百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第102話 急変

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「どうした? 頭が痛いのか?」

「う、ん。急に痛くなって……っいたい!」

 立ちながら頭を押さえていたセシルだったが、しゃがみ込み頭を両手で押さえる。

「大丈夫セシル!? なわけないよね。どうしよう、シン」

セシルは頭を両手で押さえ、吐く息が荒い。

「……爺さん、セシルを休ませてくれるところはあるか?」

「……」

爺さんはうずくまるセシルの方を見て俺の問いに答えない。

「お爺さん! ちょっと聞いてる!?」

メアが爺さんの真横で言う。

それでも爺さんは何も言わない。
目を見開き、ただただうずくまるセシルを凝視しているようだ。

「聞こえないのか? そんなにセシルを見て何を考えてる?」

俺は爺さんとセシルの間に入った。
すると爺さんはまるで現実に戻って来たように目を瞑り首を左右に振った。

そして何もない天井を向き、その後、俺たちを見る。

「聞こえておるよ、ああ聞こえておるとも。その獣人の子を休ませる場所じゃな。ついておいで」

爺さんが入り口の方へと歩いて行く。

「立てるか?」

「んん……」

弱い声。セシルはふらふらになりながらもゆっくりと立った。

「セシル……」

俺はセシルを背負った。

先行く爺さんには聞きたいことが山ほど出来てしまった。
扉の先にあった謎の石、俺だけに見えたカーバンクル、そして消えたカーバンクル。
今背負うセシルの突然の頭痛み。

先を行くのはただの木こりと名乗る爺さんーーアルバード=バージャッグの祖父の友人は、先代魔王と対峙したという。
爺さんはただの木こりなのかもしれないが、その言葉によって只者ではない感が出てやまない。

そうしてセシルの事を心配しつつ、また謎めいた感を解き放ち出した爺さんの後を俺たちはついて行く。
扉は閉まり、開かずの扉状態に戻ってしまった。





セシルを背負って村の中を歩いていると、やけにじろじろと見られた。
獣人が珍しいだとか、獣人が何故こんなところになどと言う言葉が聞こえて来た。
爺さんも爺さんで歩く速さが遅く、人々の視線をストレートに感じてしまう。

「見せ物じゃないぞお前ら!」

そう言ったレンの言葉は俺の言いたかった言葉を代弁してくれたようだ。

そうして、謎の石があったところから数分程度歩いて着いた場所。
古ぼけた木造建築の家の古びれた表札にはアルバート=バージャックと彫られている。
庭に目を移せば横になって積み上げられた綺麗に切られた木が置いてある。

爺さんはドアを開け、俺たちを招き入れる。

「どこでもかまいやせん」

爺さんの言葉を聞くなり、古ぼけたソファーの上にセシルを下ろした。

「み……お水が欲しい」

「水ね! お爺さん、お水はある?」

「そこの樽に今朝、井戸から引いたばかりの水が入っておる」

置いてあった樽ーー中央部が膨らんだ円筒形で、ちょうど真ん中あたりに蛇口が付いている。

「入れ物貸してもらうわ」

樽の直ぐ隣に置いてあった取っての無いグラスを手に取ったメアは、樽の側面の蛇口をひねり水を出し注ぐ。
無色透明、気泡もなく綺麗そうな水。

本来街で水を使用する時、台所にある蛇口をひねれば水道管を通っていつでも水を出せる。
だが、こうした街から離れている村では自分たちで水の確保をしなければならない。
大概は地下で水が通っているところを見つけ井戸を掘るというのが一般的だが、この村を通って来てざっと見回したが井戸らしきものは見当たらなかった。
もしくは何処かに井戸があるのかもしれないが、貴重な水だということには変わりない。

街以外に人々が居住する場所を築いている場合、水を離れている場所ーー別の村か街から運んで来るか、もしくは国に援助を求めるかしか手段がない。
だが、人が生きる上で最も必要とする水をタダで運ぶほど国もお人好しではない。

アイスベルク山脈を越える前にあったカリダ村にしても、国の援助を求めるには何らかの等価交換を行う必要がある。
国は村を独立した一つの集まりだと認識している為、そこには村だからと言って特別な処置などしないのだ。
これはシーラ王国、ソフィア王国を始め、他の国々も同様の措置を取っている。

ただ唯一、良心的になって村の人々に奉仕をする国も存在はしているのだが……抑圧するシーラ王国やフォックファー王国のせいで、まだまだ国の支援が受けれていない村は多い。
俺が今いるこの村はどうだろう。

家の中から窓の外を見た。
村の人々の頬は痩せ細っているようだ。
だが、目を色んなところに移せば勇者が村の住人に何かを渡している様子も確認出来る。

「爺さん、この村は何でこんなに勇者が多いんだ? さっきの石と何か関係あるのか?」

勇者たちも観光でこの村に来ているわけではないのだろう。

「そのことじゃな……」

「それ俺も気になる!」

「レン、お前も理由があってこの村にいるんだよな?」

勇者がこの村に多くいる理由。レンがいたのも何か知っていたからなのかもしれないと思っていたが、そうではなさそうな感じだ。

「俺は違うぜ? 偶然、旅の途中でこの村に寄っただけ。勇者がこんなにいて祭りでもしてんのかなって思って!」

「相変わらずの気ままな旅暮らしか」

レンは昔から変わっていないようだ。
初めてレンに会った時も、ただ偶然通りかかっただけだったそうだ。
俺と同じように出身地の村を旅立ち、勇者の職業を糧に生活をする。

「お主からはそこの坊やと同じ匂いがしよるわい」

「やめてくれ爺さん、俺はもう……」

爺さんの言う通り、俺はレンと同じような価値観や考え方を持っていた。
その価値観や考えーー自由にこの世を生きることを諦めたわけじゃない。

だが今の俺は、シーラ王国のアリス王女から魔王の城に眠る秘宝を盗んで来いと任務を任されたーー自由ではない道を歩んでいる気がする。
だがそれもアリス王女に出会わなかったとしても、何処か旅の途中で考えが変わって魔王の城を目指していたかもしれない。

勇者になったから魔王の城を目指す必然性は今の時代何処にもないが、少なくとも勇者になると決めた当初の俺は“魔王討伐”の四文字が真っ先に頭に思い浮かんだ。当時は微塵もそんなことを思っていなかったが、勇者の本能とでもいうのだろうか、まあそんな感じだろう。
直ぐにその旅に出なかったのは、もちろん力が圧倒的に不足していた為だ。

旅の途中、いつも頭をよぎっていた“魔王討伐”の四文字。
いつか、いつか魔王の城へ……
そう考えていた時に出会ったのがメアだ。
考え方によっては多くの岐路、運命点を通過して行って今の道にいるとも言える。
アリス王女の言葉の道を歩んでいると強く意識すれば自由の意識は薄くなり、そうではなく、あくまで自由を突き進んで行った先にあったのが今の道。
だからあくまで自由の道を歩いている。俺としてはこっちの方がしっくり来ている。
言葉で強引的に自由への道へ行った感は否めないが、少なくとも今の俺にアリス王女からの束縛感は全くない。

ただ、表面上はアリス王女からの任務の途中だということは確かな事実。

「何を否定することがあるんだ? シン、お前は昔会った時からずっと変わってねえよ。俺にはいない仲間もいて、充足した日々を過ごしているじゃねえか! このリア充!」

レンが俺の右肩上部を拳で何度も押して来る。

確かにそうだ。昔の俺からは到底考えられなかった世界がここには広がっている。
メアと出会って、セシルと出会って、そしていつかの友人にもこうして再会することが出来た。

俺はセシルが横たわる古ぼけたソファーに腰をかけた。
セシルに水を飲ませていたメアが立ち上がる。

「セシル、そんな痛みになんか負けるなよ。獣人は強いんだろ?」

開かずの扉の先で起きたこと。初め頭を痛み出した時よりさらに状態が悪化してしまったようだ。

セシルの頭を撫でるものの、体温が随分高い。

「ゔん」

それはセシルの今出せる精一杯の声だったのだろう。
か細くも、だが力強く、セシルは俺の目を真っ直ぐに見つめた。

「……セシル?」

しかし間も無くして、獣人セシルはゆっくりと瞼を下ろしてしまった。

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