百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
85 / 251

第85話 魔物退治

しおりを挟む


「シン、まさかだと思うけど、あの山越えるのって歩いて行くつもりじゃないよね?」

メアが北にあるアイスベルク山脈を指差して言った。

「ああ、国の乗り物を使わせてもらう」

「国の乗り物?」

セシルが首を傾げながらそう聞いてくる。

「エボルゼブラ、ソフィア王国が作り出した生物だ。バタリアにも居たんだが、メアたちは見ていないか?」

「ええ、見ていないわ。だけどエボルゼブラは私も知ってる。天の星砂漠を横断している時に乗ったことがあるから」

「タイプⅢか」

「そうよ。早くて強い。天の星砂漠の魔物も逃げて行くんだもの。私たち勇者にとって心強い味方よ」

バタリアではタイプⅠのエボルゼブラを見たが、これから向かうアイスベルク山脈の登山の手助けをしてくれるのはタイプⅡ。
大きさもバタリアで見たエボルゼブラとは比べ物にならないほどの巨体。

この世界には魔物が溢れてしまっているが、物資の輸送や補給手段の確保は必要不可欠。
シ-ラ王国を始め、世界の国々は物資の製造や輸送を途絶えさせないべく協力し合う。
表立ては対立し合う国同士もあるが、ただ一つ、人類存続の為という共通の課題を持っているが上、自国のわがままが通るはずもない。
そんなことをすれば、たちまち世界の国々から反感を買うことになるだろう。
ましてやこの魔物時代、物資の循環を途絶えさせるということは、人類の終焉に片足を突っ込むことを意味している。
その為、最も力のある国であるシ-ラ王国が世界の国々を取りまとめ、共通意識を深く説いているというわけだ。

兵団は日夜魔物と戦っている。
そして兵団の中には物資を安全に、かつ確実に隣国や街に届ける為の部隊も存在している。
だが、いくら優秀な国の兵団でも魔物に敗れる時は敗れてしまうことがしばしば起きているらしい。

その為、そうした事態を組んでソフィア王国で生み出された生物がエボルゼブラだ。
エボルゼブラはタイプⅠ、タイプⅡ、タイプⅢが存在しており、そのどれもが強靭な肉体を持ち合わせている。
また、どのタイプにおいても気温の変化には対応しているが、タイプⅠのみ極端な差には対応はしていない。
タイプはそれぞれが持つ特徴を表しており、タイプⅠは陸専用、主に物資の運搬などに使われる小型のエボルゼブラ。と言っても馬の2倍以上もある。
そしてタイプⅡ。このタイプが今回アイスベルク山脈でお世話になる乗り物だ。
体長およそ20メ-トルから26メ-トル、推定体重およそ40トンから50トン。
魔物のレベルに換算すると120はあると言われている。
レベル120ともなると、魔王の城周辺にでも行かなければ立ち向かって行く魔物はそうはいない。

魔物も馬鹿ではない。いくら知能指数が低い魔物でも、野生の勘、魔物の勘とでも言うのだろう、弱肉強食の世界が魔物にも存在している。

そしてタイプⅢのエボルゼブラは主に高気温の地域で活躍する。メアが言ったのはこのタイプⅢのエボルゼブラ。
タイプⅠとタイプⅡに比べて動きも早い。

「そうだな。ソフィア王国のそういう技術は心底凄いと思うよ」

ソフィア王国の技術を持ってすれば、人々の需要と供給を満たすことが出来る生物さえも誕生させる。
勇者の持ち物に必須である黒の紙を始め、情報を伝達させる黒柱の開発を中心となって動いたのもソフィア王国。
シーラ王国が第一に信頼を寄せる国であり、シーラ王国の次に無くてはならない国だと世間からは言われている。

「セシルも早く会ってみたい!」

「じきに会える」

そうしてアイスベルク山脈を目指して進んでいると体感する温度も低くなって来る。
アイスベルク山脈ーー標高4312メートル、大地を大きく分かつ連なる山脈は夏の暑い季節でも雪が残る。
今は冬の手前、肌寒い季節だが、アイスベルク山脈に到着していなくても流れてくる冷気は付近の気温を低下させる。

そんな時、また別の村が見えてくる。
太陽はとうに登っているのだが、薄っすらと朝霧っぽいものが辺りを漂う。
そして道の視界先の脇道には3人の子供が屈んで何かをしているようだ。

「やっ!」

と、必死になって脇道にあった草を摘んでいた少年2人と少女1人にセシルが声をかける。

「で、で、出やがったな魔物! これでもくらえ!」

少年の1人が地面に落ちていた石ころを拾ってセシルに投げる。

「よっと! こらっ! 危ないよ!」

だが、軽く躱したセシルは石ころを投げて来た少年の頭をこつく。

「マルスやめて! この子は獣人……魔物じゃない」

マルスーーセシルが頭をこついた少年の名。マルスは頭をこついたセシルの方を睨むように見る。

「魔物じゃない!? これが!? 毛むくじゃらで、爪なんてすごいぜ!?」

セシルが「むむ」と言ってまた少年の頭をこつきそうになったところを俺は腕を掴んで止める。
少年のその様子じゃあ、獣人を見たことはおろか知ってもいなかったのだろう。

「これなんて失礼だろ。この子はセシル。俺の仲間なんだ」

「獣人が仲間? ……お兄さんたち、まさか僕たちの村襲う気じゃないよね?」

そう言うのはもう1人いた少年。凛々しい顔だ。

「俺たちがそんな風に見えるか?」

俺がそう言うと少年2人が大きく頷いた。

過去、ヘリオスの村を襲った魔物を引き連れていた3人の勇者。
これも、その3人の勇者たちが残していった悪い影響なのだろうか。
本当に迷惑この上ない。
魔物が村を襲う。別に何ら不思議なことでもない。魔防壁の張られていない魔物生息域に住む人々は数多いる。

「はぁ……。いいか、よく聞け。俺たちはお前らの村を襲うつもりなんて全く無いし、ただこの道の先を行きたいだけだ」

「この道の先? そんなの、行ってもあの山があるだけだぜ? ……登る気なのか?」

「ああ。ーーじゃあ、俺たちは先を急ぐんでな。草摘み、邪魔して悪かったよ」

少年2人と少女を後にして歩き出した。

「待って!」

とすれば、少女が俺の元に駆け寄って来て服の袖を掴む。

「何だ?」

「あの……」

少女が何かを言おうとした、その時だった。

少年少女らが草を摘んでいた脇道側。
唸り声を上げながら近づいて来る一体の魔物。
頭は獅子、胴体はヤギ、尾は蛇の形を成している。

少女が俺の袖を掴む手が大きく震え出す。

「メア、この子を頼む。お前らも死にたくなかったらこっちに来い」

「ま、魔物だああああ!!!」

「メルク! 声出すなって!」

魔物は声を大きく上げた少年の方に向かって走り出した。

「ちっ!」

少年少女らが魔物を恐れているのは分かった。
だったら、魔物が出る場所に居るなって話だが。

「グオオオオウ!!」

獅子の口が大きく開き、鋭い牙がびっしり生えている。
俺やメア、セシルは噛まれても致命傷になることはないだろうが、見たところ村人の少年少女らは即死。


キマイラ
LV.67
ATK.80
DEF.67


レベルは67。俺1人で十分だ。
向けられた牙をさっと躱し、十字に斬りつける。が、やはりダメージはそれほど入っていないようだ。
キマイラの持つ逆立つ剛毛は密集すると鉄のように硬い。本体の防御力はそれほどないとしても、その剛毛が攻撃の邪魔をする。

キマイラは怒りの雄叫びを上げ、「シャー!」と声を上げる蛇の尾で攻撃をしてくる。
真っ直ぐに伸びた蛇の尾。
そこをアスティオンで斬り落とす。ここは逆立つ剛毛ほど硬くない。

キマイラはややバランスを崩したようだったが、振り向き火炎弾を吐き出した。
火炎弾が通り過ぎる草むら周辺が燃える。

「火事になるだろ! ーー!」

5秒。
撃技+3を解放してからアスティオンにエネルギーを流す。
そして放った破鎖の斬撃は、キマイラの獅子の頭に直撃し貫いた。
その一撃でキマイラは絶命の声を上げることなく倒れた。
いくら鉄の剣も弾く剛毛を持っていたとしても、0.1秒ごとに加わる斬撃の力には耐えられなかったみたいだ。
魔物特攻特性を失ったアスティオンでこの威力。アスティオンの神剣化が楽しみだ。

「シンー!」

セシルが駆け寄って来る。

「さすがね。じゃ、後は私が」

メアが燃える辺り一体を凍らしていく。
キマイラの火炎弾によって燃えていた草はみるみる凍りづけになった。

「あの……さっき言いかけたことだけど、私たちの、いえ! 村のお願いを聞いてくれないかな!?」

「……話を聞こう」

真剣な眼差し。
ここで少女の必死の訴えを無視して行っていいものだろうか。
もちろん俺はアリス王女から受けた任務を優先する必要はあるが、人の良心を無視することは出来ない。

その後、少女と少年2人の了承を得て、少年少女らの村へ行くことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】

小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。 しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。 そして、リーリエルは戻って来た。 政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~黒

榊与一
ファンタジー
黒田武(くろだたけし)。 ブラック企業に勤めていた彼は三十六歳という若さで過労死する。 彼が最後に残した言葉は―― 「早く……会社に行かないと……部長に……怒られる」 だった。 正に社畜の最期に相応しい言葉だ。 そんな生き様を哀れに感じた神は、彼を異世界へと転生させてくれる。 「もうあんな余裕のない人生は嫌なので、次の人生はだらだらスローライフ的に過ごしたいです」 そう言った彼の希望が通り、転生チートは控えめなチート職業のみ。 しかも周囲からは底辺クラスの市民に見える様な偽装までして貰い、黒田武は異世界ファーレスへと転生する。 ――第二の人生で穏やかなスローライフを送る為に。 が、何故か彼の隣の家では同い年の勇者が誕生し。 しかも勇者はチートの鑑定で、神様の偽装を見抜いてしまう。 「アドル!魔王討伐しよ!」 これはスローライフの為に転生した男が、隣の家の勇者に能力がバレて鬼の猛特訓と魔王退治を強制される物語である。 「やだやだやだやだ!俺はスローライフがしたいんだ!」 『ブラック労働死した俺は転生先でスローライフを望む~だが幼馴染の勇者が転生チートを見抜いてしまう。え?一緒に魔王を倒そう?マジ勘弁してくれ~白』と、13話までは全く同じ内容となっております。 別の話になるの14話以降で、少し違ったテイストの物語になっています。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

処理中です...