130 / 251
第130話 女勇者の憂鬱
しおりを挟む遺跡を離れてセシルの待つ場所へ急いだ。
人間1人背中に乗せて走ると、普段出してる速度も出やしない。
「シン、もういいわ降ろして」
周囲の気配を確認する。背後にメアを攫った奴らの姿は見えない。
メアを地面に降ろした。
「……シン、私」
「無事で良かった」
先ず、メアが連れ去られた理由はどうあれ、無事だったことを言葉にして言いたかった。
セイクリッドの街で何かの縁で出会ったわけだが、今まで共に旅をして来た仲間が傷一つなく戻って来た。
「……うん。私の油断だったわ、ごめん」
「メアが謝る必要なんてない。まあ、連れ去れた後のことは気になるから話してほしいけどな」
「分かってる……そういえばセシル! セシルはどうしたのよシン!」
良かった、元気が戻ったようだ。
セシルに待機するように言っていた場所を指差した。
「何処? いないじゃない! セシルー!」
メアがそう言葉を出すと、暗い森の茂みの中からひょこっと顔を覗かせる獣人が見えた。
セシルもほっとしたようで、メア、メアと言葉大きく聞こえて来る。
「あの籠手……」
渡してしまった籠手をどうするべきか。
ウォールノーンで爺さんは過去、魔王と対峙した者が使っていた籠手だと言っていたが。
まさか、あいつら……
可能性はゼロではない。魔王の城を目指すことがいくら世間からは馬鹿げていると言われていても、其処を目的地として旅をしている連中は俺たち以外にもいることだろう。
ただ、正直なところ言ってしまえば誰が魔王を討伐しようと同じこと。
この魔物時代の終焉が訪れるなら、より魔王を討伐したい者たちが先行すればいい。そして、魔王討伐が現実となったのならば、魔王の城に眠る秘宝のことも世の明るみに触れることだろう。
だが、この長い長い旅路をして来て、魔王という奴がどんな存在なのか正直見てみたい気はする。
初代の魔王は魔竜を遥かに超える大きさだったと古書には記されており、次代の魔王に関しては巨大な体躯、六つの手それぞれに巨槍を振り回していたと言われている。
「何ボサっとしてんのよ。私たち魔物討伐依頼の途中だったでしょ?」
「ああ」
エルピスの街に住むコンセット夫人から引き受けた魔物討伐を忘れてたわけではない。
奴らのリーダーだと思われるレドックが欲しがっていた籠手。みすみす渡してしまったのはやむを得なかったが、今、また奴らの元に行って籠手を取り返すというのは利口な考えではない。
一度連れ去れたメア、そしてセシルがいる状況。
再度誘拐犯の元に連れて行くわけにも行かない。
それより、先ずは魔物討伐依頼のあった七星村へ。
北東に進んで着いた遺跡の位置から考えると、七星村へは南東方向へ進む必要がある。
余計な出来事はあったが、俺たちは本来のコースである七星村へ歩みを進めた。
◇
七星村へ向かっている最中、メアがダークリーパーに連れ去られた後のことを聞いた。
血の契約、ダークリーパーたちはそれによってレドックと従属関係にあったようで、俺たち3人を森の奥で待ち伏せしていたとダークリーパーに連れ去られた当の本人は話す。
ウォールノーンで籠手を得てからエルピスの街を出るまで隙を待っていたと話すのは、ダークリーパー共に指示を出した張本人であるレドックだったそうだ。
ウォールノーンでは多くの他の勇者たちの目もある、エルピスの街へ辿り着くまでの草原は見晴らしもよく奇襲には不向き、そしてエルピスの街ではまたしても勇者たち。
俺がレドックたちの気配に気付けなかったのは不覚中の不覚。
そうして待ちに待った好機、エルピスの街を離れた先にある森での待ち伏せ。
メアはダークリーパー共と黒い異空間を通り抜け、レドックたちの元に来てしまったのだという。
黒い異空間、それはレドックが持つ能力だそうで、やたらと自慢げに話していたそうだ。
「にしても、その異空間。便利な能力だな」
「馬鹿! 関心してる場合じゃないでしょ! おかげで私、1人で敵3人の相手していろいろ聞かれたのよ!? そこんとこ分かってるの!?」
「まあ、無事だったから良かったじゃないか」
メアはムスッとしてそっぽを向いてしまった。
「……心配じゃ、なかったの?」
メアは俺に背を向けたままそう言った。
「心配だったよ。でもこうして無事に俺とセシルの元に帰って来たんだ。それでいいんじゃないか?」
何をされ、何を聞かれたのか。仮に俺がその質問をメアにしたとして、本人の気が晴れるならいくらでも聞いてやる。
「……そうね、分かったわ。ーー何よセシル」
セシルが前を行くメアの顔を覗き込んだ。
そしてメアの手を握る。
「よし、さっさと七星村に行くぞ」
こんな呑気に歩いていては、また、いつ何処で魔物が襲って来るか。
森にいるのはダークリーパーだけじゃない。観察眼には魔物のステータスは表示されていないが、ずっと観察眼を使っているわけにもいかない。
進む道はまだ先、南東。
フィラによれば七星村は強固な塀に囲まれた村のようだ。
魔防壁はないが、弓矢を扱う技術は高いらしい。
弓矢で魔物に対抗、七星村の村人たちは交戦的だ。
魔防壁の張られていない、さらに国の兵士たちの護衛もない、そうした村はおのずと自分たちの力で魔物と対抗しなければならない。
剣、槍、斧、弓……使う武器は何であれ、村に残るということは魔物と戦うということ。
俺は過去の旅先の中で幾度なく村人たちが戦う姿を見てきた。
そのたびに何故、村を離れないのかといつも思っていたのだが話を聞けば納得出来るものがある。
自分たちが生まれた村、その村で死ぬなら本望。そんな言葉を言う村人が多いこと多いこと。
反面、命が最優先だと早々に街に避難する村人たちは残る村人たちに冷たい目で見られたり罵声の言葉を浴びせられたそうだ。
安全な街に移動した村人たち、そして今も魔物生息領域の村に住む人々。両者の違いをこうだと断定出来るものはないが、各々の考えがあった先の決断だったのだろう。
もちろん村には国の兵士たちが人々を魔物の手から守る為に派遣されることになるのだが、中には国に等価交換として差し出すものがないと断念する村もある。
国の兵士たちも鬼ではない為、等価交換出来るものを村人たちと話し合うそうなのだが、それでも提供出来るものはないと断念せざるを得ない状況の村もある。
そうした場合、国の兵士たちは残る村人たちを街へ移動するように説得を試みるようなのだが、村人たちが村に残る決心というのはなかなか崩れないそうだ。
そして今回向かっている七星村に残る住人たち。単なる魔物討伐依頼だけならまだしも、街へ移動しない住人たちがいる村へ行くというのは面倒ではある。
面倒というのは、魔物の脅威にさらされてまで村に残る人間というのは何らかの意思がない限りそうはしないはずだ。
そうして、そうこうしている間に塀が見えて来た。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね
カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。
本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。
俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。
どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。
だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。
ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。
かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。
当然のようにパーティは壊滅状態。
戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。
俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ!
===
【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)
九日
ファンタジー
*注意書あり
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。
死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。
が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。
食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。
美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって……
何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記———
*別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる