百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第92話 アイスベルク山脈

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スライムの討伐、それ以外の魔物の討伐を含めると随分と倒した。
レベルは60台が多く、70台はほとんどいなかった。それでも、1体、2体くらいいたことも確か。
最もスライムに限って言えば10から20くらいのレベルばかり。ただ、大型のインプールスライムなどは50、60台のレベルがほとんどだった。

だが魔物の数も多ければ、人間軍の手練れも多い。さすが、シーラ王国の第五部隊だ。連携プレーによる魔物の誘導にしても動きが機敏だ。

アイスベルク山脈麓付近では50台から60台が魔物の平均レベル。
勇者である俺やメア、獣人のセシル、兵士たちにとっては戦える相手だが、カリダ村の住人たちにとっては驚異そのものだろう。
ただ、隊長や副隊長以外の兵士たちがいくら鍛えられていると言っても、レベル50、60台を相手にするのはかなり厳しいものがあったようだ。

そうしてカリダ村に押し寄せたスライムの大群隊と多数の他の魔物を含めて、戦いの音は静かに止んでいった。

「皆さん、このたびは本当にありがとうございました! この後の旅もどうかお気をつけて」

「ああ。それとルナ、今回俺たちがこの村に寄ったのはたまたまだ。だから、村を訪れる旅人にあまり期待はするな。カリダ村にシーラ王国の第五部隊がいるのはこの村を守る為だ」

国の兵士たちが村に長期で滞在する理由。それは勿論力無き人々を守る為。
だが、シーラ王国の部隊もボランティアで村や街の防衛をするわけではない。そこには少なからず等価交換が発生することになる。
カリダ村がシーラ王国に防衛を頼んだ時、セルモクラ鉱石の提供をすることが決まったそうだ。

カリダ村に押し寄せて来るスライムたちによるセルモクラ鉱石の搾取、シーラ王国にセルモクラ鉱石の譲渡。
この二つによってカリダ村にあるセルモクラ鉱石の数は日の目を見るごとに減っているそうだ。
当初、カリダ村が出来上がる前に、あったセルモクラ鉱石の価値に人々が気づいたように、シーラ王国もその価値を直ぐに理解したようだった。

熱を放出する鉱石。それがどれだけの価値を生むのか。シーラ王国にとっては持っておきたいものなのだろう。

「分かってる! ……だけどいつかセルモクラ鉱石はなくなっちゃう……。その時、私たちどうしたらいいか……」

「ルナ、そんなこと心配しなくていい。たかが石ころなんだ。無くなっても僕らの村が消えるわけじゃない」

「寒くなるのは仕方ねえ! まあその時はその時! 何とかやっていけるだろ!」

マルスはポジティブに考えられるだけマシか。反面、ルナを見る限りではどうも心配だ。

その時だった。
第七部隊がいた第二の防衛ラインからメルクが戻って来たようだ。
剣をぶら下げ、勇者をしている。

「メルク、いつも大変だね」

「もう慣れた。スライムと他の魔物も撤退してひとまず休戦だって」

その言葉通り、第五部隊の兵士たちもカリダ村の滞在所の方へ隊列を組んで歩いて行く様子が見える。

「それじゃあ俺たちは行くが、次もまだやつらが来るならしっかりと国の兵士たちに守ってもらうんだ」

「お兄さんたちも気を付けてな!」

魔物と戦うことが勇者という職業。それはいつどこでどういう形で起きるものか分からない。
今回はまだ魔物の中でも弱小の部類に入るスライムだったが、アイスベルク山脈を越えれば高レベルの魔物も出現するだろう。
それが意味するところーーアイスベルク山脈を越えればいよいよ魔王の城がある。

魔王の城に着く頃にはせめて勇者ランク9には到達していたい。
今の俺の勇者ランクは7。今回、カリダ村に応戦した分を含めて魔物総討伐数は762体となった。
スライムを含め他の魔物も多く討伐はしたが、まだ魔物総討伐数800には届かない。
もう一つ言えば、ステータスの上昇に影響しないスライムの討伐は骨折り損のくたびれ儲けにしかならなかった。

だが、カリダ村の人々の役に立ったのだからよしとしておこう。

そうしてカリダ村を出発し広大と見えるアイスベルク山脈を目指す。





カリダ村を出発してからアイスベルク山脈目下まで距離はそう遠くなかった。

「おっきい~!」

セシルが言ったのはアイスベルク山脈のことではない。
見上げ、目をキラキラさせている。

「相変わらずの大きさね。この大きさだとレベルも相当高いに違いないわーーってあれ?」

メアが右手でこめかみ当たりを抑える。
が、その行動の結果に疑問の声を上げたのだろう。

「あいつは魔物じゃない。似てるけどな。エボルゼブラはソフィア王国が作り出した生体」

「そうだったわ! 私いつも強そうな魔物と戦う時観察眼で見るから」

エボルゼブラ、タイプⅡ。
その巨体は生体によりおよそ20メートルから26メートル、推定体重およそ40トンから50トン。
こうして見るとメアが魔物と見間違える理由もよくわかる。
その尾の一振りだけで軽く大岩を砕くほどだと言われている。

じっと微動だにしないエボルゼブラタイプⅡ。
その背中あたりから地上に向かって縄梯子が確認出来る。

「強そうな魔物、か。知ってるか? メア。エボルゼブラタイプⅡを魔物のレベルに換算すると100だそうだ」

「ひゃ、100~!? あの魔物が!? ……いえ、エボルゼブラってそんなに強いんだ……」

レベル100と言えば、魔王の城周辺から生息している魔物並。

「安心だろう? こんな強いエボルゼブラに乗っていけばアイスベルク山脈も問題ない」

レベル100の魔物の強さがどれほどのものか。まだ対峙したこともない俺にとっては未知の強さ。そんなレベルの魔物が魔王の城やその周辺にはうようよいるらしい。

セシルはさっきから呆気にとられているのだろう。ずっとエボルゼブラタイプⅡの方を向いている。

「行くぞセシル。これからあいつに乗って行く」

タタタッと走って来るセシルのテンションが高い。
獣人は集団で生活を成し、そもそもこんな旅なんてしたこともなかったのだろう。
それがセシルにとって良いかどうかは分からない。
あのアイスベルク山脈を越えて海を渡った先ーー魔王の城に近づくにつれてセシルでは敵わない魔物も多く出てくるだろう。

もちろん俺にとっては心強い獣人のセシルが旅に同行してくれて嬉しい。
それはメアも同じ気持ちだろう。

セシルとの約束ーーバタリアで捕まっている獣人の解放。

その全員の獣人となると俺の有り金全部はたいても全く足らない。結論、魔物を討伐しまくってギルドで得た報酬か、それこそ魔王の城に眠る秘宝を盗み出した報酬としてシーラ王国からの金貨10000枚。
現実的には前者だろう。
後者は現実性が薄い。ただ0というわけでもない。

その為にも魔物を討伐し勇者ランクを上げる、
身体を鍛え、強化。そして魔王の城までのルートの中でセシルとの約束を現実にする道を明確にする。

その道のりのことを考えるとアイスベルク山脈の登山なんて緩やかな斜面にすら見えてしまう。

次第に近くになるエボルゼブラタイプⅡ、そして迫り来るアイスベルク山脈を越えることだけに今は集中しよう。
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