百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第151話 虫の知らせ

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俺の旅について来たい理由をラピスは全て話した。
話によれば、宝剣を持つ勇者を見つけた時、自身の元に連れて来るようにレドックに言われていたとのこと。
宝剣に強い反応を示す聖霊獣アルンと共にいたラピスは、脅迫的にレドックたちといたとのことだった。
ラピスが魔物に襲われていた時にレドックたちに助けられ、半ば強引に仲間に加わったという。
宝剣を探知するのに役立つ聖霊獣、そしてラピス自身が希少な回復武器を扱え持っていたことが要因になったと、当の本人ラピスは言う。

レドックが宝剣を求める理由ーーレドックはこの魔物時代に似つかわしくなく、魔王討伐を夢見てるらしい。

「ーーそうだったか」

宝剣を欲しがる勇者は多くいるが、魔王討伐の為に進んで欲しがる奴も珍しい。

「あなたが持つ剣が宝剣だと知って言うのもおかしな話だけれど、それでも構わないというのなら、レドックと再会するまで私はあなたの旅に付いていきたい」

まったく、それを俺に馬鹿正直に言うなんて、この女どういう神経してるんだ?
最も、嘘偽り無く言えと言ったのは俺ではあるが。

「分かったよ」

「い、いいの?」

「仕方なくな。……ただし、一つ条件がある」

「条件?」

「お前がレドックたちと再会出来た時、俺やメア、セシルに何もしないと約束出来るか?」

メアを連れ去った過去があるくらいだ。条件の提示はしておく。

「……分かった、約束する」

「約束だ」

どうだかな。口約束だけなんて誰でも出来る。
だが、とりあえずは俺の仲間に一時的にではあるが、ラピスが仲間になった。
となると、一時的だが精霊獣のアルンも仲間に。これは嬉しいことだ。

「……あいつ」

そんな時だった。
ウェストランドに向かって歩いて来るのは、俺をベイト隊長から逃した傭兵。
今日はやたらと俺への訪問者が多いな。

「知ってるの?」

「顔見知り程度だけどな」

コートに両手を入れて、見た目だけでは傭兵とは到底思えない格好。
傭兵というより何処ぞの殺し屋と言った方がしっくり来る。

「俺を逃したからって、お礼なんて言わないぞ?」

「……」

そう言えば、この男の言葉は聞き取りずらかったな。

「何のようだ? 何か言いたいならはっきり言え」

「ーー勇者よ、この先の地において、魔の巣窟には気をつけろ。忠告はした」

ただそう言い残し、カルディアは去って行った。

「なんだ? あいつ、普通に喋れるじゃないか」

「たぶん、伝えたかったのはそこじゃないと思うの」

「分かってるよ、皆までいうな」

カルディアが喋れるなんてことはどうでもいいこと。
俺をベイトから逃した理由も気になるが、それより気にするべきは、わざわざ俺の元に来てまで伝えに来た言葉。
魔の巣窟ーーそれは地表に大きく開いた場所、魔物だらけの根城。魔王の城ではない。魔物はそれぞれの生息域にいるが、それと同じように魔の巣窟と呼ばれる場所にも多種多様な魔物が生息している。

「シンちゃん、それにラピスちゃん、2人で何話しているのよ? 私も混ぜてくれないかな~?」

ドアが開くなり、フィラが話に入り込んで来る。

「大したことじゃない」

ウェストランドに入れば、いつの間にかアルンが巨大化していて騒いでいた。

「アルン! こんなところで大きくなったら皆さんの迷惑になる!」

「クゥン……」

アルンは両耳を垂らしてしまう。

「いいじゃないラピス。でも、アルンってほんとに不思議な力使うんだね」

姿を消したアルンは、パッと姿を現してエルの背中を突いた。

「もう僕はいいだろ~。今度はワグナーがやられ役やってよ、ってまた!?」

エルはまた姿を消したアルンが何処にいるのかと全方位を見渡している。

「嫌だね、やられ役はエルがお似合いだ。しっかし、姿を消してその上触れも出来ないなんて……マジで、どういう原理なんだよ?」

ワグナーがそう関心した様子を見せるのも頷ける。ここは一番アルンのことを知っていそうなラピスに聞いてみようか。

「ラピス、アルンはただ姿を消しているだけなのか?」

「そうだけれど、正確には精霊のみが存在出来る次元に移動したの。私たち人間が姿を消せるのはアルンに触れている間だけ。本来は精霊しか存在出来ない世界だけれど、彼等が許可した人間だけはその世界へ行くことが出来る」

「なるほどな、だからか」

精霊しか存在出来ない世界、そんなものがあったんだな。
となると、その世界に……

「おい!? 次は俺か!? こんの狼め!」

パッと現れたアルンはワグナーを背後から突いた。その勢いでワグナーは壮大に床に転け、また消えたアルンを探す。

「もうっ、アルンったら……」

ラピスが不安そうに騒ぎの様子を見つめている。

「なあ、ラピス。今、アルンがいる世界には他の精霊獣もいるのか?」

「それはどうだろう。私もアルンに乗って何度も消えたことがあるけれど、一度も他の精霊獣に会ったことはないの」

「……そうか」

精霊獣が強いかどうかは別にせよ、三次元の世界から見えず、尚且つ触れることが出来ない力は希少過ぎる。
魔法でも消える能力はまだお目にかかったことはないが、消える、それ自体の能力は希少であり強い。
ましてや、俺の旅の目的は魔王の城に眠る秘宝を盗み出すこと。
三次元から見せず触れられない別次元への移動なんて、今、喉から手が出るほど欲しい力だ。
渇望か、久しぶりだ、こんな乾きも。

その後はウェストランドで他の勇者たちとの交流もあって、エルピスの街で有名な店で昼食。

「アルン、姿を出しちゃだめだからね」

「クゥン」

「しっ!」

姿が見えないアルンはどの辺りにいるかまったく分からないが、ラピスは左下を向いて人差し指を口元に立てる。

「なあ、俺たちもアルンに姿を消してもらってた方がよくないか?」

「大丈夫じゃない? ほら、私たちを見ても、別に来ないじゃない」

兵士たちは街のそこらにいるのだが、俺たちの方に顔は向くが来る様子は見られない。
アックスが他の連中に事情を話した、そう考えるのが妥当だろう。

その時だった。慌ただしく移動していく街の兵士たち。
昨日はジェノサイドライナの襲撃、また魔物の襲撃か?

「なんだろう……」

ラピスが歩く足を止めて振り返る。

「別に俺たちには何の関係もない。行くぞ」

安心な街が聞いて呆れる。
100%安心ではないと分かっていても、魔防壁、魔石入りの湖までもあって、尚且つソフィア王国の部隊が在中。
安心度は言わずもがなのはずだが、昨日今日で兵士たちが慌ただしい。

「はあ!? 発狂した男が人を刺殺した!? やめてくれよ! 俺たち夫婦はこの街が安全だって言うからわざわざ遠い村から来たってのに!」

「本当なのですか!? 兵士さん!」

若い夫婦が1人の兵士に問いかけていた。

「申し訳ない。ですが人がすることを私たちが予知することは出来ません。暫く、身の安全の為にも外出禁止でお願いします」

丁重に言う兵士に殴りかかりそうになった若い男の手を止める女。

「くそっ! とっとと捕まえてくれよ!」

女の方は兵士にぺこりと頭を下げる。

兵士は夫婦の元から立ち去る。

「怖いね。私、自分の家に帰るとするわ」

「それがいい。ラピス、アルンと一緒にユリアと行ってくれるか? 俺たちは明日の朝、太陽の日の出頃にこの街を出発する。北の門、そこで落ち合おう」

「北の門ね、分かった。ユリア、アルンに乗って」

巨大化したアルンの背に乗った2人はパッと消えた。
音もなにも無い、本当に便利な力だ。

「さて、俺たちも」

元々、この街に来たのは昔の恩人への挨拶をしに来たのが主な目的。

「クン……シン、チクチクした匂いがまたする」

「そう言えば、セシルこの前も言ってたわね」

「それは何処からだ?」

セシルが指差した方向、それは兵士たちが向かって行った方向だった。
俺にはセシルの言うようなチクチクした匂いなんてしないのだが、それは獣人の優れた嗅覚だからこそ嗅げるのだろう。

「はあはぁ……お兄さんたち! 悪いことは言わねえ! 今、向こうは大変な事態になってる! どこかに避難しておくんだ!」

俺たちの方に息を切らして来た男はそう言い残し、時折背後を振り返りながら去って行った。


「そう言われると行ってみたくなるな」

「シンってば、またそんなこと言って。でもあの人、すごい形相だったわね」

何かあったのは明白。
さっきの男だけではない。街中から人々の姿がひいていく。

「行くの?」

「ここで兵士たちの助けになっておくのも悪くない」

そういうものは、巡り巡っていつか何らか形となって返って来るなんていう考えもあるが、正直言えば安心な街と名高いエルピスの街で一体何が起こっているのか気になる。

「セシルも行く!」

「だそうだ。メアは」

「はいはい、行けばいいんでしょ。もう、どうなっても知らないからね」

呆れた様子を見せるメア。

さて、行ってみようか。
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