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第101話 護る者
しおりを挟む開いた扉からは冷たい空気が流れて来る。
一体どれ程の間開いていなかったのか。開ける前と後の空気が違い過ぎる。カビ臭い匂いもない。
「……開けおった」
爺さんはただそう言う。
人は予想外のことが起きた時、口の筋肉が緩むとはよく言ったものだ。
「シン、流石としか言いようがないわ」
「シンすごい!」
セシルが腕に抱きついて来た。
「それがお前の目覚めた能力なのか?」
「ああ。そう言えばレンは知らなかったな」
レンが俺の能力のことを知るはずもない。俺が能力に目覚めたのはレンと別れてからずっと後のことだった。
ピンチの時ほど能力に目覚めるとはよく言ったもので、俺が解錠の能力に目覚めたのも、まだ力のなかった頃、賊に捕まっていた時ーー手枷の錠を外して離脱した勇者歴もそう長くない時だ。
シーラ王国に捕まるずっと前の話。
「開いたのかついに! 村のみんなに知らせて来る!」
初めから見ていた者ーーナスターが転びそうになりながらも走って行く。
よほど重大なことらしい。
「入るぞ、爺さん」
開いた扉の奥を見た。
「待ていっ!」
「なんだよ爺さん! 開いたんだからいいじゃねえか! それとも何か? やっぱり中は見せられませんって!?」
レンが爺さんに詰め寄って聞く。
「むむむ……違うわい! まさか開けられるとは思わんかったんじゃ!」
「と言うことは何か? 元々俺たちに話す気はなかったってことなのか?」
「むう、どう言ったらいいんじゃ……。お主らはこの奥にあるものを先に知りたくはないのか?」
「それじゃあ面白味がねえ!」
タタっと一人先駆けて行く。
「右に同じ。俺もこの目で見て何か知りたいしな」
50年以上も開かれなかった扉の奥にある物。それが一体何なのか、言葉のベールで剥がされる前にこの目で見たい。
扉にあった傷も一体どれだけの勇者がこの村に押し寄せたのか、何を求めてこの村にやって来たのか。
それが今、分かる手前。
奥へ入ると予想以上に深く、視界が暗闇に覆われる。
「この穴一体どこまで続いているんだよー!!」
レンの声が響くようにずっと奥から聞こえて来る。
「レン! 何か見つけたら直ぐ言え!」
「見つけてって言われてもなーまじでなんにもねえぞ! 上も下も右も左も……これほんとに土か!?」
そう言えば、やけに地面が硬い。
「硬いな。爺さん、この中はどうなっているんだ?」
「気になるじゃろう。ーーほれ、みなさい」
周囲が明るくなった。
爺さんは持っている木の枝に火を付けて土の壁に寄る。
「土……じゃないのか?」
「いんや、元々はただの土じゃ。おそらくこれは……おっと! それもその目で確かめたいんじゃったな」
「気になるー!」
セシルがぶんぶんと体を左右に揺らす。
「お爺さんも意地悪ね。それくらい言ってくれてもいいじゃない」
「何事も自分の目で確かめる。最も、それが出来ればの話じゃがの! ふぁっふぁっふぁ!」
少しずつ爺さんの性格が分かって来た。
さて、爺さんのことは置いといて奥に行ってみようか。
そうしてしばらく奥へと足を進めて行った。
◇
「クッソー! 開かねえじゃねえか! つうかさっきから何だよこの光は!?」
何やらレンが物体の前で力んでいた。
そしてレンの周りをぐるぐると回っていたものーー。
「カーバンクル……なんで……」
「お主!? その光の主が見えるのか!?」
「ああ、そこでレンの周りを回っているやつだろ?」
暗闇で爺さんが持つ松明しか灯りがなかったが、レンの周りを回る物体ーーいや、その生命体は発光し周囲を照らしていた。
サファイアのような煌きの毛、目はルビーのように紅い。
「……まさか、いや……ありえん……彼の……じゃが……」
爺さんがぶつぶつと独り言を言っている。
「何も見えないけど……シンには見えるの?」
「カーバンクルだろ? ずっと見えてる」
どうやらメアやレンには見えないようだ。それはセシルも同じようで、首を傾けて不思議そうに見ている。
「私にもみえない。お爺さん、この光は一体なんですか?」
ルベルトも見えないようだ。
「ふむ、そうか……そうか……。永きに渡る時を経て、遂に来たるは何処ぞの勇者。封印されし扉を開け、その姿を見ることも叶わぬ精霊を見たりけり。ーーお主、名はシンとそこのお嬢ちゃんが言っとったな。聞かない名じゃが、彼が待っていたのはお主なのか?」
「知らねえよ。いきなり何言い出すんだ爺さん」
「おおっと! すまんすまん! つい興奮して心の声が出てしまったようじゃ!」
レンの周りを回っていたカーバンクルが物体の上にちょこんと乗った。
「やっと止まった! シン、この光のやつが見えるんだな!? バトンタッチだ!」
レンが俺の肩をポンと触れる。
物体ーー宝箱には見えない。何ていうか、ただの石。
その上には真っ直ぐに俺を見るカーバンクル。
「何やってんのよ」
「なんでもない」
はたから見たら変な行動だっただろう。
カーバンクルがじっと俺の目を見て来るもんだから、左右に移動してみた。
だが、それでもカーバンクルは俺から視線を外さなかった。
近づいてみる。
『キュイ!』
そう鳴き、カーバンクルは俺の手につんと鼻を触れさせる。
「聞こえた! 見えないけどカーバンクルってのがいるのね!?」
「ずっといる……」
カーバンクルはその姿をゆっくりと消して行く。
「何? どうしたの!? ああっ! 光が!」
カーバンクルが消えたことによるのだろう、光も次第に消えた。
それに伴い、石の上に何やら文字が浮かび上がる。
「……お主、この文字は読めるか?」
「読めるわけないだろ、こんな文字」
と言うのは、別に文字が汚いだとか難しい漢字やアルファベットだからと言う理由だからではない。
書体も不明。確かなのは、何者かがこれを石に刻んだということ。カーバンクルは護る者の意を持ち、この石の中にあるだろう何かの封印精霊。そうとしか考えられない。
記憶文字ーーそう呼ばれる魔法技術が存在する。
1人が誰か1人の為だけに読ませることが出来る、いわば2人だけの秘密文字。
要するにその2人がこの形の図形、もしくは線や曲線、数字などをこういう読み方にしようと決めておく。そうすれば、他の誰かに見られたとしても解読することは困難となる。
つまり、この石に刻まれた文字を読み解くことが出来る人物が必要だということ。
だが、もう50年以上開いていなかった扉の奥にあった物。
となると50歳以上、既にもうこの世にいない人物の可能性すらある。
「こんなもん読めても読めなくてもどっちでもいいんだよ! 開けりゃあ済む話!」
レンが力業で開けようとする。
「やめなさいって、力でどうこうなるような物じゃないと思うわ」
「いや! また扉みたいに攻撃すれば!」
レンが剣を抜いた。
「馬鹿やめろ。力で扉は開かなかっただろう?」
「そ、そうだったな……だったらこれもシンの能力で開けられるんじゃないか?」
「お主の能力か、やってみい」
俺は石に手を触れた。
「……」
石は微動だにしなかった。
「なんにも起きねえ! シン! なんだそのヘッポコ能力!」
「シン、こういう時こそあなたの能力じゃない!」
レンもメアも言いたいように言ってくれる。
「十分役目は果たしただろ。扉を開けられなかった奴らがよく言うぜ」
そう図星を突かれたようにメアとレンは反論する言葉を失ったようだ。
「うぅ……」
そのよそに、セシルが頭を押さえていた。
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