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第55話 譲り受ける名剣
しおりを挟む民家通りを入って行って、5階建の小さなアパートがルイとルリカが住んでいる場所だった。
その3階、端の部屋。
盗人稼業で得た金でも、いい部屋には住めるものだ。
「ここに住んでもう長いのか?」
「まだ、2年くらいかな」
「転々として暮らして来たから、ようやく落ち着けるところを見つけたってところよ」
部屋の中は必要最低限の物しか置いていないようだ。
ルイは奥の部屋に行ってごそごそとしている。
「俺たちの村が無くなって、やっと見つけた隠れ家だ。ほらよ、これやる。やるって言っても、売れなかった物だけどな」
そうして持って来たのは、銀の鞘に収められた剣。
「それを、俺に渡すのか」
この剣が盗人稼業で得た物ならば、俺は受け取るわけにはいかない。
盗みはやめろと言っておきながら俺が貰っていては、盗人と変わりない。
「安心しな。この剣は旅の途中に会った勇者に貰っただけ」
「貰った? 盗んだの間違いじゃないのか?」
「失礼だな! 向こうがいらないって言うから貰っただけだって! なあ! ルリカ!」
「え、ええ。何でも、『俺には使えない剣なんだ! 貰ってくれ!」って必死に言われちゃって仕方なく」
「そうそう! で、結構良さそうな剣だったから貰って直ぐに武器屋に売りに行ったんだよ。ま、結局、買取は出来ないって言われちまったけどな」
銀の鞘の上部には、丸く装飾された玉が等間隔で付いている。そして、3匹の蛇が巻きつくように上部に向っている。
「……これは」
銀の鞘を抜くとその刀身があらわになった。
白銀が煌めく見事な長剣。街の武器屋ではまずお目にかかれない代物だろう。
「なっ! すげえだろ! 初め見たとき、これは高く売れるって思ってたのに、まあ~武器屋の店主の顔と言ったら!」
「思い出すね。みるみる青ざめていって、店から出てけって怒鳴られちゃった。他の武器屋に持って行っても同じ……あ、言っちゃった」
ルカが手を口に当てた。
そりゃあ、武器屋の店主もそうなるだろう。
こんなもの持って来られた日にはたまったものではなかっただろう。
「……お前ら、その勇者からとんでもないもの引き取ったな」
「ほんとまいっちゃうぜ! って違うぜ!? 俺はただお前の役に立ちそうかな~っと!」
「ま、まあ! その剣を持っていた勇者より! あなたは強そうだから大丈夫よきっと!」
ルリカも早くこんな剣処分したかったんだろう。そんな態度をするということは、この剣のことを少なからず知っていたのだろう。
「……お前らは」
さて、2人の本音が聞けたところで考えようか。
俺が2人から譲り受けたのは、銀の鞘が特徴的で刀身が白銀の長剣。
名をラフマの剣という。又の名を3番目の剣とも言われ、宝剣ほどとはいかないものの名刀には違いない。
だが、良い噂は聞かない。
そしてその噂こそ、勇者がラフマの剣をルイたちに渡した理由だろう。
ラフマの剣は、いつ、何処で、誰が打ったものかすら不明な剣で、持ち手を選ぶかのようにこの世を彷徨うと聞いていた。
一度、魔物を斬ればその刀身は濃くなり。
二度、魔物を斬ればその刀身はさらに濃くなる。
三度、魔物を斬ればその斬撃、宝剣の足元まで届かん。
ラフマの剣には、そんな話が噂されている。
つまり、これから読み取れるのは魔物を斬るーー恐らく殺すことによってラフマの剣に何らかのエネルギーが蓄えられ、3回目に斬った魔物には宝剣並みの大ダメージを与える。
そんな解釈だろうか。
素晴らしい名剣だ。
……だが、問題はここから。
それは、3度目に魔物を斬った際、討伐出来なかった場合。
『3度目にその剣を振って魔物を倒せなかったならな……お前は変わりにそのダメージを受けることになる! 分かったらその話は金輪際するんじゃねえ!』
街の武器屋の店主に聞いた話だ。
ラフマの剣を使えば、魔物を倒す手助けには大いになるだろう。
だが、3度目に魔物を討伐出来なければ、代わりに使い手自身が大ダメージを被ることになってしまう。
何度目の持ち主なのかは不明だが、過去の事例、ラフマの剣の隣で血に染まり死んでいた者が見つかったそうだ。
故に、呪われた剣。
一見すると銀に煌めく鞘に魅了され、その刀身はさらに煌めく白銀。
これをどう見れば呪われた剣などと言えようか。
噂通り魔物に大ダメージを与えるというのならば、宝剣なのかと思ってしまう。
持った感じはアスティオンより少し重い程度。さほど差はない。
刀身を銀の鞘から全て抜くと、ただならないエネルギーを感じる。
ルイとルリカは離れた。
「剣、必要なんだろ!? やるよやるよ! そんな剣!」
ルリカも隣でこくこくと早く頷いている。
「悪くない、頂こう」
まさか、そんな返事は期待していなかったのだろう。
2人は目を見開いた後、パチクリさせた。
「お、おう!」
「それで大会にも出られるね!」
ルリカはそう言うが、実際には武器なしでも大会には出られる。
テクニック・ザ・トーナメントは、1対1と2対2の形式があって、審査員や観客が見る中で行われる技能を必ず使うバトル大会。最も多くの勇者にとっては武器なしよりあった方がいいのは違いないだろう。
中には武器を持たない勇者もいるらしいが……少なくともそれは少数派だ。
「良いものを貰った。じゃあ、また何処かでな」
そう言って別れの挨拶をルイとルリカに告げ、武器屋に向かった。
◇
「やっぱり、剣がここにあると落ち着くな」
俺の腰元には、ルイとルリカから譲り受けたラフマの剣がある。
こんな剣を喜んで貰うやつなんてそうそういないだろうが、使い方を誤らなければそこらの武器屋に売ってる名刀より優秀なことには変わりない。
要するに、3度目に斬った魔物を倒してしまえばいいだけ。
恐らくだが、以前まで使っていた連中は、3度目の振りで魔物が息絶えるかどうかの判断がつかなかったのだろう。
勇者稼業が長くない者にはよくありがちなこと。
ただ、俺もまだそのあたりは経験的にしか分かっていない。
1度目に魔物を殺し、2度目にも魔物を殺す。
そして、3度目で魔物を殺せば問題はない。
問題は、1度目2度目を通過したとして、3度目の振りはどの段階のことを言うのか。
普通に考えれば、2度目の魔物を殺した後、次の振りだと捉えられる。
もしくは3度目に魔物との戦闘が終えるまでを指しているのか。
その辺りはおいおい試していこう。
ダメージ量もどの程度か分からない上、その噂が確かなものかどうかすら怪しい。
ひとまず、珍しい剣を手に入れたことは、今後の役に立つだろう。
「いらっしゃい!」
武器屋に入るなり、店主がやけに上機嫌な様子でそう言った。
「この前借りた鉄剣のことなんだが……」
「2日前に来た勇者だね。ああ、何だい?」
にこにこして、俺の言葉を待つ店主。
「すまない。実は、折れてしまったんだ。この通り」
刀身が無い元鉄剣を店主の前の机の上に置いた。
「お、お、俺の魂がなんて姿に!!」
店主はふるふると拳を握り締めて、俺をぎっと睨んだ。
「だから、弁償するよ」
「あ、当たり前だ!! っておわっ!? お前、その腰の剣よく見れば……」
店主の顔から血の気が引いていくのが見て取れる。
「知っているのか? 貰ったんだ。中々、良いもんだな」
「ひゃああああああああ!! なっ! なっ! なんてもん持って店入って来た! 金はもういいから早く出て行きやがれえええ!!」
素早く机の下に隠れた店主は、ゆっくりと顔半分だけ覗かせる。
「いいのか?」
「いいよいいよ! 行け、行け!」
店主はシッシッと俺を追い払うジェスチャーをした。
なるほど、こういう使い方もあるのか。
店主がそう言うならと、俺は武器屋を早々に後にした。
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