百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
70 / 251

第70話 交換

しおりを挟む


宝剣ルークスによって斬られた箇所はさほど血が流れていなかった。

クラン曰く、“光化”の能力を纏った斬撃は攻撃力こそ増すものの、身体表面へのダメージはほぼ抑えられるという。
光は身体表面を突き抜け身体内部まで行き届く。
身体の内に臓器が損傷したということもない。
ただし、俺が魔物であればそうはいかなかった。
魔物の本質は闇。光と相反する闇の属性を持つ魔物はダメ-ジを抑えられるどころかむしろ倍増するとクランは言う。
宝剣ルークスがどのような魔物特効特性を持っているのかは定かではないが、“光化”によって付与された斬撃は想像を凌駕する力だろう。


そして、大会賞品となっていた宝剣アスティオンは優勝者であるクランに渡された。
宝剣を2つ持つ勇者の誕生は異例なことだそうだ。

ディズが対戦した参加者たちの雄姿を振り返り、特別ゲストのセシリアが参加者たちに称賛の言葉を送っていた。

間も無くしてテクニック・ザ・ト-ナメントの会場は閉鎖することになり、ギャラリーたちも帰って行く。

「お疲れ様!」

「お疲れお疲れ~!」

久々に見た顔はいつしか俺にとっての居場所となりつつあった。

「アスティオンは取り返せなかったけどな」

「まあまあ、確かにそうだけど宝剣がないと目的は果たせないってわけでもないでしょ? その分、鍛える必要は出るかもしれないけど、いいじゃない別に」

メアがそうポジティブ思考で言う隣でセシルがシャドーボクシングをやっている。

「……そうだな。セシル、今度俺の相手をまたしてくれるか?」

「おけ-!」

セシルは小さく人差し指と親指を合わせて、OKサインをする。

その後、日が傾いて来ている西の通りを歩いて行った。





夕食はこじんまりとした民家風のカフェレストランですることになった。

チキンのバジルチーズ焼き、具材をライスに包んで揚げたライスコロッケ。
鶏モモ肉、白ワイン、オリ-ブオイルに塩と胡椒で味付けしたシンプルな料理チキンフリカッセ。
牛肉、タマネギ、パプリカ、ジャガイモから作られる、トマトソースをベ-スに味付けされたグヤ-シュというシチューの一種。
牛肉、タマネギ、マッシュルームなどを炒めた上でサワ-クリ-ムを仕上げに使用したビ-フストロガノフ。
揚げたてのライスコロッケと良くマッチしている。

店内の天井で回るプロペラが優雅な気分を醸し出す。
そんな店内の様子を楽しみながら食事をしていると店内に入って来るお客もちらほら。
どうやら常連客もいるようなお店らしい。
セシルは大会に出ていた俺よりも食事が進んでいる。
そして食べ物を詰まらせたようで、メアはセシルの背中を叩く。

戦いの場では戦士の顔を見せるセシルも、こうして食事をする様子はまだまだ子供。
メアは最近になってきて随分大人びた雰囲気がして来た。
セシルが来て世話や行動をして母性本能でも刺激されたのだろうか。
体力面でも戦闘面でも優秀なセシル。
ギルドサル-フで受けた魔物討伐依頼も難なくこなしていた。

そんなセシルはまだ子供。
獣人は大人になるにつれて力もスピードも増すというから面白くなりそうだ。

俺がセシルを見ながらそんな風に考えているとふと顔を上げて見る。
にこりと笑い、また食事を続け始める。

「メア、明日の朝バタリアを出発する」

「ええ、分かったわ。もう、早く出発したくてうずうずしてたから!」

「セシルもー!」

片方の手を上げてそう言うセシル。

その後、泊まっている宿屋に戻ると正面玄関前に見慣れた顔があった。

「あなたは……」

「これはお美しいお嬢さん、彼のお知り合い?」

「俺の旅に付いて来てるんだよ」

「そうなんだ。そこの子もかい?」

セシルはメアの背後に隠れる。
観客席からずっと見ていたのだ、何か感じるものがあるのだろう。

「俺に用だろう? 何だ?」

「これを、渡そうと思ってね」

そう言って渡されたのは紛れもなく宝剣アスティオン。

「どういうことだ?」

「僕には必要のないものだからね。宝剣なんて一本で十分なのさ。欲張って扱える代物じゃないことくらい僕は知っている。だから、君に渡すのさ」

「……礼は言わない」

「もうっ! シンったら!」

手に持った瞬間のアスティオンは、俺の身体に共鳴するかのように感じた。
ラフマの剣がまるでおもちゃに見えるほどだ。

「真なる持ち主が使うからこそ、武器はその力を貸してくれる。その宝剣は、間違いなく君のものだ」

「言われなくてもな」

言葉では言わないものの、クランには感謝しかなかった。
久しぶりに持つアスティオンはやはりラフマの剣とは比べ物にならないほどしっくりくる。

そして、腰元に掛けてあるラフマの剣。
俺は二刀流なんて柄じゃない。まあ、使えないことはないから、役に立たないということもない。

「わわっ!? 何!? シンも!?」

メアが驚いた様子で後退りする。

クランが宝剣ルークスを鞘から抜いて突き出すと、俺もアスティオンを突き出した。

「君の希望だ、宝剣の特性を解除しよう」

宝剣ルークスと宝剣アスティオンが交わると赤く発光した光が青くなっていき消えた。

「ーーこれで、もうアスティオンの特性は使えないんだな」

「そういうことになる。ああそれと、代わりにってわけじゃないけど、その腰元の剣を僕に渡してくれないかい?」

「これを? 別に構わないが」

ラフマの剣をクランに渡した。

「……物騒な剣だ。これは本来使うべきではないものかもしれない。我々、魔物撲滅本部が管理しよう。また、何処かで会うことになったその時は宜しく頼むよ」

そう言い残して、宝剣ルークスを持つ勇者クランは行ってしまった。

その後宿屋へ入り、翌日出発の為の準備を済ませて1日の疲れを取るべく床に就いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日
ファンタジー
*注意書あり 女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。 死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。 が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。 食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。 美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって…… 何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記——— *別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...