150 / 251
第150話 白魔導士、仲間になる
しおりを挟むあっという間に兵士たちと距離を離した俺は、既に着いていたメアたちと合流した。
だが、其処にセシルの姿はなく、俺は急いで来た通路を逆走しながら辺りを見回す。
やはり、一緒に移動するべきだった。
となると、セシルは今も副隊長のアックスに追われて……
「シン!」
「セシル、無事だったか」
どうやら、無事逃げて来たようだ。
いや、まだだ。
セシルが着いて間も無く、副隊長アックスが追いつく。
「なかなか早いじゃねえか。獣人の娘、その脚ありゃ兵士、いや副隊長補佐役として歓迎しよう」
「馬鹿言うな。獣人が国の下に付くわけがないだろ」
獣人は世間から離れ、住む地を移動しながら自由に生活をする種族。彼らが最も嫌うのは自由がない生活。国の兵士なんて、獣人の生活スタイルと最もかけ離れている。
「言ってみただけ。……それはそうと、お前ベイト隊長はどうした?」
たかが1人の勇者、国の兵隊長が逃すわけがないといったような物言いだ。
「さあな。気になるんなら、直接その目で確かめろ」
と俺が言うと、アックスは黙り込んだ後、ふーんと何かを納得したように首を縦に数回ほど動かした。
「お前、速いのか?」
その質問からするに、アックスは俺がベイトから逃げて来たと思ったのだろう。
「それを聞いてどうするんだ?」
俺がいちいち自分の情報を言ってやる、そんな親切なことはしない。
アックスは面倒くさそうな顔をして、後頭部あたりを掻く。
「はいはい、聞いた俺が悪かった。で、それはもういいとして、早く捕まってくんね?」
スッと腰元の長剣を俺とセシルに向ける。
俺のような勇者は街で武器を取り出してはいけないというのに、国の兵士たちは出していいなんて勝手だ。
無実な人間を捕まえようとして、まだ犯罪者を野ざらしにする。
「……お前、俺を捕まえようとするより、他にすることがあるんじゃないのか?」
「順を追ってな。ーーもう一度言うぞ、早く捕まってくんね?」
どうしても俺を捕まえたいらしい。
「ノーだ」
もちろん、俺の答えは決まっている。
「そうかい、なら」
「それと言っておくが、お前らは勘違いしている。お前らが犯罪者と疑っている女は無実だし、俺も魔物なんてこの街に入れていない」
向かって来ようと脚を踏み込んだアックスに対してすぐさま言い放つ。
そんな時だった。
「そうよ! 私たちは何も悪くないわ! 部隊の副隊長だか何だか知らないけど、少しは聞く耳持ちなさいよね!」
メアと、後方にはユリアとラピス、それにフィラまでもが来ていた。
「ウェストランドのマスター……フィラ、お前まさかこんな奴らの肩を持つっていうのか?」
「そうだけど、何か問題でも?」
これは心強い。
フィラは腕を組みながら凛とした様子。
アックスが鞘に長剣を収めた。
「しゃーねえな。話くらい聞いてやるよ」
「そうよ! 初めからそうしてくれればこっちも逃げずに済んだのに!」
びくっとするメア。
アックスがガンをメアに飛ばしたからだ。
「やめなさいよ。あなたももう、第7部隊の副隊長でしょ? 話で解決出来そうなことはする。さあ、ウェストランドへ」
フィラが来てくれたおかげで、ひとまずは余計な戦闘にならずに済んだ。
その後、一度話をすることになり、部隊の副隊長アックスを納得させるべくウェストランドに向かった。
◇
「ーーなるほど、そういうわけだったんだな」
「これで分かった? シンは魔物をエルピスの街に入れていないし、ラピスは犯罪なんてしていない」
「そういうことだ。ーーでも、本当にアルンのこと言ってよかったのか?」
「問題はないと思うけれど、私も精霊獣に詳しいわけじゃないの」
そうラピスが口にすると、アックスが笑い始める。
「そう怖い顔すんな皆さん。だって笑うだろ、国側の俺でさえ知らなかったことをペラペラ話すなんて」
「言わないとあんたが納得しないからでしょーが!」
メアに激しく同意。
「アックス、もうこれ以上この子達に迷惑かけないことよ。いい?」
「へいへい、了解しましたマスターフィラ。しかしこれは思わぬ収穫」
そう言い残してアックスはやっと俺たちの前から姿を消した。
「ーーフィラ、奴を知っているのか?」
「顔見知り程度だけどね。それはそうと、精霊獣の子の姿が見えないけれど……」
「アルンなら此処にいる」
ラピスが右側下あたりを見る。が、そこには焦げ茶色の床があるだけ。
「クゥン」
「いるんだな」
声がしなければ、アルンがいることはまず分からない。
それでもラピスが分かったのは、共に居た時間から来る慣れなのだろう。
「アルン、もう出てもいいよ」
アルンはラピスの言葉に反応するように、パッと姿を現した。
それを見たウェストランドにいた他の勇者たちが驚きの声を漏らす。
「こりゃ驚いた……マジで、こんな生物いたんだな」
「フウッ!」
アルンが近寄って来たワグナーに威嚇した。
「だめ、アルンは人見知りが激しい。あなたは……そう、顔が怖い」
「何!? この俺のプリティフェイスが分からないって!? ほんとにこいつ精霊獣か? 痛え!? こいつ噛みやがった! 離せちきしょー!」
ワグナーの脚に噛み付いたアルン。ワグナーが必死そうに振り払った。
「グルルル」
「ワグナー、嫌われたな」
「こんな犬っころに嫌われたところで気にしねえよ! わっ!? なんだこいつでかくなりやがった!?」
そんな光景を暫く見ていたが、俺は1人外へ出た。
「精霊獣か……」
アルンという精霊獣がいることの意味、それを深く考えたところで答えが出るわけではない。
ただ、それでも精霊獣の存在は今考えてみるだけでも必要になってくる力。
今現在、俺の仲間はメアとセシルのみ。客観的に見ても、魔王の城に入れる可能性はまだ低いだろう。
過去の魔王を倒した勇者アルフレッド一行を除いて、魔王の城に行った勇者らの行方は今もなお不明。死んでしまった、そう考えるのが妥当。
「お話いいかな?」
そう言ってウェストランドから出て来たのはラピスだった。
「手短にな」
微笑したラピス、すっと俺の隣に来る。
「私、今レドックたちと離れてしまって1人……いえ、アルンといるけれど、良かったらでいいのだけれど……」
「なんだ? さっさと言え」
「はい……。あの、レドックたちと再会するまで、その……一緒に旅に連れて行ってもらえないかな?」
「……本気でそう言っているのか?」
ラピスが一時的とはいえ俺の仲間に?
いや、冷静になれ。相手はメアを攫ったあのレドックの仲間だぞ?
「身勝手なこと自分で言ってるのは分かってる。レドックがあなたに何をしたか……それは分からないけれど、あなたの旅に付いていくのはだめ、かな?」
レドックが俺に何をしたか……それを言えるってことは、ラピスもレドックという人間がどんなやつか知ってるってことだろう。
ますますラピスが俺の旅に付いて来たいなんて言い出した理由が分からない。
ラピスの前にアスティオンを鞘から抜いて見せた。
「宝剣アスティオン。お前が俺の旅に着いて来たい理由はこれなんじゃないのか?」
そう問うと、ラピス無言になってしまう。
「図星か」
精霊獣と宝剣、何かあるのはラピスの反応から分かる。
「よし、じゃあこうしよう。ラピスが俺の旅について来たい理由、それを嘘偽りなく話してくれれば、俺は歓迎しよう」
「……はい」
そうして、ラピスが旅に付いて来たい理由が明らかになったことで、俺は考えに考えた末に仲間として歓迎することになった。
また、胸クソ悪いレドック一行に再会することになりそうだ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)
九日
ファンタジー
*注意書あり
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。
死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。
が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。
食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。
美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって……
何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記———
*別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど

誓いの嘘と永遠の光
藤原遊
ファンタジー
「仲間と紡ぐ冒険の果てに――君もこの旅を見届けて!」
魔王討伐の使命を胸に集まった、ちょっとクセのある5人の冒険者たち。
明るく優しい勇者カイルを中心に、熱血騎士、影を操る盗賊、癒しのヒーラー、そして謎多き魔法使いが織りなす物語。
試練と絆、そして隠された秘密が絡み合う旅路の中で、仲間たちはそれぞれの過去や葛藤と向き合っていく。
一緒に戦い、一緒に笑い、一緒に未来を探す彼らが最後に見つけるものとは?
友情だけじゃない、すれ違う想いと秘めた感情。
仲間を守るための戦いの果てに待つのは、希望か、それとも……?
正統派ファンタジー×恋愛の心揺さぶる物語。
「続きが気になる」って思ったあなた、その先をぜひ読んでみて!

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる