百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第97話 雪山に降り注ぐ脅威

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アイスベルク山脈の頂上付近はさらに高いが、それが中間地点だと分かったのは目印が置いてあるからだ。
ちょうどエボルゼブラと同じくらいの高さの鉄筋。今の季節はエボルゼブラも止まらないが、陽気のある春だとここら一帯も花々が咲き乱れる。もちろん魔物も出るが、物好きな観光客はいるものだ。

中間地点を通り過ぎ、先を行く。

「ところで君たちは、何故魔王の城を目指している? この時代、勇者になったからといって魔王の城は目指す必要はないだろう?」

シーラ王国隣接街、セイクリッドで同じことを誰かが言っていたな。

「まあ、なんだ。成り行きでそうなった」

特に理由を説明する必要もあるまい。

「そうか……それでは奴との一戦の件、宜しく頼むぞ」

立ち上がったルベルトは離れて行った。

「お主も律儀な男じゃな。断ればよかろうそんなもの」

「一応、知らない情報をくれたからな。戦いくらい見届けてやる」

魔王が地獄の使徒を遣わせた。この情報の重みが後々、重大な件に関わってくるかもしれない。何故なら魔王が地獄の使徒を遣わせるのは、それほどの重要事態になったということ。1番新しい情報では先代の魔王が危機的状況だった時。ただ、だからって今の魔王が危機的状況かは不明だが、少なくとも重要な情報には変わりない。

それにルベルトが話したことのうち一つ、ーー自身より強い魔物討伐時に起きる、ステータスの大幅アップのことは知っている者は知っている。
問題はその次だ。このアイスベルク山脈の先に地獄の使徒の目撃例があると言うではないか。

果たして今の俺の実力で勝てる相手かどうか……
俺の目的は魔王の城に眠る秘宝を盗み出すことではあり、無理に地獄の使徒との戦闘をする必要はない。
だが地獄の使徒ほどの敵を討伐したとなると、今後入るであろう魔王の城の攻略も少しは楽になるだろう。
狙うは地獄の使徒を討伐したことによるステータスの大幅アップだが、そうそう上手く行くこともないだろう。
可能であれば討伐。今のところはその考え方が妥当。

「何か……音が聞こえる」

セシルが両耳をしきりに動かしている。

こういう時、真先に思い浮かぶのはだいたい同じだ。

「魔物か」

「うん、何処か遠くの方で……上!」

セシルが澄み渡る空を見上げた。

「これはまた、面倒な奴らが来たな」

「儂はもう知らんぞ! 何故今日に限ってこうも魔物が来よるんじゃ! この袋の効果が無くなって来たのか!?」

魔物レベル120に匹敵する強さを持つエボルゼブラがいるにも関わらず、魔物が再びやって来た。

遥か上空。
まだその姿ははっきりとは確認出来ないが、黒い物体は澄み切った空には悪目立ちすぎる。
一つ一つ、まだ小さな点のようだがそれらは次第に形あるものへと見えてくる。
翼が確認出来る、細い尾も確認出来る。
黄色い目に全身黒い石の魔物。

「ガーゴイル! それもあんなに!」

翼を動かす鈍い音ーー全身石のガーゴイルを宙に浮かせるほどの羽ばたく力。

石の怪物とはよく言ったもので、その全身が全て石。全て、なのだから目もそうだ。
街の怪しい雑貨店で見かけたガーゴイルの目のアクセサリーを思い出す。
悪趣味なアクセサリーだったがそれでも魔除けにと買う者は買うのだろう。

ガーゴイルは人々が魔物に対抗する為に創った、いわばただの石造。
だが、突如として動き出した石の置物は人々を襲い始めた。
次第に元の造形も崩れ去り、今は立派な魔物へとなっている。

ガーゴイルは体勢を変え向きを変え、まるで落下する隕石の如く落ちて来る。

1、2……8体。
レベルはそのほとんどが70台。
ガーゴイルの重さはおよそ500キロ近くある。それが8体。流石にこの数で追突されればエボルゼブラもたまったものではないだろう。

エボルゼブラは気付いて上空を見上げて深い鼻息を鳴らす。

「これはまずいよねー!」

「ブラウ! エボルゼブラの速度を早く!」

ブラウはエボルゼブラの乗り場を案内していた男。
ブラウはエボルゼブラの後頭部あたりまで行き、何やら手に持ってそれを後頭部付近に当てる。

「わっ!? 何!?」

ばちばちと電気音が鳴り響く。

「早くなったー!」

この巨体の動きが急に早くなった。
と言っても、タイプⅠやタイプⅢほどではない。それでも、動きの遅いエボルゼブラタイプⅡが脚を早めるのはそう見られるものではない。

「間一髪だったな」

後少しでも遅ければ、500キロ8つ分が直撃していた。
地面を見ればエボルゼブラの巨大な足跡に混ざり大きな穴が8つ。

「急げ急げ急げ! また来るぞ!」

そう言うのは先程、リトスやルベルトにつっかかっていたギル。

「分かってるよねー! ほい!」

エボルゼブラが再び鼻息を鳴らした。
それはまるで馬に鞭をするかのようだ。電気の衝撃で鞭がわりにでもしているのだろう。これだけの巨体。鞭では効き目がないのだろう。

エボルゼブラは速度をさらに上げ、駆けて行くーー。





ガーゴイル8体の強襲を経て、エボルゼブラがようやく落ち着いて来た。
それに伴い、熱くなっていた温度が下がっていく。
人間走れば体温が上昇するように、それはエボルゼブラも同じだったようだ。それは背中にいても感じほど。

「それにしても、最近、魔物の強襲が多いのは問題だな」

「カールさん、俺、また国に戻るなんて嫌ですよ」

青年ラッシュはカールに訳ありな様子でそう話す。

「国って、ソフィア王国のことか?」

俺がそう言ったのは、エボルゼブラを生み出した国だったからだ。

「そう俺たちの母国! 昔は好きだったんすけどね、今はもう……」

「そう言うなラッシュ。ソフィア王国も隣国と協力して魔物時代の終わりを願っているだけだ。多少の無理も仕方ない。俺たちのような一国民がどうこう言ったって上の連中の考えは変わらない」

ソフィア王国ーー情報の街、ブルッフラで見た黒柱の開発を中心となって進めた国。他にも今や勇者には必須となっている黒の紙を開発したのもソフィア王国。
優秀な研究者が多く、シーラ王国のように武力で敵わない分、頭脳で世界に貢献している。

「もしかしてあれか。人工的にスキルを付けようって試み」

ソフィア王国はシーラ王国と協力関係あるが、独自に開発を進めることが多々ある。そのうちの一つが、今や話題にたびたび上がる人工的に人間にスキルを付ける技術。

「そうそれ! やめてくれって感じっすよ! 俺は俺、そんな得体の知れないものなんて、たとえ力を持ったとしてもいらない!」

1000人に1人の割合で目覚めるスキル。誰がどのようなタイミングで目覚めるか分からないスキルは、勇者にとってもそうでない者にとっても待ち遠しいものではある。
そんなスキルをソフィア王国は黒柱や黒の紙に引き続き、人工的に誘発させるような技術を進めているらしい。
どうやら本当のようだ。

それが問題でシーラ王国と衝突したこともあったが、今や世界への貢献率の面だけを見ればシーラ王国と肩を並べている。

「いいじゃないか。スキル、便利だぞ」

「スキル覚醒者か」

「俺だけじゃないぞ」

メアが分かりやすく氷魔法を発動した。手の上に作り出した氷魔法は形を変え、氷のエボルゼブラへとなった。

「やっぱりすごいな。ラッシュどうだ?」

「手から氷が出るからってそれが何の役に立つって言うんすか!?」

「ぼ、僕~。これはほんの一部よ」

メアの手の平の上に作り出されたミニエボルゼブラは変形し、氷の剣へと姿を変えた。

「すっ! ……剣ならほら、この鉄の剣の方がよっぽど斬れる」

すごい、そう言いかけたのだろうか、ラッシュは腰元の鉄剣を取り出した。

「お前、勇者なのか?」

メアが反論する気もないようだから俺が質問した。

「違う違う! これは護身用っす! さすがにエボルゼブラにばっかり頼ってちゃ危ないっすから」

そう言われて見れば、カールもブラウも腰元に剣を持っている。

「俺たちはソフィア王国の元兵士。こんな魔物だらけの山脈、武器無しでいるなんて危険過ぎる。乗客を安全に向こう3番ゲートへ届けるのが俺たちの仕事。ブラウ、ラッシュ、そして俺。ソフィア王国の兵士だったのにな、兵士には向いてなかったって話だよ」

兵士になる者たちの中には無理強いてその道を行くこともあるらしい。
育った環境が多くの理由となるようだが、そう言った理由で兵士になった者の中には辞退する道を選ぶ傾向が多々あるようだ。

「だから、こうしてエボルゼブラに?」

「俺たちに勇者は無理だ、そう言ったら人間の橋渡し役を与えられた」

「俺は断然こっちの方が性に合ってるっすけどね! 兵士なんてもうまっぴらごめんっす!」

兵士たちも兵士たちでいろんな苦労があると聞く。
まあ、それは俺のような勇者にも変わりない。
要はそれが今後の為になるような苦労だったらどういう道を行きたいかって話だ。

そうして話していると時間が経つのも早く感じられ、まだ遠くではあるが目下には3番ゲートが見えていた。
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