百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
114 / 251

第114話 適性

しおりを挟む


奇抜な建物ーー赤のコントラストが色濃い屋根瓦に縦に長い黄の建物。窓が幾つもついている建物はやたらと目立つ。

「遅いんだけど?」

メアが腕組みをしながらやや怒り口調でそう言った。

「悪い、少し話し込んだ」

「誰と? 何の話を? 私だからって待たせていいと思った?」

「だから悪いって言っただろ」

この女のどこに会いたいとエルは思ったのか。エルの感性が分からない。

「ふ~ん、あくまでそう言うつもりなわけ、ふ~ん……まあいいわ。それで、これからどうするつもり?」

「とりあえず宿をとろう」

ウォールノーンを出発してからエルピスの街へ着いて現在正午過ぎ。
ウォールノーンではアルバードの家で休息はとったのだが、旅路を急ぐ必要は特にない。
それにエルピスの街で魔王の城に関する新たな情報なども得られる可能性もある。

「宿屋なら今はダメよ。どこもかしこも今は国の兵士たちがいるわ」

「兵士たちが? ならメアは何処に行ってたんだ?」

身体を洗いたかったメアは1人エルピスの街を行動していた。

「借りたのよ。この街の人は本当に優しいわ。お陰様ですっきり! セシルも付いて来たら良かったのに」

そう言うようにメアは随分清々しい表情をしている。

「んー、セシルもやっぱりそろそろ身体洗いたいかも」

「ほらっ! やっぱりそうじゃない! おいで、たぶん大丈夫だから」

「待て待て、そんな何度も貸してくれるものなのか?」

「たぶんって言ってるじゃない。無理なら無理で他を当たるわ」

宿屋を借りられないなら仕方ないか。

「分かったよ。俺はこの辺で待ってるから行って来い」

「シンは行かないの?」

「いいよ、早く行けって」

メアは臭~いなどと言って鼻を摘みながら、セシルを連れて行ってしまった。
俺も身体を洗いたいのは山々だ。
確かに、バタリアを出発してから洗っていない身体はやや臭う気はする。

「風呂借りるくらい大丈夫だろう」

清潔感は大切だ。俺は宿屋に足を向かわせた。





エルピスの街には幾つか宿屋があるようだが、歩きながら見た宿屋には全て兵士たちがいた。
街の宿屋に兵士が来るのなんて……滅多にないことだけに近寄り難いものがある。
ただそれでも近づいて行くのは、この汚れた衣服や身体を洗いたいが為。

「宿泊かい? 駄目だよ、今日も警備体制が続いている」

エルピスの街の宿屋の前には1人の兵士が突っ立っていた。

「何故駄目なんだ? 身体を洗いたいだけなんだが」

「だったら仮宿泊施設へ行きなさい。其処なら宿泊も出来るし風呂だって入れる。街の宿屋で宿泊したい者たちは皆行っているよ」

「そうなのか。でも俺は宿屋に宿泊したいんだが」

あえてそう聞いてみた。

「駄目だ! 此処から西の第一区画三番街に仮宿泊施設があるから、其処へ行きなさい!」

声を大にして言う兵士。

どうやら、宿屋に宿泊出来ない理由を話さないつもりらしい。

仕方ない、兵士が言うように第三区画の仮宿泊施設へ行くとしよう。
だが第三区画の三番街と言えば、エルピスの街の端。
俺が今いる場所から行って戻って来たとして、メアとセシルとの待ち合わせ場所ーー赤の屋根瓦に黄の縦長の外観の建物に間に合わないかもしれない。

そうなるとメアが怒る顔が容易に想像できる。

そうして渋々と赤の屋根瓦に黄の縦長の外観の建物の場所に戻った。





「仮宿泊施設ね~、まあ泊まれるだけマシね」

ソフィア王国が用意した仮宿泊施設。そうまでするなんて、宿屋で何があったというんだろう。

その時だった。
街中にサイレンの音が響き渡った。

「なになに急に!?」

兵士たちが慌ただしく街の住人を避難させて、巨大門がある方へと走って行く。

「何かあったのか?」

俺たちの元を通り過ぎようとした1人の兵士を止めて聞いてみる。

「魔物だ! 君たちも危険だからしばらく此処に居なさい!」

そう言い残して止めた兵士は行ってしまった。

エルピスの街に魔物……たとえ魔防壁や魔石入り湖があったとしても平然とやってくる魔物もいる。エルピスの街に人間がいる限り、奴ら魔物の進行は止まらない。
兵士たちが慌ただしく行く様子から、弱い魔物ではなさそうだ。

「どうする?」

メアがそう俺に言う。

「決まってる」

勇者として注目を浴びたいわけではないが、サイレンが鳴るほど警戒される魔物が気になる。
それにその魔物を討伐すればステータスの上昇が見込める上、討伐報酬もそれなりに見込めるだろう。
巨大門の方へ行こうとした。

「また魔物が来たのか、一体僕ら街の人々に何の恨みがあるっていうんだ」

青年ーー眼鏡をかけた若者は家から出て来るなり巨大門の方を向いてそう呟く。
そして深いため息を吐いて家の中に戻ろうとした。

「待ってくれ」

「ん? 僕に用?」

青年は肌寒そうに自身の体を擦る。

「今言っていたこと、詳しく教えてくれないか?」

「……いいけど、君たちは?」

青年は少し間を開けてそう聞く。

「魔王の城目指して旅をしてる勇者一行よ」

と、メアがどや顔でそう言った。

「ま、ま、魔王の城!? っ!?」

青年は後退し、家の入り口にある段差に引っかかって尻持ちをついた。

「大丈夫? ほらっ」

そう言ってメアが青年の手をとる。

「あ、ありがとう。ーー魔王の城なんて、君たち本気なのか?」

青年は尻持ちをついたズボンの汚れをはたき、眼鏡を持ち上げてそう聞く。

「本気も本気よ。このね、宝剣持った勇者さんの目的の場所なの」

「おい!」

メア、そんな軽く言う奴があるか。

「ほ、ほ、宝剣!? っ!?」

また、青年は家の入り口の段差に引っかかって尻持ちをついてしまった。

「大丈夫か? 手を貸そう」

「……」

俺の手をとって無言で立ち上がる青年。

「本物か?」

「証明は難しいな。だが、これは間違いなく宝剣だ」

結局、青年に宝剣だと打ち明けた。まあ、何の問題もないだろう。

青年は疑い深そうに俺の腰にある宝剣アスティオンを見る。

「……ただの剣にしかみえない。これが伝説に聞く宝剣だなんて信じられない」

青年は顎に手をやりながら興味津々といった様子で鞘に収まっている宝剣アスティオンを見る。

「そんなことはいい。さっき言ってたことの意味はなんだ?」

俺が青年に聞く理由ーーそれは今まで見聞きして来たことと繋がるところを感じたからだ。
青年はやや嫌そうな表情をした。

「魔物がね……それも並大抵の勇者じゃ敵わない魔物がエルピスの街にやって来るんだ。でも、それはきっと魔物自身の意思じゃない」

「人間か」

はっとしたように頭を上げた青年は、何処か遠くを見るように空を向く。

「恐ろしいよ。人間なんて魔物よりもよっぽどたちが悪い。僕もね、昔は勇者だったんだ。だけど僕には誰かを助けるなんて力はないんだ……そう本当に」

勇者稼業から足を洗い、彼のように街で生活をしている者たちは多くいる。どのような理由で勇者を辞めたのか、それは様々だ。

青年は家の前に置いてあった丸い椅子に座る。

「元勇者だったか」

「1年もしていなかったけどね。僕に勇者は向いていない、そう思わされた日々だった」

選んだ職業が向く向かないか、それはやってみなくては分からないこと。青年は1年という数字を出したが、中には1日も経たないうちに勇者を辞めてしまう者もいる。

「分かる、私もよ~く分かる。勇者って本当大変な職業だと思うの。だけどね、世の中には喜んで勇者をしてる奴もいるのよ」

そう言って、メアを何故か俺の方を向いた。

「誰が喜んでるんだ?」

「あ・ん・た・よ! 私から見たら魔物倒して喜んでるようにしか見えないわ!」

メアにはそんな風に見えてたのか。
まあ分からなくもない。俺自身、生まれ育った村と両親の仇、そして生活の為にと選んだ職業だったが……いつしか魔物を討伐することに一種の快感を得ていた事実は否めない。
人間と敵対する魔物を討伐する度に、世の為人の為に貢献している俺という存在を自覚していた。

「かもしれないな。ただ今はそんなことはいい。青年、ということは今この街に向かっている魔物は人間が差し向けたと受け取っていいか?」

「恐らくね」

そう言って青年は頷いた。

ああ、恐ろしい。恐ろしいな、やはり人間は。

今までの旅路の中で知り得た情報のピースが一つずつ埋まっていく。

「何? まさか人間が差し向けたって言うの? ……あっ! それって血の契約……」

血の契約ーーメアはその言葉を言ったが直ぐに手で口を押さえる。

「どうしたんだ?」

「なんでもないよ! シン、セシル行きましょ!」

どうやら、青年には聞こえていなかったようだ。

「一つ言っておく。お前が言う恐ろしい人間は世の中に山ほどいるが、そういう奴らが繁栄することなんてない」

最後には正義が勝つなんてことを言いたいわけじゃない。そう願う者たちがいればいるほど、敵にとって生きにくい環境の輪は広がっていく。

「だったらいいね。君たち、魔王の城気をつけて行くんだよ」

最後に青年は微笑した。

その後、俺たちは魔物が向かっているであろう場所へと急いだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

誓いの嘘と永遠の光

藤原遊
ファンタジー
「仲間と紡ぐ冒険の果てに――君もこの旅を見届けて!」 魔王討伐の使命を胸に集まった、ちょっとクセのある5人の冒険者たち。 明るく優しい勇者カイルを中心に、熱血騎士、影を操る盗賊、癒しのヒーラー、そして謎多き魔法使いが織りなす物語。 試練と絆、そして隠された秘密が絡み合う旅路の中で、仲間たちはそれぞれの過去や葛藤と向き合っていく。 一緒に戦い、一緒に笑い、一緒に未来を探す彼らが最後に見つけるものとは? 友情だけじゃない、すれ違う想いと秘めた感情。 仲間を守るための戦いの果てに待つのは、希望か、それとも……? 正統派ファンタジー×恋愛の心揺さぶる物語。 「続きが気になる」って思ったあなた、その先をぜひ読んでみて!

処理中です...