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第54話 出来ること
しおりを挟む翌日の朝は朝食ビュッフェで食事を済ませて、俺はルイとルリカが待つ時計台の下へ、メアはセシルを連れてバタリアの街の散策。
セシルは昨日の夕方随分と寝ていたにも関わらず、夜もぐっすりだったようだ。
「確か、時計台はこの通りだったよな」
以前、バタリアに来たのはもう随分昔のことだ。その時に比べても、バタリアの街並みは変わっていない。
古ぼけた骨董品屋があったり、樹のインテリアをメインに扱っている家具屋は未だに健在。
外観のデザインが街並みと見事にマッチしている。
南大通りを歩いて行って、噴水広場があった。そこは、鳩たちが自由気ままに歩き回りながら時折地面を突く。
噴水広場を抜けて、時計台に着いた。
「まだ、来てないのか」
約束の時間まで、後数分程度。
もしかしたらこのまま姿を見せずやり過ごすはらかもしれない。
彼等が何処に住んでいるか聞いておけば良かったな。
そうして、約束の時間は経ってしまい、その後も俺は待ち続けた。
◇
「ーーやっと来たな」
約束の時間を過ぎてから30分以上は待った。
特に悪びれた様子もなく2人でやって来た。
「ごめんなさい! ルイが寝坊して!」
ルリカは悪いと思っていそうだ。
「いいんだよルリカ。こんな奴に謝らなくて」
ルリカがルイの頭を押さえて下げさせる。
それを振り払うルイ。
ルイの姉のようだ。
「約束の時間を守らない、か。まあ、とやかく言うつもりはないが、それはルイ自身の為にはならない」
「勇者に説教される覚えなんてねえ! ほら! 早く会場に行くんだろ!」
ルリカがやれやれといった様子で、「ルイには後で言っておくから」と小声で俺に話す。
どうしてこうもしっかりしているルリカがルイと居るのかと思ったが、やはり同じ村出身という意味でも1人には出来なかったのだろう。
南の大通りを歩いて行くと、翌日に行った会場がある。
今日を除けば5日後に開催されるテクニック・ザ・トーナメントの会場。朝からは大会に出るであろう人集りが出来ていた。
「あ~あ、勇者ランク4じゃあまだ足りなかったか」
「聞いてなかったよな、そんなこと」
そして、受付すら出来なかった者たちが帰って行く。
話の内容を聞く限り、勇者ランクが足りていなかったか。前回開催されたテクニック・ザ・トーナメントは勇者ランク4が必要最低ランクだったのだが、今回は勇者ランク5と上がっていた。
その為、同じような理由なのだろうか、ぞろぞろと会場を去って行く。
大会の受付は今日の午前中で締め切られる。
そして、2日間に渡り募った大会参加者によってテクニック・ザ・トーナメントは行われる。
参加する条件は勇者ランク5以上とし、勇者ランク8を超える者は参加することが出来ない。
テクニック・ザ・トーナメントは技能を競う大会であり、無論、武器の所持は認められている。
最も、俺の武器が大会の優勝賞品になってしまっているわけだが……大会出場の為の武器は、この後武器屋に行ってまた借りるしかない。
会場へ入って、主催者側の人間に大会の優勝賞品の件について話をすることに。
「少しいいか」
「はい? なんでございましょう?」
天然パーマの高い声、ニコニコを絶やさない笑顔な男。
「実はだな、今回の大会の優勝賞品についてなんだが……」
まともに話してそうでしたかと返してくれればそれでいいのだが……どうだろう。
バタリアに来て今隣にいるルイとルリカに俺のアスティオンが盗まれたこと。そして、そのアスティオンが大会の優勝賞品になってしまっていること。
全てを話したーー
「おおおう! それはそれは! バッドな子達ですね!」
「まあ、本人たちは今はもう反省している。盗みもやめて真っ当に生きていくと俺にも誓った」
ルイとルリカはこくりと頷く。
「う~んグレイト! それが良い! それが良いよ!」
男は感心した様子で、2人の頭に手を乗せて撫でる。だが、ルイが男の手をバシッと払うと、目をパチクリさせて自身の手を庇う。
「茶番はいいから本題を話してくれ」
そう言うと、男はすうっと一呼吸した。
「そうですね、分かりました。ーーでは、お返し致しましょう……と、言いたいところなのですが、そういうわけにもいかないのです」
「どういうことだ?」
「ホビアル……大会の主催者がですね。皆の前で言った手前、取り消すわけにもいかないのです。この大会、テクニック・ザ・トーナメントはバタリアで古くからある伝統行事の一つでして、たとえ盗まれた宝剣が優勝賞品になってしまったとしても、安易に中止することは出来ないのです」
バタリアで年に2度行われるテクニック・ザ・トーナメント。
それはこの行事の盛んな街バタリアでも最も人々が集まって来る日。5日後に開催される大会を中止すれば、大損害が出ることは間違いないだろう。
「俺には関係のないことだ。俺のアスティオンは何処にある?」
だが、たとえ大損害が出ようとも、俺は自分の剣を返してもらいたいだけ。それなら、他の賞品にすればいいだろう。
宝剣アスティオンーーこの会場のどこかにあるはずだ。男の奥に見える通路へ行こうとした。
「いけませんお客様! あなたの剣が賞品になってしまったことに関しては謝ります! ですがもう決まってしまったこと! 今更、宝剣を上回る賞品なんて出せません!」
両腕を目一杯に広げて、行く道を塞ごうとする男。
「……行くぞ」
「え?」
「いいのか?」
ルイがそう聞いて来る。
「ひいい! そんな怖い顔しないで!」
俺は男を一度見て、会場から出て行った。
◇
「おい、お前の剣」
「もう賞品になってしまったものは仕方がない」
もし、あの場で男と言い争いになっていたら、それこそ大会への出場権を剥奪されかねない。
「ルイ、ルリカ、もう盗みなんてものに手を染めるなよ」
そう言い残して、俺は2人の元から去った。
自分たちの口で、盗み稼業をやめると言ったんだ。だったら、もう2人には用はない。
「ま、待ってくれよ!」
「そうよ!」
2人が俺の元に走って来た。
「俺たち、本当に悪いことしちまった。謝って許してもらおうなんて思っちゃいない! 俺、もう一回さっきの人のところに行ってみるよ!」
「それはやめろ」
「っ! ……そ、そうだよな。それで、お前が大会に出られなくなったらもうどうしようもないもんな」
まさか、ルイがそんなことを言い出すなんて思ってもみなかった。
「ルイ、だったらあの剣……彼に使ってもらわない?」
「それだ! お前俺たちの家に来い!」
ルイが走り出した。
「きっとあなたに合う剣だと思うわ! 来て!」
これは、意外な展開が来た。
武器屋で借りた鉄剣の弁償代を払ってまた剣を借りる予定だったが……
先を行くルイとルリカの後を俺は追った。
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