百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第145話 石の上に・・

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アイスベルク山脈、第4番ゲート。
そこから仲間の勇者たちと移動中にラピスは逸れてしまったようだ。
同じ時期でも時間帯によっては猛吹雪に見舞われ、"勇者一行、また遭難か"と記事に載ることもある。

ラピスはその際、偶然にも魔物に酷くやられてしまった人間に出会い、その者は治療の途中に息絶えてしまったという。
だがそこに、偶然ソフィア王国の兵士たちの目に止まってしまうという事態に。
ラピスも状況が状況だけに慌ててしまったようで、事情を説明するも兵士たちの疑いの目は晴れなかったようだ。

事情を理解してくれない兵士たち。
ラピスを捕らえて移動をし始めてしまった。
自分は何もしていない、だけれどもラピスが殺ったと疑わない兵士たち。

ラピスは、逃げた。
たった6人程度の兵士たち。長く勇者たちと旅をして来たラピスにとっては、兵隊長がいない少数部隊の兵士たちの手から逃げることなど造作もなかったそうだ。
勝てないが速さは自分より劣る、走りに走り、兵士たちと差をつけたという。


そうして着いた、エルピスの街。
だが、しつこくも追って来ていた兵士たちはラピスを追い詰める。
ラピスは勇者ではない為、勇者と比べるとそう体力は多くないと本人は言う。
逃げては休み、逃げては休み。その繰り返しでようやく着いた先がエルピスの街。
ラピスは諦め、潔く兵士たちに捕まろうとした。

「ーーその時よ、私が現れたのは! 兵士たちのあの慌てる様子、今思い出しても笑っちゃう!」

そうユリアが言うように、ラピスを捕らようとした時に現れたのがユリアだった。
ラピスが言うには、街に入った時に煙幕を使って助けてくれたそうだ。

「ユリアが来てくれなかったら私今頃牢屋の中」

「そうなったとしても私は助けたわ! 兵士たちなんて融通が効かないただの国の犬よ!」

国の犬、うまい表現だ。

「……さてと、私、もう行こうかな。これ以上、皆さんに迷惑をかけてもいけない」

「ユリア、もう少し私の家に居てもいいんだよ? 仲間、まだ見つかってないんだよね?」

「そうだけど……」

ラピスは申し訳なさそうだ。

「ラピス、お前の仲間が見つかるまでの間、旅のことーー魔王の城の話とか知っていたら話してくれないか?」

「魔王の城!? ……知らない」

やはり、お門違いな質問だったか。

ラピスが俺を見る目が遠くなった、ような気がする。

「そうか、知らないなら仕方ないな」

「ちょっとシン! 誰彼構わず聞かないでよね! 魔王の城なんて、普通なら選ばない目的地よ!?」

メアが小声で、だが、張り気味の声でそう俺に伝える。

「そうだったな」

俺も分かってラピスに聞いたのだが、もしかしたらと、魔王の城に関する情報が掴めると思った。

「……アルン、何処いっちゃったの?」

そう小さく呟いたラピス。

「仲間か?」

「ええ」

その後、俺は1人魔物討伐の為にフィールドへ、メアとセシルはラピスと共にユリアの住む建物へと向かった。





エルピスの街へ来て魔王の城に関する有力な情報が得られないまま、俺は魔物討伐の為にフィールドにいた。
現在、俺の勇者ランクは8。
魔王の城に行くとなるとせめてもう1ランクは上げておきたい。エルピスの街で情報収集といきたいところだが、自身の鍛錬も当然怠ってはいけない。

俺が勇者であり、魔物を討伐することで上昇するステータス。何もしなくて上がることはない。
一部、魔石粉というドーピングのような代物もあるが、そんなものを使うのは外道。
勇者を選んだのならば、そんなものに頼らずとも己の力量を知って魔物に挑み続けるのみ。

勇者が魔物と対峙することによって勝敗を決めるのは、敵に勝つという信念。
もちろんそれが絶対とは言えないが、信念なくして何が勇者。
信念、それは時として自身より遥かに強い敵に勝る武器ともなりうるが、信念だけでは届かない強壁も存在する。
だから、俺は魔物を討伐する。

そして、その先にいる強大な敵ーー魔人族、魔竜族……魔王……。

これから、魔王の城に近づくにつれて、おそらく俺の前に現れるであろう強敵。
討伐、もちろんそれが出来るに越したことはないのだが、いかんせん敵は未知数の力を持ってるだろうし、魔物に比べて個体の数は極めて少ない。それに比例して遭遇率も低くなり、魔王に至ってはどんな奴か検討もつかない。

「ーーよし」

エルピスの街を出て西、草原地帯は絶好の魔物討伐の場にして歩いて行けば何かしらの魔物と遭遇する。
エルピスの街から距離はあるのだが、いつ何処からジェノサイドライナのような魔物がやって来るか分からない。

俺はちょうど毒の鎌を持つ魔虫、ポイズンマンティスを討伐し終え新たな敵を探していた。

「……弱そうな魔物だな」

石の上に乗っていたのは、俺を必死に威嚇し逆毛する。
琥珀色の小さな狼のような姿で、逆毛が薄れるほどのもふもふ度合い。体全体は下にある石より少しばかり大きい。

観察眼で見るまでもない、弱そうな魔物。

「ーーこいつ」

討伐するまでもない、無視して行こうとした。その時、背後から圧迫感があって振り返ってみれば、小さなもふもふは巨大化していた。
ラグナの平原を主な生息域とするアサナートとまではいかなくとも、でかい狼には変わりない。
しかも見た目の色もあって強そうには見える。

「グルルルルル」

魔力5を消費して観察眼を発動した。

「……出ない?」

まさか、こんな奴が魔物じゃない?
もう一度、観察眼を発動。

だが、一向に表示されない相手のステータス。そういえば、前にもこんなことがあったーーバタリアの鉄筋塔のてっぺんにいた魔人。

考えられる原因は2つ。
1つは、まだ見つかっていない魔物や魔人だという場合。
勇者たちや国の調査でまだ見つかっていないということ。
例えば、勇者がまだ見つかっていなかった魔物を討伐した場合、黒の紙に新たな魔物情報として更新されることになる。そうなると、他の勇者たちはギルドで黒の紙を更新した時に追加された魔物の情報も新たに加わる。
国の兵士らが未発見の魔物を見つけデータを収めれば、同じく黒の紙に更新される。
その後は、魔物の大まかな分布域を確認する黒の柱によって居場所を把握するという流れになる。

そしてもう一つ。それは魔物ではないという場合。だが、これはまずない。
というのは、確かに魔物ではない動物、ウサギや熊などは存在しているが、それは観察眼で見るまでもなく魔物ではないと分かる。だが、魔物時代が始まってほとんどの動物が死に追いやられ、生き残る動物はごく少数と言われている。

「グルウウ!!」

目の前の琥珀色の狼は俺に襲いかかって来た。

鋭い牙、俺はそれをさっと避ける。

なんだこいつは。

「おい、俺は何もしない! 落ち着け!」

俺は獣相手に何を言っているんだ?

グルルル、と威嚇を続ける琥珀色の狼。

そんな姿を見ていると、どうも勇者魂が疼いてしまう。もし、こいつがレアな魔物で未発見だというなら、討伐した時にどんなステータスの上昇が起きるのか。

「抜く予定はなかったが……」

アスティオンを鞘から抜いた。

「グルルルルーークゥン」

しゅるる、と威嚇していた琥珀色の狼は変身前の小さなもふもふに戻った。

「……なんだお前」

斬る気が一気に失せた。
威嚇する様子も特にない。

テクテクと歩いて来て、クンクンとアスティオンを匂い出す。

「クゥゥン」

甘えた鳴き声。こいつが、さっきの巨大な狼になるとは誰も思わないだろう。

「お前、ほんとなんなんだ?」

屈んで頭を撫でても俺を警戒する様子もない。撫でると目を瞑り、コテっとその場で横になってしまう。

いきなりのほのぼの展開。

動物の狼……ではなさそうだ、おそらく魔物ではあると思うのだが。
未発見の魔物、その線が高い気はする。アスティオンの力を感じ取り降参のポーズでもしているのか、不思議なやつもいるもんだ。

「クゥン」

俺が撫でるのをやめると撫でてと言わんばかりの表情で俺を見て来る。
また撫でてやると、目を瞑って横になる。

魔物が自ら人間に懐くなんて……
血の従属もしていない、珍し過ぎにもほどがあるぞ。あんな姿に変身して、魔物じゃないのか?

「さて……」

その場から離れようとした。

が、何故かついて来るけむくじゃらの小狼。

「クゥン」

尻尾を振り、嬉しそうなご様子。
餌でも欲しいのか?
だが残念。俺は餌なんて持ってはいない。

「お前、ほんとなんなんだ?」

行くのだが……行こうとするのだが……どうも気になって謎の小狼をしばらくの間見ていた。
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