百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第80話 生き残った少女

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クレアの家に招かれた俺たちは昼食をご馳走になった。
玄米に大根とワカメの味噌汁、切り干し大根にかぼちゃとインゲンの煮物。
カラッと揚がった魚の天ぷらは食欲を増進させた。

「ご馳走さま! クレアの料理、全部凄く美味しかったわ!」

「そんな、美味しいだなんて……」

「セシルまた食べたいー!」

メアとセシルに自らが作った料理を絶賛されて、分かりやすく照れるクレアだった。

「クレア、俺たちがこの村を出るまでに何か出来ることがあったら手を貸そう」

ヘリオスの村に入る時は魔防壁を壊すという乱暴な形だったが、その後は長老と話まで出来てこうして昼食まで頂いた。

「じゃあ……」

そう何かを言おうとしたクレアはガラリと引き戸を開けて入って来た人物を見る。

「ただいま。ーーあなた達は……」

目が合った瞬間、俺たちはその人物と会ったことがあった。
とても白い肌で黒く長い髪ーー俺たちがヘリオスの村に来る前、豪雨の中で出会った謎の女だった。

「お姉ちゃん! また勝手に外行って!」

「お姉ちゃん!?」

メアがクレアと女を見比べるように見る。
家に入って来た女は確かにどことなくクレアに似ている。

「雨の人ー!」

セシルがそう言うなり、女はセシルににっこりと笑う。
どしゃ降りの雨の中いた時はおかしな人だと思っていたが、こうして見ていると至って美人な女性。
クレアの姉だったのか。

「此処がお前の家なのか?」

「ええそうよ。雨の中もいいけれど、家の中は家の中で私が落ち着けるもう1つの場所」

女は玄関で座り、あろうことか服を脱ぎ始めた。

「ちょ!? ちょっとお姉ちゃん!? お客さんの前よ!? 」

クレアが女の元に駆け寄って行き隠すように立つ。

「あら、別に私は構わないわ」

「お姉ちゃんが構わなくても、私が困るのよ! ごめんね! 直ぐに奥で着替えさせるから!」

クレアは慌ただしく女ーー姉を連れて奥の部屋に連れて行った。
女が通って行った場所は水で濡れてしまっている。

「なんだか変わった人ね」

「まさかヘリオスの村の住人だったとはな」

「あの人、大丈夫かな? あんなに雨に濡れていたから風邪引かないかな?」

セシルは優しいな。

「風邪引きたくないなら、あんな雨の中ずぶ濡れになるまで出歩かないさ」

雨が好きで雨に濡れて、それこそ風邪なんて引くなら本当におかしい人だ。

雨はいつしか止んでおり、開けた小窓から明るい光が射し込む。

女は奥で着替えているのだろう、中々出てこない。

先に出て来たのはクレアで、姉の着替えはもう少し時間がかかると言う。
別に俺は女の着替えなんて待っちゃいないが、此処がその女の家だと言うならどうこうすることもない。

それよりも俺は今着替えているだろう女が異様に高い魔力を持っていることに気づく。
相手の魔力を感じるというのは自身の技能や力を磨くより難しくはない。
魔力とは全ての人間が持ち合わせている為、人が多いところに行けばまず感じる。
その中でも高い低いと感じることは出来ても、あまりにも人が多い場所だと相手を特定することは難しい。

だが、此処にいるのは俺とメア、そしてセシルとクレア。それに今家に帰って来たクレアの姉だけだ。
セシルは獣人であり微量の魔力しか持っていないが、メアはやはり勇者ランク6になるほどの魔力はいつも側で感じている。クレアは会った時からさすがヘリオスの村の住人だけに、そこらの並みの勇者くらいの魔力は持っていそうだ。

ただ、扉の奥に目を移せば俺と同等か、それ以上かと思われる魔力の持ち主がいる。
クレアの姉、長老がラングレッドに言ったようにヘリオスの村を守る柱の1人なのだろうか。
そんなことを考えていると間も無くして着替えたクレアの姉が俺たちのいる場所に来た。

「び、美人だわ」

「あら、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」

メアの褒め言葉にそう返すクレアの姉。
至ってシンプルな無地のパンツにベルトを巻いて、上は紺色の長袖。黒く長い髪は自然に流している。
確かに美人ではあるが、以前の行動を思い返すとやはりまだ謎な女だ。

「お姉ちゃん外行くのもいいけど、今度から私に一言言ってから行って」

「分かったわ。ーーだけど私はいつも自由でいたいの。だから、いつもクレアに黙って行くことは悪いと思っているけれど許してちょうだいね」

「……もう」

沈黙の空間が続く。

「俺たち、外へ出ようか?」

「気を遣わなくていいの。大したことじゃないから」

しっかりした妹と少し天然な姉。少し、じゃないか。かなり天然だろう姉は黒く長い髪を耳にかけ、おもむろにヤカンから急須にお湯を注ぐ。
少し待った後それを湯呑み茶碗に入れる。

「あっ、お姉ちゃん私やるよ」

「いいわ。私にとってもこの人達はお客さんだもの。どうぞ」

そう言って俺とメア、セシルに湯呑み茶碗と戸棚から取り出した栗饅頭を渡す。

「甘-い! 苦-い!」

セシルは貰うな否や、パクリと栗饅頭を食べ深緑鮮やかなお茶を飲んで表情を綻ばす。

メアは「ありがとう」とクレアの姉に言うなり、栗饅頭を一口。
美味しいのだろう、モグモグと表情を綻ばせながら食べている。

俺も一口。

なるほど、確かに美味い。
いや、そうではない。栗饅頭も美味いが、俺にはそれ以上に気になることがある。

「つかぬことを聞くが、お前もヘリオスの村の柱なのか?」

そう言うと黙り込むクレアの姉。

「違うよ。お姉ちゃんは柱じゃない。ヘリオスの村の柱はただ魔力が高いだけじゃなれない」

「そう言うこと、勇者君。私の魔力が高いのは生まれつきなだけ。スキルも持っていないし、武器なんて使えるわけもない。魔力がただ高いだけの女よ」

そう言って卑下するのは彼女の性格なのだろうか。
魔力がただ高いだけ。勿体ないな。

「……ねえ、あなたもしかしてシルビア=レオンハ-トじゃない?」

メアが言った言葉でクレアの姉はまた黙り込んだ。

「シルビア? 何処かで聞いた名……」

シルビア=レオンハ-ト。メアの言った名を記憶を頼りに思い返す。

過去、魔王軍率いる魔物と人間との戦争後のこと。
悪魔族は魔防壁が弱まったのを狙ったかのように国や街、そして村を襲い始めた。
そんな悪魔族の襲撃に遭ってしまった街の一つ。それはハンドレッドの街。
バタリアのように国の管理下にない街は悪魔族にとっても格好の場所だったようだ。
しかもハンドレッドの街は魔防壁を張っておらず、悪魔族の侵入を安易に許してしまい惨劇が起こってしまった。

老若男女構わず多くの人々が死にまさに地獄絵図だったという。

だが、ヘリオスの村の住人たちが来たことで惨劇の終止符は打たれた。
ハンドレッドの街の生き残りは少なく、かろうじて生きていた人々も瀕死の状態が多かったそうだ。

そんな中、ハンドレッドの街に響き渡る誰かの泣き声があったそうで、駆け付けたヘリオスの住人の話によるとその子は傷も何も無い状態で発見されたと大きく新聞に掲載された。

その時に掲載された1人の少女。
それがシルビア=レオンハ-トだった。

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