149 / 251
第149話 恩
しおりを挟む「……ラピス、お前の仲間がレドックってのは本当なのか?」
疑い深くそう聞くのは間違いであってほしかったからだ。
「本当。もう、二週間も前に逸れてから今は何処にいるかも分からない」
どうやら、本当らしい。メアを誘拐したレドック達の仲間がラピスだったなんて。
とすれば、俺たちがレドック達に会ったことを伝えるべきか否か……いや、伝えよう。
「……ラピス、俺たち、多分そいつに会ったぞ」
多分、そう言ったのは名が同じ奴なんて普通にいる。
「本当!? 何処で会ったの?」
「待て、まずラピスの言うレドックってどんな奴だ?」
「どんな奴……えっと、少し怖いけれど、勇者ランク8もあって強い」
勇者ランク8? あいつ、そんなに高かったのか。だが、それだけではまだレドックだと断定は出来ない。
「なるほどな。他にも仲間はいるのか?」
「ええ、いる。レイジュとジェイ、私たちは4人で仲間」
残念、名前が全て合致してしまった。レドック、レイジュ、ジェイ、紛れもなくこいつらの名は俺とメアを襲った。
「……そうか。ーーそいつらなら、七星村に行く途中にある遺跡で会ったよ」
「シン、なんで……」
メアは俺が言ったのが気に食わなかったのだろう。懐疑的な様子で俺を見る。
「そんなところに? ……シンさん、教えてくれてありがとう」
「再会、出来るといいな」
いつも側にいた仲間が急に居なくなる悲しみは、もう十二分に噛み締めている。メアとは長い付き合いだ。いきなり居なくなるなんて今後はやめてほしい。
まあそれをした張本人がレドック達なのだが、ラピスの気持ちを考えると俺の出来ることはしてやりたい。
そんな時だった。
複数の足音が次第に大きくなるように階段を上がって来る。
「確かこのあたりだったと思います! 兵士さん! 私たち街の人々の為にも重罪人と魔物を早く捕えて始末しちゃってください!」
物騒な声が聞こえて来たな。
「それは我々がこの目で見て決めることだ。もういいから、後は我々に任せなさい」
「頼みましたよ! 兵士さん達!」
まずいな、街の人間たちが兵士に俺とアルンの居場所をちくりやがった。
アルンが跳んだところと、俺も見られていたからな。
「重罪人なんて、酷い言い方するな」
「シン! 何かしちゃったの!?」
「安心しろセシル。俺は何もしていない。街の奴らのただの勘違いだ」
ほっとする様子を見せるセシルだが、安心するのはまだ早い。
足音がどんどん多くなるのは気のせいなどではない。
どうやら兵士たちは、同じ階にいる住人の家を訪ね始めたようだ。
ドアを強く叩く音がどんどんと近づいて来る。
「どうしよ……私とラピスもやばいかも」
そう言えば、俺がユリアとラピスの後をこっそり付けていた時、兵士たちに追われていた。
確かにやばい状況だ。一網打尽、袋の鼠とはこのことだ。
居留守を使っては逆に怪しまれる。が、現状そうして凌ぐほかない。
「ここから逃げよう」
とすれば出口は一択。
窓側の路地裏には兵士たちはそう多くいない。
「それしかなさそうね……でも、兵士いるし、何か……」
メアがこっそりと窓から顔を下に覗かせる。
「俺に良い案がある」
そう言うとラピスは頷いた。
「良い案!? 何よ早く言って!」
「ここにいる精霊獣のアルンには周りの目から姿を消す力がある。そうだな……ユリア、ラピス、メア、お前たちはアルンに乗って行け。セシルは俺と速技で離脱。落ち合い場所はウェストランド。直ぐに決行だ」
さっきから兵士の声で、いるんだろう! と言う強い叫び声が聞こえている。
それに路地裏側の方も兵士たちが集まり出して来ているようだ。
アルンは魔物ではないが、魔物だと勘違いしている街の住人や兵士たちにとっては緊急事態。
何せ、本来居てはならない魔物が街に入っていると勘違いしているのだから。エルピスの街含め、殆どの街は国から安全性を認められてこそ人々は移住して来る。
それを害する事態、兵士たちが放置するわけがない。
「ああ~! なんでこうなっちゃの~!」
「ユリア、今は時間がない。早く」
「居るのは分かっている! 5秒後、我々は強行突破する! 5」
「また大きく……」
巨大化したアルンを一室で見るとまたデカく感じる。
ラピス、ユリア、メアの順でアルンに乗って、俺の視界から姿を消した。窓のガラスが外側へ剥がれるように割れる。
「セシル!」
頷くセシルは部屋に風を起こし去った。
「1、0!!」
ドアが強制的に破壊され、兵士たちが土足でユリアの家に上がり込んで来た。
「あ~あ。お前ら、後で無実だって分かったら、ちゃんと部屋の修理もして謝罪もしろよ?」
「何を言っている!? 黒髪の男、重罪人はお前だな? 他の連中も居たはずだ。それに、よく調べてみればこの辺りには犯罪者もいるそうだ。しらを切るつもりなら、強行手段に移行する」
重罪人……確かに俺がアルンをエルピスの街に入れた。だがアルンは聖霊獣、魔物じゃない。
ラピスにしても、とんだ迷惑な話。国の兵士たちはどうも頭でっかちになり過ぎている。
ユリアの家の中は土足で入って来た勘違い兵士たちのせいでめちゃくちゃ。
何かの絵画は壁から落ち、花瓶は割れて兵士の靴の下。
やってることが賊だぞこいつら。
「お前ら兵士はちゃんと人の声を聞いているのか? 上に言われて動くだけじゃあ、逃げたくもなるもんさ」
「捕らえええ!!」
その後、速技を解放した俺はその場から瞬時離脱し、合流場所であるウェストランドを目指す。
◇
兵士たちの動きに注意しながら屋根の上を飛び移るように移動。
「メアたち、無事着くといいが……」
いや、余計な心配か。メアたちには聖霊獣のアルンが付いている。
俺もアルンに乗って消えていたから分かったが、聖霊獣の力は高次の次元を行く。
3次元空間にいながら別の空間。4次元、5次元といったところだろう。
兵士たちや街の住人たちには俺とアルンの姿は見えなかった。
本体のアルンが姿を消したとも考えられるが、通り過ぎた人間を擦り抜けた原理が不明。
幸いなことにまだ俺の顔は街中には知られていないようだ。通り過ぎる人々の反応もない。
「っと」
兵士が急に通路から姿を現したものだから、さっと物陰に隠れる。
「今、俺たちが探している奴らの1人って、昨日、隊長と話していた勇者だろ? 魔物をこの街に入れるなんて、一体どんな神経してんだ」
「まったくだな。これだから旅の勇者は信用ならない。早く捕まえないとエルピスの街の信用にかかわるぞ」
兵士2人は俺の話をしているようで、人混みの中に行ってしまった。
「えらく、好き勝手言ってくれるな」
さて、それはそうとさっさとウェストランドへ。
兵士たちに注視しながら、ウェストランドがある第二区画の二番街通路を通って行く。
人混みの中にうまく隠れる俺に兵士たちもどうやら気付いていない。
「見ろ! 屋根の上! あれはなんだ!?」
街の男がそう叫んで指さす方を見た。
屋根の上を飛び跳ねるようにして移動するのは紛れもなくセシル。
兵士たちが直ぐにセシルを追いかけ始める。
「お前は……」
「あの獣人の娘もお前と一緒にいたな。何が目的か知らないが、これ以上エルピスの街と我が部隊の信用を落としてくれるな。アックス、逃すな」
振り返ってみれば、梟のシンボルマークを身に付けたソフィア王国の第七部隊の隊長ベイトは兵士たちを引き連れている。
「当然!」
「待っ!!」
アックスを止めようとした瞬間、ベイトの剛力が俺の腕を掴む。細身の体格な割に怪力だな。
「隊長さんよ、一応言っておくが、俺も、他の連中も何も悪いことはしていないぞ?」
掴まれる手を振り払った。まずはベイトをどうにかしないといけない。
「悪者は決まってそういう口を叩く。話は君らを捕らえてからゆっくりと聞くとしよう」
「聞く耳持たず、か」
相手は部隊の隊長、他の兵士たちは敵ですらないが、さすがに隊長クラスともなると……
逃してくれる気なんてさらさらなさそうだ。
街の人々は慌て騒ぎ散って行く。
「……街で剣を抜くことの意味、お前は分かってやっているのか?」
「どうせ逃してくれないんだろ? なら、抵抗はさせてもらう」
魔法と同様、街で武器を出して国側の人間の目につけば、捕まえる理由になる。
「無論。いくら疑わしきは罰せずとは言われても、街の人々の声を聞くことが先決。自由奔放に生きている勇者たちより耳を傾けるのは当然。どうしても何か話したいことがあるのならば、捕まった後にでもゆっくりと聞いてやろう」
「……もう、何を言っても無駄みたいだな」
出来れば、兵の隊長となど戦闘はしたくはない。この場から離脱することも考えたが、俺が姿をくらませば一気にセシルに兵士たちの目が行くことになる。
今、セシルが副隊長のアックスから逃げきれているかも気になるが、まずは目の前のことだけを考えねば。
「来たか」
兵士たちが騒つく中現れた1人の者。足元付近まである黒いコートで身を包み、顔の下半分を隠している奴を俺は知っていた。
「……お前」
カルディア、こいつはジェノサイドライナを一撃で葬った傭兵。
まずいな。隊長ベイトにカルディア、また俺は国に捕まるのか?
勝算はおそらく低いだろう。だが、そんなこと言っていられない。
「何をしている?」
ベイトがそう言うように、俺も同じことを心の中で言う。
カルディアが振り返りベイトへ長剣をかざしたのだ。
ベイトは顔色一つとして変えていない。
「カルディア、質問に答えろ」
「……行け」
俺に背中を向けながらカルディアはそう言った。
「助かる!」
何がなんだか分からない状況。だが、これは好機。俺はその場から離脱した。
「何のつもりだカルディア!?」
ギィンン! と剣と剣が交わる音が響いた。
本当に何のつもりなんだ?
俺もベイトと同じように、カルディアのとった行動が理解不能だった。
ベイトはカルディアによって止められているが、残りの兵士たちは俺を逃さまいと後を追って来ている。
が、いくらソフィア王国の部隊の兵士と言っても、速さは勇者の俺より随分と劣る。速技を使うまでもない。
俺は兵士たちの視界から外れた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね
カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。
本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。
俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。
どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。
だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。
ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。
かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。
当然のようにパーティは壊滅状態。
戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。
俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ!
===
【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)
九日
ファンタジー
*注意書あり
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。
死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。
が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。
食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。
美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって……
何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記———
*別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる