百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
154 / 251

第154話 レッドリングフォレストの怪鳥

しおりを挟む


森というのは樹々が生い茂り、本来であれば動植物が意気揚々と生活をする場所。
だが、俺たちが今歩みを進めている森ーーレッドリングフォレストは、冷気が渦巻く様子や、奇怪な形をした樹々が多々見られる大樹海。
そして見る者が早々に気付くのは奇怪な樹々、自ら発熱する植物がある光景。
火災が起きるほどの熱ではない。触れると若干暖かいくらいの温度。
此処らの樹々は真下に存在する死の谷に適応するように進化して来たと言われている。

「それにしてもなんでこんな形してるんだろ? この樹なんて見てよ、まるで魔物みたいだわ」

そうメアが触れる樹は、無数に枝分かれした先がぐるんと上方向に曲がってしまっている。

「樹にも樹の成長の仕方があるんだろうな」

他にも幹がない樹だったり、斜めに生えている樹なんてのもある。

「シン、あの輪みたいなものはなあに?」

セシルが樹の幹辺りを指差した。

「あれがこの森がレッドリングフォレストと言われる所以だ。熱量の調整や内の低温を放出して、外の温暖な空気を取り入れているんだ」

奇怪な樹の幹に浮き出た輪。それは奇怪な形をした樹をさらに奇怪にさせているが重要な役割を果たす。
この奇怪な樹々がいつから輪の形状になったのかは定かではないが、死の谷に適応する為の機能だと植物学者らは世に発表している。

「赤い輪とはよく言ったものね」

幹の上に浮き出た輪から時折、赤い流動が見えるのはその部分が他より薄い為。

「まあ、こんな樹があるのは此処くらいだろうな」

とはいうが、まだ人が足を運んでいない場所は何処かにあるだろう。ただ、既に認知されている場所に限って言えば、レッドリングフォレストくらいしかこういう樹は見られない。

そして赤い流動とはつまり、奇怪な樹自体に流れる樹液の色を指している。
その樹液の流動により、薄い輪の部分に行き渡る様が赤く、それを初めて見た者が赤い指輪と表現したことからレッドリングフォレストと呼ばれるようになった。

ややあって、俺たちはレッドリングフォレストを抜ける為にひたすらに北を目指す。
地面は所々に凍結箇所が見られ、それは真下に死の谷があることを示す。
俺たちが歩いている地面は死の谷の上にあるわけだが、その間は分厚い層ーー土があり、直接死の谷の冷気を浴びているわけではない。
つまり俺たちが今いる場所に限っては、地面の下奥深くにある大空洞化した死の谷の上を歩いているということになる。
初代魔王が大地を切り裂き出来た死の谷。その衝撃はキロ単位にまで続いたそうだが、最後は地面に潜るような形で鎮まったそうだ。

「どうかしたか?」

セシルが辺りを気にするように両耳を動かしていたからそう聞いた。

「声がする……とても低い、向こうから」

そう言ってセシルは進む方向とは別、右側、奇怪な樹々が広がっている方向を指差す。

耳を澄ましてみる。

まだ聞こえないが、セシルは両耳を声が聞こえるであろう方向へと向けている。

ややあって、俺にも漸くその声の主の正体が判明した。
森に響き渡る独特な甲高い声。間も無くそいつは俺たちの前に現れた。

「ルピマーグ」


ルピマーグ
LV.83
ATK.91
DEF.118


「カカカカカカカ」

飛んで来た時とはまた別の声、くちばしが上下に動く。
濃紫色の身体は、目視で2メートルはある。翼を広げた長さはそれ以上。ルピマーグは絶え間なくくちばしを上下に動かす。

「また何か来たわよ!」

後方からは猛スピードで迫って来る魔物の影。


ウェアウルフ
LV.74
ATK.88
DEF.71


ウェアウルフ
LV.70
ATK.84
DEF.69


一体は樹の上へ、もう一体は地上。つまり、こいつら魔物は俺たち人間の匂いに敏感に反応しやって来た。


「グァアアアア!」

ルピマーグが俺たちの真上をかすめていく。ルピマーグの翼に触れた衝撃で、分厚い樹が一部えぐり取られる。
それを合図にしたように後方にいた二体のウェアウルフは空かさず俺たちに襲って来た。

「ウォウ!」

鋭い爪でアスティオンの刀身を受け止める。だが、それも僅かな時間。ほんの1、撃技を解放した瞬間にウェアウルフの腕が裂かれた。

「シンってば容赦なし!」

「……いや、まだだ」

メアが疑問符を頭に浮かべているようだ。
それはそうだろう。手から腕にかけて裂かれたウェアウルフは唸り声を上げて俺を睨んでいる。ダメージは大。

「嘘……」

メアが口を押さえる。

ウェアウルフの裂かれたはずの右腕が、まるで逆再生するかのように直っていく。

「ウェアウルフはな、再生能力があるんだよ。一丁前に大した能力持ってやがる」

今度は腕をズバッと斜めに斬った。だが再生能力のおかげで斬れた箇所から腕が生える。

「こんな敵、どう倒すのよ!? ああっ! 私の服! ……!」

もう一体のウェアウルフがメアに襲いかかり服の一部が破かれる。
メアが怒りの形相でレベル70の方のウェアウルフを氷漬けにした。

「メアやるー! ほっ! はっ!」

ルピマーグの相手はセシル。鋼鉄の身体を持つルピマーグが押されている。

「グァアア!!」

「んっ!?」

両翼を武器に弾き飛ばされたセシルは、すかさず転ぶタイミングに合わせて地面に手を付けてジャンプ。
さすがセシル。
地面に落ち転んで受ける衝撃を抑えやがった。
ずば抜けた戦闘センス、俺も見習うところがある。

だが今は兎にも角にもこの二体を仕留めるしかない。

「ダメよ! そっちは!」

セシルが打撃技でルピマーグを押していく方向には、今さっきメアに氷漬けにされたばかりのウェアウルフ。
鋼鉄のルピマーグの衝突によって、氷はいとも容易く割れてしまった。

「……ゴメンなさい」

セシルが両耳を垂らし謝る。

「気にするな、間違いは誰だってある」

さて、しかしながら復活したウェアウルフと合わせて、現状一体も討伐していない。
俺たちは敵に死角を作らぬように互いを背にする。

「それでどうするの? この状況」

「どうするったって……」

そんなもの逃げるか討伐するか、二つに一つ。
討伐、もちろんそうしたいのは山々なのだが、まだ入ったばかりのレッドリングフォレストで技の解放を出来れば控えておきたい。
何故ならレッドリングフォレストは、国によりランク7未満の勇者は立ち入りを禁じられている場所。
それはゆわずもがな、高レベルの魔物が出現することを意味しているからだ。
ルピマーグ、ウェアウルフ、レベル80台と70台。これでも十分高いレベルなのだが、レッドリングフォレストには90番台の魔物の出現も確認されている。

「来たよ!」

ウェアウルフが飛び上がり、牙を剥く。

「なになになに!?」

メアは長剣を構えていたが、ウェアウルフは突如として大きく飛ばされた。

「大丈夫!? みんな!」

琥珀色の狼に跨った白を強調した軽装に身を包んだ女。

「ラピスだったのね! 遅れて助けに来るなんて、やるじゃない!」

ラピスは照れた様子を見せる。

「後、2人くらいは乗れる」

「……メア、セシル、乗せてもらえ」

「シンはどうするのよ?」

「いいから早くしろ! ……でないと、皆んな此処で死ぬことになるぞ」

俺は気付いていた。他にも魔物が俺たちのところに向かっていることに。


イエロセルペント
LV.87
ATK.99
DEF.113


イエロセルペントは鉄の皮膚を持つ大蛇。ルピマーグほどとは言わなくともいい勝負をしている身体の硬さ。
鉄に近い強度を持ちながらも、その動きは蛇の動きを可能にしている。

「ひぃい! ヘビ! 私、ヘビ嫌いなの!」

「なら、早いとこそいつに乗って行け。俺は後から追いつく。メア、魔法水晶体は持ってるな?」

魔法水晶体ーー持つ者の魔力を通すことで離れた距離でも通話を可能にし、またどの辺りにいるか大まかに感じることが出来る代物。

メアは持っている魔法水晶体を取り出して俺に見せた。

「絶対! 追いつきなさいよね!」

パッと、メアたち3人を乗せた精霊獣アルンは姿を消した。
頼んだぞ、アルン。

精霊獣アルンがいる世界は別世界。
ルピマーグやウェアウルフらが突如消えた獲物に困惑しているようだが、まだ消えていない獲物がいたことで視線を俺に向けた。

「……まったく。魔物と来たら人間を殺ることしか考えちゃいない。来いよ、俺が相手してやる」

魔王の城に行く。その為には例え困難な状況であろうと敵に挑んでいく。対する魔物は計4体。ステータスの上昇にも影響する敵。

1人残ったのは俺が根っからの戦闘狂とかいう理由だからではない。一言で言えばそう、今の俺がどこまで通用するか俺自身が感じてみたかったからだ。

現状の把握、勇者としてどこまでやれるかやってみるとするか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

処理中です...