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第121話 知る者
しおりを挟むエルピスの街に戻ってからはギャラリーが寄ってたかってフィラの元に行き勝敗を聞いていた。
そして俺が勝ったと分かった途端の様子と来たら、まあ嘘だのインチキを使ったなどと罵られた。フィラが事情を説明してくれなかったらその後何を言われたか。
間も無くしてギャラリーは去って行ったのだが、残るのは見覚えがある2人の男。
「俺たちを差し置いて仲良く勝負かよ! こちとら犯罪者探してたのにってよ!」
不機嫌、その言葉が見事に当てはまる様子をするのはワグナー。
「メアさん! 良かったら僕と是非、愛の勝負をしてみませんか!」
相変わらずメアに絡んでいこうとするエルは、意味の分からない発言をする。
メアは引き、エルとの距離をとる。
「エルやめて、メアちゃん嫌がってるよ。御免なさいね、うちの勇者、ちょ~っとおかしなところあるから」
ちょっとどころではない。俺が勇者ランク2の時にあった時のエルは凛々しく、それでいて美少年、街へ出ればたちまち人気者。それが今やどうだ。まるで運命の人に出会ったかのようにメアの前で片膝を付き手を差し出す。見ていられない。
「え、ええ、そのようですね」
エルという人間が少し分かってきたのだろうか、メアはまだ表情をやや引きつらせたままそう言った。
「……やっぱりな」
そんなメアを見て1人不思議そうな様子で見る男が1人。
「どうかした?」
「いやなフィラ、俺はどうもあの時の事を思い出しちまう……覚えているか? 昔、俺のチームが魔人の手から1人の勇者を逃したって話をよ」
「そんなの忘れるわけないじゃない! 死者が出たのよ! ……まさか……嘘……」
フィラが口を手で覆ってメアの方を見る。
「ワグナー、何の話をしてるんだ?」
話が見えないが、話の流れからするに過去ワグナーが魔人の手から逃した勇者がメア……そう言えば、メアの過去を全く知らない。
勇者として1人旅をしていた、俺と同じ状態だった、そのことしか聞いていない。
「メア! 何処へ!? シンどうする!?」
メアが何も言わずに場を去って、セシルがそう言った。
「……ひとまずそっとしといてやろう」
こんな広い街の中だ。それにA級犯罪者が分かっているだけで2人もいる街。A級犯罪者程度勇者ランク6のメアにとってはどうってことないだろうが、危険はいつどこでやってくるか分からない。
そんな状態の街に1人行かせるのは心許ないが、話の状況からしてそっとしといてやりたい気持ちがある。
「でも!」
「様子を……いや、メアのこと頼んだぞセシル」
大きく頷いたセシルは勢いよくメアの元に向かった。
「いなくなって正解かもな」
「私もそう思うよ。ワグナー、もしあの時の子が彼女ならシンちゃんがそれを知らずに一緒にいるのはどうかって思うの。勝手に彼女の過去を話すのは気が引けるけど、シンちゃんには知る資格がある。私が彼女の立場だったら同じ仲間として知って欲しいって心の中で思ってるはずよ」
「そんな強引な考え方があるかよ。……しかしな、俺もそれには同意見だ」
メアの過去……今まで興味がなかったわけではない。メアが話さないなら無理に聞く必要はないと考えていた。
「聞かせてくれ」
それでも同じ旅をする仲間としてどういう心境を持っているのか、過去のメアについて理解したい気持ちがあった。
◇
人が過去を話さない理由は様々ある。
それは知られたくない過去だったり、話すことによって自分の立場が不利になる可能性がある場合など。
もしくはあえて言わないで何か謎めいた過去を持っているのではないかと相手に思わすような場合もある。
「……メア」
そして今回、ワグナーからメアのことについて聞いた話の内容としては前者だった。
俺の現在の旅仲間であるメア=ハート。まだ俺と出会っていない遠い過去の話ーー。
ワグナーがチームと共にナイトウォーカーとして夜のフィールドに出ていた時、メアと出会ったそうだ。
だがその出会いは悲惨なものだったそうで、ワグナーも話していて辛そうだった。
ワグナー率いるチームは騒ぎの元に駆けつけた時、1人泣いていたのがメア。メアは倒れ込む1人の女性を必死になって守ろうとしていたそうだ。
そんな状況下、そいつは下劣な笑みを浮かべて手から流れる血を舐めていた、わ
魔人。
ワグナーは直ぐにその存在に気付き状況を理解しチーム総出で魔人に挑んだ。
だが、ただ一体の魔人の強さは尋常なもので7人もの勇者がいて守りの戦いが精一杯だったそうだ。そんな中、息も絶え耐えに女性の元を離れないメアはお姉ちゃんお姉ちゃんと叫ぶ姿がワグナーの頭には強く残っているそうで、初めメアを見た時に直ぐに分かったそうだ。
倒れていたのはメアの姉で名をメル=ハートと言い、後に分かった当時の勇者ランクは5。
とてもじゃないがメアと2人で魔人を相手に出来るはずもなかった。
ワグナーはその場の離脱を考え、先に動けるメア1人を逃したという。
メアは姉のメルの元を離れようとしなかったそうだが、それでもワグナーは強引的に逃した。
その後、ワグナーのチームは2人を欠く事態になってしまい、残った負傷した人員、及び瀕死の状態のメルをワグナーは担ぎ、エルピスの街へ退散した。
そこでは既に無事魔人から逃げ切ったメアがとても不安そうに1人巨大門の前で立っており、姉を担ぐワグナーの元に行くメアだったが時既に遅くメル=ハートはこの世を去っていた。
愕然とするメアに対してワグナーは声をかけることすら出来なかったそうだ。
後、亡くなったメルの埋葬を見届けたメアは1人エルピスの街から去って行ったのを最後に、今日に至るまでその行方は知らなかったとワグナーは神妙な面持ちで言っていた。
「ーーあの時、私が居れば彼女のお姉さんは死なずに済んだかもしれない。でもそれは傲慢、その場に居なかった私には何も言う権利はないよね」
「フィラ、気持ちは分かるが魔人の強さを考えれば生存者がいたことだけで十分奇跡だ」
魔人、それは俺たち人間のように言語を理解することが出来、尚且つ勇者ランク7以上でようやく相手に出来る種族。
未だに不確かな情報が多く、個体数も定かではない。言えることは殺戮性を備え、とにかく厄介な種族だということ。
「ありがとう、そう言ってくれると少し気が楽になるよ。私、先にウェストランドに帰ってる」
フィラがそこまで気負うことはないと思うが、フィールドへ出て魔物の手から人々を救う活動をしていた彼女にとってはやるせない気持ちがあるのだろう。
「あ~あ、こんなんじゃ犯罪者探す気にもなりやしねえ……シン、悪いが俺もウェストランドへ行ってるよ」
頭をかきながら申し訳なさそうにワグナーも行ってしまった。
「何だ?」
ただ1人、金髪美少年のエルはその場に残り、俺と目があった。
「兄さん、僕はメアさんが心配で心配でたまりません! メアさんほどの能力ならA級犯罪者程度どうってことないと思いますけど、1人悲しむレディーを僕は放っておけません!」
そう言ってメアが走って行った方向へとエルは話しを終えると同時に向かって行った。
「だから、その兄さんってのをやめろ」
兄さん兄さんと、俺には兄弟なんていないし、そもそもそう呼ばれることが小っ恥ずかしい。
さて、メアのところにはセシルが付いているだろうし、エルは……まあ放っておこう。害はある意味あるが、犯罪者ほどではない。
「少し正義の味方づらしてみるか」
俺以外、街の何処かにいるであろう犯罪者を探さないなら、俺が取っ捕まえて牢屋にぶち込んでやってもいい。
犯罪者が居そうな場所……
そんなことを考えながらエルピスの街を歩いて行く……
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