119 / 251
第119話 魔石粉
しおりを挟む「いつつ……フィラのやつ、本気でやるやつがあるかよ」
頭を押さえ痛そうにするワグナー。フィラがしつこ過ぎるとワグナーの頭に蹴りを入れたのだ。
「あ~メアさん~」
金髪美少年のエルは膝下から下が氷ってしまっている。
メアも我慢の限界だったのか、エルの膝下より下を氷らせて身動き不能にする。
2人とも自業自得、かけてやる言葉も見つからない。
「メアちゃん、大丈夫だった? こんな変態たちがいて御免なさいね」
「いえ! フィラさんが謝ることなんてないです!」
そしてフィラとメアは笑い出す。
お互い大変だねなどと言い、また笑い出す。
「フィラ、意気投合したところ悪いんだが、さっきの話が本当なら相当まずい事態だな」
A級犯罪者が2人も街の中にいる上、兵士たちが宿屋を使えなくしていたのは別の理由だった。
何でも、勇者たちが頻繁に出入りする様子を見ていた宿屋の店主が兵士たちに確認してくれと申し出たそうだ。
そして発覚した事実ーー宿屋の一室にいた1人の怪しげな男。黒いフードを頭から被り、足元まで見えないほど黒ずくめだったそうだ。
兵士たちはその男を尋問し、後、闇商人だということが分かったのだが、突如として消えてしまったらしい。
「残念だけど本当なのよ。勇者たちだって強くなりたい、その一心だったと思う」
フィラは笑いをやめてそう言った。
勇者たちが闇商人の元を訪れていた理由ーーそれは魔石粉の入手の為。
だが、魔石粉を所持し販売することは国が禁止している。
魔物が魔石の摂取することにより一時的なパワーアップするように、魔石粉は人間にそれを及ぼす。魔石ほどのパワーアップは見込めないが、リスクは魔石粉の方がかなり低い。
「そんなのただのインチキよ! いくら強くなりたいからってやって良いことと悪いことがあるわ! 善悪の判断も出来ないでそいつらよく勇者になんかなれたわね!」
たとえ魔石粉を使ったからといっても大きなパワーアップは見込めない。だいたい3、4パーセントくらいだと言われている。
純度が高くなればそれに伴いパワーアップ率も上がる魔石粉は手っ取り早く力を得たい勇者には喉から手が出るほど欲しいのだろう。
「結果が早く欲しい勇者はね、たとえそれが良くない事だと理解していてもやってしまうようね」
「魔石粉なんてよく使うな」
俺には使うやつの気がしれない。
後のことを考えない人間はこの世に溢れるほどいる。バタリアで俺にゲームを持ちかけてきたルーランにしてもそうだ。この魔物時代やけになりたい気も分からなくもないが、それは単なる逃げ、現実は常にそこにある。
ルーランの時は魔石配合ポーションで、その効果は使用した量により勇者自身のステータスが一時的に上昇するというもの。
この点は魔石粉も同じだが、魔石配合ポーションの副作用は上昇した分だけ全てのステータスが下がる。
魔石粉も摂取量を誤れば魔石配合ポーションのような副作用は起きる事例も聞いているのだが、適量であれば副作用が起きることはないらしい。
その分ステータスの上昇は魔石配合ポーションほどではないが、リスク面を考え魔石粉を選ぶ連中が圧倒的に多いのだそう。
その為、手っ取り早くステータスを上昇させたい勇者はまるで合法アイテムを持つかのように平然と所持している輩も中にはいるそうだ。
「魔石粉……たぶんそのニオイ! チクチクしてやな感じ」
そう言ってセシルは鼻を摘んだ。
「まさか、この近くにあるのか?」
「ゔゔん、外から……ずっと遠くから匂って来るの」
セシルは鼻を摘みながら扉の方を指す。
「セシルちゃん鼻がいいのね。でもそうなると、既に誰かの手に魔石粉が渡ってるってことね。もしくは牢屋から消えた闇商人がまだ近くに……」
「フィラ、そんなこと兵士たちに任せておけばいい」
元々、犯罪者を捕らえたり、そういう悪徳商売をする人間の相手は国の兵士たちの仕事。最も、勇者が悪さをする連中を捕らえる権限がない為、必然的に国の兵士たちが何とかするしかない。
「そうなんだけどね、奴らも奴らでなかなか捕まらないらしいのよ。それでこのギルドに来て、勇者の皆さんに是非協力願いたい! だって! 呆れちゃうわよね」
ソフィア王国ーー梟をシンボルマークとし、黒の紙を始め、魔物分布域の把握及び情報の伝達を行う黒柱の開発。
シーラ王国と親交も深く、優秀な兵士たちが多いのは言うまでもない。そんな王国が勇者たちに頼むほど……問題は大きいようだ。
「フィラ、それは仕方ないことだよ。前々からその話はあったし、危険人物を野放している期間が長いほど国の信頼も無くなってしまう」
膝から下が氷った状態で四つん這いになりながらそう言うのはエル。
なるほど、説得力がある。
メアに対してある意味危険人物となってしまったエル。金髪美少年エルのことが好きな女性ファンへの信頼はだだ下がりだな。
「そうだよなぁ……ただまあ、俺にとっちゃあ嬉しい話だぜ」
「嬉しい? 不謹慎だなワグナー」
「だって考えてもみろよ? 悪人捕まえた勇者なんてかっこいいじゃねえか! 俺、昔からなってみたかったんだよな、正義のヒーローってやつに。くうう~っ! 憧れるぜ!」
ワグナー、それはボケなのか?
ワグナーはまるで少年のようなキラキラした目で天井を見上げる。
「それで、結局フィラは引き受けたのか?」
話を戻した。
「形はね。それに皆んなもやる気みたいだし……でも、本音言うとね、私も私の立場があるし、エルピスの街に住む1人の人間としては放っておけないのよね」
フィラが言う皆んなとはウェストランドにいる勇者たちのことだろう。それぞれが頷き、皆、フィラと同意見なのだろう。
「うっし! そんじゃまっ! 仕事前に街の中でも見て周ろうか! 立てよエル!」
ワグナーが氷ったエルの膝下の氷に触れた途端、氷は砕け散った。
「ふ~、メアさんったら容赦ないな~。でも、そんなところがまたいい」
悦の表情に浸りながら、エルは自身の膝あたりをさすりつつ立ち上がる。
「馬鹿! 行くぞ!」
メアを名残惜しそうにするエルだったが、ワグナーが無理矢理連れて行った。
「私の氷を一瞬で……あいつ、何者」
「まあ、メアの能力との相性を考えるとワグナーの方が上手かもな」
メアの能力の属性は氷。反面、ワグナーは目覚める能力の中でも上位の攻撃性がある能力。
氷を破壊することなど造作もないだろう。
「それで、あなた達はどうするのかしら?」
フィラは腕を組み首を傾げ聞いて来る。
「手伝うよ。いいな? 2人とも」
「いいよ。私もそんな犯罪者がウロウロしてる街なんて嫌だもん」
「悪者捕まえるー!」
「そういうことだ、フィラ」
「ありがとう! シンちゃんって、ほんっとうに頼りになる!」
フィラの性格だ、俺が協力すると分かっていたのかもしれない。
「やめろ!」
抱きついて来たフィラを振り払った。
よほど協力してくれたのが嬉しかったのか、まるでずっと逢えなかった親子に再会したかのようなハグ。
「シンってばやらしい~、そんな人だったの?」
「セシルもー!」
何故かセシルも混ざって来た。
「「ああっ!」」
フィラとセシルが同時に声を上げ、互いの頭をぶつけた。
「イタタ……出たわね、お得意のスキル」
俺は魔力5を消費して回り抜けを発動して瞬時にフィラの背後に移動した。
「まったく、魔力の無駄遣いもいいところだ」
本来なら俺の回り抜けはこんなことに使う筈ではないのだが、状況次第ではやむを得ない。
フィラは頭をぶつけたセシルに大丈夫? と声をかけている。
「シンちゃん、あなた能力に目覚めていたのね。瞬間移動、私と良い勝負しそうね」
「シンの能力がフィラさんと良い勝負? 冗談よしてよフィラさん。……でも実際どうだろ?」
メアは興味深そうにする。
「どっちでもいいだろそんなこと」
内心、確かに気になることではなったが、技である速技と能力を比べるのは正直なところどうかとは思う。速技どうしならまだしも、能力はあくまで能力。個人が目覚めた能力も使い方を熟知していけば熟練度と比例するように能力アップも見込めるが、技と比べるのはナンセンス。
「見たいー!」
「セシルちゃんもそう思う? シンちゃん、どう? 一度私と勝負してみない?」
「……」
なんでこうなった。
フィラもフィラで乗り気で、その上メアとセシルも興味津々といった様子。
「決まりね! それじゃあ表出ましょう! ほらっ、何ぼさっとしてんのよシン!」
「……」
返す言葉も見つからない。
今それどころじゃないんじゃないか?
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女。
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場、
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております。
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新予定
作者 非常に豆腐マインドですので、悪意あるコメントは削除しますので悪しからず。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)
九日
ファンタジー
*注意書あり
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。
死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。
が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。
食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。
美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって……
何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記———
*別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる