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第131話 七星村の村長
しおりを挟む高さ3メートルほどの塀が森を抜けた場所に設けられており、塀伝いに進んで行くと門が見えて来た。
その門の両側には松明が置かれており人が見える。
門にいた男2人は俺たちに気づいたようで、警戒している様子で凝視してくる。
「こんな夜更に男と女、それに獣人……何用で此処に来たか?」
「エルピスの街で魔物討伐依頼を引き受けたものでな。此処は七星村で間違いないか?」
男2人は互いに顔を見合わせる。
「なるほど、毎年来る勇者一行か。しかし、今回のは……失敬、村へ入ることを許可する」
男2人が門の両側にそれぞれ移動する。
今回のは……なんだそれ。毎年来る勇者一行と比べた感想か?
七星村に入ると、見える範囲で高台が幾つか置いてある。
村人たちは夜中にも関わらず、忙しなく動いている様子。
「おっ! 今年も来てくれたのか! 魔物対峙、よろしく頼むぞ!」
中年の男は俺たちに慣れた様子でそう言って行ってしまった。
「私たちのこと知られてる?」
「んなわけないだろ。さっき門にいた男が言ってただろ? 毎年この村に勇者が来るって」
まあそうでもしない限り、そもそも魔防壁も国の護衛もない村であれば存続することも厳しいだろう。もしくは七星村の住人たちが勇者並みに強い可能性もあるが。
エルピスの街とこの七星村との距離も特別近いというわけでもない。
毎年来る勇者たち……彼らも魔物討伐依頼でこの七星村に来たと考えるのが妥当だろう。
「言ってたわね。あっ! そうそう思い出した! コンセットさんの息子さんに会ってガツンと言ってやるんだったわ!」
俺たちの目的はあくまでコンセットから引き受けた魔物討伐依頼。まあ最も、魔物討伐依頼とは別に報酬もくれるようだから協力はする。
「メア、そのことよりまず先に敵に関する情報を知っている村人を探そう」
ただ優先すべきは魔物討伐依頼、魔物の情報を得たいところ。未知の魔物を相手にするのはリスクがある。この七星村に向かう途中に遭遇したダークリーパーのように、敵の力量を低く見てしまい手痛い結果になってしまわない為にも情報を得ておくのは当たり前の話。
「そ、そうね……確か、ライト……なんだっけ?」
「ライトイブリース」
「それ! ……でも、私少し怖いわ。またあんなことにならないかしら」
あんなこと……メアが何を思ってあんなことと言ったのか定かではないが、話の流れからするにダークリーパーとレドックたちとの一件だろう。
「その時は俺が全力で阻止してやる」
「な、何よそれ! あの時は私も油断してただけだし? シンに守られるほど私も弱くないよ!」
どの口がそれを言うんだ。
「……そうか」
メアが弱いだなんて思ったことはない。むしろ、勇者としても強い上、能力も優れている。俺の持つ能力の一つ、回り抜けはまだ戦闘でも活躍はするが、解錠に至っては活躍する場がそもそも少な過ぎる。
「ようこそ七星村へ。君たちかい? 今回私たちの村を守ってくれる勇者というのは」
そう言ってやって来たのは、ややかすんだ声の歳をとった男。
「あんたは?」
「おおっと申し遅れた! 私はローレン。この村で村長代理をしている」
「村長代理?」
メアが疑問をローレンに投げかける。
「そのことも含めて、一度私の家へ来ていただけるかな?」
その後、俺たちはローレンの後をついて行く。
途中、慌ただしく村の中を走り回っている村人たちの様子を眺める。どう見ても武器、弓矢を持っている村人たちが多い。
魔物討伐依頼があった村だ。ライトイブリースとはそんなに強い魔物なのだろうか?
そもそも、この七星村の村人たちは魔防壁も国の兵士たちの護衛もない中、魔物生息領域に村を設けている。
それでも村が村として在り続けるのは魔物に対抗出来る戦力があるからだろう。
それは魔物討伐依頼で俺たちのように七星村に来る勇者たちがいたり、元々、ヘリオスの村人たちのように個人で魔物と戦える者たちがいるだとか。
そのあたりのことも含めて後でローレンに聞いてみよう。
そうして着いたのは一軒の民家。入ると一見変わった様子もないように感じたのだが、少し奥に進んでみればさすが魔物生息領域に村を設けているだけのことはある。
「……これは、ローレンのものなのか?」
俺がそう聞いたら、ローレンは壁にかけてあった弓を手に取る。
「私たちはね、自分たちで村を守ると決めて以来、今日に至るまで魔物と戦って来た。ただね、それでもこの七星村を離れていく者たちも多くてね、戦力が減っていくたびにこの先の村の存続が気がかりでならないよ」
勇者でもない人間であれば、村を離れる決断をするのは至って自然な感情の流れだな。
「ローレンさんはこの村を離れたいって思わないの?」
ローレンは持っている弓を元かけていた位置に戻し、腰を落とせる場所に座る。
「そんなこと一度たりとも私は考えたことがない。今も残る他の村人たちもそうだ。七星村はもう30年も前に出来た村でね、魔物に潰されるほどやわじゃないんだ」
30年も前……えらく古い村だな。
俺の生まれ育った村は既に魔物に襲われ崩壊してとっくの昔に無くなってしまったが、地上には数百近くの村があると言われている。
その7割近くは国の兵団が護衛にあたっているそうで、残り3割の村は自力で村の存続をしているということになる。
俺の知っている限りでは金剛の蒼玉と呼ばれる魔防壁にも似た効力を発揮する玉が置いてある村、ヘリオスの柱と呼ばれる強力な力を持った者たちがいるヘリオスの村。そしてエルピスの街へ辿り着く前に寄った勇者たちが訪れるウォールノーン。
それぞれの村が、魔物に対抗出来る戦力が続いているのは、それだけ村への思い入れが強いのだろう。
ただ、俺が気がかりなのは、既に籠手がなくなってしまったウォールノーンのこと。
木こりの爺さんの話によれば、その籠手目当てに勇者たちはウォールノーンに訪れていたらしい。
だが今、籠手のなくなってしまったウォールノーンの現状が気がかりではある。
その籠手は何処ぞの野郎に渡してしまったし、今はもう手の届かないところに行ってしまった。
ローレンの話を聞いていた。その時、奥の方から誰かが咳き込む音が聞こえてきた。
「少し待っててくれ」
そう言って、ローレンは扉を開け奥の部屋へ行く。
「ああ、また来てくれたよ。少し頼りなさそうな人たちだが、わざわざこんな遠い村まで足を運んでくれたんだ。失礼のないようにするよ」
そうローレンの声が扉の奥から聞こえてしまった。
「頼りない、だって」
メアが両の掌を上に向けて言う。
「いいじゃないかなんでも」
「わたしたち頼りないの? ねえ! シン!」
セシルにはローレンの言葉が堪えたのか。眉を潜めてそう俺に聞いて来る。
「君たち、よかったらこっちに来てくれないか?」
扉を開けたローレンは手を奥の部屋の方に招く。
そうして、ローレンに言われるように扉の奥の部屋に入っていく。
「……誰なんだ?」
そこには、寝たりきりの老人が1人布団に居た。
「私の父にして、七星村の村長。本人はまだこの村の村長と言い張るんだが、もう、こんな状態だから私が村長代理をしている」
「ごほおっ、ごほおっ……ローレン、儂はまだまだ生きるぞ。ほぉ、あなた方ですか。こんなお見苦しい姿で話すことを許してくだされ」
「気にしなくていいですよ。それで、私たちに何かお話があるんですか?」
布団から出てこようとする老人にローレンが手を貸す。
直ぐ近くには背もたれに出来るような物が置いてあって、ローレンはそれを老人の背中付近に置く。
「ごほおっ、ごほおっ……ごほおっ! ……ほぉ、こりゃまたお美しい人。して、あなたがお三方のリーダーかな?」
「まあ、そんなところだ」
「なるほど……そこの子は見れば獣人かな? 儂ももう目が悪くてのう、ちと、こっちに来てくれやせんか?」
セシルは相変わらず人見知りが発動していた。
俺の後ろにずっと隠れていたが、老人がそう言ったからか恐る恐るといった様子で出て来た。
「ほぉ……獣人の子もとうとう来てくれたのか。何十年ぶりじゃろうな、ローレン」
「私も見た時は驚きましたよ。失敬。昔ね、この村に獣人族が訪れたことがあったんだ」
「ほんと?」
セシルが興味深そうにそうローレンに聞いた。
「懐かしい話じゃな。その事も話そう。ローレン、そこの扉を閉めてくれやせんか」
ローレンは開いていた扉を閉める。
「この七星村は」
老人が古い天井を見上げて話始めた。
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