百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第123話 勇者VS犯罪者

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エルピスの街の第二区画、四番街あたりをうろうろしていた。

そこで犯罪者に関する情報を聞く為に雑貨屋に入ったのだが、奇怪な形をした何かの生物の骨の置物が目についた。
お洒落に色付いてはいるが、骨特有の空洞感、硬さ、そういったものからも分かったが、店主も何の骨かは分からないという。

「本当にいるのか?」

店主からは犯罪者は居るかもしれないし居ないかもしれないと中途半端な回答を得た。街の飲食店で聞こえた男たちの会話も不確かな内容だったが、フィラはA級犯罪者であるドララキスがエルピスの街に潜伏していると言っている。

それに俺が犯罪者を追う理由は何も正義感気取りやボランティア精神から来るものではない。
確かに正義感的なものもあるが、あくまで俺はその先のことーー犯罪者を捕らえて情報を聞き出すことにある。
犯罪者たちは世間一般で言われている常識とはズレた価値観を持っていることが多く、その為に法律に違反する行動をとってしまうのかもしれない。
何より犯罪者たちの多くに共通している貪欲なまでの情報収集。情報マニアと呼ばれるのは何も情報屋だけではない。
しかも奴ら犯罪者たちが得る情報の中には本家の情報屋が金を払ってまで仕入れるほど価値があるのだそう。
情報屋が犯罪者たちから情報を買うことに違法性はないのだが、それを販売するのは当の情報屋の責任となる。
だがほとんどの場合、犯罪者たちから買った情報は確かなものだそうで、だからこそ情報屋は情報収集ルートに犯罪者たちを入れている。
そこで何故犯罪者たちが情報収集をするのかという疑問が湧くが、単に魔物討伐より低いリスクで高利益を得られるからだ。
犯罪者たちの多くは兎にも角にも少ない労力で高利益を得られるかを模索しており、情報の売却は合法的なもの。
ただもしその情報の信憑性が無かったり嘘だという場合、そもそも犯罪者たちが持っている情報を買おういう情報屋はそういないだろう。が、現に犯罪者から情報を買う情報屋がいるということは少なくとも信憑性のある情報だということだろう。

そして犯罪者たちが何故犯罪者と呼ばれるのか。それは国の法律に違反したことをやってしまったことに他ならず、勇者職業と形は違えど地上に生きる同じ人類には変わりない。
しかし中にはこの魔物時代に気が狂ったのか本当の罪を犯してしまった者ーーA級犯罪者であるドララキスのような奴もおり、世界の国々にしてもやはり犯罪者たちを野放しにすることは出来ないようだ。

「なあアイツ見てみろよ、まじウケるんだけど!」

「ブフッ! なんつー格好してやがる!」

髪を遊ばせた若い青年2人が俺の横を通り過ぎるなりそう言った。
俺の歩いている反対側通路を見て言ったようだ。

「今日の~、夢を見るのは~、誰の言葉~。それとも~、君は~、夢を見たくないかな~」

失笑を堪え、青年2人は足早に走って行く。

どうも広い街に来ると変わり者がたまにいる。
音痴なメロディでわけのわからない言葉を使っていたのは、紫色のハットに丸い黒のサングラスをかけた男。正装姿をしているが、ハットとサングラスがそれをおかしくする。

こういう奴には関わらない方が賢明だろう。

鼻歌交じりにハットとサングラスをした男はバックから折りたたみ椅子を取り出して広げて座り、おもむろに取り出したのは画用紙とペン。
被っていた紫のハットを取ってその場で一回転させて、それを裏返した状態で地面に置く。

何事かと街行く人々が見ている。
そして満面の笑みをする男。
なるほど、見た感じ絵描きのようだ。

するとしばらくして1人の老婆が男の方へ行き、男は笑みを崩さないままペンを動かしていく。
鼻歌がまた聞こえ始め、随分楽しそうに描いているようだ。
その後、ものの数分で描き終わったようで描いた絵を老婆に渡す。

「とんでもありません! 私こそ描かせていただいて感謝感謝感激です!」

老婆がお礼でも言ったのだろう。紫ハットの男の声だけが聞こえた。その後、また次の客……次の客が紫ハットの男の元に行く。どうやら、割と人気のある絵描きのようだ。
客は機嫌良さそうにして逆さに置かれた紫ハットの中へお金を投げ入れて行く。こうした商売は個人のスキルがものをいう為、ある種彼は才能を生かした職業に就いているようだ。

……ただ、その様子を遠くで見ていたのだが、絵を描いてもらっている客が何かを受け取るような素振りを見せていた。
流石に距離が離れ過ぎており確認することが出来なかった。
そんな様子を気にしながら少しばかり眺めていた。

「グフ、グフフフフ……今日も儲けた儲けた」

小さな声で紫ハットの男は言った。
俺は紫ハットの男の近く、樹の裏に移動していた。紫ハットの男は嬉しそうにニヤけながら紫ハットに入った金貨銀貨をじゃらじゃらと握り締めている。中には金貨札や銀貨札も見える。
金貨札とは一枚で金貨5枚分の価値があり、銀貨札は一枚で銀貨5枚の価値がある。ただ、金貨や銀貨は金属の為、量を持ち過ぎるとやはり重くなる。札はそれを解消出来る。
客が来たのは5人。絵描き代としてお金を渡すのは問題ないだろうが、2人の客が渡したお金の量がやけに多かった。ただの一枚絵に金貨を5枚と6枚。
有名な描き手なのだろうか。

「また客か」

紫ハットの男が客から受け取った金貨銀貨を鞄の中に収めていると、1人の男が近づいて行く。

「おい、ドララキス。こっちの商売は儲かっているか?」

そう言った男は黒のズボンポケットに両手を突っ込み紫ハットの男の前に立つ。

「……あいつがドララキス」

俺はドララキスの姿を見たのは初めてだった。紫ハットの男ーーその男がまさにドララキスのようだ。

「こっちってどっちのこと言ってんだ? これか? それとも……おっと危ない!」

「……お前、自分が犯罪者っていう自覚あるのか? こんな公衆の面前でよくもまあ絵なんて描けるよ」

「絵も好きなもんでね。それにブツを渡すには好都合な上、兵士たちも対して気に留めない」

「なるほど、逆手にとったやり方ってことか」

2人の男たちの会話からして紫ハットの男はA級犯罪者ドララキスで間違いないようだ。

「……グラッドさん、少し離れてください」

ドララキスが立ち上がった。

「これは……っ!」

俺の隠れている樹を囲うように出現した鉄の鎖。空中でゆっくりと回っていたが急に樹を縛り付けるように一瞬で縮まった。
間一髪、俺は避けて距離を取る。

「おい! 派手な行動は目立つぞ!」

「分かってます。ただね、盗み聞きをしてた悪い子にはお仕置きしないとね」

払った紫のハットを被るドララキス。

「俺は知らねえぞ!」

グラッド、そうドララキスに呼ばれた男は一目散に去って行った。

「お前がドララキスか?」

「いかにも」

丁重な物言い、俺のイメージしていたドララキスとは違う。A級犯罪者というくらいだ、もっとこう、悪そうなイメージがあった。だが、目の前にいるドララキスは至って真面目な雰囲気しかしない男。

「俺は勇者。訳あってお前を捕らえる」

腰元のアスティオンに軽く触れる。

「捕らえる? 勇者が、私を? これは傑作!」

人が考える時によくやるような仕草、左手拳を口元に当て右手は左腕の肘を持つ。
A級犯罪者ドララキスは殺人罪で国から追われる身。
そしてこの国とはシーラ王国でありソフィア王国であり、決まった国の名を指しているわけではない。
罪、その重さゆえに何処何処の国だけが追っているというものではない。

「やってみるか?」

A級犯罪者程度、どうってことはない。

「……面白い! 私の能力を見て尚引かないというのですか! いいでしょう、かかって来なさい!」

随分自信満々なご様子だ。

ドララキスは両手を広げる。

そういうことならと、俺は問答無用に突っ斬った。

「これ、邪魔だな」

あっけなく懐入ったタイミングで一閃した。
だが、まるでバリアを張られたかのようにアスティオンは斜め上に飛び出して来た鎖に阻まれた。

「チェーンロック! そんな物騒な物振り回して危ないじゃないですか?」

アスティオンが無数の鎖に巻かれてしまった。

「犯罪者がよく言うぜ」

犯罪者が獲物を持っていないわけがないだろう。
それにドララキスは勇者でこそないが武器の使用には長けた人物だとも聞いている。

ドララキスは俺が言ったことが気にくわなかったのか、片眉を上げて不機嫌な表情を一瞬だが作った。

「おっと私としたことが……いけません、私は人々に笑顔を与える絵描き。あなたに一つ言っておきます」

「そんなことはいい。この鎖を解け」

今度は両眉を上げて驚いたような表情を作ったが、頭を左右に振り微笑した。

「鎖を解く前にあなたに聞いてもらいたい。私はですね、それは確かに世間で言われている犯罪者であることには変わりありません。ただですね、それはもう過去のお話。今の私はそう! 絵描き! 絵描きになったのです!」

「……だから、俺にどうしろと?」

「……だからですね、既に犯罪者を捨てた私を捕らえるのはお門違いということです。身勝手極まりないことを言っているのは重々承知です。ですが私はもう! 絵描きとしてやっていきたいのです!」

犯罪者とは随分強引な考え方をするんだな。そんな道理、通用するはずがない。

「お前が絵描きになるのは自由だ。だがな、犯罪という罪があるお前をこのまま野放しにするわけがないだろう。兵士たちが捕まえられないなら俺が捕まえる、それだけのこと!」

アスティオンを縛っていた鎖が弾け飛んだ。

「私の鎖を!? な、なんてことを!!」

停止状態からの斬撃はいわば裏技的なもの。会話の最中、徐々に流していた撃技のエネルギーは一定時間解放されなければ強制的に物質の特性に変換され放出される。

「お前が縛るから悪い」

「クッ!! ……いえ、それは最もです。仕方ありません、ここは……」

何する気だ?
と先制で斬撃を飛ばした。

「鎖の柱!?」

突如として地面から現れたのは、ドララキスを囲うようにして空に上がって行く無数の鎖。
その無数の鎖によって俺の斬撃は止められる。

「またいつの日かお会いしましょう!」

鎖の隙間から僅かに見えるドララキスから聞こえる声。その後、空に向かっていた無数の鎖が途切れ下が見えた時、既にドララキスの姿はなかった。

「消えた……」

ドララキスの姿がなくなった後、空に向かって伸びていた無数の鎖も消滅した。

結局、犯罪者ドララキスを捕らえることが出来ず、その場を後にするしかなかった。

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