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第162話 長所と短所
しおりを挟む明くる日、俺たちは早々にヴィンスと共にフィールドへ出ていた。
眩しい朝日が今日も今日とて顔を出し、地上全体を明るく行き渡るように照らし始める。
霞みがかった空気が徐々にゆっくり晴れていく。
ヴィンスは登って来た太陽の方を向いて、合掌しおじきをしている。
そんな様子を見てか、セシルが真似をする。
「ーーさて、いよいよ今日からわしゃ直々に指導していくわけじゃが、まずはそれぞれの戦闘方法を確認しておこうかの」
「俺は剣だ。格闘技もそこそこ使える」
嘘は言っていない。特別な暗殺技術は流石に使えないが、自身の身体を使うことによる相手にダメージを与える技はいくつか取得している。
取得しているというか、勇者として生きている中で自然に覚えたものもあれば、体術に自信のある者から盗み得たり、センヴェントに教わったものなどがある。
「うむ、次」
ヴィンスは俺の隣に立っているメアの方を向く。
「私は剣と魔法かな」
「魔法、お嬢ちゃんは魔法が使えるのか」
メアは上げた左手の平から氷の玉を作り出した。
ヴィンスは関心したように三度ほど頷いた後、メアの隣にいるセシルへ顔を移す。
セシルはその場で、空を切るように拳や脚を突きポーズを決めた。
「な、なるほどのう。セシルちゃんは身軽でよろしい。次ーーああ、そうじゃな。お主は魔導士、戦闘はしないんじゃったか」
「ええっと、出来ないわけじゃないけれど、私の魔法を私にしても、元が弱いから」
「どういうことかな?」
俺も分からなかったが、ヴィンスも分からなかったようだ。
「上昇ーー私の魔法は個人の全てのステータスを上げることが出来る」
「クウン!」
アルンが何か言ったようだ。そうだ、とでも言ったのだろうか、そんな気がするだけ。
「いやはや、それは素晴らしい魔法じゃのう。是非とも見てみたいところじゃが、順を追うとしよう。その子は精霊獣じゃな。確か、精霊獣は皆、大きくなるはずじゃが……」
アルンはブルブルと身体を振るわせた後、巨大化した。
人間の言葉を理解出来るのは、精霊獣にとっては朝飯前。
「これは強そうじゃ。ーーよっしゃ」
そう言うと、ヴィンスは俺たちをざっと見る。
仁王立ちの状態で、何かを考えるようにざっと俺たちを見渡している。
俺は隣にいるメアと顔を互いに向け合う。
メアは首を傾げた。
「シン! お主はアルンと! 青髪の嬢ちゃんは桃色髪の嬢ちゃんと向き合いなさい!」
ややあって、ヴィンスは俺たちにそう言った。
メアとラピスは自分たちの名前をそれぞれ名乗り叫んだ。
ヴィンスは仁王立ちで頭側面あたりを触った。
俺たちはヴィンスに言われたように、移動する。
「メアちゃんとラピスちゃんじゃな、よっしゃ。ーーそいじゃあ、今わしゃが言った組みで互いの長所や短所を思い浮かべなさい」
俺は巨大化しているアルンと眼があった。
「アルンの長所か……」
この三次元の世界から別次元への移動、アルンに触れた者までも別次元へと連れて行くことが出来ること、巨大化によるパワーアップ、誰かを乗せることが出来るほどの身体……それくらいだろうか。
アルンは何を考えているのかさっぱり分からない。ただただ俺の目を見て、気になるのだろう、ラピスがいる方へ顔を向ける。
短所はなんだろう。
別次元に行く力がずっと続くわけではないことくらいか。
これを短所というのもどうかとは思うが、あえて言うならと挙げた感じだ。他にはそうだな……巨大化前の状態ではまともに魔物とやり合うことも出来なさそうというくらい。
ただこれもまだ短所と決めつけるのは早い。何せ、巨大化前のアルンの戦闘を俺は見ていないから。
まあ、巨大化前の見た目は戦闘するような感じには見えないのだが。
アルンは俺の方に振り向き、暫くじっと俺の様子を見ていた後、またラピスの方に振り向く。
「それぞれ思い浮かんだか? ーーよっしゃ。なら次は向き合ってない者同士で組み合い同じことをしなさい」
ヴィンスは俺たちをざっと見渡した後、そう言った。
俺たちはヴィンスが言うように、それぞれが移動する。
俺はラピス、メアはアルン。
「ラピスか……」
ラピスの長所を思い浮かべる……が、ラピスの力をまだ見たことがない。
白魔導士と自分で名乗ったことを知っているくらい。
そういえば、さっき上昇っていう魔法が使えるとか言ってたな。
全てのステータスを上げる魔法なんて勇者一行の旅にあっていい能力。
他には精霊獣アルンのことをよく知ってること、癒し的な要素もあるとかか。
ラピスは俺の目を見たり下へ視線をずらしたりする。
「思い浮かんだならまだ向かい合ってない者同士で」
ヴィンスの言葉を合図にするように、俺たちはそれぞれ移動する。
俺の向かい前には、見慣れた青髪の女勇者の姿が来る。
「シンの長所ね、思い浮かべたら短所の方が多そうね」
「全く同じ言葉を返してやるよ」
「失礼ね! ーーまあいいわ」
メアは俺の目をじっと見た後、目をゆっくり瞑った。
こうして黙っていると、美少女なのは確かな事実なのだが……残念ながら俺のことを勘違いして騙していたなどとほざいていたこともあった。
後はそうだな、少々自分の殻に閉じこもる性質が見え隠れすることか。
おっと、長所より先に短所が思い浮かぶのは良くない。
長所、長所……
メアの長所は短所より多く思い浮かんだ。
勇者として真面目に取り組む姿勢。俺が偉そうに言えることではないが、切にそう感じる。
俺の旅に付いて来る為にラグナ平原で魔物と戦っていた時は、昔の俺を連想させるものがあった。
雷虎との遭遇、退いた後の敗北感。明くる日、俺は次に雷虎と遭遇した日には討伐の二文字をかっさらってうやろうと魔物を斬って斬って討伐していた。
メアは魔法の力も強い。氷魔法は俺では到底出来ないことをして見せる。
氷属性のついた遠距離攻撃の斬撃、及び、氷魔法単体での氷矢や魔物を凍らせること。
剣の使用も勇者の実力を兼ね備えている。勇者ランク6……ギルドで黒の紙を更新すれば勇者ランク7のメアの剣の実力は華麗な一面もあり勇者ランクに見合うような強さがある。
それに、言えば仲間想いということも挙げられる。
「もうよいじゃろう。どうじゃ? それぞれの長所と短所、思い浮かべることが出来たじゃろう。お主らがどれほどの間、旅を共にしておるのかわしゃは知らんが、こういう機会はなかったじゃろう?」
「確かにな」
言葉に出さなくとも、誰々のここは良いだとか、ここはどうだろうか、などと思い浮かべることはあったが、今回のように真面目に考えたことはなかった。
「つまりじゃ、わしゃが言わんとしているのは同じ旅する仲間のことくらい分かっておけという心得の一つじゃ。それにもし、今回を機に言いたいことがあるなら言っておくのもいいかもしれんのう」
ヴィンスは時間を作るように話を止める。
メアに言いたいこと、そうだな……
「……メア」
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