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第148話 精霊獣と宝剣
しおりを挟む「お前、まさか自分のせいだと思っているのか?」
精霊獣のアルンはテクテクと歩いて来るのだが、伏せてクゥンと小さく鳴く。
まあ状況からしても、セシルが頭痛に襲われたのは精霊獣アルンの存在の可能性が否めない。
「アルンそっち行っちゃだめ、こっち」
そう呼ぶラピスの声に反応し、俺たちの方を気にする様子を見せながらアルンは戻っていく。
精霊獣と獣人、この二つの関係性がどう絡んでいるのか。また解決すべき新たな問題が出てきてしまった。
精霊獣、その存在を俺は今日始めて知ったわけだが、是非とも俺たちの仲間に加わってくれないだろうか。
と、俺がそう思うのは精霊獣であるアルンの力を垣間見たから。相手の視界から瞬時に姿を消せるなんて、これほど魔王の城に眠る秘宝を盗み出すのに打って付けの力はそうそうないだろう。
ただ、アルンの仲間であるラピスには別の勇者仲間が居ると言っているし、そこが一番のネック。
「ラピス、少し話がしたい」
とは言っても、黙ってこの機会をみすみす逃す俺ではない。
精霊獣なんて連れているラピスにも若干の興味が出て来た。
ちらりとラピスの隣でうずくまるアルンの方を見ると、絨毯に顎をつけて目を閉じている。
「私、居ない方がいいよね」
そう言い残しユリアはメアとセシルがいる隣の部屋へ行く。
だが、壁一枚隣の部屋、話し声なんて筒抜けだろう。
まあ、聞かれても困ることでもない。寧ろ、俺と旅を共にするメアには聞いてほしい内容。
「何? 話って」
「ラピス、お前、勇者の仲間が居るって言っていたよな? そいつらとは、もし再会したら旅を続けるのか?」
俺がそう当たり前のことを聞いたのは、あくまで確認の為。
「? そうだけれど、何故、そんなことを?」
「いや、聞いてみただけだ」
ここで率直に俺の仲間になってくれと言えば、また何故? と返しがくるのは想像に容易い。
もちろん、俺も強引にラピスとアルンを仲間に引き込むつもりはない。
となると、質問の仕方を変える必要がある。
ラピスが不思議そうな表情をして俺を見ている。
「あっ! セシル!」
とすれば、隣部屋からメアが声を出す。
どうやら、セシルが目を覚ましたようだ。
「セシル、気づいたか?」
前回、気を失った時より随分と目覚めが早い。
「うん……あの子は?」
セシルはきょろきょろとする。
「あの子? もしかして、アルンのことか?」
「アルン……」
その時、俺の足元を横切るようにアルンがセシルのいる隣部屋をそうっと覗く。
「クゥン」
「大丈夫、おいで」
セシルが両手を広げると、アルンはテクテクとセシルの方へと向かっていく。
立ち止まり、また進む。立ち止まり、セシルの様子を見ながら進んでいく。
「アルンって言うんだね、セシルは何ともないよ」
セシルがアルンの頭を撫でる。
「ほっ、良かった」
俺の隣で胸を撫で下ろしたのはラピスだった。
「だな。ーーところでラピス。さっきの話の続きなんだが、アルンとは何処で出会ったんだ?」
精霊獣という生命体、そこに興味を持つのは一つの好奇心でもあった。
「そんなこと聞いてどうするの?」
「言いたくないなら言わなくてもいい。ただ、気になっただけだ」
魔物時代が始まって永年の月日が経っているが、精霊獣なんて何処の街や村でも聞いたことがない。俺がたんに知らないだけかもしれないが、意識的に情報を収集する日々を過ごしていただけに、精霊獣という存在が気にはなる。
セシルとメアはすっかりアルンに慣れたようで、触られているアルンもまんざらでもない様子だ。
「ほんともふもふだわ! シンも触ってみたら?」
「俺は」
アルンがもふもふだということは、既に触れて体験済みだ。巨大化後のアルンは、毛の量でみかけより大きく見えていたというのもあって、もふもふ度は俺の想像の上をいった。
触りごごちは……抜群だった。
精霊獣は皆そうなのだろうか?
いや、疑問に思うべきことはそこではない。
俺が知りたいのは、アルンの他に精霊獣がいるのかということ。
ラピスが仲間の勇者たちと再開後、旅を続けるというなら、アルンという精霊獣ーー姿を消す力が共通しているなら別の精霊獣を是非とも俺の仲間に入れたい。
もちろんそれは、俺の旅の目的である魔王の城に眠る秘宝を盗み出す任務を成功に導く為。
精霊獣を仲間に入れることが是か非か、現時点では答えが出ないが、相手の視界から姿を瞬時に消すという力の使い時は多義に渡る。
「ねえみんな、良かったら旅であったこと色々聞かせてほしいな、なんて」
「いいわよ。あっ、でも……」
そう即答したメアは俺をちらりと見た。
「これのことか? いいんじゃないか、別に」
メアが俺の腰元あたりに目を移したからそう言った。
「なんだか、立派そうな剣」
ユリアは興味深そうに鞘に収まっているアスティオンを見る。
「立派……まあ、実際どうだろうな」
宝剣という存在意義は、闇に属する魔物を斬り倒す為に存在しているが、この世の中には宝剣に負けず劣らずの名剣が存在していることも事実。
立派かどうかは剣の価値もあって、尚且つ、使い手自身が何を成したかで決まるのではないだろうか。
「クゥン」
アルンがもふもふの体を揺らしながら、俺の前までやって来てアスティオンを見上げる。
「アルン?」
アルンの行動が気になったようで、ラピスがアルンの側に寄る。
「……そう言えば、初めてこいつと会った時もこんなのだったな」
俺がアスティオンを鞘から抜いた時、アルンは巨大化を解除した。
「……まさか、それって……」
「ラピス、シンのその剣はね、宝剣なのよ」
「そうなんだ。私、あまりよく分からないけど、宝剣って珍しいものなんだよね? へぇ」
どうやらユリアにとっては宝剣の認識はその程度らしい。
違ってラピスはと言うと、口を手で押さえるほどに驚きを隠せないといった様子。
「どうした? ラピス。そんな固まって」
「え? なんでもないよ! 私もあまり詳しくないから初めて見たから凄いなって思ったの」
「……そうか。なら、アルンは何でこんなに興味津々なんだ?」
「そ、それは……なんで……かな?」
アルンはクンクンと匂いを嗅いでは、鞘に収まるアスティオンに擦り寄っている。
「宝剣と何か関係あるんじゃないのか?」
もうここまで興味津々ならそう考えざるを得ないだろう。
ラピスの返答は返って来ない。
「それとも何か? アルンがただ宝剣を気にいっただけって言いたいのか?」
会って早々、威嚇して巨大化して牙を剥き出しにして来たような奴が、アスティオンの刀身を見た途端に縮んだ。
宝剣を気にいる精霊獣、ラピスは何故沈黙をする?
「ラピス、何か知っているの?」
「……」
沈黙を決め込むのは、言いたくないことでもあるのだろう。
「メア、もういい。ラピスも無理して話さなくていいからな」
とは言ったものの、アルンにここまでの反応ーー未だに鞘に収まるアスティオンにべったりの精霊獣を見ていては、気にならないようにすることの方が難しいんだが。
結局その後は、ラピスの口から宝剣アスティオンと精霊獣アルンの関係性を聞くことは出来なかったが、俺たちの旅のことを話しているうちにラピスは自身の仲間のことを話してくれた。
……だが、ラピスが口にした勇者は聞きたくなかった名だった。
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