百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第113話 荒ぶる者

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「お前も強くなったなあ、本当に。あの時はまだ勇者ランク2。それが今や勇者ランク7だなんてよ、いつの間にか俺を追い抜いてやがるぜ」

「俺も成長くらいするさ。それに、成長してるのはワグナーも同じだろ?」

「よせよ、褒められるのは柄じゃねえ」

ワグナーは照れるようにポリポリと右頬あたりを触る。
ワグナーと初めて会った時の勇者ランクは3。それが今やランクが4つほど上がったと話す。

フィラがウェストランドに帰って来るまでの間、俺は旅路のことーー部分部分だけを話した。

「……シン、お前が強くなったのはよおく分かった。ーーしかしな、やっぱり俺はお前を引き止めたい。言っちゃ悪いが、たかだか勇者ランク7で魔王の城に行くなんて自惚れが過ぎるぜ」

ワグナーのやつ、言ってくれる。

「自覚してるよ。でもさっきも言っただろう? 俺は何も魔王の城に行きたいわけじゃない」

「シーラの姫様か」

アリス王女からこと授かった経緯ーー魔王の城に眠る秘宝を盗むように頼まれたことはワグナーに既に話した。

「ワグナーも会えば分かるよ」

アリス王女を慕う者たちは多い。ただ、やはり一大国の王女ともなればその言動一つ一つに力がある。
それに複数人の兵士たちに囲まれたあの状況に、直ぐ近くにいただろうシーラ王国の戦士達。
断っていたら今頃どうなっていたことか。

「会えるもんなら会いてえよ! そりゃよ? 魔王の城なんて行くのはまっぴらごめんだけどよ、シーラ王国の姫様と直で話せるなんて一生涯ない確率の方が高いぜ。そういう意味ではシンは超ラッキーだったな!」

「アンラッキーの間違いだろ」

何が超ラッキーだ。間違いで捕らえられた挙句、あるかどうかもわからない魔王の城の秘宝を盗んでこいと頼まれる。
俺のスキルである解錠を探していたなんて言うアリス王女ーー俺がシーラ王国の第五兵団がいた村に行かなければ、そもそもアリス王女に会うこともなかった。
超絶アンラッキーと言えばそれまでだ。

だが未だに解せないのはアリス王女の不敵な笑みと、俺がシーラ王国を出る時に見たアリス王女自身の身体の震え。
あの気高きシーラ王国の王女が震えていたのだ。何かあるのは間違いないだろう。

「フィラお帰り、お客さんだよ」

金髪の美少年がそう言った。

懐かしい匂いがしたーー桜の香水の香りはフィラがいつもつけていたものだ。

「ただいま……あれ? もしかしてシンちゃん? シンちゃんじゃない! 久しぶり!」

「フィラも久しぶりだな、元気だったか?」

赤色の髪を後ろで括るスタイルは変わっていない。ただ、黒縁のメガネをしている姿は初めて見た。

「元気元気! 私から元気を取ったら何が残るっていうのよ!」

そうフィラ自身が言うように、でないとギルドのマスターをして尚且つフィールドに出て人助けなんて無理だろう。
人一倍正義感が強く、行動しないと気がすまない性格は変わっていなさそうだ。

「それもそうだな」

「……それで、その子は誰なのよ?」

フィラが小さな声で俺の側に来て言う。

「セシルはシンの仲間。宜しくね、ギルドマスターのおねーさん」

セシルには聞こえていたようだ。

「よ、宜しく」

目をパチクリさせるフィラ。

そしてセシルは、何故かフィラの周りをぐるぐるとして見始めた。

「シンちゃん~、この子何してるの~」

か弱い声を出すフィラ。こんな困ってるフィラを見たのは初めてだ。

「セシル、よせ」

「だってだって、このおねーさんから変な匂いがするんだもん! 人間じゃないかもしれないんだよ!?」

俺はデコに手の平を当てた。

セシルはまたフィラの周りをぐるぐるとし出す。

「ああっ! どうして邪魔するの!? 人間に化けた魔物かもしれないよ!? テッ!」

セシルの頭を軽くこついた。

「フィラは魔物じゃない。この匂いは香水と言って、香りを楽しむ為に付けるものだ」

「そーなの?」

「そうだ。フィラ、すまないな」

「いいよそんなこと。それに、その子可愛いから許してあげる」

「そういう問題か? いや、まあ何でもいい」

最も、フィラが香水を付けているのはただ香りを楽しむ為だけではない。
フィラが香水を付けている理由ーーそれはフィールドで魔物に襲われていた人を少しでも安心させる為。
俺が勇者ランク2の時、雷虎に襲われていたのを助けてくれた時も桜の香水をフィラは付けていた。
優しく、爽やかな香り。死ぬと感じた間際の緊張感を解いてくれたことを今でも覚えている。

ただ、そんな匂いも人間より数十倍も鼻の効く獣人のセシルにとっては警戒するものがあったのだろう。

「で、シンちゃんは何しに此処に来たのよ? ……まさか、私に会いに?」

「旅のルート上にあっただけだ。せっかくだし、昔の恩人に顔を出しておこうと思ってな」

「やだ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。目的が私じゃなかったのは残念だけどね」

「そんなこと言わないでくれよ。フィラが好きなやつはここにいるぜ?」

ワグナーが自分を指差して微笑をフィラに渡す。

「私も好きよ。このギルドに来てくれる人はみーんな好き! セシルちゃん、あなたもね」

セシルはささっと俺の背後に隠れてしまった。
だが、フィラは嫌な顔一つとしてしない。

フィラは昔からそうだ。元々、孤児だったフィラは1人の女勇者の元で育った。その後、いつか自分も勇者になりたいと志したそうで、今はこうしてギルドのマスターにまでなって人助けまでしている。

「フィラ、俺が此処に来たのは恩人に会う為だけじゃない。……まあいいか。ワグナーたちも聞いてくれ」

「何だあ? まだ秘密の土産話でもあるのか? いいね~、長旅をして来た勇者の話ほど面白いものはない!」

そう言ってワグナーはグラスに入った何かの飲み物を口に入れて飲む。

「残念だがワグナー、面白くはない。真面目な話だ」

「何でも構わねえよ! こちらとら、毎日毎晩ギルドに依頼が来た魔物の討伐討伐討伐! それ以外の話なら面白くねえ話も面白くなるってもんよ!」

ナイトウォーカー、主な活動時間帯を多くの人々が寝静まった夜から深夜帯。ワグナーは夜を専門にして魔物と戦うナイトウォーカー。どうやら、それは今も変わってはいないようだ。

「期待はするなよ」

その後俺はセシルとフィラ、その場にいたワグナーと金髪美少年に話をすることにした。





「ーーなるほどね、話は分かったわ。でもねシンちゃん、仮にそうだとしても奴らの生態から考えるとその線は薄いわ」

「それならいいんだがな」

俺がフィラに伝えたかったことーーそれはバタリアの西の庭園手前にある荒れた荒野の原っぱでセシルの戦闘力を見ていた時のこと。

「でも、ボルティスドラゴンがそんな場所に現れたなんて……至急調査チームに伝えるわ」

そう言ってフィラは魔力水晶体を取り出す。

魔王の城に向かっていることも伝えたが、いいんじゃない? と軽く受け流された。
フィラは昔からそうだ。人の行く道にとやかく言うタイプの人間ではない。

「シン、お前またとんでもねえヤツに会ったんだな。俺だったら失禁もんだぜ」

「まあ相手がボルティスドラゴンなら誰も笑わねえよ」

俺が見たボルティスドラゴンのレベルは122。国の部隊一つではまるで戦力不足だろう。
せめて2から3部隊は必要。それくらいいてようやく戦えるのではないだろうか。それでも勝てる確率はかなり低いと思われる。
勇者であればランクによって人数は変わるが、少なくとも1人で戦うような相手ではない。

「兄さん、よく無事だったね。俺、尊敬しちゃうよ」

「兄さんなんてよせ。シンでいい」

ワグナーか、それともフィラから俺の歳を聞いていたのだろう。
俺が勇者ランク2の時にウェストランドに来た時は、こんな金髪少年はいなかった。

「いいじゃねえかよシン。ずっと1人でいたんだろ? ……今はどうか知らねえが、俺もエルもお前のことを兄弟だと思ってる!」

仲良さげに金髪美少年のエルと肩を組んでそう言うワグナー。

「……お前らーー何だ? セシル」

不覚にも、心に響くものがあった。
と、そう感じている時セシルが俺の横腹あたりの高さの服を掴む。

「じかん、大丈夫?」

セシルにそう言われて思い出した。

「そうだった……フィラ、それにワグナー、エル。俺たちまた来るからその時にでも話そう」

「急用?」

フィラが魔法水晶体を片方の手で握りながら言う。

「割とな。また氷飛ばされたくないからな」

「何だあ? そりゃ?」

ワグナーが手に持っていたグラスを置く。

「メアは怖いよ。あなたよりも……たぶん」

どうやら、というよりやはりセシルはワグナーが怖かったらしい。
ワグナーのワイルドな見た目が怖かったのだろう。
言った瞬間、直ぐに俺の背後に隠れる。

「メア……女の人?」

何故か食いついた金髪美少年エル。

「ああ女だ。それも凶暴な」

どうも、初めて会った時の印象が強く残ってしまっている。
初めて会った時ーーシーラ王国の隣接街であるセイクリッド。そこで俺はメアと出会い、ただ無視しただけで氷の矢を飛ばされた。
無視した俺も悪かったが、初対面の人間に氷の矢を飛ばすやつがいるか?

「ん~! エクスタシィ! 会いたいな~その人」

「……ワグナー、どうしたんだ? エルは」

そう俺が聞くと、ワグナーは下を向きながら頭を押さえる。

「こいつはこういう奴なんだよ……顔は良いのによ、まったくどうして、はぁ……」

いるな、そういうやつ。

「シンちゃんそんな話しといていいの? そのメアって子、待たせてるんじゃないの?」

「ああ、もう行く。じゃあまた来るよ」

「あああぁぁメアさ~ん」

まるで、首根っこを絞められた鶏みたいな声を出すエル。

「お前は留守番! シン、絶対また来いよ!」

そうして、メアと待ち合わせしていた場所にセシルと向かう。

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