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第137話 脱出の光
しおりを挟むどうすればイクリプスドラゴンの体内から脱出出来る?
思考回路をフル活動させる。安易に考えられるのは目の前にいる俺のコピーを戦闘不能、もしくは殺すこと。もう一つはイクリプスドラゴンの体内に風穴を開けて脱出を図る。
暗闇の体内の中を通って口から出る方法もあるが、そうはさせてくれないだろう。
「来ないのか? ならば我からゆくぞ」
魔物にも知能指数が低い奴から高い奴までいるが、魔竜の知能指数は魔物の中でもトップクラス。
魔竜が人間の言葉を理解し話すのは今回で初めて分かった。
人間の言葉を話すのは俺をコピーしたイクリプスドラゴンだからなのか。他の魔竜への疑問も尽きない。
コピーは剣を使うことなく、あたりの体内に両手をそれぞれ向けた。
「ぐっ!?」
とすれば体内が変形し俺をプレスするように波を打ちながら挟んだ。重く鈍い音に加えて、衝撃で懐に入れてあった残りの回復アイテムが割れる音。
「どうだ? 痛いか? ああ、苦しいだろうな。だが、魔物共が受けて来た痛みはこんなものではないぞ?」
挟む力がどんどん強くなる。そのたび、体の中の臓器が口から飛び出しそうだ。
コピーに一度でも触れておけば回り抜けを発動出来た。不覚だ。だが、俺の知識を知って触れさせないように斬り合いをしていたのだろう。
抜けられない、意識が朦朧として来る。ここで俺が死ねば、俺の姿と経験、知識をコピーした奴が外の世界へ。魔竜が人間の姿をコピーして人々のいる世界へ。あっていいはずがないそんなこと。
だが、どうすれば……このまま挟み殺されるなんて……せめて、アスティオンが扱えれば……
アスティオンは俺がイクリプスドラゴンの体内に挟まれた時、衝撃で手放してしまった。
後、数十センチほどの距離だというのに……
手を必死になって伸ばすものの、落ちているアスティオンにはあと少し届かない。
それを、コピーが手に取った。
「これが宝剣……我らが憎き神の象形」
「俺の剣に触れるな!」
魔物のはずの魔竜が宝剣に触れることが出来るなんて……これも人間の俺をコピーしたからか。
「……良いことを思いついた。まず……」
「っ!?」
俺の姿をしたイクリプスドラゴンは、俺を挟む体内ごと俺の左脚を貫き斬った。
「耐えるよな? まだ一度目だ」
「何を……」
「お前が我の体内に入って早1時間半。常人であれば、正気を失い我が崩壊し始める頃。しかしお前はまだ深淵に堕ちてはいない。それに敬意を表し我からお前にチャンスをやろうぞ」
「チャンスだと?」
「そう、チャンスだ。もし、二度三度とこの宝剣でお前の四肢を斬りつけて尚、お前が気を失わなかったら外へ出してやろうぞ。無論、技能の解放は許さぬ」
「言ったな? 約束は守れよ」
不敵な笑みをするコピー。
ここで技を解放して反撃するのもいい。だが、ここはイクリプスドラゴンの体内。本来なら俺1人でどうこう出来る相手ではない。幸いなのは、今目の前にいるのがまだ俺のコピーだということ。
「お前が……意識を保っていられたらな!」
「っ!?」
次は右脚を貫き斬られた。そして続きざまに右手左手。まるで人間をいたぶるのを楽しむかのように、不敵な笑みを浮かべたまま俺を斬って来る俺の姿をした魔竜。その様はまさに悪魔。人間の姿をした俺だとしても中は人間界を滅ぼす魔王の配下にいる魔竜の一体。
そして俺はとうとう出る声も絶えてしまい、四肢の痛みが増していく。
こいつ……殺してやる。
殺意、それは俺の心奥深くに灯し始める。同時に体内から脱出する方法の思考回路を止めない。
仮に俺がこの悪逆無道の行いに耐え抜いたとしても、此処から出してくれるわけがない。
一向に止むことがない斬りつけ。
手足の感覚が無くなっていく。
「言い様だ勇者よ。これで少しはお前が殺した魔物共の痛みが理解出来たか?」
「……はぁ、はぁ……1ミリも」
「良い返事だ。この程度で理解されても我としても困る。本当の痛みはこれから」
と、コピーは俺の頭一つ分ほど下付近にアスティオンを突き立てた。間にあるのはイクリプスドラゴンの体内の肉壁のみ。
アスティオンの切っ先が見えなくなった。
噛む力も強くなり、一層思考回路を回転させる。アスティオンがもう3分の1も見えなくなった。
「ぐふっ!!?」
血を大量に吐いた。
違う、俺じゃない。俺が舌を思いっきり噛んでしまったから。俺も舌からだいぶ血は出たが、吐くほどの量でもない。
俺を挟みつけていた体内の壁がひいていく。
……なるほどな。
「返してもらう!」
コピーが下を向いていた僅かな時間、解放されたと同時にアスティオンを取り返した。
コピーが苦しそうな表情をして俺の睨む。
「人間の血は酷く臭い、やはり慣れぬ。こんな下等な生物、魔物共はよく食えたものだ」
コピーは口の中の血を吐き捨てる。
魔竜が人間を食わないのは本当だったか。魔竜も人間を殺しはするが、ただそれだけだというのは古書にも記されている。故に、殺人竜などと揶揄されている。一説によると、下等な種族の血を食らうなど、魔竜からしてみれば自身の反吐を食らうようなものなのだそうだ。
「人間を殺しまくっておいてよく言うぜ」
コピーは口に付いた血を拭う。
それを見ながら俺はまだ割れていなかった残る回復アイテムの一つを懐から取り出した。
「エリクサーか。俺も運がいい」
残っていた回復アイテムはエリクサーだった。
それを一気に飲み干した。
「お前……」
そう一言、俺の姿をコピーした魔竜イクリプスドラゴンは言った。
エリクサーの効き目は間も無く現れ始め、コピーに負わされた手脚、太ももの傷痕が癒えていく。コピーは回復の影響を受けていない。
「さてと……お前、覚悟はいいな?」
コピーが何故、吐血したのか。
たまたま偶然、なんてことはない。オリジナルの俺が舌を噛んだから、コピーにも伝染。度合いこそ違っていたが、そう考えるのが妥当。
「お前!」
試しに出した左腕を軽く斬ったら、同じタイミングでコピーの左腕から血飛沫が上がった。
なるほど。どうやら俺の意思で自身を傷つけることで、コピーはそれ以上のダメージを負うようだ。
これは面白い。
◇
「ーーしぶといな、まだ立つのか」
全身血塗れ、俺の姿をした魔竜はまだ立ち上がる。何かしようとするたびに俺は俺自身を斬る。どうやら魔竜イクリプスドラゴンの防御を持ってしても、この攻撃は関係ない。それは、400越えの防御を持つイクリプスドラゴンには到底ダメージが通るような攻撃をしていないからだ。
俺も俺でそれなりに自分を傷つけてしまったが、コピーを倒せるなら安い代償だ。
「勇者め……ぐふはっ!?」
トドメ。俺はコピーの胸を貫いた。さすがに高防御力を持つコピーだとしても、相当のダメージが入っていたらしい。
うつ伏せに倒れる自分の姿を見るのは気がひけるが、これも体内から脱出する為。
「意外とあっけなかったな」
と、俺は言うが結構痛めつけられた。自身を斬ることでダメージを与える方法を思い付かなかったら、相当危うかった。
うつ伏せ状態のコピーの反応はない。
その後、まるで沼の底に沈むかのようにコピーはいなくなった。
さて、コピーがいなくなったのはいいが、此処をどうでるか。
入った時となんら変わらない状況に戻っただけ。脱出方法の一つ目が潰れた。
そしてコピーがいなくなったからか、また暗闇の世界に戻る。
仕方ない。
俺はアスティオンに撃技のエネルギーを解放していく。
「光?」
その時だった。突如として現れたのは体で覆い隠せるほどの光。
光に近寄って触れた途端、俺の視界は眩く見えなくなった。
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