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第132話 七星村の過去
しおりを挟む過去の魔物大戦を経て、人々が街への移住を始め出した頃、全ての人々が歓迎されるわけではなかった。
当然、街には既に住んでいた人々がおり、村から移住して来た人々を歓迎することもあればそうでない時もあったそうだ。
それは村人たちの風習だとか、価値観の違いだとか、外からなだれ込んで来る人々の中にはこれみよがしにと、今まで魔物生息領域に住んでいたことをさも誇らしげに語る者もおったそうだ。
無論、街に元々定住していた人々にとっては外から多くの人々がやって来ることは既に魔物大戦が起きた時点で薄々分かっていたことだったそうだが、それが現実になった途端、街に住んでいた人々と移住して来た人々の間には見えない溝があった。
中には街の人々と一緒に生活することは出来ないと早々に街を去った者たちもいたそうで、七星村を築き上げた初期のメンバーがそうだったと村長は言う。
七星村、そう名付けられたのは夜の空にあった7つの星が現れた時に村が出来たからだそうだ。
当時の七星村はシーラ王国の兵団が護衛にあたっていたそうだが、等価交換の条件を毛嫌いした住人たちが多くいた為、やむなく護衛なき村となった。
自分たちの村は自分たちで守る。当時の七星村の住人たちにはそうした強い意志があったそうで、それが今も残ってこうして村が村として存在しているのだという。
街で生活することも出来ない、国の護衛兵団に頼ることも出来ない。そうなれば自分たちの力で魔物と戦っていく他道はない。
だが、魔物は最善の状況を待ってはくれなかった。
シーラ王国の護衛兵団は撤退し、格好の的となってしまった七星村は魔物たちにとっては襲わない理由がなかった。
多くの住人たちが魔物に殺されてしまい、当時残ったのは僅か17名だけだったそうだ。
そして1人、また1人と七星村を去り、残ったのはたったの11名。
しかし後日、去ったはずの3名が七星村に戻って来た。
彼らは魔物と戦う為の術を身につけて、七星村に残った者たちに教えていった。その時は戦う為の技術と呼べるには程遠いものだったそうで、魔物と戦うにはあまりにも力不足。
だが、七星村の住人たちは魔物と戦っていくことを決意し、貪欲なまでに日々の鍛錬を怠らなかったそうだ。
魔物に対抗出来る力を徐々に身につけ、七星村の住人たちの数も時間をかけて次第に増えていった。
そしてその者たちが成長するにつれて、5歳になる頃には語学を学び教養を学び、魔物と戦う術も教えていったという。
そして時を同じくして、七星村に訪れたのはセシルと同じ獣人族だった。
何でも七星村の住人たちと同じ匂いがしたそうで、1週間程度だったそうだが生活を共にしたという。その際、獣人族に新たな戦術を教わり、強固な村へとなりつつあった。
その間、魔物たちの襲来もあったが、七星村の住人たちは獣人族と共に戦ったこともあったのだという。
そうして1週間が経過し、獣人族は七星村を去っていったそうだ。
その後、来る日も来る日も鍛錬、そして魔物と戦って来た七星村の名は勇者たちの耳にも届き、勇者たちが戦闘技術の教えを乞うまでになっていたという。
だがある日、事件は起きた。
七星村上空に現れた一体の魔竜。その魔竜の咆哮と共に七星村は瞬く間に崩壊した。
死者も多く出てしまい、たった一度の魔竜の攻撃によって七星村は崩壊してしまった。
だが、生き残った七星村の住人たちは魔竜が去った後も頑に街へは行かなかったそうだ。
後、七星村の人々は巨大な岩山を削り上げ形を整え遺跡を作り上げた。
その遺跡の周辺には七星村の他にも幾つかの集村があったそうだが、地上を我がものとする魔物たちによって崩壊している集村を確認したそうだ。
魔竜の攻撃によって崩壊した七星村、そして遺跡周辺にあった集村に住んでいたであろう者たちが苦しみの中この世を去り、あの世では苦しむことがないようにと生き残った七星村の住人たちは遺跡を築き上げた。
オルビド遺跡。
そう名付けられた遺跡は忘却の意味を持ち、今も七星村の北西にあるのだと村長は言う。
「改めて……七星村に来てくれた事に感謝申し上げる。儂はこの七星村の村長、サーガ=アルクトュス」
「その息子、ローレン=アルクトュス」
ローレンは七星村の村長、サーガに続いて言った。
「あなた方にはただ魔物を討伐してもらいたいというのは些か勝手な言い分ながら、本音ではある。じゃが、儂も村長の立場というものがあって、ローレンが連れて来た勇者さん達にはこの七星村のことを話すようにしておる」
「なるほどな、話は分かった」
七星村を崩壊させた魔竜か。魔物ってやつは本当に悪いことしかしない。
「でも、それじゃあまたこの村を作ったっていうの?」
「そうじゃ」
そう一言、静かにサーガ村長は言う。
「……君たち、別の部屋に行こうか」
サーガ村長の話を聞いた後、俺たちは別室に移動した。
◇
「ーーそれでは、宜しく頼んだぞ」
ローレンから魔物討伐依頼の件を含め、コンセットの息子が住む家を聞いた。
「ああ」
共戦。どうやら、俺たち3人だけで戦うような魔物ではないらしい。
ライトイブリースは一年に一度、この寒空の季節に限って七星村にやって来るそうで、毎回、俺たちのように魔物討伐依頼を引き受けた勇者たちがやって来るそうだ。
中には毎年、定例行事のようにやって来る勇者もいるようで、村長代理であるローレンも随分と助かっているそうだった。
現に七星村の中を見渡して見ると、勇者だろう人物がちらほらと確認出来る。
ローレンが俺たちに会釈をして、別の勇者の元に歩いて行く。
「ねえシン、コンセットさんは何で七星村を離れちゃったのかな? そんなに強い村だったら、私だったら住み慣れた場所の方がいいと思うんだけど」
「さあな。まあ強いて言うなら街の方が安全だからだろうな」
街で住む安全性はもはや当たり前になって来ている時代。それでも住み慣れた村を離れ街へ移動していくのは安全に住める環境がある為に他ならない。
「それはそうだけど……何だかこの村ってヘリオスの村と似ていると思わない?」
そうメアが言うのはローレンの話を聞いたからだろう。
ローレンが言うには、何でも兵団の隊長が兵士にならないかと七星村の住人たちに勧誘しに来た時があったそうだ。
そんな話を聞くと確かにヘリオスの村のことが頭をよぎる。
「似てる村なんて探せばある。それに、この村の住人たちが強いかどうかなんて見るまで俺は信じない」
「シン、変なとこに頑固ね。でも確かに一理あるわ。魔物と戦う村人なんて、そうそういるものじゃないし。ーーあっ! 流れ星だわ!」
星空の中に流れ星が見えた。
満点の星空に満月、そして流れる一つの星。なかなか、洒落たシチュエーションじゃないか。
そしてまた一つ、一つと、流れ星が夜空を走っていく。
とすれば、ローレンが俺たちの元に向かって走って来る。
「どうかしたのか?」
「まずいことになった! 何故こんな忙しい時に!」
ローレンが頭を抱えながらそう言った。
「落ち着いてローレンさん。どういうことか話してもらえますか?」
ローレンが何も言わずに東の空を指さした。
「あの兆しが空に出た時ーー来たぞ皆のもの! 戦闘に備えよ!!」
叫ぶような大声、ローレンは急ぐようにサーガ村長のいる家へと入って行った。
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