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第112話 望みの街、エルピスへ
しおりを挟む湖に架けられた橋を渡り、正面の門が俺たちを迎えた。
「高~い!」
高くそびえ立つ門は情報街ブルッフラの門を遥かに超える大きさ。
ただ門ではあるが閉まることがないのは、いつ何時もエルピスの街へ遥々やって来る人々を迎える為。何人たりとも拒まず、たとえ犯罪者だろうと服役を終えればエルピスの街は迎えてくれる。
俺が初めてエルピスの街に来たのはまだ勇者ランク2の頃だった。その頃はまだ街とは呼べず湖もなかった。
ただただ荒野が広がっていた地にポツリと築かれたギルドーーウェストランドを中心に出来た街。
僅か1年足らずで出来た街は日を追う毎に真新しい建造物が建てられていった。
その間、エルピスの街は人々を呼び、そしてまた人々は安住の地を求めてエルピスの街にやって来る。
門を抜けると十字になる道。
「2人とも、まずギルドに行っていいか?」
「いいけど、私先に身体洗いたいのよね。バタリアを出てからずっと洗ってなかったから。セシルもおいで」
男の俺は1週間程度なら風呂に入らなくても平気だが、女であるメアはやはり気にするのだろう。セシルはどうだろう。獣人は人間のように風呂に入る習慣はないと聞いているのだが。
「セシルはシンについて行く。メアは1人で行って」
どうやら、話で聞いた通りのようだ。
セシルが着ている服は旅の途中で汚れ、毛にも若干の汚れが見られる。
「そう……じゃあ合流場所はあの建物にしましょ。目立つし、ちょうど良さそうじゃない」
そう言ってメアは赤と黄が織りなす奇抜な建物を指差す。
「分かった。そうだな……今から2時間後に落ち合おう」
「ラジャ、ちゃんと遅れずに来るのよ~」
走り去りながらそう言うメア。よほど、さっさと身体を洗い流したいのだろう。
さて、俺はセシルとエルピスの街のギルドへ行くとしよう。
「セシル行くぞ」
「……うん」
セシルが両耳を立てて、背後にそびえ立つエルピスの街の巨大門の方を向いていた。
さすがセシルだ。この巨大門がただの巨大門ではないことに気付いたのだろう。
「気になるか?」
「うん。なんだか、この門怖い」
野生の感だろうか、そう感じるセシルの直感力は底が知れない。
「はは、怖いか。ーーまあ分からなくもない。歩きながら話そう」
俺とセシルはエルピスの街のギルドへ向かい歩き始める。
セシルが気になったエルピスの街の巨大門、それは向かいにも同じものがある。
エルピスの街は湖の真ん中にあり、街と隣接する形で橋がかかっている。
そして橋とエルピスの街の隣接付近には巨大門が立つ。
それは俺たちが入って来た場所の他に、ちょうど反対側にかかる橋とエルピスの街を繋ぐ隣接付近にもある。
エルピスの街と言えばこの巨大門、それほど有名な門だったりする。
元々荒れ果てた地だった場所を新地にして築かれたギルドを中心とし、人々が集まって来る時期に合わせるようにエルピスの街は広がっていった。
当初は俺とセシルが今歩いているエリアしか無かったのだが、後々建てられることになる巨大門のおかげで人々からの信頼も得て、シーラ王国の隣接街セイクリッドに次ぐ安心安全な街の地位を確立した。
「セシル、もしだぞ? 初めて俺とセシルが会ったバタリアの街と、セシルの仲間が居る場所を繋ぐ扉があったらどうする?」
「嬉しい! そんなのがあったら、セシル直ぐにでも入りたい!」
セシルが目を輝かせるようにして言った。
「だよな。じゃあ、あの背後の門を見てどう思う?」
「……もしかしてそれなの!? 仲間に会える!」
勢いよく巨大門の方へ走り出しそうとしたセシルの肩を掴む。
たとえで言ったつもりだが、俺の言い方が悪かったのか。
「セシル、そう言うことじゃない。いや、そういうことなんだが……」
セシルに分かるように適切な言葉を考える。
「つまりだセシル。あの巨大門があるおかげで、国の兵士たちがこの街に簡単に来れるんだ。街に住む人たちは安心して暮らせる、それがこのエルピスの街」
その通りのことを言った。
「本当!? すごいな~、人間はそんなことまで出来るんだ」
また、背後の巨大門の方に振り返るセシル。
「一部の人間はな、本当に探究心の塊なんだ。あの巨大門も、この街の外側にある湖も、探究心溢れる人間によって生み出されたんだよ」
エルピスの街に二つある巨大門、そしてエルピスの街を囲うようにしてある巨大な湖。そのどちらも一部の人間の追求していった先の探究心から生み出されたもの。
「へえ~、人間って頑張り屋さんなんだね。セシル見直しちゃう」
「頑張り屋さんか……まあそうだな」
頑張る、という表現が正しいかどうかは分からない。魔物から人々を守る為にエルピスの街の巨大門も外側にある湖も作り出された。
頑張るというよりかは探求者の使命に近かったのかもしれない。
そうしてまだ遠くに見えるエルピスの街のギルドも、一歩歩く毎に距離は縮まっていく。
◇
エルピスの街のギルドは小規模体勢。
ギルドのオーナー、その他数名の補助しかいない。俺が勇者ランク2の時はそうだったが、今はどうだろう。
「ーーだよな! 何たってアイツは……シン?」
向かいのテーブルの男と何かを話していた男は、俺がギルドウェストランドに入るなり気づく。
「ワグナー、久しぶりだな」
肩ベルトにナイフが3本、両腰には2本の長剣のスタイルは相変わらず変わっていない。
刈り上げた髪型がワイルドな勇者。
「やっぱりそうか! 変わってないな! ……で、その獣人は?」
「旅仲間だ」
「こ、こんにちは」
俺の背後に隠れながらセシルはそう言った。
「えらく警戒されてるな」
「ワグナーの顔は恐えから。こういう時はスマイルスマイル」
にっと笑う男は金髪の美少年。だが、セシルはさらに俺の背後に隠れた。
その様子を見て爆笑するワグナー。
「お前も警戒されてやんの! なあシン、そんなとこ突っ立ってないでこっち来て話そうぜ? あの時は確か勇者ランク2だったよなあ、懐かしいぜ。旅の土産話でも聞かせてくれ」
「悪いなワグナー、その話はまた今度する。それより、フィラはいるか?」
俺がウェストランドに来た理由ーーそれはバタリアの西、庭園と呼ばれる森林の手前にある荒れ果てた原っぱでセシルの戦闘力をみていた時が発端。
何も世間話をしに来たわけではない。
「かーっ! 連れねえ奴! 久しぶりに来たと思ったらまさか獣人なんて連れて……。フィラは時期に帰ってくるよ」
「人助けか、まだやってるのか?」
「おうよ。それをしないと落ち着かねえんだと」
俺がまだ勇者ランク2の時もそうだった。雷虎に襲われて絶体絶命の時、助けてくれたのがフィラだった。
『人助けは私の生き甲斐なの』
フィラはいつもそう言っていた。
エルピスのギルド、ウェストランドのマスターにして尚且つフィールドへ出て人助け。
そのせいでウェストランドを空けることが多く、勇者が受付をやっているギルドなどと言われることが多くなった。
それは今も健在のようで、現に明らかに受付嬢ではない女が受付にいる。
「フィラらしいな。セシル、俺は少し此処に用があるから、メアのところに行ってるか?」
ぶんぶんと首を左右に振るセシル。
「そうか。ワグナー、時間が出来た。旅の土産話でもしよう」
「そう来なくっちゃな! 座れ座れ!」
ワグナーは椅子を二つ引く。
そうしてウェストランドのマスターが帰って来るまでの間、結局俺は旅の土産話をすることになった。
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