46 / 251
第46話 禁じられしポーション
しおりを挟むバタリアに着いて、直ぐにメアと合流した。
「はい、これ」
そう言ってメアが渡してきたのは、俺が頼んであった通信水晶体。
重さ、大きさ共にビー玉程度で持ち運びに便利な通信手段。
これでメアがその場にいなくても通話することが出来る。
俺は受け取った通信水晶体に自身の魔力を入れ、それをメアに渡す。それと同じことをメアもする。
そうすることで、通信水晶体を使うことが出来るからだ。
「やっぱり売ってたんだな」
「結構探したけどね。あと、8個しか無かったからギリギリ間に合ったって感じ」
通信水晶体の需要はこの魔物時代に関わらずとも便利な品物。反面、価格は高くなるが人々の生活には必要となる。
ただし街で暮らしている人々よりも優先して売られるのはフィールドを駆ける勇者たち。
元々、通信水晶体は互いに離れることがある勇者たちの為にとソフィア王国が開発したもの。
秘境、ジェム湖にあるクリスタルストーンのカケラを原石とし、今から3年前に世に知れ渡った。
無色透明の球体である通信水晶体。
落とせば何処にあるか見当がつかなくなる。自分の魔力を感じ取る手段でもあれば見つかりそうなものだが、魔力が誰のものかを判別することは難しい。
ただ、発信者の声を聞けばそれも解決しそうだ。
メアから通信水晶体を受け取った後、ギルドサルーフへ向かった。
◇
「それでは、こちら金貨62枚の報酬をお渡しします」
受付嬢からアギラ討伐を含めて、魔物討伐完了報酬を受け取る。
今回、アギラの他にも巨大化したオークと他二匹のオーク、ブルーレオパルドにゴールデンマンティス、ブルッフラを出てからの魔物の討伐も合わせた報酬。
ただそれも、宿代、飯代、アイテムの購入などで使うことになるが。
そして、ギルドサルーフ内にあるテーブル席についた。
「ねえシン。大会まで後6日もあるけど、他にすることはあるの?」
「何言ってんだメア。俺たちは勇者なんだ。少しでも魔物を討伐して、人々に安心と平和を与えてやるのが仕事だろう? 6日もあるんだ。魔物を討伐して、勇者ランクでも上げてろ」
「へっへ! ずいぶんと勇者してんな若いの!」
「誰だ?」
会話の中に入って来た男。両腕には蛇の刺青が目立つ中年の男。
「俺はルーラン。お前と同じ勇者やってる。へっへ! 同志ってやつよ! 仲良くしようぜ」
ルーランは握手を求める。
「ああ、宜しくなルーラン。俺はシン」
へっへと笑うルーランの腰元に見えるのはダガーナイフ。両刃のある短剣で、刺すことや投げることに長けた短剣。暗器としての活用法が多く、使用者によって対人殺傷能力が変わる武器。反面、相手の急所を狙わない限り致命的なダメージを与えることは難しい武器だ。
無論、魔物相手でも同じことが言え、有効打を決める為にはそれ相応の魔物の急所を知っておかなければ活躍しない。
そうなると、そんな武器を持っているルーランは見せかけでダガーを持っているのだろうか。
それとも、ダガーという武器の特性を理解した上で持っているとすれば相当の手練れであることには違いない。
何故なら、わざわざ見えるようにダガーをぶら下げているのは、単なる脅しの道具か、実力を誇示しているかのどちらかだ。
まあ最も、仮に後者であるとしてもわざわざ見せるルーランの度量が知れるのだが。
「それはそうとシン。さっき、受付で金貨をたんまり貰っていたよなあ?」
「それがどうかしたのか?」
「少し楽しいゲームをしないか?」
「ゲーム?」
なんか、いつかの二人組の勇者に絡まれた時のことを思い出した。
「シン!」
メアがテーブルをバンっと叩き首を左右に振る。
「聞くだけだ」
「そうこなくっちゃな!」
「もうっ!」
メアは呆れた様子だ。それもそうだろう。以前、ブルッフラのギルドリベルタでは、ジャックとマラルに魔物討伐ゲームの末に負けたからだ。
ただ、負けたからと言っても酒場でジャックとマラルがビールを飲み、俺とメアは近くで話していただけなのだが。
「俺が提案するゲームはこれ!」
ルーランはテーブルに2本のポーションを取り出して置いた。
「ポーション? それで何するの?」
「へっへ、まあ聞きな。このポーションは、まず店には置かれない代物だ。ブラックポーション、聞いたことあるだろ?」
ルーランが言うが、メアは知らないといった表情だ。
だが、俺はそれを知っている。
ブラックポーションは国が使用を禁止したポーションの名で、別名、魔石配合ポーションとも呼ばれる。
「魔石配合ポーション」
「あったり! 流石、真面目勇者! そう! これは魔石配合ポーション! 大きい声では言えねえけど、俺の元にはこれが流れて来るのよ」
小さい声になっていくルーランだったが、逆にそれが怪しく見える。
「へえ……それで、何のゲームをしようって?」
「へっへ、俺が提案するゲームは……ポーションルーレット。ロシアンルーレットのポーション版だ、弾数は多いがな、へっへ」
ロシアンルーレットとは、実砲を1発だけ入れたリボルバー式の拳銃を使って行うゲーム。
シリンダーを適当に回転させた後、ゲーム参加者が自分の頭に拳銃を向けて引き金を引く。いわば、死のゲーム。
「ばーか! そんなの受けるわけないでしょ! シン行きましょう!」
「嬢ちゃん嬢ちゃん、まあ話は最後まで聞きなって!」
「話なら聞いたでしょ! 行くよシン! ーーって! まさか受ける気なの!?」
俺はその場に留まった。
ルーランの言う通り、話を最後まで聞いてみようじゃないか。
話の内容次第では面白いゲームかもしれない。
それに、ロシアンルーレットは自分の命をかけたゲームではあるが、今回ルーランが持ちかけて来たゲームは命とまで重いものではない。
最も、それに近い現象は起きるかもしれないが。
「へっへっへ! 話の分かる人で助かったよ! じゃあ、話の続きといこうか」
「あっきれた!」
どかっと、両腕を組んで座るメア。
「話してみろよ」
「へっへ、いいだろう。ーー俺が今回このゲームに求めるのは刺激……でもあるが、もちろんそれは違う。金だ、俺は金が欲しい! だからシン、お前が持つ全ての金を賭けてもらおう。さっきの62枚の金貨も含めてな、へっへ」
見ていたのか。
金か、今更そんなことで驚きやしない。
勇者は魔物を討伐することでしか金を得られない職業だから、それ以外に得ようとすれば、ルーランのように金を賭けたゲームを持ち出すか盗むか、それくらいしかない。
ただ、勇者にこだわりがないのならば街にある店で働くというのも職業選択の一つ。反面、勇者のように多くの対価は得られないが、そうした職業選択も生き方の自由ではある。
「それで、俺は何を得られる?」
ルーランは金が欲しいなんて言うくらいだ。金はさほど持ってはいないのだろう。
「魔石だ」
思っていたものと違った。
どうせなら、秘密のアイテム的なものが欲しかった。魔石なんて、極論を言ってしまえばオルフノットバレーにいたオークの習性を利用すれば拾えるし、限られた場所ではあるが魔物生息区域に落ちている。
「必要ないな」
それに、金が欲しいならその魔石を売って金を作ればいいだけの話。
なのにそうしないのには、売る気がないのか、それともゲームの賭けに必要なものだから置いているのだろうか。
「そうか! だったら、シンは何が欲しいんだよ?」
俺が欲しいもの。
「……魔王の城に眠る秘宝」
「ぐふっ!? へっへ! 冗談きついぜ! そんなもの、ただの噂だ噂! まあ仮にそれがあったとしても、今回のゲームには釣り合わねえよ!」
「それもそうか……だったら、メアは何が欲しい?」
別に期待など全くしていなかった。
もし、魔王の城に眠る秘宝をゲームに勝った暁にくれるというなら、それこそ嘘。
シーラ王国歴代勇者でさえ取って来ることが出来なかったとされる代物で、現に今までも魔王の城に眠る秘宝は幻想上の産物。あるかどうかもさえ分からない。
「私に振る!? でも、そうね……私だったら高級レストランで食事と、スイートルームの宿泊。あと! シーラ王国のアリス王女とも話してみたいわ!」
「待ってくれ嬢ちゃん! 最初の二つは聞き入れるがよ、最後のは無理だな!」
「やっぱり? でも、その二つは良いのね?」
ルーランは余裕の面構えでふふんと頷いた。
「話はそれでいいかな? 勇者シン君」
「構わない」
ルーランが持ちかけて来たゲーム、ポーションルーレット。
勝者には俺の全財産か、ルーランがメアに高級レストランでの食事とスイートルームを振る舞うということで話がついた。
いや、それでも俺の方が多く金を出していると思うが……まあいい。
俺たちは場所を移動する為、ギルドサルーフから出た。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)
九日
ファンタジー
*注意書あり
女神すら想定外の事故で命を落としてしまったえみ。
死か転生か選ばせてもらい、異世界へと転生を果たす。
が、そこは日本と比べてはるかに食レベルの低い世界だった。
食べることが大好きなえみは耐えられる訳もなく、自分が食レベルを上げることを心に決める。
美味しいご飯が食べたいだけなのに、何故か自分の思っていることとは違う方向へ事態は動いていってしまって……
何の変哲もない元女子大生の食レベル向上奮闘記———
*別サイト投稿に際し大幅に加筆修正した改訂版です。番外編追加してます。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね
カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。
本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。
俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。
どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。
だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。
ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。
かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。
当然のようにパーティは壊滅状態。
戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。
俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ!
===
【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる