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第118話 馬鹿
しおりを挟むエルピスの街はシーラ王国隣接街セイクリッドに次ぐ安全な街とされている。
基準は人々が望んで移住し、尚且つ人々の身の安全性が長く保たれていることや街の規模などを総合的評価によって決められる。
街の安全性は街を管理する国が他国との話し合いの席を設けた後、世に発表される。
こうしたことは1年に二度行われ、シーラ王国の王位を持つ者たちやソフィア王国、ホックファー王国、その他の国々の上層部らが集まる。
街の安全性を世に発表する理由ーーそれはまだ街に移住していない人々への呼びかけや、各地にある街の活性化を図る為。そして多くの国が理想としているのは街に住む人々が自らの行動により助け協力し合い、人類全体の士気を高め魔物という巨大な闇に立ち向かってほしいと思っているからだ。
これを表面上の理想論だなどと罵る者たちがいることも確かだが、人類共通の敵である魔物という巨大な闇に立ち向かうには助け合い無くして為し得ないと多くの国々は考える。
だがやはり表面上というのは言葉通りで、過去、人類と魔物との大戦を経てそれを経験した者たちの中には“諦め”と言わんばかりの態度をする者たちもいるようだ。
それがただの一般人ならまだ分かるような気はするが、大戦の中にいた者たちが“諦め”の態度を取るのだから一般の人々にとっては辛いものがあるだろう。中には大戦を経て行方をくらませてしまった者たちもいるそうだ。
無論、シーラ王国を含めて他の国々も人類が勝つと信じている。“諦め”などと言う言葉や態度を見せた者たちは邪見だとして多くを語ろうとしなかった。
そしてこのエルピスの街は、“諦め”などという言葉の反対、街の名にもなっている“望み”の思想の元に築き上げられた。
魔防壁と街を囲う魔石入り湖は魔物の侵入を遮り、街中には兵士たちが常に在中しており、エルピスの街に住む人々の安全はもはや確保されたも同然……だったが、街に危険を及ぼすのは何も魔物だけとは限らなかった。
人間。
それは魔防壁も魔石入り湖も何ら意味を持たなかった。
その中で特に危険視されているのが国に指名手配されている犯罪者たち。
犯罪者はその危険度によって級分けされており、上へ行くほど危険度は高くなる。
そして今回フィラの話に上がったのはドララキスという男。A級犯罪者であり、今現在エルピスの街に潜伏しているらしい。
俺もドララキスの話は聞いたことがある。
何でも罪のない人間を36人殺めたそうで、未だにその足取りは掴めていなかった。
「ドララキスか……」
そりゃ兵士たちが宿屋まで見張って、街の人々が騒つくわけだ。
A級犯罪者なんていれば夜もおちおち寝ていられないだろうな。
「兵士たちは何やってんのよ! あんな大勢いてたった1人の犯罪者も捕まえられないわけ!?」
「落ち着いてメアちゃん。分かるよ、分かるんだけどね……ドララキスほどの暗殺者、私でも敵うかどうか……」
あのフィラが敵わない?
A級犯罪者であるドララキスは、確かに個人としての実力も兵士たちが恐れるほどだが勇者ランク6もあれば恐れるに足らない。
所詮は力無き人間を殺めることしか出来ない犯罪者。命がけで魔物と日々対峙している勇者と比べるまでもない。
初めてフィラと出会った時の彼女の勇者ランクは6。そう考えれば、今はそれ以上、A級犯罪者程度どうってことないだろうに。
しかも、そもそも犯罪者を捕らえるのは勇者ではなく国側。
「フィラ、聞くが今の勇者ランクはいくつなんだ?」
「ランク8よ」
勇者ランク8、思っていたランクより1つ高かった。
「ちな俺の勇者ランクは7だ!」
「へえ、俺と一緒だな」
「何!? あのシンがこの俺と一緒だと!? ……冗談、だろ?」
ワグナーに黒の紙を見せた。
「ま……じかよ……ってもう8!?」
そう言えば、勇者ランクの更新をしていなかった。
「嘘! 私と同じ!?」
フィラはワグナーから俺の黒の紙を奪い取った。
フィラは俺の黒の紙を見て、信じられないといった様子で何も言わずに首を左右に動かす。
「シンは強いんだよー! セシルよりずっと!」
「そういうことなんだ。黒の紙の更新を頼む」
流れの次いでにフィラに黒の更新を頼んだ。
「あのシンちゃんが勇者ランク8……」
まだ信じられないのか、俺の黒の紙をまじまじと見ながらカウンターへとフィラは向かう。
「シン、もう勇者ランク8だったの……私、まだランク6なのにそんなに先先行っちゃって!」
何故か背中を叩かれた。
「はい、更新終わったよ。本当に勇者ランク8のようね。凄いじゃないシンちゃん! えらいえらい!」
「やめろ!」
俺の頭を撫でようとして来たフィラの手を払う。
「そんなこと言わないで、ほら? ぎゅーっとしてあげるから!」
「行くか!」
出てしまったフィラの性格。若干23歳にしてギルドのマスターとなり、ウェストランドにやって来る勇者たちにとっては癒し的存在。
もちろん勇者は男ばかりではなく女もいるのだが、やはり職業上男が多いというのが現状。割合的にはおよそ7:3と言われている。
その為、どうしても女性と関わることが少ない勇者たちがいて、そうした者たちをいつも明るく迎えてくれるフィラという存在は大きいようだ。
「いいの? 彼なら遠慮なく来てくれるのに」
「彼?」
「シンちゃんも勇者なら知ってるでしょう? ガルド=センヴェント。戦の鬼なーんて言われて恐れられてるけど、私にとってはただの可愛いおじいちゃんよ」
あのエロジジい、何してんだ。戦の鬼が聞いて呆れる。
「シン、そんなフリして本音を言ったらどうなのよ? フィラお姉様によしよししてもらいたいって」
メアが腕を組みニヤケながら言う。
「冗談よせ。馬鹿は1人で十分だろ」
そんな会話を他所に、1人フィラの横でさっきから待機している馬鹿が1人。
フィラが足蹴にするが、それでも嬉しそうにしている様子がなんとも情けない。
ワグナーのやつ、夜の仕事のし過ぎで頭がおかしくなったか?
「休んだ休んだ、ってどういう状況?」
そう言ってウェストランドに入って来たのは金髪美少年のエル。
「エル、ワグナーは相変わらずだな」
「もしかして貴方がメアさんですか!?」
エルは俺の言葉に反応だけして、直ぐにメアに駆け寄った。
「え、ええ、そうだけど」
何て顔をするんだエルは。全面に嬉しさのオーラが放出しているようだ。
屈み片膝をつけ、さっとメアの手を取る。
「エル=フレイヴァン、貴方のナイトです」
あろうことか、エルがメアの手の甲に唇を付けた。
メアが言葉に出来ない声を出す。
「何すんのよっ!」
「ハア~ン!」
メアがエルの顔をひっぱたいた。なんて声だすんだエル。
これは痛そうだ。が、エルは顔を赤くして尚メアに向かって行く。メアは逃げ、その奥ではフィラがワグナーを足蹴にしている。
「……シン」
セシルのなんとも言えない顔。どうすればいいか分からないのだろう。
分かるぞ、分かるぞセシル。まあ時にはこういう馬鹿な状況も必要だ。魔王の城なんて場所目指しているんだからこういう馬鹿見て気楽な感情を忘れないでおこう。
と、そう無理矢理解釈する俺がいた。
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