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第115話 最強の傭兵
しおりを挟む街の中には泣き喚く子供達、そして不安そうにしている婦人達。
男共は慣れない様子で武器を持ち、中にはどうしたんだと思うような形相をしている少年もいる。
「絶対アイツだ! あんな危険な奴を野放にしちまったからこんなことに! 平和な街で生活が送れると思っていたのに……国の連中もまるで頼りにならねえ!」
そう言った男は頭を抱える。
セイクリッドに次ぐ安全な街とは思えない現状が目の前に広がっている。
「シン……何だかこの街、何かありそうね」
「だな。だが、今はそれより巨大門へ急ごう」
その時、セシルが辺りをきょろきょろとし始めた。
「クン……クン、何だろうこのニオイ」
「何か匂うのか?」
「うん、チクチクしたトゲがある感じ」
「トゲ? メア、匂うか?」
トゲの匂いと言われてもピンと来ない。
「いいえ。セシル、それはどの方向から?」
「あっち……んん、あっちにも!」
セシルはエルピスの街の西と東をそれぞれ指差した。
「分かった。だが今は後にしよう。まず巨大門へ急ごう!」
次から次へと何かが起こるな。
本当に此処はセイクリッドに次いで安心な街なのか?
これでは街の住人たちも不安だろうに。
そうしてエルピスの街の巨大門へ行くと、兵士たちが横一列になって橋の方を向いていた。
「あんなにいっぱい……どんな魔物が来るっていうのよ」
兵士たちは皆同じような武装をしており、ざっと見る限り兵隊長や副隊長はその列にいない。
「……」
男の気配は感じられなかった。
男は何も言わず、ただただ横一例に並ぶ兵士たちの方を眺めているようだ。
「カルディアさん! 来られていたんですか!?」
兵士の1人がそう言った。
「……れ…………は……………さ………な」
「なんて言ったんすか? 先輩」
「い、いや、俺にも分からない」
兵士2人がそう言うように俺にも男が何を言ったか聞き取れなかった。
「雇われたからには仕事は果たさないとな、だって」
「さっすがセシルね!」
獣人のセシルには聞こえていたようだ。
「雇われ兵か」
国が兵を雇う理由は様々あるが、大概は1部隊の戦力となるからだ。
通常、国が行う試験を通過した者たちが晴れて兵士となるのが、雇われる兵士というのは往々にしてその強さが認められた者。
「来たぞ! 前列構えええ!!」
兵士たちが長銃を構えた。
「…れ……く」
男が屈む兵士たちの横を歩いて行く。
「俺が行く、だって」
セシルがご丁寧に訳してくれた。
そしてエルピスの街に砂煙を上げて向かって来る魔物。
「カルディアさん! いくらあなたが強いからってさすがに1人じゃあ……」
「馬鹿! これだから新人は! まあ黙って見てろって」
男は巨大門を抜けてさらに橋の上を歩いて行く。
「ジェノサイドライナか……死ぬぞあの男」
ジェノサイドライナーー地上の殺戮者と名高い巨大な犀の魔獣。
体長およそ6.6メートル、推定体重13トンから来る突進の破壊力は極めて危険。それでいて真正面から大砲を受けたとしてもびくともしない頑丈な装甲。
兵士たちが持つ長銃は対魔物対策用に強化していると聞くが、それでもジェノサイドライナの装甲を破るのは難しいだろう。
草原の草を巻き上げながら猛突進する速度。エルピスの街には魔防壁があるが、大丈夫だろうか。
「どうする? 手伝う?」
「いや、お手並み拝見といこう」
国に雇われるのは誰でもいいわけではない。兵隊長クラスかそれ以上、もしくは福隊長並みの実力を持っていると認められない限り雇われることはまずない。
ジェノサイドライナがエルピスの街に架かる橋に差し掛かった。
「うおおっ! やった!!」
「さすがカルディアさんだ!」
カルディア、そう呼ばれた男は橋に差し掛かったジェノサイドライナを一刀両断。
そして勢いついたジェノサイドライナの二つの肉塊は宙を舞って魔石入りの湖に落下し白い煙をあげる。
「あのジェノサイドライナを一撃……」
あきらかに只者ではない。観察眼の距離に届かなかったがジェノサイドライナのレベルは90台が平均。
それを一撃で葬り去る実力。
「なにアイツの剣……」
カルディアの持つ剣からは青黒い粘り気のある煙が立ち込めている。
「ただの剣じゃないだろうな」
異様な煙はカルディアが剣を収めると同時に空気に混じるように消え去った。
「奴は我が部隊の強力な主戦力」
後ろから急に言葉を発した男の存在に振り返った。
「誰だ?」
「これは失敬。私はベイト。ソフィア王国、第7部隊で隊長をしている者」
ベイトは細身な体格で、紺色のジャケットを着こなしネックの部分に梟のシンボルマークが付いている。
「隊長! 何処にいらしてたんですか!」
「すまん、昼寝をしていた」
「昼寝って……あなたそれでも隊長なんですか!? もっと隊長としての自覚を持ってください!」
部下にそう言われるベイトは何も言い返せないようだ。隊長としての威厳がまるでないように見える。
「何だか頼りなさそうな隊長ね」
メアが小声でそう言った。
「みなまで言うな。隊長にもいろんな奴がいるんだろう」
実際、隊長なんて者は国の一部隊を任されるほどの実力を持つ者たちばかりだ。勇者にも個性があるように部隊長もそれは同じなのだろう。
「誰!?」
セシルが一つの建物の上の方を見る。
「俺に気づくか。さっすが獣人、耳がよろしい。よっと!」
建物の上に現れた男は飛び降りた。
「アックスさん! あなたまで何処にいたんですか! 私たちもうヒヤヒヤして此処にいましたよ!」
「大丈夫大丈夫、俺はお前たちを信頼してるし、そもそもいざとなったらいつでも出て来れる場所に居たから」
「またそんなこと言って! 結局、隊長もアックスさんもあの傭兵に任せていたんでしょう!? っていない!?」
兵士の1人が言うあの傭兵ーーいつの間にかいなくなっていた。
「はっはっはっ! 俺より気配消すの上手いんじゃないかあいつ。ねえ? 隊長」
「う~む、謎が過ぎる」
「そのあいつなら向こうに居るぞ?」
だが、俺はジェノサイドライナを討伐した後の男の気配の場所をしっかりと認識していた。
隊長ベイトやアックスと呼ばれた男や兵士たちが俺が言った方を見るが、雇われ兵の男は何も言わず行ってしまった。
「待て待て待て! また黙って行くのか~!? ったく……これだから雇い兵は扱い難い」
アックスの呼び掛けに反応を示すことなく、雇われ兵の男はエルピスの街の中へと去って行った。
「ーーところで、君らは一体何処のどなたかな? ……まさか、彼と同じようにこの部隊の雇われ兵になりたいとかかな?」
「悪いな、そういうつもりは毛頭無い」
「ならば何用で此処に?」
「興味本位、とでも言っておこう。行くぞ、2人とも」
特に何か話すこともない。その場から立ち去ろうとした。
「待ち!」
叫び、そう言って眼光鋭く腕を組んで俺たちを見ていたアックスは、こちらに歩いて来るなりジロジロと見て来る。
「な、何よ」
メアが戸惑った様子でアックスに聞く。
「分かった」
「分かった?」
意味が分からない言葉に思わずそう聞き返した。
「入隊を許可する」
「は、はあ!? 意味分かんない!」
メアに同意見。
「違うの?」
「違うも何も、俺とメアは勇者だ。この子は獣人。言っただろ? 興味本位で此処に来たと」
なるほど、といったように右手の拳で左掌を打つ。
「勇者か、最近は多い。あのギルドに集まる連中にしても、どうも人気のある職業だ」
「人気でもリスクは付きものだけどな」
最もそれは兵士も同じだな。
「隊長! アックスさん! そんな話してる暇あるなら先に上に報告しといてくださいよ!」
「悪い悪い、そうだったそうだった」
アックスが兵士と話している間に立ち去ろうとした。
「君たち、一つ聞いていいかな?」
部隊の隊長、ベイトが話しかけてきた。
「何だ?」
「この街の……いや、やめておこう。アックス、上への報告は私がする。皆もご苦労だったな」
隊長ベイトは何かを言おうとしたが、言葉を遮り兵士たちの元へ行った。
「行きましょ」
そうして俺たちは謎の傭兵とソフィア王国の第七部隊との一件を終えて、兵士が言っていたエルピスの街の西、第一区画三番街の仮宿泊施設に向かった。
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