百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第153話 歪みの思想

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過去、魔物大戦によって人類の数は大きく減少してしまった。
各国の部隊は大打撃を被り、魔物という脅威を世界に知らしめることになった。
人類は魔物軍に勝利したが、魔物の脅威は完全に消え去ることは叶わず、尋常な早さで地上に蔓延り始めていた。

同時期、傷心の末に歪んだ思想を持った者たちが現れ、後に兵士ら国の人間を殺戮せんとする集団が誕生する。
魔物による脅威が再来し、歪んだ思想者たちは人類の終焉、それを望むようになったという。

ジードは歪んだ思想を受け継いでしまった者であり、国によってSS級犯罪者として指名手配されている。
ジードによって殺められた兵士たちは数多く、目的は国そのものを破壊すること。

イカれた危険極まりない思想。
ジードだけではない、ジードの元には同じ思想を抱く者たちがいる。
ベイトの話によると、本来ならエルピスの街に在中しているのは2部隊なのだが、犯罪者の件によって1部隊の増援を余儀なくされているらしい。

目的を持たない突発的に犯罪を犯した者であれば捕らえるのは容易だそうだが、ジードのように目的を持った犯罪者を捕らえるのは容易ではないのだそう。

兵士たちがそこらかしこにいたのはそうした背景があったからだった。

「ーー犯罪者が国に牙を剥くなんて、無謀もいいとこだな」

「無謀……確かにそうではあるが、奴らは着々と同じ思想を持つ者たちを集い始めている。我が部隊の兵士たちも随分やられた。これ以上、ジードも他の奴らも野放しにしておくのは危険過ぎる」

ジードによって殺された兵士たちは多いらしく、犯罪者としての危険度を表す指標はSS。つまり、A級犯罪者だったドララキスの二つ上。

「私たちに出来ることならしてあげたいけど……」

「メア」

俺は首を振った。

「彼の言う通り。これは私ら国の人間が解決すべき問題。アックス、グラーヴに連絡を」


その後、俺たちは翌日の為の準備をする為に一度宿泊所へ戻った。
不足していた回復アイテム多数、その他、エルピスの北にあるレッドリングフォレスト周辺の地図の調達。
犯罪者たちをどうにかするのは国の役目。
俺たちは然るべき時に備えて行動していくことにしよう。





「それじゃあ寂しくなっちゃうけど、またいつでも来てよね皆んな」

ウェストランドではフィラが俺たちの出発を見送っていた。

ワグナーとエルは……いない。どうやら昨夜、ナイトウォーカーとしての活動が忙しかったらしく、まだ寝ているそうだ。
見送りに来ないとは、それでよく兄弟なんて言えたな。

それと俺たちの旅に付いてくると言ったラピスだが、待っても待っても来る気配がなかった。
元々、俺たちの旅に付いてくる気なんてさらさらなかったのだろう。

「ああ。それとフィラ、魔竜もいつ本格的に動き出すか分からない。注意したことに越したことはないぞ」

「その言葉、そっくりそのままシンちゃんに返すわ! この前、魔竜に襲われたばかりのシンちゃん!」

「そうよシン。今回は助かったから良かったものの、魔竜がいつ何処で現れるか、一番注意するのはあんた。一気にステータスを上げたい気持ちも分からなくもないけど、魔竜の危険度を知ってるのもシン自身でしょ?」

メアに痛いところを突かれてしまった。
その通り、魔竜を討伐すれば飛躍的にステータスの上昇を見込めるのは容易に想像出来る。魔竜とはそれほど可能性を秘めた生命体であり、勇者ならば考えること。
もちろん、他の高レベルの魔物でもステータスの上昇率は上がるのだが、魔竜は桁違いのステータスの上昇率が見込まれる。それは他の魔物に比べて圧倒的に個体数が少なく、各ステータスの数値が極めて高いのが特徴。
俺たちが遭遇したイクリプスドラゴンはまだデータにない魔竜だったが、ボルティスドラゴン、ヴァレトスドラゴンに関しては発見時のステータスはデータとしてある。
だがしかし、魔竜とてステータスの上昇は起き、日々過ぎ去る過程の中、未だに強くなっていくというのは問題だ。

「ま、まああまり細かいことは気にするな。会ってもいない魔竜のことなんて、会った時その時だけで十分だ」

メアが大が付くほどの溜息をはいた。

「シンと旅してたら、命がいくつあっても足りないわ。フィラさん、シンって昔からこうなの?」

「そうね……私がシンちゃんを助けた時も雷虎に襲われて絶体絶命の時だったわ。言われてみれば、昔から変わってないわね」

「大きなお世話だ。セシルはそんなこと思わないよな?」

って、俺はセシルに何を聞いているんだ。
セシルは俺を見て目をパチクリさせる。

「シンは強い……、魔竜だって討伐しちゃう! ……と思う」

最後の方はぼそりと言った。

「そりゃどうも」

「セシル、シンに期待し過ぎよ。魔竜よ魔竜! あんたも見たでしょ? アイツらは強い人が何人も集まってようやく倒せるかもしれない相手! 1人でなんて、それこそ伝説の勇者くらいよ!」

メアがそう言うのも最も。
魔竜とはいわば一つの災害。強者が集い討伐出来るか否か、それほどの魔物。

「さあさあもうお喋りはそのくらいにしたら? 私もあなたたちと話していたいけれど、旅の時間は有限よ」

「そうだな。じゃあフィラ、世話になったな。ワグナーとエルにも起きたら伝えといてくれ」

「了解!」

そうして、俺たちはエルピスの街を出発し、北にあるカサルの地を目指して歩き始める。





エルピスの街を出発してから、東には七星村を目指して通った森がある。だが、その森とは別にあるのがこの先のレッドリングフォレスト。
カディアフォレストほどではないが、だだっ広い森には変わりない。

「なんだか、1段と寒くなって来たわね」

メアは肩を摩りながら歩く。

「メア、ちゃんと地図見てなかったのか? 死の谷は極寒の場所だぞ?」

死の谷ーーそれはサギ二の森で俺とメアを襲って来たスカルエンペラーの生息地。
極寒、およそマイナス100度近くある谷底は地上に冷気を撒き散らす。

「み、見てたわよ! あれでしょ! スカルエンペラーが居るっていう」

「スカルエンペラー?」

セシルが首を傾げる。

「セシルは知らないか。いいか? セシル。いくらお前が打撃技に自信があろうと、スカルエンペラーには直接触れるな。いや、見るからに氷の奴には近づくな」

そう言うと、セシルはさっとメアから距離をとった。

「ちょっとシン、それってどういう意味?」

「セシル、そういうことじゃない、いや、そういうことなんだが……」

セシルはどうも言葉を真に受け過ぎるところがある。

「メアの魔法は氷! シン、これでいい?」

セシルを呼び寄せる。
セシルはまだメアから距離を取りつつ、俺の近くに来る。

「いいか? セシル。スカルエンペラーは魔物、メアは人間。この違いは当然分かるよな?」

セシルはコクコクと頷く。

「何よその失礼な言い方。私が言うわ! ……」

メアが来るとセシルはすかさず距離を取った。
メアは俺に八つ当たりするように肩パンチする。

「セシル、わざとじゃないよな?」

セシルは考えるように、メアを見たり、俺を見たりする。

「わかった! メアは冷たいけど仲間だからいい! だけど魔物は敵!」

……そういうことにしよう。

セシルは慰めるようにメアのところに行って背後から飛びつく。

「ちょっと!?」

メアはびっくりしたようで、いつもより高い声を出した。

「2人共、戯れ合っているのもいいが、今日中にレッドリングフォレストは抜けるぞ。最も、魔物の餌食になりたいなら別だがな」

メアとセシルは俺のことをヒソヒソと言う。聞こえているんだが。
酷い勇者ね~、だとか、セシル怖~い、などと丸聞こえだ。

……コイツら、緊張感ってものを知らないのか?

そんな中、ある現象が着々と近づいて来ているのが分かるのは、体感温度が進むにつれて下がって来ているからだった。
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