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第158話 ご厚意
しおりを挟むグレイロットに入って直ぐに驚かされたことが2つあった。まず一つ目に、小さいながらも人間の3倍はあるだろう巨人がいたこと。
どっしりとまるで門兵のように座っており、初めは置物かと勘違いするほどだった。
そして二つ目として、グレイロットーーつまり砦の中には巨人だけではなく他の魔物もちらほらと確認出来たこと。
魔物と人間の共存、パルセンロックの洞窟内にいたレベルの言葉が頭を過った。
「此処がお前の家なのか?」
ラティの進む方向へ着いて行くと、長方形の石で出来た家らしきものがあった。扉は一応ついてはいるが、石と扉の素材が合っていない。樹で作られた扉は石を削り取ったであろう
場所にちょうど収まっている。
ラティは俺の質問に返答せず、ただただ扉の前で立ち尽くす。
「ジュリアって、もしかしてあなたのお姉さん?」
ラティはメアの声に反応するがまた視線を戻す。
そんな時、扉の奥から誰かが走って来る音が聞こえて扉が勢いよく開いた。
「ね、姉ちゃ」
「ラティ!! あんたまた外に出たって!? ライルから聞いたわよ!」
声を張り上げて言った少女はラティの肩を掴んで揺らす。
「……ごめん」
やっと聞き取れるほどの音量でボソッとラティは口にした。
少女がラティを自身の懐に抱き寄せた時、真正面にいた俺と目があった。
「と、ところで! あなたたちは何処の誰方かしら?」
目元を拭った少女はラティを離して部外者の俺たちに聞いて来る。
「姉ちゃん、この人らは俺を此処まで送ってくれたんだ」
そうだというように、セシルが笑みをしながら頷く。
「この先に用があって旅をしてるもんで、偶然そいつが魔物に追われているのを見つけたんだ」
「お。お前! それを今ゆうなよ! ッテ!?」
少女がラティの頭を拳で突いた。
「次! 勝手に外出てったら、今の100倍強くぶつわよ? 分かった? 返事は!?」
少女はラティを怒鳴りつける。
「はい……もう絶対勝手に外出ません」
「絶対? 神様に誓って?」
「……絶対だって言ってるだろ! この暴力女! うわあっ!?」
少女がまたラティに拳を向けた。が、ラティは扉を開けて逃げ去った。
「もうっ! ーー御免なさいね、変なところ見られちゃったわね。良かったら上がってく?」
「ああ、助かるよ」
そうして、少女に招かれるように俺たちは家に入る。
中は外観からは考えられないくらい家らしかった。街にある宿屋、それに近い。しかも外観から見るより中はずいぶんと広くて、地下に続く階段まである。
グレイロットの中には他にも似たような感じの大きさの石があって、少女たちと同じように居住しているということだろう。
「ところであなたたちは二人で住んでいるの?」
メアが湯をカップに注いでいる少女に向かって聞く。
「そうよ。もうラティと二人で住んで3年くらいになるかな。あ、私はラティの姉、ジュリアって言うの」
俺たちも個々の名を言っていく中、アルンの吠える様子を少女は見てクスッとする。
「……ジュリア、此処には魔物もいるようだが、共存ってことで捉えていいか?」
魔物ではないが、アルンがいるにも関わらず平然とする少女。グレイロットというこの場所に少々興味が湧いて来た。
「共存……まあ、そんな感じかな。はい」
と、ご丁寧におもてなししてくれるようで、仄かに漂う紅茶の甘い香りをしたカップが俺たちの前のテーブルに置かれていく。
二人が使うにしては大きい感じのテーブルだ。
セシルがお礼を言ってカップを手に取って口にした瞬間、直ぐにテーブルに置いてしまった。どうやら猫舌らしい。
「あなたは獣人よね? どうしてまたこの人たちと?」
「セシルはシンたちと仲間なの! 獣人なんて関係ないんだよ!」
「……そう。ーー良かったら、奥の部屋も使って。ベッドも勝手に使っていいし、今日だけと言わずに好きなだけ居てもいいのよ? 私は地下にいるから、何かあったらいつでも来て」
そう言い残し、ジュリアは地下に続く階段へと降りて行った。
「どう、する?」
「どうするったってメア、せっかく一晩の宿を恵んでくれたんだ。ここは快く使わせてもらおう」
なんて優しい子なんだ。これだけの人数、4人と聖霊獣一体がいるってのに。
そうして、俺たちは有り難く部屋を使わせてもらうことになった。
◇
翌日の朝、フレンチフードというなんともお洒落な朝食をジュリアから頂き、俺たちはお返しにと二人で住むには広すぎる石家の掃除を手伝った。
石の壁は思いの外、雑巾の水を直ぐに乾かせ、それは床に至っても同様だった。
テーブルや椅子といった幾つかの家具は石ではなく樹で作られており、よく見ると古い感じのものだった。
「皆んなありがとう、助かったよ。ほらっ、ラティもお礼言って」
「あ、ありがとな」
ラティは慣れない様子で礼を言った。
そんな時、扉を叩く音。
ジュリアが扉を開けると、昨晩、オークを連れていたライルその姿があった。
「やっぱり此処にいたか。来いラピス。お仲間が来たぞ」
腕を無理やり掴むものだからか、ラピスの表情がこわばる。
「グルル!」
「おっと! どーどー」
巨大化したアルンを宥めるように、ライルはゆっくりと後ろに下がって行く。
「ラピスの仲間って……アイツらのこと?」
メアが、まだアルンの唸りを気にするライルに聞く。
「あんたの言うアイツらが誰か知らないが、ラピスを迎えに来てるのはレイジュって女だよ」
レイジュ……ああ、そいつはレドックの隣にいた女だな。
「……分かった、直ぐ行きます」
「クゥン」
扉の方に歩いて行くラピスを背に、アルンは俺たちの方に振り向き立ち止まる。
「おい犬っころ、飼い主様が行ってしまうぞ、おっと」
グル、と唸って反応したアルンに触れないように、ライルは道を作る。
ラピスは何も言わずに、俺たちの元を去って行った。
◇
このグレイロットに来て、幾つか分かったことがある。
まず、皆が皆、魔物に関心を示しているというわけではないということ。グレイロットには多種多様な魔物がちらほらと見られるが、明かに避けている様子が見られる者もいる。
とすれば、自分から魔物に近寄って行き触れる者も。
そんな光景を見ていれば、出て行ったラピスと髪が地面近くまである女の姿が目に付いた。
「あなたたち……」
ラピスは小さくなっているアルンを抱えている。
「あら坊や、久しぶりねぇ。こんなところに来るなんて、もしかして坊やも魔物と仲良くしたいのかしら?」
「お前には関係ない。レドックはどうした?」
「関係ないだなんて、そんな意地悪なこと言わないで。レドックとジェイなら此処には居ないわよ」
「居ない? どういうことだ?」
特に興味があるわけではなかったが、状況把握の為に聞いてみる。
「私ぃ、レドックの仲間辞めたのよ。嫌になったとかそんなのじゃないわよ?」
「どうだっていいわ! そんなこと! あんたがアイツらの仲間辞めようとどうしようと、私たちには全く関係ない!」
メアのやつ、やっぱりまだ怒ってるな。そりゃそうだろう、何せ自分をさらった奴の一味がいるのだから。
「もっともね。でもね、それはお互い様。私は彼女を迎えに来ただけ。行きましょう、ラピス。……ラピス?」
「ーー私、行かない。悪いけれど、私はこの方たちと一緒に行く」
ラピスがそう言うと、レイジュの口から溜息が出た。
「そっ。いいわ、ラピスがそう判断することに私が口を挟むのは野暮ってものね」
「分かってくれてありがとう」
ラピスはレイジュに頭を下げる。
「私にお礼なんてしなくていいわよ。ーーただし、レドックは知らないわよ?」
レイジュは背を俺たちに向けたまま、そう言い残して去って行った。
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