百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

文字の大きさ
上 下
65 / 251

第65話 ランク8の勇者

しおりを挟む


マッドとの戦いが終わってから、直ぐに第三回戦も始まった。
勇者ランク6のエドワードは繊細な長剣捌きを披露して相手のリディを一方的に倒した。
エドワードは駆け上がりの勇者らしく、この大会に出るのは2度目だそうだ。

そして続く四回戦、五回戦と続いて行き……俺が気になっていた男、クランの登場。

「クラン選手は勇者でありながら、国が認める魔物撲滅本部に所属している!! そんな男と対戦するのは! 前回三位にまで上り詰めたゴウ選手! チームとして勇者活動をしているリーダーの実力はまた上がっているのか~!?」

戦いの鐘が鳴った。

クランは腕組みをしたまま、ゴウの元に歩いて行く。

「はっ! 国が認めるからってなんだ! こちとら2年もチームのリーダーやってんだ! そんな余裕かましてるとな、痛い目見るってのが世の常識なんだよ!」

巨大スクリーンを通して、ゴウの声が響く。
ゴウの武器は長剣。
そこらの武器屋で売っているようなものではないように見える。

速技を巧みに操り、5人ばかりの残像を作り出す。影分身というやつだ。
観客席からおおお! というような声があがる。

だが、それを見ても微動だにしないクランはいよいよ背中の剣を抜いた。
光る十字の紋章が入った長剣ーー宝剣ルークスとクラン本人は言っていた。
俺がテクニック・ザ・トーナメントの受付会場に入った時、暇そうにしていた男が言っていたこと、宝剣を持つ勇者はクランで間違いなさそうだ。
他にも宝剣を持っている奴が大会に参加している可能性もあるだろうが、それは限りなく低いだろう。
宝剣を持つ者同士が会うことすら珍しいというのに。

クランは宝剣ルークスを迫って来るゴウの残像に向けた。

「なんだなんだ!? 国の犬はそれが精一杯なのか!? なわけないよな!」

5つの残像が一気にクランめがけて行く。

クランは宝剣ルークスをわかりやすいほどに大振りする。
その一瞬の間に起こった出来事を確認出来たのは、観客席を含めた大会参加者の中でもごく一部だろう。

クランが宝剣ルークスを振った瞬間、空気の波に乗るように撃技の赤い光がとても小さく確認出来た。
通常、技を発動すればその+値によって光の強弱は見えるのだが、それはあくまで技を取得して初期の段階。
この初期の段階というのは基本的に2年間と言われている。そしてその期間、もしくは慣れの期間を過ぎた頃、光の強弱を自己コントロールすることもできる。
これは、そうすることで敵に対して防御体制をとらせない為だ。
技の+値が大きければ大きいほど、光はより見えることになり、今からどのような力を出すのが目に見えてしまう。
魔物には人間並の知能はない生体がほとんどなのだが、学習によって生存確率をあげるような対策はしてくる。
残る遺伝子には確実にそれが伝わっている。
相手が人間となると、戦いを有利に進められるだろう。

「ぐあああっ!!」

ゴウの残像が全て消滅し、本体にもその撃技の波は直撃した。
ゴウは大きく吹き飛んだ。

「これは番狂わせな戦い!! 高ランク勇者に入るゴウ選手、まさかここで終わってしまうのか~!?」

「はっ……誰が終わるって!? 俺はまだーーひっ!」

目の前に立ったクランを見たゴウが情けない声を出した。
そして自らが持つ長剣を地面において、あろうことか降参してしまった。
それを見た観客席からはブーイングと言わんばかりの声があがる。

立会い審査員のセリオーザが持つ旗がクランの方に挙がった。

「ク、クラン選手の圧勝だ~!! ゴウ選手、ここで惜しくも脱落!!」

クランはバトルフィールドの外に戻って行く。

 「魔物撲滅本部、噂に聞く力は伊達ではなかった~!」

魔物撲滅本部の基本構成は勇者ランク5以上の人間とされるが、その実力は持つ勇者ランクより先を行くと言われている。
その為、たとえ勇者ランク5だとしても、勇者ランク6、7あたりの実力は備えている場合が多い。
仮にクランが勇者ランク7以上だとすれば、勇者ランク8、9は固いということだ。

宝剣ルークスを背中の鞘に納め、クランはバトルフィールドを後にする。
今後、アスティオン奪還の為に俺の前に立ち塞がる壁の1人は間違いなくクランだろう。

その後、技の解放をしつつ保有スキルを発動する参加者もちらほら見られ、テクニック・ザ・トーナメントはさらに進んで行く。
敗者は去り、勝者だけが次のバトルへの参加資格を得てそれぞれの参加目的を果たす為に試合の行方を見届ける。
中には、自分の試合が終わるな否や何処かに行ってしまう者たちも。

俺はこの後対戦するであろう参加者のレベルを確認する為にも試合を見届けていた。





テクニック・ザ・トーナメントの参加者16名全てが1巡した後、数十分程度の休憩を挟んだ。
その後、勝ち上がった者たちはランダムによって対戦者が決められた。
第2巡の1戦目では、前回華麗な長剣捌きを魅せたエドワードと、先端の尖った剣レイピアを使うブレインが対戦した。互いに魅せる剣技はギャラリーから歓声が度々あがった。

勝者はエドワード。やはり、駆け上がりの勢いというものがあるのだろう。
無論、このテクニック・ザ・トーナメントでは技能を魅せた上での戦いではあるのだが、その基盤となる身体の使い方がモノを言う世界。
その意味においては、ブレインよりもエドワードが若干上手だったように見えた戦いだった。

「続きまして! 前回4位まで登りつめた勇者、ライアー選手と! 大会初出場ながら順調に勝ち上がって来たシン選手の対戦です! 両者、バトルフィールドへ!!」

俺の対戦相手、ライアーは一巡目ではスキルを使っていた勇者だ。
このテクニック・ザ・トーナメントはスキルを保有していようがいまいが平等のジャッジを受ける。
もちろん、スキルがあるからといって有利になるかと言われれば違う。現に、1巡目でスキルを持っていた者が持っていない者に負けた戦闘も見た。

「少しは楽しめそうだな」

深く被ったバンダナから見えるのは、その視線を真っ直ぐに俺に向けているように見える。
シンプルな両剣を持ち構える。

戦いの鐘がなるな否や、バトルフィールドの地面からゆらめきが起こる。
その所為で、対戦者のライアーもゆらめく。
一直線に向かって来ているのだが、そのゆらめきが翻弄させるようだ。

「俺はライアー。お前を討ち、この先に進む!」

その言葉を現したかのような両剣の斬撃が繰り出される。

「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ!」

ライアーもそうだが、俺もこの戦いに負けるわけにはいかない。
何せ、自分の剣が大会優勝賞品になっているからな。
回り抜けスキルを発動したいところだが、俺がライアーに触れようとしているのを察したのかそうさせてはくれない。
警戒心の強い相手は苦手だ。

「陽炎ーー強」

ライアーがそう言った瞬間、周囲のゆらめきが強くなった。
視界のライアーだけでなく、バトルフィールド全体がぐにゃりと曲がった感覚に陥った。
戦い難いことこの上ない。
ライアーはその隙を逃さまいと斬りかかって来る。
斬撃の波が押し寄せ、俺は解放した守技により防ぐ。

ライアーの勇者ランクは6。
俺は勇者ランク7だがそう変わりないように感じる。
勇者ランクなんて所詮ただの飾りだという良い例だ。

そしてこの勇者ランク。大会の受付時には開示するのだが、バトルでの開示は各々の判断に委ねられる。それは、勇者ランクを開示することのリスクが少なからずあるからだ。
このテクニック・ザ・トーナメントは国公式のものではないが、ギャラリーの中に国の人間がいることも考えられる。
もしくは国の人間がいないにしても国と繋がっている人間。
もし、そういった人間の目に止まった勇者がいれば、国を守る勇者として勧誘を受ける可能性もある。
国を守る勇者として勧誘ーーそれが意味するのは、王族の護衛、もしくは極秘任務などの依頼。
もちろん、最終的な判断は勇者自身がするのだが、国の者は勧誘する勇者にとって優遇な条件を付けることは違いない。
勧誘され王族の護衛ともなれば、魔物との戦闘も避けられない。
本来逃げることが出来る場合でも、王族がいればそれは叶わないことを意味している。王族の命が絶対最優先、例え勇者が命を落とす結果になったとしても……

加えて極秘任務を受けていれば、たとえ魔物から生き延びたとしてもまた遭遇する場合もある。俺は今、この極秘任務をシーラ王国、アリス王女から預かっている。
が、いつでも逃げ出そうと思えば逃げれる任務。だがそうしないのは、この魔物時代の先の未来が明るくないと俺自身が強くいつも思っていたからだ。

俺のような勇者には到底重荷過ぎる任務でも、俺は俺自身の力を試す為に……今はそんな心情だ。そういう意味ではアリス王女には感謝している。

ライアーは勇者ランク6だと開示したようだが、そのあたりは国も曖昧なところがある。
何せ、俺が極秘任務を受けた時が勇者ランク5だったから。このテクニック・ザ・トーナメントでは勇者ランク7なんてざらにいるだろう。

ライアーの陽炎によって空気のゆらめきが続いている。

ライアーの陽炎は少々厄介ではあるが、本体の位置を捉えられないほどのスキルではない。
俺が同じ職業である勇者と対戦をするのは、こうした大会か旅先でいざこざを阻止する時くらいしかない。
ライアーは実力もまだ出し切っていないように見えるが、俺はそれを見越した上でラフマの剣を鞘に納めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日
ファンタジー
*注意書あり 女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。 死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。 が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。 食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。 美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって…… 何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記——— *別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...