百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第49話 宝剣を盗んだ犯人

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会場に入って直ぐにメアが目に付いた。
一際目立つ青い髪はやはり見つけやすい。

メアの視線の先には獣人を引き連れた男が既に受付をしていた。

「ですから! 本人に参加の意思が無い限り無理です!」

蹲る獣人の子。男は「ちっ!」と舌打ちをする。

「わかったよ! だったら俺が出る! ったくよ!」

男は渋々といった感じで大会受付を済ませる。

「これじゃあ何の為にてめえを買ったのかわかんねえな! この用無しめ!」

男は獣人の子の脇腹あたりを蹴る。

「お客様! それ以上の乱暴はおやめください! 他のお客様もおられますので!」

男はまた「ちっ!」と舌打ちをする。
そして、会場を後にしようと出口へ行く途中、俺たちと目が合った。

「お前ら、さっきの……なんだ? 追いかけて来たのかよ?」

「そうよ! その子ずっと嫌がってるじゃない!」

「嫌がる? そりゃそうだろう! やっと解放されたかと思った矢先、見ず知らずの男に買われたんだからな! ほんとはこの大会でさくっと優勝させて、優勝賞品をいただくつもりだったが……まあ、魔物から俺を守る盾くらいにはなるだろうな! おっとその前に! 2、3発ヤッてからだけどな! ほら行くぞ! この用無し獣人め!」

獣人の子は「あぁぅ」と細い声を出す。
そんな状態で大会に出させるなんてこの男はどうかしている。

逃げるに逃げれない。獣人の子の首と両腕には電流を流すリングが付いている。無論、それを操作する装置は、男が持っているだろう。
無法地帯の人身売買所では、もはや常識になってしまっていること。嫌でも耳に入って来る。買われた獣人が逃げ出さない為の措置。
俺がこのバタリアに来たのは3度目。無法地帯はその頃からある。

「酷い!」

「メア、気持ちは分かるが、変な気は起こさないでくれよ」

「だって!」

今にも男に跳びかかりそうな雰囲気を出すメア。歯を食いしばり、目をどうしようもない感じでうろたえさせる。

「……ちょっと、待ってろ」

メアにそう言い残して、大会会場から出た男を追った。

◇ 

男の後を追った後、俺は金貨80枚を出して獣人の子と首と手首につけられているリングに伝導する小型の装置を受け取った。

「ふんっ! そんな役立たず買って何になるんだか! せいせいしたぜ俺は! 良かったないい奴に買われてよ!」

男は上機嫌な様子でその場から去って行った。

「少し、じっとしていろ」

首輪に触れると、びくりとする獣人の子。人間が苦手なようだ。

俺は解錠スキルを発動し、獣人の子につけられている首と両腕のリングを外した。
解錠スキルがこんなところで活躍するとは思ってもみなかった。

「さあ、これでもうお前は自由だ。何処へでも行け」

そう言うと、獣人の子はぺこりと会釈した後、屋根の上を伝い、ぴょんぴょんと行ってしまった。
さすが獣人だ。身のこなしが軽い。

金貨80枚、かなり痛い出費だったが、これもあの男から獣人の子を解放する為。
俺も随分甘い考えだったようだ。

そして会場へ戻ろうとすると、メアが表情を綻ばせていた。

「やるじゃん」

そう言って、俺の肩を押す。

「見ていられなかったからな」

微笑するメア。しかし、そんな笑顔もまた無くなった。

「……でも、あの獣人の女の子が助かっても、まだ他にもいるのよね?」

メアがそう言うように、このバタリアの無法地帯にある人身売買所には獣人が売られている。
本来ならば売ることは愚か、捕まえることすら禁止されているというのに。

「メア、俺にも出来ることの限界がある」

「分かってるわよ! だけどっ! やっぱりどうにかしてあげたいじゃない!」

メアのその甘い過ぎる考えにはさすがについていけない。
もちろん、俺が有り余るほどの金貨でも持っていれば、メアの望みも叶えてやれる。
だが、今の俺の全財産は先ほどの金貨80枚の出費を引くと、残り、50枚もない。
ただ、仮にも俺が魔王の城に眠る秘宝を盗んだその時には、無法地帯の人身売買所にいる全ての獣人を買うことなど簡単なことだろう。

「悪いがメア、俺はそこまでお人好しじゃない」

まあ、俺が魔王の城に眠る秘宝を盗める確率は限りなく低いことは確か。
だから、メアにははっきり答えられないし、仮にもそんなに買う人間が現れれば人身売買所の人間も不審がるだろう。
値段を馬鹿みたいに釣り上げるのが目に見える。
結局、今の俺やメアでは何も出来ないということ。

その後、宿泊している宿屋に戻り、テクニック・ザ・トーナメントまで空いた日数の予定を立てることになった。



宿屋に戻る途中、俺とメアは終始無言だった。
メアもメアだ、捕まっている獣人全てを買うなんて無理だと分かっているだろうに。
つい先ほどのことだ。ずっと気にしているのだろう。

「シン! あの子!」

メアが急に指を指した。
その指差す方向には、先程俺が金貨80枚をはたいて買った獣人の子がいた。

「メア、俺はもう出す金貨はないからな」

俺がそういう理由。
それは、獣人の子が、また誰かと一緒にいるからだ。

「来い! 来いよ!」

「ねえルイ、急いだ方がいいかも」

獣人の子は少年少女、2人に捕まっていた。
うんともすんとも言わない獣人の子。少年が獣人の子の両手を縄で縛り、少女が獣人の子に向かって両手を向けている。

少女は俺たちに気付いたようで、少年はまだ気付いていない。

「この獣人高く売れそうだ! ……って、お前は」

「ルイがグズグズしてるから!」

少年と少女は俺たちに気付いても、まだその場から立ち去ろうとする。
だが、それを許さないのはメア。
少年と少女の行く方向に両手を広げ立ち塞がった。

「お姉さん、私たち急いでるからそこどいてくんない?」

「ダメよ!」

凛と、なおも退こうとしないメア。

少年が少女の方を見て、くるりと旋回する。

「悪いなお前ら、ここは通せない」

支払う金貨はもう無いが、この2人は獣人の子を買ってはいないだろう。
捕まえたのなら、俺は手を出させてもらう。

「お兄さんも邪魔するの?」

少女はつぶらな瞳で上目遣いをし、両手を握って来た。
ああ、つい、アリス王女と重なってしまった。ただ、アリス王女とは違って何にも響いて来ないが。

「っ!?」

と、その時だった。

「シン!?」

「でかしたルリカ! 行くぞ!」

「待てお前ら!」

と言うが、体が言うこと聞かない。
いきなり全身にびりりと衝撃が走った。
これはスキルだ。電気という感じじゃない。

「さすがルリカの『金縛り』は効くな! 宝剣なけりゃ何も出来ないじゃんかあの勇者! あっ! いっけね!」

獣人の子を背負っている少年がそう言った。

「宝剣だと?」

メアの肩を借りて立ち上がるものの、まだ痺れが残っている。
なるほど、これが『金縛り』の力か。全身の筋肉がまるで言うことを聞かない。
ただ、それも間も無く治った。

「シン、あの子たち」

「ああ」

言わなくても分かってる。
あいつらか、俺のアスティオンを盗んだのは!

俺は逃げる少女を目視した。

「きゃあ!?」

「な、なんだこいつ!? いきなり、そんな!?」

少女が俺の両手を握ったことで、回り抜けの発動が可能となっていた。
まだ範囲内にいた為に出来たことだ。

少女は、現れた俺に一瞬戸惑っていたが、戦闘するような人間の顔つきとなって再び俺に触ろうとした。だが、俺は少女の腹部に拳を突き立てる。

「シンってば酷いわ!」

メアはどっちの味方なんだ。
大丈夫だ、本気でやってはいない。

少女が気絶すると、少年は獣人の子をその場に降ろして持っていた短剣で斬りつけて来た。

「あぐっ!?」

まるで素人の振り。
軽く避けるついでに手刀で短剣を落とす。

「あ、あ……」

後ろへたじろぐ少年。

「宝剣がなんだって?」

少年はメアが駆け寄って来た瞬間、落ちた短剣を拾って血相を変えて獣人の子の元へ走って行き抱える。そして、その手に持った短剣を獣人の子の顔にちらつかせる。

「それ以上近づいてみろっ! こいつを殺す!」

ダメだ、完全にテンパってやがる。
目を見開いて、呼吸のバランスが崩れている。どうも、魔物ばかり相手にして来たせいで、相手のことをよく観察する癖がついてしまった。
たとえ相手が人間でも、気が狂った人間は多少なりとも魔物に似ているところがある。

「わかった、何もしない」

そう言って両手を上げて降参する。

「そ、それでいいんだ! よし、そのままそこの女も動くなよ! ルリカ、ルリカ!」

少年がそう呼ぶのだが、少女は起きない。
そして少年が俺から視線を逸らした瞬間ーー

「!?」

俺は少年の背後に回り込んで、声を出す前に手刀で首の後ろを打つ。
少年の持っていた短剣が地面に落ち、抱えていた獣人の子がばさりと倒れる。

直ぐにメアが来て、獣人の子を抱き寄せる。

「盗んだ相手が悪い」

俺から宝剣を盗むなんて大した度胸だ。

その後、メアに獣人の子を連れて宿屋に戻るように言って、俺は2人が起きるのを待つことにした。

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