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第128話 森の中で……
しおりを挟む「移動してるのか?」
通信水晶体を通して感じる、メアが持っているであろう通信水晶体の魔力。さっきからさらに北東へ移動している。
「急ごう! あっ!」
セシルがスピードを上げた瞬間、直ぐにセシルの手を取り行く道を訂正した。
もう、しのごの言っていられない状況だ。
だが、それと同時にまだメアが生きている可能性が出てきた。
俺がそう思う理由ーー通信水晶体なんて街に行けば買えるし、そもそも初めに魔力を入れた張本人しか使えないもの。となると、魔力水晶体を持っているメア自身が移動しているということ。
通信水晶体は使用者本人が死亡しても、しばらくの間は魔力は保存されているが、間もなく魔力は消失する。
つまり、メアがダークリーパーに連れ去られてから既に20分以上経過していることを考えると、メアは生存している可能性が高いということ。
「セシル! そのまま俺に掴まるんだ!」
ダークリーパーに超移動出来る能力があれば俺もお手上げ状態。
魔物であるダークリーパーが生きたままの人間を誘拐して移動する理由が不明過ぎる上、魔物であれば直ぐに殺しそうなものだ。
ダークリーパーの生態を少しでも分かっていれば良かったとつくづく思う。
「んんんっ!!」
セシルが俺の身体に掴まった瞬間、速技+8を解放した。カディアフォレストで解放した速技より+1高いが、今の俺の勇者ランクは8。
セシルには身体への負担はあるだろうがやむを得ない。
メアが持つであろう通信水晶体の位置へと近づいていく。
後、だいたい300メートル。
体感して感じる距離は回り抜けの能力を持っていたから分かったこと。
回り抜けは相手の場所を能力者である俺が認識し、現時点では最大350メートルまで瞬時回り抜け移動が可能。
移動時間は距離の長さに比例して長くなるが、それでも5秒とかからない。
エルピスの街でフィラと速さ対決したのがこんなところで役に立った。
メア、今行く!
◇
「んん!! シン! 急!」
「悪いな。でも、やっと着いたぞ」
速技+7を解放した途端、あっという間にメアの通信水晶体があるだろう付近に着いた。
そこには隆起した陸地が幾つかあって見晴らしがいい。
視界の先にある建造物周辺は開けた場所になっている。
見える遺跡は明らかに人の手によって作られた建造物。
森の中にあった開けた場所に忽然と現れた遺跡からはメアが持つであろう通信水晶体からの魔力を感じる。
「セシル、飲んでおけ」
「これは何?」
「エリクサーだ。体力も魔力も全回復出来る」
エリクサー。
一つあたり、金貨1枚で買える超万能アイテム。勇者であれば必須アイテムだ。無論、一般人でも飲めるのだが、その効力をより感じられるのは体力も魔力もよく使う者だけだ。
小瓶の蓋を開け一口で飲み干す。
100ミリリットルは直ぐになくなる量。
消費した体力と魔力が回復していく。
「すごい、元気になった」
セシルが両手をグーパーと握り開き、確かめるように身体の具合を見ているようだ。
「これから何があるか分からない。また勝手な行動をするのは極力控えてくれよ」
メアに続いてセシルまで居なくなってしまうのは勘弁してほしい。
「うん。ーーこれは……何?」
「通信水晶体だ。念の為、セシルに渡しておく。握って、魔力を込めるんだ」
バタリアの街で買っておいた予備の通信水晶体をセシルに渡した。
今まで渡さなかったのはセシルが安易な行動に走らないようにする為だ。
まだ子供、通信水晶体を持っているからといって安心して、フラフラ何処に行ってしまうのを避けたかったからだ。
ただ、バタリアを出てからずっと一緒にいて、セシルには必要ないものだと俺自身が判断していた。
だが、突如仲間が居なくなる現実が起きてしまったこと、そして、セシルにもいつそれが起きるか分からない現状。
通信水晶体をセシルに渡さない理由がなくなった。
通信水晶体を握ったセシルは魔力を解放して込める。
セシルが手を開くと、そこには青く光った通信水晶体が徐々に光を失っていく。
「これでいいの?」
「ああ。離すんじゃないぞ」
「ぜったい!」
セシルは人差し指と親指で通信水晶体を掴んで、上げて目をまん丸くして見る。ビー玉ほどの大きさの通信水晶体、青い光を失ってしまえば、こんな暗闇の森に落とせば見つけるのに苦労する。
さあ、だらだら話している時間はない。
メアの持つ通信水晶体がある方角は……北東に約33メートルくらいか。
見る限りではメアは確認出来ない。
セシルが通信水晶体をしまって遺跡の方に向けて耳を立てて鼻をヒクヒクと動かしている。
「どうだ? 何か分かったか?」
「メアの……匂いがする」
その言葉を聞いてまずは安心した。
「……だけど、他の人の匂いも」
次にセシルのその言葉を聞いた時、やはりと思ったと同時に疑問も湧いた。
魔物が人間を拐うのは後でゆっくり食す為かただ殺す為くらいだ。それが魔物。だが、セシルの言葉を聞いた瞬間、驚きはしなかった。
「……そうか」
魔物がメアを攫ったその後に人間がいた背景。表面上は魔物が攫った事実には変わりないが、その裏で糸を引いていた人間がいることはセシルの言葉によって確かなものになってしまった。
だが、まだ確定情報ではない。この目で確かめるまで……だが、その時は覚悟してもらおうか。
何処のどいつだ、俺の仲間を攫った奴は。久しく、怒りの感情が湧いて来たぞ。
「セシルは此処に残ってくれ。俺1人で行くーー?」
行こうとした。その時、セシルが強く服の端辺りを引っ張った。
「どうして!? セシルも行くよ!?」
「……いいか、よく聞くんだ。もし、俺が1時間経っても戻らなかったら、セシル1人でエルピスの街へ戻れ」
そう言った俺の言葉の意図を理解出来ないのか、何も言わないセシル。
屈み、セシルを見上げるようにして見る。
「セシル、エルピスの街には誰がいる?」
そう言うと、はっとしたような表情を見せた後、セシルは頷いた。
「必ず、戻る」
そう言い残し、俺は遺跡がある方へ静かに向かった。
◇
「……古いな」
古代の遺跡だろうか、遠くから見た限りではその損傷は分からなかった。石で造られた遺跡は大きく欠けたところがあったり、苔がびっしりと生えている場所などが確認出来る。
夜中でもそれが分かったのは、満月の光が思いの外明るいお陰だった。
いつ造られたのか、森の中に遺跡なんて話は聞いたことがない。俺は考古学者ではなくもちろん勇者。遺跡に関する知識は持ち合わせていない。
虫も何もいない石の階段を登っていく。
上へ登るのはメアが持つであろう通信水晶体の魔力が上に感じるからだ。
登る階段は狭く、人1人やっと通れるくらい。この先、ちゃんと通路があるかも不明な階段をただただ登っていく。
息が詰まりそうだ。
まったく、今は魔物討伐依頼の為に七星村に向かって進んでいたというのに、狭い通路を1人登っているなんて本当に飽きない世界だ。
まあ、ものは考えようだ。どんな事が起きても躍起にならず出来ることをしていく。感情的に動いても解決出来ることも出来なくなってしまう。
時と場合によるが俺の経験上、感情的になって動くのはデメリットの方が多い。
狭い石の階段をようやく登りきって広めの場所へ出た。
「まだ上か」
メアの持つであろう通信水晶体の魔力はさらに上に感じる。
真っ暗ではあるが人間、目が慣れると見えてくる仕組みはこういう時に助かる。
上へ登れるような場所は……あるな。
今度は横幅が長い階段。一段一段も低い。
この先にメアがいることを祈りつつ、ダークリーパーの存在にも気を付けなければならない。レベルがいくら70台だからって、まだ生態がはっきりしていない敵に無闇に突っ込んでいくのは賢い選択ではない。
まだメアが連れ去られる前はそう、生態が分かっていなくても多くの魔物と戦って来た経験から苦戦はしないと勝手に思い込んでいた。
だがしかし、結果としてメアが連れ去られるという失態。俺の悪いところを挙げるとすれば、魔物に対して戦えるという自信。
あきらかに桁外れな強さを誇るボルティスドラゴンを含む魔竜は例外としても、その他、数十ほどの魔物を除いては難なく討伐して来た。
ただ、俺もこうして今振り返ると、雷虎の時もスカルエンペラーの時も助けられている。
フィラとメア、この魔物時代、女性は強い。
だが、今はそんなメアがいなくなってしまった。
生きていてくれ、そう強く願うことしか出来ない俺はまだまだ弱い。
駄目だ、こんな心持ちでいては助けられるものも助けられなくなってしまう。
メアは必ず生きている。願うのではなく信じること。メアは強い勇者だ。
横長の石の階段を一段一段踏みしめる度に、メアと出会った時からのことを思い出していた。
通信水晶体を強く握りしめる、感情の高ぶりを感じるのは俺としても意外なことだった。冷静沈着、それが俺の性格だと思っていたのだが、メアという仲間に出会って俺の中で心の変化があったのかもしれない。
「……誰かの声がするな」
メアの声かどうかはまだ分からない。ただ、人の声が遠くから聞こえるのは確かだった。
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