百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日

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第46話 禁じられしポーション

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バタリアに着いて、直ぐにメアと合流した。

「はい、これ」

そう言ってメアが渡してきたのは、俺が頼んであった通信水晶体。
重さ、大きさ共にビー玉程度で持ち運びに便利な通信手段。
これでメアがその場にいなくても通話することが出来る。
俺は受け取った通信水晶体に自身の魔力を入れ、それをメアに渡す。それと同じことをメアもする。
そうすることで、通信水晶体を使うことが出来るからだ。

「やっぱり売ってたんだな」

「結構探したけどね。あと、8個しか無かったからギリギリ間に合ったって感じ」

通信水晶体の需要はこの魔物時代に関わらずとも便利な品物。反面、価格は高くなるが人々の生活には必要となる。
ただし街で暮らしている人々よりも優先して売られるのはフィールドを駆ける勇者たち。
元々、通信水晶体は互いに離れることがある勇者たちの為にとソフィア王国が開発したもの。
秘境、ジェム湖にあるクリスタルストーンのカケラを原石とし、今から3年前に世に知れ渡った。

無色透明の球体である通信水晶体。
落とせば何処にあるか見当がつかなくなる。自分の魔力を感じ取る手段でもあれば見つかりそうなものだが、魔力が誰のものかを判別することは難しい。
ただ、発信者の声を聞けばそれも解決しそうだ。

メアから通信水晶体を受け取った後、ギルドサルーフへ向かった。





「それでは、こちら金貨62枚の報酬をお渡しします」

受付嬢からアギラ討伐を含めて、魔物討伐完了報酬を受け取る。
今回、アギラの他にも巨大化したオークと他二匹のオーク、ブルーレオパルドにゴールデンマンティス、ブルッフラを出てからの魔物の討伐も合わせた報酬。
ただそれも、宿代、飯代、アイテムの購入などで使うことになるが。

そして、ギルドサルーフ内にあるテーブル席についた。

「ねえシン。大会まで後6日もあるけど、他にすることはあるの?」

「何言ってんだメア。俺たちは勇者なんだ。少しでも魔物を討伐して、人々に安心と平和を与えてやるのが仕事だろう? 6日もあるんだ。魔物を討伐して、勇者ランクでも上げてろ」

「へっへ! ずいぶんと勇者してんな若いの!」

「誰だ?」

会話の中に入って来た男。両腕には蛇の刺青が目立つ中年の男。

「俺はルーラン。お前と同じ勇者やってる。へっへ! 同志ってやつよ! 仲良くしようぜ」

ルーランは握手を求める。

「ああ、宜しくなルーラン。俺はシン」

へっへと笑うルーランの腰元に見えるのはダガーナイフ。両刃のある短剣で、刺すことや投げることに長けた短剣。暗器としての活用法が多く、使用者によって対人殺傷能力が変わる武器。反面、相手の急所を狙わない限り致命的なダメージを与えることは難しい武器だ。
無論、魔物相手でも同じことが言え、有効打を決める為にはそれ相応の魔物の急所を知っておかなければ活躍しない。

そうなると、そんな武器を持っているルーランは見せかけでダガーを持っているのだろうか。
それとも、ダガーという武器の特性を理解した上で持っているとすれば相当の手練れであることには違いない。
何故なら、わざわざ見えるようにダガーをぶら下げているのは、単なる脅しの道具か、実力を誇示しているかのどちらかだ。
まあ最も、仮に後者であるとしてもわざわざ見せるルーランの度量が知れるのだが。

「それはそうとシン。さっき、受付で金貨をたんまり貰っていたよなあ?」

「それがどうかしたのか?」

「少し楽しいゲームをしないか?」

「ゲーム?」

なんか、いつかの二人組の勇者に絡まれた時のことを思い出した。

「シン!」

メアがテーブルをバンっと叩き首を左右に振る。

「聞くだけだ」

「そうこなくっちゃな!」

「もうっ!」

メアは呆れた様子だ。それもそうだろう。以前、ブルッフラのギルドリベルタでは、ジャックとマラルに魔物討伐ゲームの末に負けたからだ。
ただ、負けたからと言っても酒場でジャックとマラルがビールを飲み、俺とメアは近くで話していただけなのだが。

「俺が提案するゲームはこれ!」

ルーランはテーブルに2本のポーションを取り出して置いた。

「ポーション? それで何するの?」

「へっへ、まあ聞きな。このポーションは、まず店には置かれない代物だ。ブラックポーション、聞いたことあるだろ?」

ルーランが言うが、メアは知らないといった表情だ。

だが、俺はそれを知っている。
ブラックポーションは国が使用を禁止したポーションの名で、別名、魔石配合ポーションとも呼ばれる。

「魔石配合ポーション」

「あったり! 流石、真面目勇者! そう! これは魔石配合ポーション! 大きい声では言えねえけど、俺の元にはこれが流れて来るのよ」

小さい声になっていくルーランだったが、逆にそれが怪しく見える。

「へえ……それで、何のゲームをしようって?」

「へっへ、俺が提案するゲームは……ポーションルーレット。ロシアンルーレットのポーション版だ、弾数は多いがな、へっへ」

ロシアンルーレットとは、実砲を1発だけ入れたリボルバー式の拳銃を使って行うゲーム。
シリンダーを適当に回転させた後、ゲーム参加者が自分の頭に拳銃を向けて引き金を引く。いわば、死のゲーム。

「ばーか! そんなの受けるわけないでしょ! シン行きましょう!」

「嬢ちゃん嬢ちゃん、まあ話は最後まで聞きなって!」

「話なら聞いたでしょ! 行くよシン! ーーって! まさか受ける気なの!?」

俺はその場に留まった。

ルーランの言う通り、話を最後まで聞いてみようじゃないか。
話の内容次第では面白いゲームかもしれない。
それに、ロシアンルーレットは自分の命をかけたゲームではあるが、今回ルーランが持ちかけて来たゲームは命とまで重いものではない。
最も、それに近い現象は起きるかもしれないが。

「へっへっへ! 話の分かる人で助かったよ! じゃあ、話の続きといこうか」

「あっきれた!」

どかっと、両腕を組んで座るメア。

「話してみろよ」

「へっへ、いいだろう。ーー俺が今回このゲームに求めるのは刺激……でもあるが、もちろんそれは違う。金だ、俺は金が欲しい! だからシン、お前が持つ全ての金を賭けてもらおう。さっきの62枚の金貨も含めてな、へっへ」

見ていたのか。
金か、今更そんなことで驚きやしない。
勇者は魔物を討伐することでしか金を得られない職業だから、それ以外に得ようとすれば、ルーランのように金を賭けたゲームを持ち出すか盗むか、それくらいしかない。
ただ、勇者にこだわりがないのならば街にある店で働くというのも職業選択の一つ。反面、勇者のように多くの対価は得られないが、そうした職業選択も生き方の自由ではある。

「それで、俺は何を得られる?」

ルーランは金が欲しいなんて言うくらいだ。金はさほど持ってはいないのだろう。

「魔石だ」

思っていたものと違った。
どうせなら、秘密のアイテム的なものが欲しかった。魔石なんて、極論を言ってしまえばオルフノットバレーにいたオークの習性を利用すれば拾えるし、限られた場所ではあるが魔物生息区域に落ちている。

「必要ないな」

それに、金が欲しいならその魔石を売って金を作ればいいだけの話。
なのにそうしないのには、売る気がないのか、それともゲームの賭けに必要なものだから置いているのだろうか。

「そうか! だったら、シンは何が欲しいんだよ?」

俺が欲しいもの。

「……魔王の城に眠る秘宝」

「ぐふっ!? へっへ! 冗談きついぜ! そんなもの、ただの噂だ噂! まあ仮にそれがあったとしても、今回のゲームには釣り合わねえよ!」

「それもそうか……だったら、メアは何が欲しい?」

別に期待など全くしていなかった。
もし、魔王の城に眠る秘宝をゲームに勝った暁にくれるというなら、それこそ嘘。
シーラ王国歴代勇者でさえ取って来ることが出来なかったとされる代物で、現に今までも魔王の城に眠る秘宝は幻想上の産物。あるかどうかもさえ分からない。

「私に振る!? でも、そうね……私だったら高級レストランで食事と、スイートルームの宿泊。あと! シーラ王国のアリス王女とも話してみたいわ!」

「待ってくれ嬢ちゃん! 最初の二つは聞き入れるがよ、最後のは無理だな!」

「やっぱり? でも、その二つは良いのね?」

ルーランは余裕の面構えでふふんと頷いた。

「話はそれでいいかな? 勇者シン君」

「構わない」

ルーランが持ちかけて来たゲーム、ポーションルーレット。
勝者には俺の全財産か、ルーランがメアに高級レストランでの食事とスイートルームを振る舞うということで話がついた。
いや、それでも俺の方が多く金を出していると思うが……まあいい。

俺たちは場所を移動する為、ギルドサルーフから出た。
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