百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第77話 立ちはだかる壁

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樹の下で適当な時間休息を取って雨も小降りになってきたこともあり、ヘリオスの村方面に歩き出した。
この辺りは流石にヘリオスの村が近辺にあるということで魔物も確認出来ない。
ヘリオスの村が世界的に有名になった魔防壁の存在。
拝める時はそう遠くはないだろう。

「おい、あんた達。見たところ旅の途中だろうが、まさかこの先の村に行く気か?」

俺たちの行く道の向かいから来た積荷を引く3人の男。
そのうちの1人が俺たちに聞いた。

「そうだが、何か問題でもあるのか?」

「やめとけやめとけ! 行くだけ無駄足になるだけだぞ!? あの村の連中は外と繋がりを持ちたがらない閉鎖的人間ばかり!」

別の男ーーやや乱れた茶髪、作業着が様になっている男が枯れた声でそう言った。

「そうさ! 俺たちのように外部から来た人間はお払い箱になるだけさ!」

やれやれといった様子で首を左右に振るのは3人の中でも背の高い男。

「そんなの行ってみなくちゃ分からない!」

セシルが前に出るなりそう言う。

「へぇ、獣人か。こりゃ珍しい……」

茶髪の男が引く手を離れてセシルに近づいて行く。

「ほんとだな。獣人なんて、もう魔物にやられちまって滅んだ種族だと思っていたよ」

「俺もそう思ってた。運び屋として12年あちこち回ってるが、獣人は見なかったなぁ」

じろじろと3人の男に見られ、セシルが俺とメアの後ろに隠れる。

「とにかく、ヘリオスの村がこの先にあるのは確かなようだな」

「行っても無駄だと思うけどなぁ。それより俺は獣人がなんであんた達と一緒にいるのか気になってきたよ」

タオルを頭に巻いた男。恐らく、この3人の中でも運び屋歴が長いのだろう。
12年と年数を言っていたこともあり雰囲気が出ている。

「じゃあ私たちは行くわ! 荷物運び、頑張ってね!」

メアが俺とセシルの背中を押す。
後ろを気にするセシルに前を向かせ、俺たちは歩みを進める。

小雨が肌を打ち、濡れてしまった服のせいで吹く風が冷たく感じる。
続く道も変わることなく平地で、村らしきものは見えない。

「また分かれ道だわ。ヘリオスの村はどっちに行けばいいのかしら」

道がまた二手に分かれてる。
どちらも似たような砂利道。

「こっち!」

セシルがタタッと右側の道を行く。

「そっちにヘリオスの村があるの?」

「分からない!」

一言、セシルは声を大にして言った。

「分からないってセシル……何を根拠に……」

「勘!」

そういう迷うことなく発言するセシルは嫌いではない。

「勘、か。だったら俺もこの道へ進もう」

俺はセシルと同じ砂利道へ進んだ。
砂利道の先に見える雑木林。ヘリオスの村があるとすればその先。

「もう……何か起こっても知らないからね。言っとくけど、私は左側の道よ?」

「なら、俺とセシルがこの道、メアは左側の道を行けばいい。それで文句はないだろう?」

「わ、私もこの道でいいわ。さっ、行きましょ!」

砂利道の所々に大きな水溜りが出来ており、そこに真緑のカエルが数匹ばかり鳴いている。
魔物ではない。ただの両生類だ。
この時代も魔物ばかりではなく、こうした人間に害を及ぼさない生き物ばかりなら争いも起きなかったことだろう。
俺が生まれるより遥か前から魔物は存在し、人々に恐怖を与え続けている。
そうしたことがあると、フィールドにいて魔物に遭遇しないのは珍しいことだ。
これもやはりヘリオスの村が近くにある影響なのだろうか。
悪魔族の大半を消滅させたヘリオスの村の噂は魔物にも広がっているということか。

砂利道を進んで入った雑木林はそれほど長くなさそうだ。
密集した雑木林だが、奥に開けていそうな場所も見える。
綺麗に整えられた道を歩いて行き、間も無く雑木林を抜ける。

「あの村がヘリオスの村かしら」

雑木林は丘の上にあって、その下方に目を移せば広々とした村がある。
魔防壁は無色透明で魔物が触れて初めて全容が明らかになる。
水面に落ちた岩のような波紋に電気が迸るような衝撃音。
それで漸く人は魔防壁を見聞することができる。

だが、今見えるのは至って普通な村が下方にあるだけ。
いつも見る村より大きいだけだ。

そんな時だった。
何処か遠くの方から何かの遠吠えらしきものが聞こえてくる。
セシルが両耳をピンと立てて遠吠えが聞こえた方に向ける。

「なんだろう……」

遠吠えの主も気になるところだが、今は目と鼻の先にある村に行くことが先決。

「とりあえず行ってみよう」

緩やかな斜面を下りていく。

「わわっ!?」

セシルが草に足を取られて斜面を滑った。
先程降った大雨のせいで足元は随分滑りやすい。

メアはセシルのそんな様子を見て、自身の能力ーー氷の力で靴底にスパイクのようなものを作り出した。

「メアずるーい!」

セシルが頬を膨らませる。

「セシル、こんな斜面ただ滑るように進んで行けば問題ない」

と、そう言ったものの、こうも滑りやすいと歩きにくいことは確か。

「お先!」

メアが俺とセシルを置いてそそくさと斜面を降りて行く。
そんな一人進むメアを見ながら、俺とセシルも後を行く。

丘の斜面を下る中、徐々に近づいて来る広い村。
古民家が何軒も見られ、その内の数軒から空に向かって煙が立ち昇っており、数十メートルほど上がって間もなく見えなくなる。
その辺りに魔防壁があるか定かではないが、村全体を覆うならばそれくらいの高さだろうか。
魔防壁は魔物と接触することにのみ反応する防御結界であり、単なる煙や自然発生した風や雨は問題なく通過する。

そうして間も無く斜面を下り切る。

巨大な門構えをした村の入り口にいるひとりの青年。
その青年は俺たちの方を見ているのだろうか、仁王立ちした状態を崩さない。

関所を出て出会った三人組の男。
その内の一人、茶髪混じりの若い感じの男が言っていた言葉。
閉鎖的な人間ばかりーーそうなる原因も何となくわかる。

過去、魔物との大戦の後にハンドレッドの村と悪魔族の一件により、ヘリオスの村の名は世界中に広まった。
ヘリオスの村に押し寄せた国々の騎士兵団の勧誘にしても、相当うんざりしていることだろう。
もしくは、他に理由でもあるのだろうか。
とりあえず、ここでじっと青年と見合ってる場合ではない。

「押し入って済まないな。此処はヘリオスの村で間違いないか?」

青年はやはりといった様子で仁王立ちを崩さない。
が、目は俺たちを見ている。

「男! そしてそこの女! お前ら二人は勇者だな?」

青年は唐突にそう言った。

「待てよ。まず、俺の質問に答えてくれないか?」

そう言うと、ギロリとした目つきで俺を睨む青年。

「此処がヘリオスの村だと? だったらどうする気だ?」

やけに警戒されているようだ。
俺はメアとセシルに目で合図を送り、前に出る。

「どうするも何も、何もする気はない。ただ、偉大な村に住む人々の話が聞きたいだけだ」

青年の眉がピクリと動く。

「……そう言って、また……」

「ほんとよ! 私たちはただ話がしたいだけであなたと争うつもりなんて全くないのよ!」

メアが身を乗り出し青年の前に立つ。
それでも依然として仁王立ちを崩さない青年。

「言葉はいつだって人の心の裏を隠す。もしお前たちが言ったことが真実なら、俺はヘリオスの村に住む人間として試させてもらう」

青年は徐に両の手を空に掲げ、そしてしゃがみ、掲げた両手を地面に叩きつける。
その瞬間、青年と俺たちを遮断するような壁が現れた。

「魔防壁……」

「へぇ、意外と動じないんだな。流石、遥々この村にやって来た勇者様は違う」

青年のその言葉はどこか棘があるように感じた。
それより俺が関心したのは村を覆う程ではないとしても、これ程巨大な魔防壁をひとりで作り出した青年の力。魔力と言った方が正しい。
青年が作り出した魔防壁は正方形で地面から垂直に立っている。

「これが魔防壁……」

セシルは初めて見たのだろうか、その魔防壁を見つめている。
ただ、本来ならば魔防壁は見えるものではない。

「魔防壁は魔物だけにある為のものじゃない。世の中は善人ばかりだったらいいがそうもいかない。これはそういった人間共の為の魔防壁。見えるのは俺がそうしてあげてるだけだ」

「それで、こんな大層なもの俺たちの前に作ってどうしてほしいんだ?」

「なーに、単純な話だ。俺が作ったこの魔防壁を突破出来ればこの村へ歓迎しよう」

青年は奥にある村に向かって手を差し伸べた。

「ーーただし、もし突破出来なければ金輪際この村へ立ち寄ることは禁ずる!」

青年は再び仁王立ちし、俺たちを威圧するような目で見た。

「シン、私たちかなり警戒されているわよ」

メアが耳伝えに小声で言う。

「なに、この壁を通れば問題ないんだろう? なら俺がやろう」

俺たちの前に現れた魔防壁の高さはゆうに6メートル強ある。
ジジジと音を鳴らせ、大きな魔力を感じる。

「そんな剣如きで俺の魔防壁が破られるものか」

「それはやってみなくちゃ分からないさ」

抜いたアスティオンも、まさか魔物から人間を守る魔防壁を相手にするなんて微塵も思っていなかったことだろう。

壁というくらいだ。
そうやすやすと通してくれる気もなさそうだ。

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