百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第119話 魔石粉

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「いつつ……フィラのやつ、本気でやるやつがあるかよ」

頭を押さえ痛そうにするワグナー。フィラがしつこ過ぎるとワグナーの頭に蹴りを入れたのだ。

「あ~メアさん~」

金髪美少年のエルは膝下から下が氷ってしまっている。
メアも我慢の限界だったのか、エルの膝下より下を氷らせて身動き不能にする。
2人とも自業自得、かけてやる言葉も見つからない。

「メアちゃん、大丈夫だった? こんな変態たちがいて御免なさいね」

「いえ! フィラさんが謝ることなんてないです!」

そしてフィラとメアは笑い出す。
お互い大変だねなどと言い、また笑い出す。

「フィラ、意気投合したところ悪いんだが、さっきの話が本当なら相当まずい事態だな」

A級犯罪者が2人も街の中にいる上、兵士たちが宿屋を使えなくしていたのは別の理由だった。
何でも、勇者たちが頻繁に出入りする様子を見ていた宿屋の店主が兵士たちに確認してくれと申し出たそうだ。
そして発覚した事実ーー宿屋の一室にいた1人の怪しげな男。黒いフードを頭から被り、足元まで見えないほど黒ずくめだったそうだ。
兵士たちはその男を尋問し、後、闇商人だということが分かったのだが、突如として消えてしまったらしい。

「残念だけど本当なのよ。勇者たちだって強くなりたい、その一心だったと思う」

フィラは笑いをやめてそう言った。

勇者たちが闇商人の元を訪れていた理由ーーそれは魔石粉の入手の為。
だが、魔石粉を所持し販売することは国が禁止している。
魔物が魔石の摂取することにより一時的なパワーアップするように、魔石粉は人間にそれを及ぼす。魔石ほどのパワーアップは見込めないが、リスクは魔石粉の方がかなり低い。

「そんなのただのインチキよ! いくら強くなりたいからってやって良いことと悪いことがあるわ! 善悪の判断も出来ないでそいつらよく勇者になんかなれたわね!」

たとえ魔石粉を使ったからといっても大きなパワーアップは見込めない。だいたい3、4パーセントくらいだと言われている。
純度が高くなればそれに伴いパワーアップ率も上がる魔石粉は手っ取り早く力を得たい勇者には喉から手が出るほど欲しいのだろう。

「結果が早く欲しい勇者はね、たとえそれが良くない事だと理解していてもやってしまうようね」

「魔石粉なんてよく使うな」

俺には使うやつの気がしれない。

後のことを考えない人間はこの世に溢れるほどいる。バタリアで俺にゲームを持ちかけてきたルーランにしてもそうだ。この魔物時代やけになりたい気も分からなくもないが、それは単なる逃げ、現実は常にそこにある。
ルーランの時は魔石配合ポーションで、その効果は使用した量により勇者自身のステータスが一時的に上昇するというもの。
この点は魔石粉も同じだが、魔石配合ポーションの副作用は上昇した分だけ全てのステータスが下がる。
魔石粉も摂取量を誤れば魔石配合ポーションのような副作用は起きる事例も聞いているのだが、適量であれば副作用が起きることはないらしい。
その分ステータスの上昇は魔石配合ポーションほどではないが、リスク面を考え魔石粉を選ぶ連中が圧倒的に多いのだそう。
その為、手っ取り早くステータスを上昇させたい勇者はまるで合法アイテムを持つかのように平然と所持している輩も中にはいるそうだ。

「魔石粉……たぶんそのニオイ! チクチクしてやな感じ」

そう言ってセシルは鼻を摘んだ。

「まさか、この近くにあるのか?」

「ゔゔん、外から……ずっと遠くから匂って来るの」

セシルは鼻を摘みながら扉の方を指す。

「セシルちゃん鼻がいいのね。でもそうなると、既に誰かの手に魔石粉が渡ってるってことね。もしくは牢屋から消えた闇商人がまだ近くに……」

「フィラ、そんなこと兵士たちに任せておけばいい」

元々、犯罪者を捕らえたり、そういう悪徳商売をする人間の相手は国の兵士たちの仕事。最も、勇者が悪さをする連中を捕らえる権限がない為、必然的に国の兵士たちが何とかするしかない。

「そうなんだけどね、奴らも奴らでなかなか捕まらないらしいのよ。それでこのギルドに来て、勇者の皆さんに是非協力願いたい! だって! 呆れちゃうわよね」

ソフィア王国ーー梟をシンボルマークとし、黒の紙を始め、魔物分布域の把握及び情報の伝達を行う黒柱の開発。
シーラ王国と親交も深く、優秀な兵士たちが多いのは言うまでもない。そんな王国が勇者たちに頼むほど……問題は大きいようだ。

「フィラ、それは仕方ないことだよ。前々からその話はあったし、危険人物を野放している期間が長いほど国の信頼も無くなってしまう」

膝から下が氷った状態で四つん這いになりながらそう言うのはエル。
なるほど、説得力がある。
メアに対してある意味危険人物となってしまったエル。金髪美少年エルのことが好きな女性ファンへの信頼はだだ下がりだな。

「そうだよなぁ……ただまあ、俺にとっちゃあ嬉しい話だぜ」

「嬉しい? 不謹慎だなワグナー」

「だって考えてもみろよ? 悪人捕まえた勇者なんてかっこいいじゃねえか! 俺、昔からなってみたかったんだよな、正義のヒーローってやつに。くうう~っ! 憧れるぜ!」

ワグナー、それはボケなのか?

ワグナーはまるで少年のようなキラキラした目で天井を見上げる。

「それで、結局フィラは引き受けたのか?」

話を戻した。

「形はね。それに皆んなもやる気みたいだし……でも、本音言うとね、私も私の立場があるし、エルピスの街に住む1人の人間としては放っておけないのよね」

フィラが言う皆んなとはウェストランドにいる勇者たちのことだろう。それぞれが頷き、皆、フィラと同意見なのだろう。

「うっし! そんじゃまっ! 仕事前に街の中でも見て周ろうか! 立てよエル!」

ワグナーが氷ったエルの膝下の氷に触れた途端、氷は砕け散った。

「ふ~、メアさんったら容赦ないな~。でも、そんなところがまたいい」

悦の表情に浸りながら、エルは自身の膝あたりをさすりつつ立ち上がる。

「馬鹿! 行くぞ!」

メアを名残惜しそうにするエルだったが、ワグナーが無理矢理連れて行った。

「私の氷を一瞬で……あいつ、何者」

「まあ、メアの能力との相性を考えるとワグナーの方が上手かもな」

メアの能力の属性は氷。反面、ワグナーは目覚める能力の中でも上位の攻撃性がある能力。
氷を破壊することなど造作もないだろう。

「それで、あなた達はどうするのかしら?」

フィラは腕を組み首を傾げ聞いて来る。

「手伝うよ。いいな? 2人とも」

「いいよ。私もそんな犯罪者がウロウロしてる街なんて嫌だもん」

「悪者捕まえるー!」

「そういうことだ、フィラ」

「ありがとう! シンちゃんって、ほんっとうに頼りになる!」

フィラの性格だ、俺が協力すると分かっていたのかもしれない。

「やめろ!」

抱きついて来たフィラを振り払った。
よほど協力してくれたのが嬉しかったのか、まるでずっと逢えなかった親子に再会したかのようなハグ。

「シンってばやらしい~、そんな人だったの?」

「セシルもー!」

何故かセシルも混ざって来た。

「「ああっ!」」

フィラとセシルが同時に声を上げ、互いの頭をぶつけた。

「イタタ……出たわね、お得意のスキル」

俺は魔力5を消費して回り抜けを発動して瞬時にフィラの背後に移動した。

「まったく、魔力の無駄遣いもいいところだ」

本来なら俺の回り抜けはこんなことに使う筈ではないのだが、状況次第ではやむを得ない。

フィラは頭をぶつけたセシルに大丈夫? と声をかけている。

「シンちゃん、あなた能力に目覚めていたのね。瞬間移動、私と良い勝負しそうね」

「シンの能力がフィラさんと良い勝負? 冗談よしてよフィラさん。……でも実際どうだろ?」

メアは興味深そうにする。

「どっちでもいいだろそんなこと」

内心、確かに気になることではなったが、技である速技と能力を比べるのは正直なところどうかとは思う。速技どうしならまだしも、能力はあくまで能力。個人が目覚めた能力も使い方を熟知していけば熟練度と比例するように能力アップも見込めるが、技と比べるのはナンセンス。

「見たいー!」

「セシルちゃんもそう思う? シンちゃん、どう? 一度私と勝負してみない?」

「……」

なんでこうなった。
フィラもフィラで乗り気で、その上メアとセシルも興味津々といった様子。

「決まりね! それじゃあ表出ましょう! ほらっ、何ぼさっとしてんのよシン!」

「……」

返す言葉も見つからない。
今それどころじゃないんじゃないか?

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