴族の五男坊。周りは貴族至上主義、人間族至上主義のクズばかり。
…決めた。最悪、この国をぶっ壊す覚悟で元勇者の力を使おう…と。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しています。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる