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第154話 レッドリングフォレストの怪鳥
しおりを挟む森というのは樹々が生い茂り、本来であれば動植物が意気揚々と生活をする場所。
だが、俺たちが今歩みを進めている森ーーレッドリングフォレストは、冷気が渦巻く様子や、奇怪な形をした樹々が多々見られる大樹海。
そして見る者が早々に気付くのは奇怪な樹々、自ら発熱する植物がある光景。
火災が起きるほどの熱ではない。触れると若干暖かいくらいの温度。
此処らの樹々は真下に存在する死の谷に適応するように進化して来たと言われている。
「それにしてもなんでこんな形してるんだろ? この樹なんて見てよ、まるで魔物みたいだわ」
そうメアが触れる樹は、無数に枝分かれした先がぐるんと上方向に曲がってしまっている。
「樹にも樹の成長の仕方があるんだろうな」
他にも幹がない樹だったり、斜めに生えている樹なんてのもある。
「シン、あの輪みたいなものはなあに?」
セシルが樹の幹辺りを指差した。
「あれがこの森がレッドリングフォレストと言われる所以だ。熱量の調整や内の低温を放出して、外の温暖な空気を取り入れているんだ」
奇怪な樹の幹に浮き出た輪。それは奇怪な形をした樹をさらに奇怪にさせているが重要な役割を果たす。
この奇怪な樹々がいつから輪の形状になったのかは定かではないが、死の谷に適応する為の機能だと植物学者らは世に発表している。
「赤い輪とはよく言ったものね」
幹の上に浮き出た輪から時折、赤い流動が見えるのはその部分が他より薄い為。
「まあ、こんな樹があるのは此処くらいだろうな」
とはいうが、まだ人が足を運んでいない場所は何処かにあるだろう。ただ、既に認知されている場所に限って言えば、レッドリングフォレストくらいしかこういう樹は見られない。
そして赤い流動とはつまり、奇怪な樹自体に流れる樹液の色を指している。
その樹液の流動により、薄い輪の部分に行き渡る様が赤く、それを初めて見た者が赤い指輪と表現したことからレッドリングフォレストと呼ばれるようになった。
ややあって、俺たちはレッドリングフォレストを抜ける為にひたすらに北を目指す。
地面は所々に凍結箇所が見られ、それは真下に死の谷があることを示す。
俺たちが歩いている地面は死の谷の上にあるわけだが、その間は分厚い層ーー土があり、直接死の谷の冷気を浴びているわけではない。
つまり俺たちが今いる場所に限っては、地面の下奥深くにある大空洞化した死の谷の上を歩いているということになる。
初代魔王が大地を切り裂き出来た死の谷。その衝撃はキロ単位にまで続いたそうだが、最後は地面に潜るような形で鎮まったそうだ。
「どうかしたか?」
セシルが辺りを気にするように両耳を動かしていたからそう聞いた。
「声がする……とても低い、向こうから」
そう言ってセシルは進む方向とは別、右側、奇怪な樹々が広がっている方向を指差す。
耳を澄ましてみる。
まだ聞こえないが、セシルは両耳を声が聞こえるであろう方向へと向けている。
ややあって、俺にも漸くその声の主の正体が判明した。
森に響き渡る独特な甲高い声。間も無くそいつは俺たちの前に現れた。
「ルピマーグ」
ルピマーグ
LV.83
ATK.91
DEF.118
「カカカカカカカ」
飛んで来た時とはまた別の声、くちばしが上下に動く。
濃紫色の身体は、目視で2メートルはある。翼を広げた長さはそれ以上。ルピマーグは絶え間なくくちばしを上下に動かす。
「また何か来たわよ!」
後方からは猛スピードで迫って来る魔物の影。
ウェアウルフ
LV.74
ATK.88
DEF.71
ウェアウルフ
LV.70
ATK.84
DEF.69
一体は樹の上へ、もう一体は地上。つまり、こいつら魔物は俺たち人間の匂いに敏感に反応しやって来た。
「グァアアアア!」
ルピマーグが俺たちの真上をかすめていく。ルピマーグの翼に触れた衝撃で、分厚い樹が一部えぐり取られる。
それを合図にしたように後方にいた二体のウェアウルフは空かさず俺たちに襲って来た。
「ウォウ!」
鋭い爪でアスティオンの刀身を受け止める。だが、それも僅かな時間。ほんの1、撃技を解放した瞬間にウェアウルフの腕が裂かれた。
「シンってば容赦なし!」
「……いや、まだだ」
メアが疑問符を頭に浮かべているようだ。
それはそうだろう。手から腕にかけて裂かれたウェアウルフは唸り声を上げて俺を睨んでいる。ダメージは大。
「嘘……」
メアが口を押さえる。
ウェアウルフの裂かれたはずの右腕が、まるで逆再生するかのように直っていく。
「ウェアウルフはな、再生能力があるんだよ。一丁前に大した能力持ってやがる」
今度は腕をズバッと斜めに斬った。だが再生能力のおかげで斬れた箇所から腕が生える。
「こんな敵、どう倒すのよ!? ああっ! 私の服! ……!」
もう一体のウェアウルフがメアに襲いかかり服の一部が破かれる。
メアが怒りの形相でレベル70の方のウェアウルフを氷漬けにした。
「メアやるー! ほっ! はっ!」
ルピマーグの相手はセシル。鋼鉄の身体を持つルピマーグが押されている。
「グァアア!!」
「んっ!?」
両翼を武器に弾き飛ばされたセシルは、すかさず転ぶタイミングに合わせて地面に手を付けてジャンプ。
さすがセシル。
地面に落ち転んで受ける衝撃を抑えやがった。
ずば抜けた戦闘センス、俺も見習うところがある。
だが今は兎にも角にもこの二体を仕留めるしかない。
「ダメよ! そっちは!」
セシルが打撃技でルピマーグを押していく方向には、今さっきメアに氷漬けにされたばかりのウェアウルフ。
鋼鉄のルピマーグの衝突によって、氷はいとも容易く割れてしまった。
「……ゴメンなさい」
セシルが両耳を垂らし謝る。
「気にするな、間違いは誰だってある」
さて、しかしながら復活したウェアウルフと合わせて、現状一体も討伐していない。
俺たちは敵に死角を作らぬように互いを背にする。
「それでどうするの? この状況」
「どうするったって……」
そんなもの逃げるか討伐するか、二つに一つ。
討伐、もちろんそうしたいのは山々なのだが、まだ入ったばかりのレッドリングフォレストで技の解放を出来れば控えておきたい。
何故ならレッドリングフォレストは、国によりランク7未満の勇者は立ち入りを禁じられている場所。
それはゆわずもがな、高レベルの魔物が出現することを意味しているからだ。
ルピマーグ、ウェアウルフ、レベル80台と70台。これでも十分高いレベルなのだが、レッドリングフォレストには90番台の魔物の出現も確認されている。
「来たよ!」
ウェアウルフが飛び上がり、牙を剥く。
「なになになに!?」
メアは長剣を構えていたが、ウェアウルフは突如として大きく飛ばされた。
「大丈夫!? みんな!」
琥珀色の狼に跨った白を強調した軽装に身を包んだ女。
「ラピスだったのね! 遅れて助けに来るなんて、やるじゃない!」
ラピスは照れた様子を見せる。
「後、2人くらいは乗れる」
「……メア、セシル、乗せてもらえ」
「シンはどうするのよ?」
「いいから早くしろ! ……でないと、皆んな此処で死ぬことになるぞ」
俺は気付いていた。他にも魔物が俺たちのところに向かっていることに。
イエロセルペント
LV.87
ATK.99
DEF.113
イエロセルペントは鉄の皮膚を持つ大蛇。ルピマーグほどとは言わなくともいい勝負をしている身体の硬さ。
鉄に近い強度を持ちながらも、その動きは蛇の動きを可能にしている。
「ひぃい! ヘビ! 私、ヘビ嫌いなの!」
「なら、早いとこそいつに乗って行け。俺は後から追いつく。メア、魔法水晶体は持ってるな?」
魔法水晶体ーー持つ者の魔力を通すことで離れた距離でも通話を可能にし、またどの辺りにいるか大まかに感じることが出来る代物。
メアは持っている魔法水晶体を取り出して俺に見せた。
「絶対! 追いつきなさいよね!」
パッと、メアたち3人を乗せた精霊獣アルンは姿を消した。
頼んだぞ、アルン。
精霊獣アルンがいる世界は別世界。
ルピマーグやウェアウルフらが突如消えた獲物に困惑しているようだが、まだ消えていない獲物がいたことで視線を俺に向けた。
「……まったく。魔物と来たら人間を殺ることしか考えちゃいない。来いよ、俺が相手してやる」
魔王の城に行く。その為には例え困難な状況であろうと敵に挑んでいく。対する魔物は計4体。ステータスの上昇にも影響する敵。
1人残ったのは俺が根っからの戦闘狂とかいう理由だからではない。一言で言えばそう、今の俺がどこまで通用するか俺自身が感じてみたかったからだ。
現状の把握、勇者としてどこまでやれるかやってみるとするか。
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