百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第48話 捕らえられた獣人

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ルーランは初めてあった時から細身のやつだった。
だが、今は見るのも苦しいほどにさらに痩せ細ってしまった。
魔石配合ポーションを4本も飲んだのだ。ただでさえ、1本だけでも強力な副作用が出るというのに。
呆れたやつだ。

「メア、高級レストランは諦めろ」

「そうする」

ルーランは「あぁぁ」と、首根っこを締められるように絞り出したようなか細い声を出す。
見兼ねた酒場の主人がコップ一杯の水を差し出すが、飲む事すら出来ない。
こんな場所でそんな状態、俺は知らないからな。
ただでさえ、無法地帯の場所。
金銭の奪い合いなんて日常茶飯事。
まあ、自業自得だ。

そして、俺たちは酒場を出た。




「あの人、大丈夫かな?」

「大丈夫だろ、死にやしないさ」

あの酒場は無法地帯にはあるが、意外にも親切な連中はいる。
現に酒場の主人はあの後、のびるルーランを運んでいるのを出る時に見た。
よほどの極悪人でもない限り、放っておけはしなかったのだろう。

酒場を出て裏地を歩いていると、いかにも悪そうな連中がいかにも悪そうな連中と何らかの取引をしている。
何かのブツを手渡し互いに握手をしている。
もう1人が受け取った金貨や銀貨などを取り出して、それを物珍しそうに見つめる青年が3人。
それが気に入らなかったのか、金貨を手渡した男が殴りかかる。

魔物を駆除することは必要なことだが、こうして国の管理下から逃れた悪者も駆除していったほうが良い。
放っておいても何も良いことはない。

そら、まただ。

裏地を出ると、男が堂々と首輪に繋がれた獣人を引いて歩いている。
こんな光景を見れば、国の人間は当然放ってはおかない。人間と獣人、種族は違えども人権が存在するからだ。
ただ、そんな異常な光景もこのバタリアの無法地帯では放置されている。

「シン、どうにかならない?」

「馬鹿言え、俺たちがどうこうする問題じゃないだろ」

男は鎖を引き寄せ、そして獣人の頭をがっと掴む。

早く歩け! と、そう至近距離で罵声を獣人に浴びせる。
びくりとする獣人ーー女の子の獣人だ。

メアは俺にどうにかしてと、そんな感じの視線を送って来る。
だが、それは俺にはどうしようも出来ないことだった。

ここバタリアの無法地帯では、違法取引を始め、違法な商売が成り立ってしまっている。
俺が先ほどルーランのゲームを受けた時に使われていたブラックポーションも、この無法地帯では珍しいものではない。
本来なら売れるものではないのだが、この国の管理下にない無法地帯では売れてしまう。

そして今も嫌そうにする獣人と、その獣人を引きずる男。
おそらくあの男は、この先にある人身売買所で獣人を手に入れたのだろう。
聞いた話では獣人は金貨50枚から取引がされている。胸糞悪い商売だ。

すると、さっきからその様子を見ていた俺たちに気付いて、男が向かって来る。

「なあお前たち、聞きたいことがあるんだけどよ。テクニック・ザ・トーナメントの会場は何処に行けばある?」

「ちょっと! そんなこと聞く前にその子嫌がってるじゃない!」

獣人の子は瞳に涙を浮かべて、ぶるぶると体を震わせている。

「あん? それがどうしたよ?」
 
俺はメアの前に腕を出して降ろした。

「シン! 何で!?」

「会場なら、そこの通りを抜けて真っ直ぐ行った突き当たり角を曲がった先にある」

男は「サンキュ」と、そう言って嫌がる獣人の子を引いて行った。

ふと横を見れば、何とまあ何か言いたげな勇者がいる。

「どうして!? シン、そんな人だったの!?」

その様子じゃあメアは、この無法地帯で獣人が取引されていることを知らないのだろう。

「メア、俺は魔物を倒す勇者ではあるが、獣人を救う正義の味方じゃない。それに、ここは人身売買がまかり通ってる場所。知らなかったのか?」

そう言うと俯くメア。

「だけど! ……いいわ、行きましょう」

本当はさっきの獣人の子を助けたくて助けたくて仕方がないのだろう。
握る拳がふるふると震えて、メアは先を歩いて行く。

俺も出来るならば助けてはやりたい。だが、それを実行すればそれこそ犯罪者になってしまう。いくらこの無法地帯で獣人が売られていたとしても、無理に助けてしまえば罪人は罪人。
買われた獣人の子がいくら助けを求めても買い主が所有権を放棄しない限り、外部の人間は何も出来やしない。

街行く人々も、先ほどの獣人を引き連れた男をじろじろと見てはいるが何もしない。
あの男が何故獣人なんて買ったのかは、だいたい予想はつく。

一つは、勇者として旅をして行く中で戦力になるから。
獣人は速さに長けた勇者に匹敵するほどの俊敏性を持ち合わせ、尚且つ、鼻が効く優れた種族。
一つは、単なる遊びの道具。買い手である勇者自身の欲を満たす為だ。獣人は人間と同じように男も女もいる。そして人身売買で買われていく多くは女の獣人とも聞く。
実際、先ほどの男が連れていたのは女の獣人。いや、女の子と言ったほうがいい。
彼がその獣人の子をどうするのか考えたくもない。
メアにそのことを話せば怒るのは目に見える。

先を行くメア。

歩くスピードは早く、さっきから獣人の子の後を追っている。
まさか、助ける気か?

そうしてついて行った先、獣人の子を引き連れた男はテクニック・ザ・トーナメントが行われる会場に入って行った。

「メア、もういいだろう」

会場の前に呆然と立つメアの所に行って言う。

「ここって、シンが大会に出る場所よね?」

「そうだが?」

「……私も出るわ!」

「おい!」

そう呼び止めた。
メアがこの大会に出る意味なんて……

「だってあの男! 獣人の女の子をここに出場させるって言ってたわよ! それでその子を優勝させるって!」

「何だと?」

これは嫌な空気が流れて来た。

メアは会場へ入って行った。

「まさかあの男、俺のアスティオンを?」

テクニック・ザ・トーナメントの大会優勝賞品。
それはこの世でも数本とない宝剣のうちの一本。そんなものが、大会の優勝賞品として突如出てきたのだ。
勇者であるならば放って置くはずがない。

テクニック・ザ・トーナメントは勇者である本人が出なければいけないという決まりはない。
となると、さっきの男は買った獣人の子を出場させるということか。
まずいな。

急いで会場へ向かった。
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