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第62話 技を競う大会の開幕
しおりを挟むテクニック・ザ・ト-ナメントは勝ち抜き戦で行われ、参加条件は勇者ランク5以上9未満。
武器の使用は認められており、無論、大会の開催意義である技の発動は可能。
保有スキルの発動も認められる。
バトル形式は1対1で行い、立会い審判員によるジャッジで勝者敗者が決まる。
今回参加する者の数は16名。その中でバトルを行い、優勝者を決める。
「レディースアンドジェントルメン! さあ! 今年もいよいよ始まりました本大会! テクニック・ザ・ト-ナメントの司会を務めさせていただくのは私、ディズ=エディンでございます!」
テクニック・ザ・ト-ナメントが開催しているのは受付会場より北西、専用バトルフィールド。
そしてこの大会を見る為に押しかけた人々によって観客席は満員御礼。
メアとセシルもこの中にいると思うのだが……何処にいるのか検討もつかない。
ディズは受付会場にはいなかった人物で、黄色い髪に黄色い背広がやけに目立つ。
「そしてえええ! 今一度ご覧いただきましょう! これが今回の優勝賞品だああ!!」
ディズが白い布をとった。
其処には日差しに照らされた黒い長剣ーー宝剣、アスティオンがある。
ただ、それがアスティオンだと知っているのはこの大会参加者の中でもごく一部だろう。
ましてや、観客席の人々は知る由も無いだろう。
宝剣、そう聞けば一体どれほどの装飾を散りばめた剣なのだと想像してしまいそうなもの。
だが実際は珍しい色形をした剣、それが宝剣。
黒い長剣なんて早々ない。
観客席はざわざわとしている。
「これはかの有名な英雄……アルフレッドが持っていた神剣と同種の存在。宝剣と言って神剣ではないのですが、まさしく今! 今この魔物時代における人々への希望の光となるでしょう! この宝剣を手中に収め、希望への道を切り開いていく者は……誰だああああ!!」
わあっと観客席が異常なほどに盛り上がる。
正直なところ、誰か別の人間の手にアスティオンが渡るのは嫌だ。
長年共に勇者として旅をして来た俺の武器であり、最もみじかにあった存在。
ルイとルリカに盗まれていなければ、こんな大会に出ることはなかっただろう。
なんとしても取り戻したいところだ。
「ふっふ! 疼くねえ、探し求めていた宝剣がついに……ふっふ」
1人不気味にそう言う者。
中途半端に伸ばしたブラウンヘアーを後ろで括り、目の下のクマの堀が深い男。
黒く足元あたりまであるローブ姿。
くるりと反転し、壁の方に向かって肩を震わせている様は不気味以外の何者でもない。
そしてピタリとその震えが止まったかと思うとまたくるりと反転する。
真顔で、椅子がある奥の方へ行く。
「いやだね~! がめつい奴は!」
「お前は、あの時の……」
休憩所の扉の方から歩いて来たのは、俺が庭園と呼ばれる森林の奥にあった大池で出会った男だった。大剣を背中にぶら下げており、上はごわごわした黒い衣服で下は赤みのある茶色。
「大会の賞品が宝剣だってことにはさすがに驚いたが、そりゃあくまで賞品ってだけで。俺たちのような参加者は、そこを目的にすべきじゃないだろ?」
「もちろんだ」
流れで、つい、そう言ってしまった。
男はにかっと笑う。
「俺はグレイス=ゲオルギイ。同じ、大会参加者として精一杯やろうな!」
がっしりとする握手からは、戦い慣れている者の雰囲気しかしない。
その背中の大剣を振り回していたからそうなったのだろうか、ちょっとやそっとでなる雰囲気ではない。
「ああ、お互いに良い戦いをしよう」
そう言うとまたにかっと笑うのだが、その表情が無くなる瞬間に鳥肌が立った。
男はバトルフィールドを見に行った。
「あれとは出来れば戦いたくないな」
俺の予想では、グレイスの勇者ランクは6以上。
この大会の参加可能勇者ランクが5以上9未満だとすると、ぎりぎり上のランクにいる可能性もある。
参ったな。ただでさえ、俺が今持っている剣はアスティオンじゃないというのに。
ラフマの剣。この5日間で分かったのは、少なくとも武器屋で売っているような鉄の長剣よりかは使える。
魔物相手に特殊な攻撃を行うが、相手が人間の場合にはどうなのだろう。
宝剣アスティオンは魔物特攻特性を持つ剣であり、人間相手には発動しない。
そもそも、何かの能力を持っている武器はそう多くはない。
宝剣を含め、確かに能力が付加されている武器は存在はしているのだが、宝剣以外の武器は人間、魔物関係なく発動する武器ばかり。
宝剣のように魔物特攻特性は持ち合わせていない。
となると、このラフマの剣も魔物と同じように人間にも大ダメージを与える可能性があるということ。
だから俺は、3度目にラフマの剣の力を開放した状態のままで持っている。
俺はズルは嫌いなんだ。
このラフマの剣が魔剣で人にも魔物にも能力が解放するというのであれば、俺は勇者としてその能力で魔物のみを斬る。
一度、魔物を斬ればその刀身は濃くなり。
二度、魔物を斬ればその刀身はさらに濃くなる。
三度、魔物を斬ればその斬撃、宝剣の足元までいかん。
この噂が今のところ全て当てはまっているのだから、恐らく人間には発動しないとは思うのだが……念には念をだ。
人間対人間の戦いには問題ないだろう。
ディズがテクニック・ザ・トーナメントの主旨などを説明しており、それを待って聞く参加者の面構えもうずうずしているような感じだ。
俺はうずうずという気持ちより、早く終わらせてアスティオンを奪還したいもどかしい感情。
参加者の数は見える範囲から見てもざっと20人から30人。
俺を含めたこの中から宝剣アスティオンを手にすることになる。
まあ、俺以外の誰かの手に渡るものならとりあえずそいつには事情は説明するつもりだ。
「それでは~! 本大会の目的を皆さまに分かっていただけたところで! 特別ゲストに登場してもらいましょう! 華麗なる舞で敵を翻弄するだけでは飽き足らず、見る者を虜にしてしまう妖艶な勇者……セシリア=グラ-ツィアその人の登場だああ!!」
大会会場がどよめいた。
胸元の開いたエレガントな紺のドレスコ-ドを着こなした女性。
栗色の髪は長くて、すらりとした体型からはとても勇者には見えない。
「きゃあああ! セシリアさまよ!」
「セシリアさま~!」
観客席から黄色い声が飛ぶ。
セシリアは微笑を浮かべながら観客席に向かって手を振っている。
行方不明だと聞いていたが、まさかこういう形で見ることになるとは。
過去のテクニック・ザ・ト-ナメントの優勝者だ。
不思議でも何でもないが、突如姿を消した人物の登場には少々驚いてはいる。
「生きていたのかよ」
「守り神のセシリア……半端ない美女だな」
俺と同じ大会の参加者の2人がそう言った。
大会に参加する者たちにとってもセシリアの登場は予想外だったようだ。
守り神のセシリア。
それは彼女が持つ異名。敵を翻弄する速さは天性の才能を持っているとされ、それに加えて守技のプラス値は限界を突破していると言われている。
センヴェントが過去の魔物戦争で先陣を切った人物の1人だと言われているならば、セシリアはクランと同じ今の時代における人々の希望の光の1人だろう。
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