百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第125話 魔物討伐依頼

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「フィラ連れて来たよ」

ウェストランドに戻って来るとフィラの姿はあったがワグナーの姿はなかった。

「ご苦労様。皆んなこっち来て」

そうフィラに呼ばれ、待つテーブルに向かう。
エルは来ないようで、二階に続く階段へ登って行く。

「それで、何の話だ?」

「うん。話って言うのはねこれ」

そう言って、フィラは一枚の紙をテーブルの上に置いた。
そこには直筆だと思われる文字で、数行ほど書かれている。

その紙を手に取り読んでみる。

『いきなりのお手紙を失礼します。私はエルピスの街の第三区画に住んでいる、コンセット=ブラウンと申します。そして、今回こうしてお手紙を差し出したのは他でもありません、魔物を討伐してほしいからです』

「魔物討伐依頼か」

基本、ギルドに来る魔物の討伐依頼は直接言いに来ても構わないし、こうして手紙を出して伝えるのも構わない。

続きを読んでいく。

『私にはエルピスの街の東にある七星村というところに一人息子が居ます。本当は息子も私と一緒にこのエルピスの街に来て欲しかったのですが、どうしても村を離れたくないそうで言うことを聞きません』

「ずいぶんわがままな息子さんね」

俺の隣で手紙を見ていたメアがやや呆れた口調でそう言った。

「そうだね。でも、今まで住んでいた村を離れたくない理由は当の本人しか分からないから」

「そうだけど……自分の母親を心配させるのは私としてはどうかと思うけど」

手紙の続きを読んでいく。

『それに、七星村にはいつもこの時期になると決まって白い翼を持つ魔物がやって来ます。今回の依頼はこの魔物を討伐して欲しいのです』

「白い翼の魔物?」

心当たりを探してみる。

「ねえ! セシルにも教えて!」

そうか、セシルは人間の文字を読めないのか。

メアが読んだ内容をセシルに伝えている。

「ライトイブリース、光の悪魔と呼ばれる魔物のことよ」

フィラがそう説明する。

俺が知らない魔物だ。

そしてその後の手紙の内容としては、七星村に行った時可能であれば息子にエルピスの街に来るように説得してほしいというものだった。しかも魔物討伐報酬とは別に報酬も出すと書いてあった。

フィラに手紙を返した。

「俺は行ってもいいぞ」

魔物の討伐、それによるステータスの上昇、総討伐数のカウント。それに、まだ黒の紙に記録されていない魔物情報の更新。
どんな魔物かという興味本位もある。

「私も行くわ。それでその七星村に着いたら、コンセットさんの息子さんに会ってわがまま根性叩き直してやるわ!」

気合十分、そういった感じでメアは言った。

「セシルはどうしたいんだ?」

セシルならここで自分も行くと直ぐに言い出しそうなものだったが、何故か言って来なかった。

「行く……行くけど……」

セシルが自分の腹を押さえつける。

「何だ? 腹が痛いのか?」

ウォールノーンの一件があったから、セシルの行動に慎重になってしまう。

「違う。セシル、セシル……あっ!」

その時、腹の音が大きく鳴った。

「あらあら、お腹空いていたのね」

「うう~」

セシルが恥ずかしそうに頬を赤らめる。

「そうね、そろそろ夕飯にしましょ」

昼食を取ってからもう随分時間も経っていた。

「だったらここで食べていったら? 私、もっとシンちゃんたちの話も聞きたいから」

「フィラさんとお食事!? はい! お願いします!」

テンション高く、メアが喜ぶ。

そりゃ、フィラのファンと自称するほどだったらさぞ嬉しいだろう。
まだ夕飯には早い時刻だったが、ウェストランドで提供されている食事を取ることになった。





ウェストランドで提供される食事は素朴な味わいで、街の飲食店ではないようなものだった。

「フィラ、あの2人もウェストランドの人間なのか?」

「ええそうよ。本当はね、私1人でウェストランドの運営をしたかったのだけれど、やっぱり厳しいものがあって」

俺たちがいるテーブルに料理を運んで来た人間ーーエプロン姿に白の長袖に蝶ネクタイ。表情も固く、ただ用意した料理をテーブルに並べていた。
そしてもう1人、黒のジャケットにチェック柄の服を内に来ており受付に座る者。どちらも女性。

「物静かな人達ね」

というのも女性は何も言わずにテーブルに持って来た料理を置いただけ。受付の女性に限っては、このウェストランドに着いてからずっと居てまるで置き物のように座って、たまに受付に足を運んだ勇者に話している様子を見るくらい。

「彼女たちはこのギルドに働きに来ているのよ。昔は、私と仲の良かった人達で運営していたのだけれど、エルピスの街がソフィア王国によって完成した時、正式に就業出来る人達をこのギルドへ送ったの」

「なるほどな。このギルドも昔と違ってちゃんとギルドしてるってわけだ」

俺が勇者ランク2の時に来た頃は、受付の人間も途中で抜け出すような状態だった。
ただ今にして思えばよくそれでギルド運営が成り立っていたと不思議に思う。

「そうそう、そういうこと……って! ……でも、事実そうなのよね。ソフィア王国も自由運営体制を続けるつもりなら即刻ギルドを停止させるって言われたの」

「まあ正論だな」

そもそも、ギルドは国の管理下にあり、何処の国の管理下でもないバタリアのギルドでさえシーラ王国の管理下にある。
ウェストランドがソフィア王国の管理下になるまで、自由運営がまかり通っていたのは少なくともギルドとしての役割を果たしていたからだろう。

その時、大あくびをしながらまだ眠たそうにして2階から降りて来た勇者が1人。

「シン、来てたのか」

「ああ。ワグナーはこれから仕事か?」

伸びをして首元を鳴らし、ワグナーはどかっと椅子に座った。

「そうだよ、ナイトウォーカーの夜は長えぞ」

どうしてワグナーがナイトウォーカーをするのか。俺がまだ勇者ランク2のウェストランドに居た時に聞いたことがあった。
それは単に彼のライフスタイルがあっていたそうで、日中の眩しい時間帯より夜中日が沈んだ時間帯に活動する方が好きなのだそうだ。

「エルは行かないのか? パートナーなんだろ?」

ワグナーがナイトウォーカーとしてフィールドへ出る時、数名のチームを組んで魔物討伐に勤しんでいると聞いた。
そしてその時常にいるのがエルだそうで、俺がワグナーと出会うよりずっと以前から相棒的存在だったようだ。

「あいつはまだ寝てるんだとよ。まあまだ行くのには早いし、連日の夜勤勤務だ、寝足りないんだろうな」

内ポケットから葉巻きを取り出して銀色に装飾された外観のライターで着火する。

「そうか……」

俺が初めてエルに会ったのはワグナーと会った時と同じ時。それからずっとナイトウォーカーをしているのもワグナーと同じ理由なのだろう。ただ、エルの持つ武器が夜に適したものだからというのもあるだろう。

「それで皆んな、依頼のことなんだけど、出来れば今夜にでも行って欲しいの」

「おっ! なんだなんだ? シンもいよいよナイトウォーカーデビューかよ?」

「違う、魔物討伐依頼があったんだよ」

いきなりではあるが、魔物を討伐するのに早いに越したことはない。

「だったら今すぐ行こう! セシル、もう魔物にやられる人を見たくない!」

セシルは今朝あった事を気にしているのだろう。

「セシル……そうね。早く行ってそれだけ村の人たちを救えるなら今すぐ行った方がいいわね」

「決まりだ。フィラ、村の正確な位置を教えてくれ」

「皆んながそう言うなら分かったわ。少し待ってて」

そう言ってフィラはその場を離れる。

そんな様子を葉巻きを吸いながら見ていたワグナーの視線の先ーーメアを見ているようだ。
ワグナーはメアの過去の一件に関係している人物。自分が魔人の手から逃がした勇者が目の前にいて何か思うことでもあるのだろう。

その後フィラがフィールドの地図を持って来て、今回、魔物討伐依頼があった七星村の位置を確認した。エルピスの街を出て約1.3キロほど東、其処に七星村がある。

そうして、予備の回復薬と即効性のある毒消、その他、必要最低限の道具を仮宿泊施設まで取りに行くことになった。

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