百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第127話 消えた女勇者

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速技を+6まで解放していた。

「どこだ!?」

だが、メアの姿はおろか五体もいたダークリーパーの影すら見当たらない。
ダークリーパーの速度は高く見積もっても速技+3ほどで追いつける速さだった。
道を間違えたのかと、振り返ったり左右や上などを確認する。

「クソッ! 何やってんだ俺は!」

自分でも驚いた。いつも側にいた仲間が僅か数分の間で居なくなったことで、自分への怒りで頭が沸騰していた。
セイクリッドでメアと出会う以前は生まれ育った村を旅立ってからずっと1人でいた。ただ、メアと出会って、そしてセシルと出会って、仲間の存在がどれほど大きなものか感じ取っていた自分がいた。
そんな仲間が突如として消え去り、この煮えたぎる怒りの矛先を地面を踏みしめることでしか抑えられない。
直ぐ側にいたにも関わらずメアを救えなかった俺。そして何よりメアを連れ去ったダークリーパー共への怒りの感情が沸いて出てくる。

「ダメか!」

全身を魔力放出だけが起こった。
俺の持つ能力である回り抜けは一度触れた相手ならいつでも発動することが出来る。
しかし、回り抜けは発動虚しく空回りしただけだった。

回り抜けの現時点での発動限界距離は369メートル。つまり、俺を中心としたその距離の範囲にはメアはいないということ。

「シン! こっち!」

セシルが俺を呼ぶ。

「何か分かったのか?」

少し落ち着いてきた。

「この辺りでメアの匂いが無くなってる」

尾を立て、何もない場所をしきりに匂うセシル。
ただの空間。周辺に森の樹々が立っているだけで、特に変わった様子は見られない。

「一か八か」

通信水晶体を取り出し、魔力を強く込めていく。
10、20……魔力の消費が激しい。

「何してるの?」

「少し黙ってろ」

「う、うん」

セシルの尾が下がった。
少しきつい言い方になってしまったが、多くの魔力を通信水晶体に使っている時は神経を使う。

俺が通信水晶体に魔力を強く込めている理由ーーそれは持ち主の居場所を特定する為だ。
通常、通信水晶体は持っている者同士の会話を可能にした便利アイテムだが、多量の魔力を消費することで片方の持ち主の位置を確認することが可能。
多量の、そう表現したのは通信水晶体の持ち主同士の距離によって消費する魔力も比例するように異なってくるからだ。
近ければ少なくて済む、遠ければ遠いほど多くが必要。単純な原理だ。

「いた」

一か八かが功を奏した。

「ほんと!?」

セシルの尾が立った。

「遠いけどな」

安心はまだしない。通信水晶体は初めに使用者の魔力を込めることにより使える。俺が今、通信水晶体に魔力を込めたことで、その初めの時の使用者の魔力を読み取ったに過ぎない。
つまり、使用者の生存確認が出来ない。

「行くぞ!」

「うん!」

目指すは北東。感覚的にはおよそ1キロ先。その辺りでメアが通信水晶体に込めた魔力を感じる。
あの僅か数分の間でそれほどの移動。
速さの概念を超えている。

頼む、生きていてくれ。ただそう願い、速技を解放して急ぐ。





速技を解放しつつ、襲って来る魔物を斬っていく。一撃で討伐出来る魔物はほとんどおらず、行く手を阻む魔物を流すように斬っている状態。
セシルは華麗な動きで魔物の出す毒針や刺の尾を避けながらも、スピードを尚保つ。
その間、俺は通信水晶体を通してメアに何度か話しかけてみたが応答は一切なかった。

メアがいなくなってからもう10分以上も速技を解放している。
握る通信水晶体から感じるメアの魔力の位置はまだまだ遠い。
セシルが言った、メアの匂いがとぎれた場所から何処か別の場所に移動したのだろうが、およそ1キロ先までの大移動、普通ではありえないことだ。

「セシルこれを飲め!」

疲れた様子を見せていたセシルに魔力ポーションを一瓶投げる。
セシルはそれをキャッチし、一口で飲み干したようだ。

「メアーー!!」

セシルの速度が上がった。
急ぐ気持ちも分かるが、飛ばし過ぎだ。
俺も魔力ポーションを飲んだ。
解放し続けていた速技により大幅に消費されたMPが回復する。

メア、生きていろよ。

手に握るアスティオンに力が入る。
先導するセシルはメアの居場所を把握していないはずなのだが、野生の勘なのだろうか、行く向きは合っている。

俺は間も無くセシルに追いついた。

「セシル、先先行きたい気持ちも分かるが俺に付いて来い」

「でも! でもっ!」

「分かってる。だけどな、此処でセシルもいなくなってしまったら俺はもっと困る。だから、ここは俺にしっかり付いて来てくれ」

こんなだだっ広い森で迷われたらそれこそ俺1人で2人を探す羽目になってしまう。いくらセシルに野生の勘があるのだとしても、正確な位置が分かっているのは俺。

「うん……」

セシルもメアが心配で心配でたまらないのだろう。

「よし。少し、スピードを落としておこうか」

そうしたのは、何も魔力ポーションが無限にあるわけではないからだ。
もしもの時、魔力を使えなければメアを助けられない状況だったなら元も子もない。

徐々にスピードを落としていく。

「シン、セシルずっと思ってたことがあるの」

「何だ?」

「セシルずっとシンとメアと旅をして来て迷惑ばかりかけて来た」

「……」

セシルが自分から何か思っていたことを言う。なんだろうか。

「だから、足手まといにならないようにもっともっと強くなりたい!」

「……何が言いたいんだ?」

セシルはもう十分に強い、なんてことはまだ言えなかった。セシルにそれを言ってしまえばそこで強くなることを放棄するとは思えないのだが、同時にいくらでも強い敵がいる背景があって言葉を選んだ。

「セシルに剣を教えて!」

俺の予想を超えた言葉だった。今まで肉弾戦しか見てこなかった為か、セシルはずっとそれでいくと勝手に思っていた。

「剣か……よし、いいだろう」

向上心があることは素晴らしいことだ。格闘技術に優れたセシルに剣。柔軟性に富んだセシルであれば剣の扱いを取得することもわけないだろう。

「やった! 絶対だからね! シン!」

またそうやってスピードを上げる。

セシルの横につく。

「1人で行くなって言っただろ?」

「ごめんなさい! セシル嬉しくって! シン、約束だからね!」

「……ああ、約束な」

二つ目の約束。
セシルと交わした一つ目の約束ーー捕まってしまっている獣人を助け出すという約束より先に叶えてあげられそうだ。

一つ目の約束も何も口約束だけで終わらせるつもりは全くない。
魔王の城に眠る秘宝を盗み出して、成功報酬としてシーラ王国から受け取った金貨を使えば捕まってしまってしる獣人も皆助け出せる金額ではあるだろう。
だが、それはギャンブル的な要素が高く、現実的ではない。

だから、俺はもう一つのやり方を残している。
それは、魔王の城を目指すという旅路の中で着実に勇者ランクもステータスも上昇していっている現実的なやり方。
討伐出来る高レベルの魔物も増えて来て報酬として受け取れる金貨も多くなって来ている。
俺はその金貨で獣人を買って解放する。どれほどの時間がかかるか分からないが、魔王の城に眠る秘宝を盗み出すよりかはかなり現実的だ。

そうして、着々とメアの魔力がある場所へと近づいていく。
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