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第44話 魔石の代償
しおりを挟む「デュルルルルル!!」
巨大化したオークの鳴き声がオルフノットバレーに響き渡る。
崖が振動している。
オーク
LV.62
ATK.159
DEF.51
なるほど、攻撃力が異常値を示している上、巨大化したオークの目が血走ってしまっている。血管が分かりやすくほどに浮き出ており、時折、苦しそうな表情をするのは魔石を体内に取り込んだ副作用といったところか。
「まずい! ラビィ離れろ!!」
「言われなくてもーー!!」
崖全体が大きく揺れた。
巨大オークが拳を放ったのだ。気づかれたか。
崖の中に出来た真っ直ぐな通路がぐにゃりと歪む。
「……なな、何ちゅうパワーっすか!?」
「これで分かっただろ? オークなんて魔物は一刻も早く討伐しないといけない」
最も、たとえオークでなくても魔石を取り込むような馬鹿な魔物は危険極まりない。
魔石を体内に取り込むなんて、知能が致命的に低いオークか、死んでも魔石のエネルギーを得たい魔物しかいない。
「ごもっともっす、兄貴。……じゃ」
「ん?」
ラビィが背中をぐいぐいと押して来た。
「ん? じゃないっすよ兄貴! ここからが勇者の出番っすよ! ささっ! 行ってちょちょっと討伐して来て下さいっす!」
何を抜かしてんだ、こいつは。
レベル62で攻撃力159なんてイかれてる。1発でもさっき崖に放ったパンチ食らえば、即死級だ。
だがまあ、そんな悠長なこと考えている場合じゃないんだよな。
あんな怪物放っておいたその日には後味が悪いってものだ。
あの大きさだとオルフノットバレーから地上に出ることは出来ないだろうが、ここで暴れられても困るしな。
「ーー仕方ないな。ラビィ、大人しくここで待ってろ」
そう言い残して、外に通じる穴から飛び出した。
俺をぎろりと睨む巨大オークと、その下にいる2体のオーク。
まるで巨人と小人。
ただでさえ攻撃力が高い魔物なのに、魔石の効果で化け物じみた攻撃力になった。
その上、防御力が51と少し上がってる。
俺は速技を+3解放して巨大オークの右腕を短剣で斬り裂いた。
だが、斬り裂いたはずの緑の腕からは身が裂き飛ぶだけで血すらでない。
防御力はさほど高くはならなかったが、巨大化したおかげで脂肪がついたか。
「デュルルルルル!!」
巨大オークが叫び声を上げ、振りかぶるように殴りかかって来た。
それを紙一重で躱して伸びきった巨大オークの腕の上に乗る。
「ここなら防げないだろ!」
引き戻す腕から1メートルくらいはある目玉に向かって短剣を突き刺した。
「デュウウッ!?」
巨大オークはぐらつくものの倒れない。
ただしダメージは入ったようだ。
さすがに脂肪に覆われていない目玉は小さい俺にとっては隙だらけの的だ。
「そうだー! やっちまえっす! 兄貴ー!」
「馬鹿! 刺激するな!」
巨大オークが片目を瞑りながらラビィの方を向く。言わんこっちゃない。
「ひゃあああああ! こ、こ、こっち向いたー!!」
ラビィはそう言って崖の奥へと姿を隠した。
俺はその隙にもう片方の目玉も斬り突く。
「デュルルルルルルルルル!?!?」
鼻息を荒くする巨大オークは、その痛さからか額を崖にぶつける。
俺はその前に跳んで地面に着地。
巨大オークは声を荒げながら何度も何度も額を崖にぶつけている。
「ブギィギィ!」
その戦闘の様子を見ていたのだろう。
巨大オークとは比較にもならない小さなオーク2体がそれぞれ棍棒を持って襲いかかってくる。これが本来のオークの大きさだ。
俺よりは大きく横に太い。パワーと素早さはあるが、守備が絶望的に低い。
一点集中。
撃技+2を解放して二体の豚頭を吹っ飛ばし直ぐに巨大オークを確認するが、まだ痛そうに崖に額をぶつけていた。
「なんだ?」
巨大オークの様子が変だ。
額を崖にぶつけるのをやめたかと思うと、今度はぶるぶると震え始める。
「デュルルッ! デュルルルルルルル!」
どすんと両膝が落ち、うつ伏せに倒れてしまった。
その後、翠と紫の光の粒てが巨大オーク全体を包み込んだかと思うと、緑の皮膚が一気に腐り果ててしまい全骨が露わになった。
その後、露出した骨はガラガラと崩れ去った。
……これは魔石の代償だな。
俺が両目玉を突いたくらいでなることじゃない。
「や、やったーー! 兄貴がやってくれたっすー!!」
そうとも知らないラビィのはしゃぐ声がオルフノットバレーにこだまする。
俺は再度、出来ている傾斜の岩道から穴を通って行くと、テーブルの下に隠れていたラミと目が合った。
「なんだったのよ~、さっきの揺れは。ねえ、あなた何か知ってる? ていうか、なんでそっちから?」
「オークの仕業だ。気にするな、もう起きないから」
このオルフノットバレーにはまだまだオークはいる。
俺が見た限りでは50体以上。
もし、あのオーク全てが魔石を取り込もうものなら、オルフノットバレーは崩壊する。
しかも習性が習性。
魔石を集めるなんて、魔物のすることじゃない。
元々オークという魔物には魔石を集めるなんて習性はなかった。
だが、何処かで見たのだろう。
魔石を求めてやって来る人間がいることに。
そしてオークが魔石を集めることを知った人間がやって来たところを返り討ち。
本当に知能が低い魔物がすることなのか?
もしくは偶然そうなったか。
「そうだ! ラビィがあなたを追いかけて行ったよ?」
「知っている、さっき会ったから」
そうラミに言い残して、また、丸い扉を開けて階段を登って行った。
◇
「兄貴~! やっぱり兄貴はすごい勇者だったんっすねー!」
「あれくらいのオーク、どうってことない」
「あれれ!? 兄貴待って下さいっす! もっと兄貴の英雄譚を聞きたいっす!」
「また今度な」
名残惜しそうにするラビィを後にして、俺は地上を目指して続く階段を登って行く。
そうして、何百段もある階段をひたすら登って行く。
「魔石か……」
魔石の本来の使い方を誤れば、ただの魔物だったオークすら巨大な怪物と化す。
ただ、魔物が魔石を取り込むということは自殺行為であり、本能的にそれを知っているほとんどの魔物はしない。
魔物はこの世を好き勝手に暴れている奴らだが、何も生への執着を捨てたわけではない。
しかし、そんな魔物でも時として魔石のエネルギーを食らう。
あれはそうだ、俺がまだ勇者ランク3の時の話。
影縛りの森で、2体のブレスモンキーを相手にしていた。小石ほどの大きさの空気砲を口から放ち、辺りの樹々は蜂の巣状態。
森の中を飛びながら逃げる俺に放ち、狩られる側の気分を味わっている時だった。
ようはただの暇つぶしだった。ブレスモンキー程度、本来なら秒でかたがつく。
そして樹の上から飛びかかって来たところをアスティオンで斬り落とした。
その時だ。もう一体のブレスモンキーが樹の根元にあった魔石を食った。ゴリゴリと、鋭い牙と顎で魔石を削り食った。
ブレスモンキーは魔物の中でも割と知能指数が高く、魔石を体内に取り込むことによるパワーアップを知っていたのだろう。
その後、魔石を食べたブレスモンキーの四肢の筋肉は膨れ上がり、牙を剥き出しにし俺に襲いかかって来た。
俺は瞬時にブレスモンキーの頭へ一直線に斬撃を振り下ろしたのだが、白刃どりを決められてしまったのだ。
だが、魔石の力を取り込んださすがのブレスモンキーも、魔物特攻特性を持つアスティオンに触れただけで両手に激痛ものだったようだ。
撃技+1を解放した瞬間、ブレスモンキーは真っ二つ。
俺が魔石の真価を目の当たりにしたのはこの時が初めてだった。
ただ、俺が真っ二つにしなくてもいずれは死んでいたであろうブレスモンキー。魔石とはそれだけエネルギー量が強く、仮に体内に取り込めたとしてもほとんどの魔物は耐えることが出来ない。
……だが、それを可能にした1種類の種族がいる。
それが悪魔族。こいつらは魔物の中でも特に賢く、また非常に危険な種族でもある。
おそらくだが、バタリアの街に現れた魔人はこの悪魔族が進化したものだと考えられる。
この先、俺は悪魔族との戦闘も避けられないだろう。
「出口が近いな」
ようやく見えて来た地上の光。そしてそれを塞ぐのは、四方が削り取られた岩で出来た扉。
そのとってに手をかけて、地上に出るべく勢いよく横に引いた。
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