百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第136話 俺VS俺

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先ず、負いたくもないハンデを俺はコピーに既に一撃食らってしまっている。
だがその程度ならどうってことはない。
問題は別のことだ。前提として、この世に全く同じ宝剣は二つとして存在しない。
となると奴の持つアスティオンは偽物。さすがに人間のコピーが作り出せるイクリプスドラゴンでも宝剣をコピーすることは出来ないはず。

「聞くが、お前が持つ剣」

「ああ、もちろん宝剣じゃない。でも、だから? って感じだ」

予想外にコピーは素直にそう答えた。
随分と自信ありげなコピーのようだ。

「……そうか」

コピーの言葉を間に受けとっていいものか。まあ仮にアスティオンをコピーされていたとしても、宝剣同士の剣の交わりはクラン曰く特性を失うだけ。ただ、アスティオンはコピーされていないようだからそれもない。見掛けだけをコピーしただけか。

「ーーだが、お前を殺したその時は、俺がお前のその宝剣を使ってやるよ!」

斬りかかってきやがった。

「やってみろ!」

自分と同じ姿の奴と戦うなんて変な気分だ、まったく。
それにさっきから体内の中を流れるように光る青いものが目に入る。

「戦闘の最中に余所見なんて余裕だな!」

「言ってろ!」

薙ぎ払って距離を取った。

「これが気になるか?」

コピーがイクリプスドラゴンの体内を流れていく青い光を見る。
青い光が流れていくたびに周囲の状況が確認出来る。肉の壁に肉の床。魔竜の中はどいつもこんな感じなのか?

「これはな、イクリプスドラゴンが魔石を取り込んだことによるエネルギーの流れだ。こうして見ると綺麗なもんだろう?」

まさか、本当にイクリプスドラゴンが食っていたのは魔石だったのか。
そうなればおちおちコピーなんかと戦っている場合ではない。目の前にいるこいつが魔物か人間かなんて関係ない。
確たる事実は俺の邪魔をする敵だということ。

斬塵波を放った。
もし本当に目の前の敵が俺ののコピーだと言うなら避けにくい攻撃を放つべき。斬塵波は塵となった斬撃が数秒間続く剣技。
斬撃が見えるようになったのは助かる。

「斬塵波か、確かに有効打ではあるが攻撃力にやや欠けるな」

そう、奴の言う通り斬塵波は数秒間の攻撃と引き換えに一度の攻撃力が塵のように分散される。
コピーが斬塵波のことを知っていたのは癪だが、知識もコピーしてしまっているならどうしようもない。
だが、コピーの身体に微かな斬り傷がついていく。

「なら、これも知っているな?」

攻斬波。
これは斬塵波のように分散型の斬撃ではなく、1点集中型の斬撃。もちろん撃技を付加すればその分の攻撃力は上昇する。今回は撃技なしだ。

コピーはまともに攻斬波を受けた。
斬塵波の中に攻斬波の一撃。斬塵波は斬撃を分散し攻撃力を削いでしまうが、敵のスピードを落とすことが出来る。そこに攻斬波。

だが、攻斬波を受けた衝撃で後退するだけでコピーは倒れもしない。

「おかしい、おかしいな。俺の攻斬波はこんな威力じゃないぞ? ーー攻斬波っていうのはな……こう出すんだよ!!」

「くっ!」

反射的に斬撃で対抗。だが、消えない攻斬波は俺に直撃し、流動するイクリプスドラゴンの体内まで打ち付けられてしまう。壁が柔らかいおかげで衝撃は和らいだが、攻斬波のダメージを受けてしまった。

「終いか? そんなわけないよな?」

「当たり前だ、コピーの技なんて大したことはない」

とは言うものの、自分の技を受ける経験なんて思いもしない。随分効くもんだな。すかさず、持っていたミドルポーションを飲んだ。

「それはずるいぞ、俺」

コピーは内ポケットに手を突っ込んで同じ物を取り出すなり、舌打ちして下に叩きつけて割った。

「黙れ。言っとくが、これは戦いなんかじゃない」

コピーは姿や服装などは同じではあるが、どうやらアイテムまではコピー出来なかったようだ。正確には持っていたポーションなどもコピーしたようだが中身が空のようだ。

「まあいい、俺にはーー再開だ!」

……なんだ? 何を言いかけた?

コピーの移動速度は瞬時に俺と間を詰める。
アスティオンとアスティオンの斬り合い。剣筋も同じ。
本当にやりにくいことこの上ない。

そんな斬り合いがどれくらいだろうか、時間を気にする暇もなかった。
これじゃあ本当にラチが開かない。俺は生身の人間。コピーごときに負けるつもりは毛頭ないが、時間が経つにつれてイクリプスドラゴンの消化活動も始まるだろう。
ただそれがまだ始まらないのは俺のコピーがいるからか、それとも単にイクリプスドラゴンに消化能力がないのか。
いずれにせよ長引かせるのは危険だ。イクリプスドラゴンの体内だということ、俺のコピーが目の前にいるという非現実。コピーの方が有利な場ということは間違いないだろう。

「……お前に一つ聞くが」

「今度はなんだ? 戦いながらお喋りしようって?」

「まあ聞け」

俺がそう言うと、コピーは不愉快そうな表情をする。
その会話のやり取り中も、斬り合いは継続中ではあった。

「俺の知識もコピーしてるって言うんなら、もちろんお前も知っているよな?」

「何が言いたい?」

若干だがコピーの剣筋が重くなった。

「魔物は魔王の配下にいるが、魔竜もそうなのか?」

またコピーの剣筋が重くなる。額に分かりやすく血管が浮き出しては俺をギロリと睨む。

その時だった。俺の持つアスティオンを弾き飛ばす勢いでコピーは剣圧を上げた。
ふんっ、としてやった的な鼻息を鳴らすのはオリジナルの俺。コピーの方は今の斬り合いでダメージなんて受けていないはずなのに随分と息遣いが荒くなった。

だが、コピーは軽く息を吐いて呼吸を整えた。

「な、何言っているんだオリジナルの俺よ。魔竜も魔物に属していることには変わりない、当然だ」

顔の表情筋を引きつらせてまでよく言う。

「なら、当然魔竜は魔王より弱いってことだな?」

手の甲、そして額に浮き出る血管の筋。コピーの返答はない。
コピーの髪が無風なのに揺らぐ。俺の目の錯覚ではない。コピーの髪が真っ赤に染まっていく。

「やはり、こっちの方が落ち着くな。ーーおい、お前。さっき……なんて言った?」

見下すように頭を上げて俺に問う。

なるほど、とうとう本性が出たか。

「魔竜は魔王より弱いよなって聞いたんだよ」

俺が言うと同時に紅く染まった斬撃が飛んで来るが、瞬時に躱す。

またコピーの息遣いが荒くなった。

「はぁっーーいつ、気づいた?」

「初めからだよ。全く同じ、俺のコピーが出て来たことには正直驚きはしたが、それをした本体の中にいるのだから疑問に思うのは当然だ」

俺がそう言うなり、コピーは面倒くさそうに頭を掻く。

「気づいたことは素直に褒めてやろう。だが、お前が此処から出られなければ意味はないがな。そうだ、我は魔竜イクリプス。思考はコレと共有している。しかしこうして知ると、一体どれだけの魔物を殺して来たんだお前。楽には殺さんぞ?」

コレと言いながらコピーは自身の頭を指差す。

「魔竜のお前に言われる筋合いはない」

これで確定。俺のコピーはイクリプスドラゴンそのもの。姿は違えど、魔王の城にいると言われていた魔竜の一体。これがイクリプスドラゴンの能力というなら面倒極まりない。

「……そう言えば、あの髪の青い女はメアと言ったな。氷魔法が鬱陶してくて踏み殺したくなる」

と言って、コピーは下を向く。

俺は破砕の斬撃を放った。

「効きよる! ーーだが、イクリプスの防御を借りた体にはぬるい」

「……本当に」

面倒な相手だ。俺の攻斬波を受けてけろりとしている理由がはっきりと判明した。破砕の斬撃まで受けてまだ倒れないとなると、あの馬鹿げた防御を持っている可能性もある。

宝剣アスティオン、俺に力は貸してくれないのか?
魔物特攻特性を失っている状態で俺は俺のコピーだというイクリプスドラゴンに勝てるのか?

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